映画『国宝』を観て、インタビューライターがどうしても気になった“ひと言”
この記事を書いた人:インタビューライター 北森 悦
ライター歴12年。600名以上の方のインタビュー記事に携わる。想いをすくいとり、「分かりやすく伝わる文章を書いてくれる」と定評がある。
またこれまでに200時間以上かけて、キャリア理論や心理学、コーチングのエッセンスを学び、働く女性のキャリア支援にも取り組んでいる。
驚異的なロングランのおかけで、観られた映画『国宝』。
任侠一家に生まれながら上方歌舞伎の世界に飛び込んだ青年・喜久雄が、名門の御曹司でライバルの俊介と共に芸を磨き、人間国宝となるまでの激動の人生を描くヒューマンストーリーだ。
カメラワークが素晴らしく、気付けば喜久雄の人生を共に生きたような感覚になっていて、これだけ話題を呼ぶことにうなずける作品だった。
でも、どうしても引っかかってしまった場面がある。物語の終盤、人間国宝となった喜久雄に取材記者が投げかけた、あのひと言だ。
「常にスポットライトを浴びて、順風満帆で――」
その瞬間、作品に没入していたのに、一気に現実に引き戻されてしまって、胸の奥がひんやり冷めた。
その言葉は、取材を始めるための単なる“枕ことば”だったのかもしれない。でも、取材ライターとして長く人の話を聴いてきた身としては、どうしても聞き逃すことはできなかった。
そんな簡単なひと言で、喜久雄の人生はまとめちゃいけない。少なくとも、私ならまとめない、と思った。
私が没入しすぎて、喜久雄の人生を生きているかのような気持ちになっているからそう思ったのか?
一瞬そうも考えた。
いや、でも、あの場面は2014年という設定だった。
2014年といえば、もうiPhoneも普及している時代。ネットで調べれば、過去のスキャンダルや、決して順風満帆とは言えない時期があったことくらい、全部とはいかないかもしれないけど、ある程度は分かるはずだ。
華やかな肩書き。
舞台に立つ姿。
そうした、「今見える情報」だけを拾えば、“恵まれた人生”に見えるのかもしれない。
でも、少し調べれば、そこに至るまでの辛酸や苦悩、孤独、犠牲にしてきたものも、なんとなくは想像できる。
だって、人間国宝になる人だ。凡人には到底計り知ることのできない苦悩があったはず。そこまでは、想像できるのではないだろうか?
だからこそ「常にスポットライトを浴びて、順風満帆」という言葉で、それまでの人生をまとめてしまうのは雑だと感じてしまった。
では、私があの取材記者だったらどう言っただろう。
……そう考えて、少し手が止まった。
正直に言えば、「こう聞くべきだった」という正解があるとは思っていない。
私が違和感を覚えたのは、聞く姿勢だったからだ。
「常にスポットライトを浴びて、順風満帆で――」
この言葉は、取材者自身の見方だ。そしてそれが、あたかも“事実”かのように、当たり前の前提として言われているように感じた。
しかも、たぶん無意識に、だ。
喜久雄の物語は、15歳から70歳頃まで、ほとんど一生に近い時間軸で描かれている。成功も、挫折も、孤独も、苦悩も、選べなかった道も、そのすべてを見せられたあとで、その人生を「順風満帆」という言葉で要約してしまう。
映画のワンシーンであり、質問を投げかけられた喜久雄の答えが主役。あの記者の質問は、あくまでもその引き立て役に過ぎない。
それでもやはり取材する側としては、雑なまとめ方だと思ってしまう。
私はこれまで、「順調なキャリアですね」「華々しいキャリアですね」という言い方を、意識的に避けてきた。
経歴だけを見れば、順調なキャリアと言えそうな人はたくさんいる。でも、誰の人生でも一筋縄ではいかないところはある。それを分かっているからこそ、相手のことを断定するような言い方はしないようにしてきた。
というのも、以前、取材の現場で
「相手のことは、絶対に“理解”できない」
と、取材相手から叱られたことがある。
当時、インタビューライター3年目。結構、落ち込んだ。
だけど冷静になって考えてみると、インタビューライターとしてようやく自信がついてきて、少し傲慢になっていた自分もいた、とかなり反省した。
あまり思い出したくない過去だけれど、今振り返ると、取材する人間としての姿勢は、これが核になっているかもしれない。
分かったつもりにならないこと。
こちらの見方を、無自覚に押しつけないこと。
相手の人生を、自分の言葉で回収しきらないこと。
それは、テクニックというより、姿勢の問題だ。
調べようと思えば、過去の出来事やスキャンダルについて、ある程度の情報は手に入る時代。だからこそ、取材者に求められるのは、情報量ではなく想像力なのではないかと思う。
知っているからこそ、決めつけない。
分かるからこそ、自分の言葉で簡単にまとめない。
確かに、自分のひと言でまとめたほうが、取材がスムーズに進むかもしれない。だけど、そのひと言でこぼれ落ちてしまうものは、あまりにも多い。
映画『国宝』のあのワンシーンから、取材者としての自分の姿勢を、あらためて見つめ直した。
私はこれからも、人の人生を、簡単な言葉でまとめないようにしたい。
雑な聞き方をしていないか。
分かったつもりで、聞いていないか。
そんな問いを、常に自分自身に向けながら、取材を続けていきたいと思っている。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。取材ライターとしての考えが少しでも伝わったら嬉しいです。ぜひスキやコメントで
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