生徒が苦手な基数変換
2012年度の大学入試センター試験「情報関係基礎」第3問は2進法と3進法の問題である。ガイドに従って解いていけば解答は書ける(選べる)。しかし,それで,本当にアルゴリズムがわかるのかというと疑問なのだ。というのも,基数変換は生徒が苦手なものの一つだからだ。
この第3問は上皿天秤の問題で,後半では3進法を使う。1g,3g,9g,・・の分銅が1つずつあり,これを用いて左右を釣り合わせる。
物体は左の皿に載せる。x = 97 のとき,3で割って,商が32,余りが1。ここで,1gの分銅を1つ右の皿に載せる。次に32を3で割って,商が10,余りが2なのだが,3gの分銅は1個しかない。そこで物体の方の皿にその3gの分銅を載せて,その分だけ物体の質量が増えたものと見なす。そのためには,商10 に1を加えた11 を,次に割られる数とする。この手続きを次々に進めていく。

というのだが,意味がわかるだろうか。なぜ「物体の方の皿にその3gの分銅を載せて,その分だけ物体の質量が増えたものと見な」せばいいのか。なぜ「そのためには,商10 に1を加えた11 を,次に割られる数とする」のか。
その意味がわからなくても問題は解ける。プログラミングの問題だが,手続きの「やり方」だけまねすれば選択肢から解答を選ぶことができるのだ。
しかし,これを記述式のテスト問題にして,このあとに
問 余りが2のとき,商に1を加えて続きを行う理由を書け
という問題を出したら,おそらく正答率は5%未満で,ほとんどが白紙だろう。
その根拠は,これまで見てきた生徒の,基数変換についての理解度がきわめて低いことがわかっているからだ。
2進法は数学で1年次に学ぶ。情報でも情報のディジタル化のために,2進法,16進法を学ぶ。10進法から2進法へ変換するときの方法は,数学の教科書にも情報の教科書にも載っている。しかし,方法は載っているがその原理をきちんと説明してあるかというと,そうではない。次のものは東京書籍の数学Aの教科書の説明である。

情報の教科書では,この右下の図は載っているが,本文のような説明が載っていないものがほとんどだ。この本文の説明にしても,なぜ13を2で割っていけばいいのかの説明はない。
その結果,「しばらくすると2進法への変換の方法を忘れてしまう」のが生徒の実情なのである。情報の授業では,たいてい1学期にここを学ぶ。情報のディジタル化の話だ。しかし,学年末はもちろん,1学期末でさえ,2進法,16進法への変換の問題の正答率は低いのだ。原理を理解するのではなく,「公式を覚えて使う」「方法を覚えて使う」という小学校以来の学習方法がすっかり根を下ろしているのだろう。「みはじ」はその典型。
そういう実情なので,授業では次のような原理を説明するのだが,それでも忘れてしまう。

情報では,2進法の1桁がビット,8桁がバイト,1バイトで表される(非負の)整数は0から255まで,といったことを1学期に学ぶ。それを用いて,情報量の計算も行う。800×640 ピクセルの24ビットカラーの画像は何バイトで表されるか,といった問題だ。大学入試センター試験「情報関係基礎」でも出るので,演習問題としても何度かやらせる。しかし,その結果はどうか。次は,ある年の学年末に行った試験の問題と正答率だ。
(1) 2バイトで表される0以上の整数を10進法で表すと0から( ア )までである。
(3) CD の規格は,サンプリング周波数が44.1KHzで量子化ビット数は16ビットである。ということは,1秒間の波形を 44100 の標本に分割し,ひとつの標本を0 〜( オ )の段階値で量子化していることになる。
(ア)の正答率は1.9%,(オ)の正答率は0.6% であった。(オ)については,試験前に「情報関係基礎」過去問から次の問題をやっている。
量子化のための段階値を0〜4095の整数にすると量子化ビット数は(テト)である。標本化周期を4万分の1秒,量子化のための段階値を0〜32767の整数にするとデータ量はは(ナニ)万ビットとなる。
テトの正答率は 25% ,ナニの正答率は 17% であった。センター試験なので,選択肢から選ぶ。学年末の試験の方は選択肢がない。演習問題では,解説付きの解答を配っているから,演習時点でわからなかったり間違ったりしていても,そのあと何も学んでいないか,それを読んでもわからなかったということだろう。
3進法と2進法の問題もある。「情報関係基礎」の過去問でやった問題の類題を作った。
文字の符号 ー ・空白を 2,1,0 に対応させ3進法で表す。
A は ・ー C は ー・ー・ の記号で表されている。
3進法の4桁で表される数は,10進法では 0 から( カ )までである。
すると,2進法は( キ )ビットを使えばよいことになる。
たとえば,C は3進法で( ク )と表され,これを2進法の(キ) ビット
で表せば( ケ )となる。
正答率は (カ)50.3% (キ)36.3% (ク)81.5% (ケ)28.7% であった。
クが81.5%であるのに,ケが28.7% しかないということは基数変換ができない,ということだ。(キ)についても2進法で表せないから答えられないわけである。
要するに,何度やっても,基数変換が理解できない生徒が半数どころか3分の2以上いるということだ。
こんな状況だから,2012年度の上皿天秤の問題ができても,そのうち何%の生徒が,その手順でできる理由まで理解できているかというと,はなはだ疑問なのである。
そのあたりを考慮して,この上皿天秤の問題をどう扱うかを次回考える。
