実家が水浸しになりました。
先日、子どもたちを連れて実家に帰っていたときのこと。
夜10時。
キッチンで、母と他愛のない話をしていた。
母が洗い物を終えたのでリビングに戻ろうと、後ろを振り返ると、廊下につながるドアの下に、なぜか水があった。
……いや、あったというより、流れていた。
どんどん、どんどん、流れてリビングの方に向かっていた。
「え?」と思って扉を開けると、廊下は一面、水浸し。
廊下のすぐ横にある洗面所も、同じく水浸し。
母が「下の階に漏れちゃう!」と叫びながら、水の中に足を踏み入れて原因を探しに行く。
私も訳がわからないまま後を追った。
原因はトイレだった。
ドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、
日常生活では見たことがないような勢いで、ジャーッと噴き出す水。

その瞬間、母が叫ぶ。
「妹呼んで!」
妹は10年以上リフォーム会社に勤めていて、家の構造や設備には詳しい。
たまたま、出産直後で実家に戻っていた妹は、深夜の授乳に備えて横になっていた。
叩き起こされ、状況を見た妹は、迷いなく一言。
「マイナスドライバー!」
妹が何かをしている間も、水は水はどんどん広がっていく。
わたしは「下の階に漏れたら、どのくらいの弁償代がかかるのか……」
と、一瞬頭がクラッとした。
そんな恐怖をよそに、水は容赦なく広がっていく。
下の階も気になるけど、キッチンを越えたら、家電も、家具も、ピアノも、布団もある。
リビングに入らないように、なんとかしなきゃ。
その一心で、目についたタオルケットやバスタオルで、水をせき止めるように、土嚢のごとく床に置いていった。
どれくらいの量だったんだろう。
1分間に、何リットルの水が流れていたのか。
妹の迅速な対応で、ほどなくして水は止まった。
それからの30分間。
3人でひたすら、水を吸い取っては絞り、吸い取っては絞る。
母の「下の階に漏れちゃう」という言葉が、ずっと頭の中で鳴っていて、
無言で、必死に、床の水を一秒でも早く吸い取ることしか考えていなかった。
室温は温かいといえど、1月に素足で水を踏むのは冷たい。
でも、そんなこと、全く気にする余裕もなかった。
原因は、トイレのタンクと給水管をつないでいるホースが、
何らかの理由で外れてしまったことだった。
リフォーム会社に10年以上勤めている妹も、
その上司も、「初めてのケース」だと言った。
幸い、タンクにバケツで水を入れれば、トイレは使える状態。
生活に大きな支障はなかった。
でも、あのときの水の勢いを思い出すと、
どうしても、ある疑問が頭から離れなかった。
水が止まらなかったら、誰に連絡すればいい?
火事なら119番。
それは分かる。
でも、水は?
水が止まらなかったら、誰に連絡すればいいのか、
パッと思いつかない。
たまたま今回は、妹がいた。
マイナスドライバーが必要だと、すぐに分かる人がいた。
でも、自宅だったら。
もし一人だったら。
夜中だったら。
私は、何もできなかったと思う。
夫がいても、止める術は思いつかなかったと思う。
ただひたすら、あふれ出る水をバケツで受け止め、溜まったら流す。
これを繰り返すことしか思い浮かばなかったはず。
後から妹に聞いて知ったのだけど、
キッチン、洗面所、トイレ、シャワーなど、給水管につながる場所には、
止水栓というものが必ずあるらしい。
それをマイナスドライバーで回せば、
とりあえず水は止まる仕組みになっている。
でも、そのことを、私は知らなかった。
どれだけの人が、自宅の止水栓の場所を、すぐ言えるだろうか。
どれだけの人が、マイナスドライバーを、すぐ取り出せるだろうか。
この出来事があってから、強く思った。
自宅に帰ったら、まずは止水栓の場所を確認しよう。
マイナスドライバーを、すぐに取り出せる場所に置いておこう。
(そもそも、うちにマイナスドライバーってあったっけ??)
古くなったタオルは、やっぱり一定数取っておこう。
そして、何か水のトラブルがあったときに呼べる人を、ちゃんと頭に入れておこう。
特別な知識や、大げさな備えじゃなくていい。
でも、「知っているかどうか」で、被害は必ず変わる。
あの夜、床に広がっていった水。
表現が悪くて申し訳ないけど、ホラーやサスペンス映画で、扉の下から血が流れてくる映像。まさにあんな感じだった。
結構な恐怖映像として、あの水は私の頭の中に記憶された。
でも——
母一人のときじゃなくてよかった。
旅行中じゃなくてほんとによかった。
私は今も、そう強く思っている。
