今日食べた料理の「味」は、おそらくこの会社が作った——McCormick(MKC)を公認会計士が解剖する
生涯現役CPA
2026年4月
あなたの食卓はどこから来るのか——食の未来チェーン 第3回/全5回
※本記事の財務数値は2026年4月時点の公開情報に基づいています。
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少し前に、こんな経験はありませんか?
飲食店のテーブルにある「フランクスのホットソース」を手に取った。スーパーで「チョルーラ」を買った。炒め物に「フレンチズのマスタード」を使った。
実は、これら全部が同じ一つの会社のブランドです。
その会社の名前を、あなたはおそらく知らないはずです。
■ 前回の復習と今回の問い
第1回でDeere(DE)が農機で農場をAI化し、第2回でCorteva(CTVA)が種の特許で食料生産を支配することを見てきました。
農産物が育ったとして、それが私たちの食欲を刺激する「料理」になるには、もう一つの要素が必要です。
「味」です。
世界中の料理の「味」を130年以上にわたって支え続けてきた会社——それが今回の主役、McCormick & Company(NYSE: MKC)です。
■ McCormickとはどんな会社か——「スパイスの帝国」
McCormick & Companyは1889年創業、メリーランド州ハント・バレー本社。世界最大のスパイス・調味料・フレーバーメーカーです。
「McCormick?知らない」と思ったあなたへ。冷蔵庫や食器棚を確認してみてください。フランクス・レッドホット、チョルーラ、フレンチズ、OLD BAY、Lawry's——これらはすべてMcCormickのブランドです。
あなたは知らないうちに、毎日McCormickの「味」を食べているのです。
FY2025(2025年11月期)の年間売上は$6.84B(約1兆円)、純利益$789M、純利益率11.5%、FCF $740M。100年以上にわたり配当を継続し、40年連続で増配を重ねてきました。
■ ビジネス構造——B2CとB2Bの「二刀流」
McCormickの収益は2つのセグメントに分かれます。
Consumer(消費者向け)は売上の約57%。スーパーの棚に並ぶ家庭用スパイスと調味料が中心です。Lawry'sのガーリックパウダーや、OLD BAYのシーズニング——強いブランド力が高い価格決定力を支えています。
Flavor Solutions(外食・食品メーカー向けB2B)は残る約43%。外食チェーンや食品メーカーのためにオリジナルのフレーバーやソースを開発・供給します。大手外食チェーンのメニューの多くにMcCormickのフレーバーが使われており、「どのレストランでも実はMcCormickの味を食べている」という状況が生まれています。
このB2CとB2Bの二刀流が、消費者市場と業務用市場の両方から安定した収益を確保する仕組みです。

■ 会計士である筆者の視点——3つのポイント
①あなたが買う「MKC」には議決権がない——デュアルクラス株の謎
証券会社で「MKC」として取引される株式は、議決権のないCommon Stock Non-Votingです。一方、議決権のあるCommon Stock(MKC.V)は創業家や長期保有者が持ち、経営支配権を握っています。
これは日本の個人投資家にほぼ知られていない事実です。
「株を買うとは、会社の一部を買うことだ」という理解の前提が崩れる——そう感じる方もいるでしょう。デュアルクラス株は米国では珍しくありませんが、買う前に「自分はこの構造を受け入れるか」を問い直す価値があります。
②M&Aが積み上げた「資産」と「負担」——GAAPとNon-GAAPの差を読む
McCormickはフランクス・フレンチズを含む大型買収(2017年、約$4.2B)など積極的なM&Aでポートフォリオを築いてきました。その結果、貸借対照表にはのれんと無形資産が大きく計上されています。
ここで一点、重要な会計の知識です。
米国会計基準(US GAAP)では、のれんは原則として償却されません。減損テストの対象です。一方、耐用年数のある無形資産は毎年償却され、これがGAAP利益を押し下げます。加えてspecial charges(リストラ費用等)も乖離要因になります。FY2025ではGAAP EPS $2.93に対して調整後EPS $3.00でした。差額自体は大きくありませんが、M&A企業であるMcCormickを読む際はGAAPとNon-GAAPの差の「中身」を確認する姿勢が欠かせません。
③オーガニック成長率と報告成長率の「ズレ」——為替のマジック
McCormickは世界150カ国以上で事業を展開しています。そのためドル高局面では報告ベースの成長率が実力より低く見えます。
「MKCの成長が鈍化した」と感じたら、まず確認すべきは「為替の影響を除いたオーガニック成長率はどうか」です。ZTSやCTVAと同様、グローバル企業の実力はオーガニック指標から読むことが基本です。
■ 投資判断のポイント(あくまでも筆者の私見です)
好材料は3点です。「食の文化」に根ざしたスパイス・調味料需要の不況耐性、フランクス・チョルーラ等の強いブランドポートフォリオが持つ価格決定力、そして40年連続増配という財務規律の証明です。
注意材料も3点あります。農産物原料コストの上昇が粗利率を圧迫するリスク、デュアルクラス株による一般株主のガバナンス参加の制限、そしてM&A由来の有利子負債が金利環境の変化に晒されることです。
次にフランクスのホットソースを見たとき、あなたは「これはMcCormickだ」と思うはずです。そしてそのブランドの裏に、議決権のない株式と巨大な無形資産が眠っていることも——それが知識を持って投資を見る、ということです。
■ 第4回へ——「年間$81Bを動かす、誰も名前を知らない会社」
McCormickが作った調味料は、どうやってレストランのキッチンに届くのでしょうか。
次回の主役Sysco(SYY)は、年間$81B超の売上を誇りながら、消費者には一切知られていない会社です。「外食産業の見えないインフラ」の正体を、第4回でお伝えします。
※本記事は情報提供のみを目的としており、特定銘柄への投資を推奨・勧誘するものではありません。記載の数値・指標は執筆時点のものであり、将来の投資成果を保証するものではありません。本記事の作成にあたっては情報の正確性に細心の注意を払っていますが、内容に誤りが含まれる可能性があります。投資判断の際は必ず各社のIR資料・SEC開示書類等の一次情報をご確認ください。投資の最終判断はご自身の責任においてお願いします。筆者は公認会計士・IPOコンサルタントであり投資助言業者ではなく、本記事は筆者が関与する法人の公式見解ではありません。
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