人は焦ると頭皮から大量の汗が出る話
学生時代ぶりに皆様が書いた小説の感想文(というのでしょうか)とかも書きたくなってる昨今。時間は人の倍以上かかるはずだが一度書いてみたいと思う昨今。いや、私なんぞが…という想いをグッと堪えて、書きたいことを書くと決めた昨今。
駄菓子菓子
今日も結局
昔話を書くのであります。
これは20年以上前のおはなし。
真ん中の姉は強運の持ち主だ。
懸賞でペア4泊5日のハワイ旅行を当てた。
私はその頃埼玉の短大を卒業して実家がある神戸に戻ったところ。氷河期世代ど真ん中の私は、就職出来ずに日雇い派遣バイトに精を出していた。姉の周りで平日フラフラしているのは私だけだったので、ハワイ旅行の相方に見事に選ばれた!
初めての海外旅行。
私はガイドブックを買って浮き足だった。姉はパティシエでヨーロッパに留学した事もあり、海外旅行に手慣れているだろう。と飛行機の時間等、時間調整は全て姉に任せていた。
出発当日。
三ノ宮発関西空港行きのバスに乗る。スーツケースを乗務員さんに預けていざ出発!六甲アイランドを経由して関空へ向かう。
六甲アイランドへ向かっている途中、懸賞先から送られてきたプリントを見ながら何度も腕時計と往復する姉…
嫌な予感がする…
『ユカリちゃん、飛行機間に合わへんかもしれん…』
『へ!ウソやん、なんで?』
『時間間違えた…』
姉は関空行きのバスが六甲アイランドを経由する時間を入れていなかった事。そもそも飛行機のチェックイン時間も1時間間違えていた事を伝えてきた。
ひぃぃぃぃ…
このバスに乗っていたらチェックイン時間に間に合わない…かもしれない。
自分が確認しなかった事は棚にあげて『なんで時間確認しなかったんよ!』
と、姉へ怒りたい気持ちもあったが、私は真ん中の姉を極度に恐れている。口答えしようものなら、その倍になって返ってきて痛い目に遭うのは私だ。
父と母が1階のリビングで夫婦喧嘩を始めた事があった。と言っても、父が一方的に怒り母は呆れて無視してるやつだ。その時6歳だった私は部屋の隅っこに逃げて嵐が過ぎるのを静かに待った。ところがどっこい姉は2階の階段の上から『うるさーーーい!勉強出来ひんやろーーーっ!!!』と叫び、物を投げ父を黙らせる強さを持っていた。
父は普段は温厚だが1度火がつくと止められない性格。その更に上を行くのが、真ん中の姉だった。
我が家の序列トップに君臨するのは、今も昔も真ん中の姉だ。
急いでいる私たち姉妹をよそにバスは何度も信号にひっかかる。
私は物凄く焦った。
これで飛行機に乗れなかったら、憧れのハワイ航路が途絶えてしまう。
こんなチャンス滅多にないのに!
うわわわわわわ、どうしよう!
なんで私も時間確認していなかったんだ!
うわわわわわわわ
そんなことを考えていると、頭皮から尋常じゃない汗が流れてきた。

人は焦ると本当に頭皮から尋常じゃない汗が吹き出ると、この時知った。
『ユーカリちゃん、凄い汗やで。大丈夫?』
この期に及んで姉がニヤニヤしながら聞いて来た。何が起こっても動じないいつもの姉らしい対応。
『◯ちゃん、六甲アイランドで降りてタクシーで関空に向かおう』
反対に私は流れてくる汗が目に入って目をシパシパさせながら、笑う事なく極めて冷静に答えた。
いつもヘラヘラしてるくせに、大パニックを起こしている時程、それを隠そうと冷静を装ういつもの私の対応だ。
『そうだな。じゃねぇと間に合わねぇな』
20年以上前の事なのに、普段滅多に使わない関東弁で返して来た姉の事、私は忘れていない。
後に姉が、あの時あぶない刑事のタカを意識したと言ってきた時には、心底どうでもいい話やな、と感じたことまで忘れていない。
私たちは六甲アイランドで降り、乗務員さんに事情を話してバスからスーツケースを下ろしてもらった。
バス停の目の前にはちょうどタクシーが止まっていて、私たちはスーツケース片手にそのタクシーに飛び乗った。
『運転手さん、ごめんなさいいい!超特急で関空までお願いします!』
只事ではない空気を察知した運転手さん。
『飛行機間に合わないんですー!』
『わかった!任せとけ!!』
『しっかり捕まっときやー!!』
もの凄いスピード(時効)で関空までかっ飛ばしてくれた。
もう運転手様々だった。
飛行機、余裕で間に合った。
まさかの日本で姉は運転手様にチップを払った。
かっこえぇ、姉!
………
駄菓子菓子
その気遣いを飛行機の時間を再確認する気遣いにまわして欲しかった。
懸賞で当たったハワイ旅行は、行き帰りビジネスクラスという高待遇で、8時間程の空の旅を快適に過ごすことができた。
落ち着きを取り戻した姉妹は機内で乾杯した。
ウェルカムシャンペンが振る舞われ覚えたてのお酒に舌鼓を打ちながら、私は心底タクシーの運転手様に感謝した。お酒が飲めない姉はオレンジジュース。そこで今日の焦りを振り返った。
『もうめっちゃ焦ったわー』
『ほんまに!ユカリちゃん、大量の汗かいてたもんな、笑笑笑』
2人であの時の状況を思い出し、笑いを噛み締めた。
『ダウンタウンのまっちゃんのコントの大入道くんみたいやったでな、笑』
姉が笑いを堪えながら言った。
大入道くんとはその昔ダウンタウンのごっつええ感じという番組内で放送されたコントのキャラクターだ。
ー設定ー
浜ちゃんの付き人である今ちゃん。新しい相方が出来たので漫才を見てほしいと師匠である浜ちゃんに懇願する。
『おおにゅうどうくん、大入道くーん!』今ちゃんが呼びかけると奥から出て来たのがまっちゃん扮する大入道くんである。師匠の前で漫才を披露するもネタが飛んでしまい焦る大入道くん。
私の記憶ではこんな感じのコント。
焦った大入道くんは、頭皮から大量の汗が吹き出る。カツラにチューブが仕込まれていて、そこから水が吹き出るという仕掛けだ。

一部の人にしかわからないこのキャラクターを出してくる姉の表現力に脱帽しつつ…
私のバスでの様子は、まさに大入道くんだった…
機内で涙を流す程2人でまた必死に笑いを堪えて笑った。
無事にハワイに着いた私たちは4泊5日の旅行を大いに楽しめた。
これを書いていて思い出した話。
このハワイ旅行で姉は行く先々の飲食店でコーラを頼んでいた。
お酒も飲めない姉は炭酸も苦手だったよな…?と、旅行後半に気付いた私は
『◯ちゃん、なんでコーラばっかり飲んでるん?』
と、聞いてみた。
私の予想では、ハワイに降り立った途端急にアメリカナイズされた姉がコーラを好んで頼むようになったのかな、だった。
予想はもちろん外れた。
なんでも初日に行ったフードコートでオレンジジュースを頼んだところ
『はぁぁぁぁぁん?!』
と、店員さんに強く聞き返された事がトラウマとなりその後その時唯一通じたコーラしか頼めなくなったと言う…
次のお店で姉の代わりにオレンジジュースを頼んであげたら、満面の笑みで飲み干した。
こんな気の弱い姉だが、私にとってはめちゃくちゃ怖い姉である。
この序列を覆す日はまだやって来ない。
多分一生来ない。

