見出し画像

逆ナンのはなしですか

自転車通勤をしていたことがある。
自宅から会社まで約6km。
だいたい30分の道のりだ。
平坦な道を無心で漕ぐのは案外ストレス解消になって、気分転換にもなった。
会社で腹立つことがあっても自転車を漕いで帰るうちに忘れて、家に着く頃には晩御飯のことしか考えていない。

会社に向かう道の途中に大きな公園がある。公園横の裏道は500m程の直線で歩道と車道がある。公園に行く車しか通らないので自転車でとても走りやすい道だ。朝だからか、裏道のせいなのか。歩道にも歩いている人をほとんど見かけない。

ある朝、自転車で公園横の車道を走っていると、向こうから歩道を全速力で走るサラリーマンがやって来た。
歳の頃なら30代。マラソン選手だった宗猛氏に似ている。
とても真面目そうなサラリーマンだ。元マラソン選手の宗猛氏に似ているが、彼の走りはマラソンの速度ではない。ウサイン・ボルトもビックリのまさに猛ダッシュ!
凄い速さとその形相に私の目は釘付けになった。
顔が真っ赤で必死の形相。
ものすごく必死さが伝わってくるのだ。

その日から何度も猛の猛ダッシュを見るようになった。

猛は最初の頃はリュックだったが、走りにくかったのか黒のビジネスバックに変えてきた。まるでバトンを持つかのように小脇にビジネスバッグを抱えて猛ダッシュ。

いつも革靴で走っているからか、はたまた猛の走り方のクセが強いからか、バタバタバタと大きな足音が響いている。
ある日は、たまたま散歩に来ていた猛の足音にビックリした芝犬に思いっきり吠えられていた。それに怯むことなく猛は猛ダッシュ。

しまいにはメガネを外して猛ダッシュするようになった。

そのうち私は公園横を通る時、猛を探してしまうようになった。週に2.3度。曜日は決まっていない。猛を見かける日は続いた。

しかし、なぜ猛は朝からあんなに猛ダッシュしているのか。
これを考え出すと仕事も手につかない。私はもう猛の猛ダッシュのトリコになっていた。

いつもお寝坊さんで、遅刻しそうだからあんなに全速力なのだろうか。
うん、きっとそうだろう。
私はずっとそう思っていた。

ある日同じ時間にゆっくりと歩く猛を見かけた。あれ?あれれ?今日は猛ダッシュしなくて良いの?
そんな優雅に歩いて会社遅刻しませんかー?

私は激しく混乱した。

遅刻しそうだから、走ってるんじゃないの???

引き寄せの法則をご存知だろうか。

自分の波動を願望との調和を保つことで、望むものを引き寄せられる

なのだそうだ。

その頃の私は猛で頭がいっぱいだった。

会社の先輩に話すと

『それはもう恋なのでは?』

と返答があった。

いや、違う。

ただただ猛がなぜあんな必死の形相で猛ダッシュしているのかが気になって仕方ないのだ。



夕方仕事を定時で終わらせた。歯医者にクリーニングの予約をしていたからだ。予約時間まではまだ時間があった。歯医者近くのカフェで時間を潰すことにした。

そろそろ予約時間だからと席を立とうと用意をしていると、見慣れた顔が私の横の席に座った。いつもはカフェで横の席につく人の顔など気にもしないが、その日の私は彼の顔に目がいった。


猛だっっっっっ!!!



ウソでしょ!!!

私はドキドキした。

めちゃくちゃドキドキした。

これは恋?

うーん、やはり違う。

猛が朝から猛ダッシュしている理由を聞き出す千載一遇のチャンスを手に入れたからだ。

え、でも急に話しかけたら気持ち悪いよな。

なかなかヤバいよな。

ほんでもこんなチャンス一生こないよな。

嗚呼嗚呼嗚呼どうしよう。

なかなか予約が取れない夜の時間帯の歯医者の予約時間が迫っていた。

私は一か八か猛に話しかけた!

『あのぅ…』

『はい?』

メガネ姿の猛がこちらを怪訝そうに見ていた。

『あのぅ、こんなこと急に聞いてほんまに失礼やと思うんですけど…』

『え…はい?』

『朝、走っていらっしゃいますよね?』

『え…』

『公園の横の道…』

『あ…はいはいはい』

猛が笑顔になった。
なんだか安心した。

『凄い足が速いなぁと思っていて…たまにお見かけするんです(毎回見てます)』


『あ、そうなんですか。いやー、はいはいはい』

猛が戸惑っている。

私は声をかけたことを激しく後悔した。でもここまで来たら後には引けぬ!

『トレーニングかなにかですか?』

遅刻しそうやから走ってるんですか?と聞けなかった。

猛は静かに

『いや、あの…はい。トレーニングです』

と答えてくれた。

えぇーーー、ほんまにトレーニングやったの!ウソついちゃいけないよ、お寝坊猛よ。
どうしよう、想定してない返答とこれからの会話。

『あ、そうなんですね。めっちゃ足速いですよね、凄いなーって思ってて…元陸上部?』

絞り出した。

猛の走り方はクセが強すぎるので、陸上部ではないだろう。


『いや、違いますけど…』

『あーそうですか…』

だよねっ!

沈黙…どないしよっ

すると猛が

『いや、実は…僕結婚してて…』

ん?!猛よ。
わたし知ってるよ。
左手の薬指に光る結婚指輪をしていることを。

『指輪していらっしゃいますもんね』

沈黙…

『はい、それで…あの…今度子供が産まれるんですよ。』

『わあ、おめでとうございます』

。。。。。

明らかに戸惑っている猛を前に、私は閃いた。

あれ?あれれれれ?

これはアノ逆ナンってやつや!!

おぅおぅおぅ、私よ。
人生で初めての逆ナンをこんな形で迎えるとは!



猛は続けた。

『なので、あの僕結婚してますから。はい…』

どうする?!ユーカリちゃん!!

『あ…あのそういうのでは(どういうの?!)ないです!!』

『あ…
ははははははは』

猛はバツが悪そうに笑った。

『なんであんなに走ってるんやろうってずっと思ってて気になって…遅刻かなぁ、とか。あは、あはははは。凄い足が速いのも驚きで!声かけさせてもらったんです』

私は勘違いされまいと早口で猛に声をかけた経緯をまくしたてた。

『子供が産まれるので、いつ呼ばれても会社から駆けつけられるようにあそこで何本か走ることにしたんです。』

あーーーーー!
そうなの!猛!お子様が産まれる、そのトレーニングの為に猛ダッシュしてるんや!しかも私が自転車で通り過ぎる前にもダッシュしてるのね!だから、あんな必死の形相なのね!駆けつけられるように…ってめちゃくちゃ素敵やんかいさっ!!

猛はなぜ猛ダッシュをしているかの回答を私にくれた。猛が私に逆ナンされたと思ったか。真実は猛にしかわからないが、その戸惑い加減から明らかに勘違いされていそうな雰囲気だった…

『なるほど!!そうだったんですね!!何本も走って!凄いトレーニングになると思います!なんかほんまごめんなさいね、でも理由が素敵ですね………』

私はぺちゃくちゃ話を続けた。
話せば話すほど、猛に気がある女として成り立っていく気がした…完全に空回りだ。

話すだけ話して

『歯医者の予約があるのでこれで失礼します!』

と、突然逃げるように去ってしまった。歯医者の予約時間5分前を切っていた。歯磨きもしないといけないのに!私は焦っていた。

猛も

『はい…』

戸惑いながら微笑んでくれた。

この時の私は猛のことを考え過ぎて猛を引き寄せたんだと今も思っている。


駄菓子菓子

それから猛を見かけることがなくなった…

後から考えたら、そらそうだ。
何処の馬の骨かもわからん女に走る姿を見られている、とわかったら…走りにくくなるだろう。

私の猛が猛ダッシュをしている理由を聞きたいというエゴだけの為に、私は猛のトレーニングの邪魔をしてしまったのだ。

未だに声をかけたことを後悔している話…


可愛い帯に癒されよう…


この話を書くにあたって…
彼はほんまに元マラソン選手の宗猛氏に似ていた。
そして会社の先輩に話をした時も

『よく朝、元マラソン選手の宗猛氏に似ているサラリーマンが公園横を猛ダッシュしているんですよ』

と、説明した。

その時も気付いていなかった。

こうして書いてみて初めて
猛が猛ダッシュと漢字が共通している事がわかった。

そして宗猛氏は双子…
瓜二つの宗茂氏もいるのに、私は何故か導かれるように自然と宗猛氏をチョイスしていた。猛ダッシュと結びつける記事を書く未来がその頃の私は知る由もなかったのに。

書くことでわかることがある。

これも
引き寄せの法則のひとつなのかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!