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恋結び。 ⑧

「圭ちゃん!見て見て!キレーイ ♡ 」
サンライズ瀬戸号は、
岡山駅でサンライズ出雲号と切り離し、
単独運転で高松駅へ向かっていた。
本州と四国を結ぶ瀬戸大橋。
眼下には瀬戸内海に浮かぶ島々。
その島々に
朝焼けの光を浴びて幻想的な景色が拡がる。
「すごいな!小さい島がたくさんある!」
「ねっ!圭ちゃんと同じ景色を見てる」
2日目の朝。
" 明日の21時…
    居なくなるんだろ?そうなんだろ? "

「ねぇ、圭ちゃん?」
「高松駅に着いたらどうするの?」
高松駅には、7時27分に到着する。
松山行きの " 特急いしづち7号 " は、
10時47分発。約3時間強の時間がある。
「そうだな…朝ごはん食べようか?」
「讃岐うどん!!」
「開いてる店があるといいな!」

「わぁー!!四国初上陸!!」
31歳の男と、幼さが残る少女。
この組み合わせを…周りはどう見てるのか。
高松駅近くのうどん店に入る。
コシの強いモチモチした麺…
真凛の勢いよく食べる姿…微笑ましかった。
「お腹いっぱいになったか?」
「うん ♡ 」
「この後、列車に乗り続けるけど平気?」
「真凛はね」
「圭ちゃんと一緒なら、どんな事でも平気だよ」
残された時間… 一日と半。
刻々と一秒ずつ削られていく。
高松駅に戻り、
6番線ホームから…いしづち7号に乗り込む。
約2時間半で松山駅に到着する。
真凛の鼻唄が聴こえてくる…
「何の曲?」
" 神様の秘密のカバンから夏だけ盗んで
         ふたりで並べよう… "
「 夏空グラフティ♡ 」
「いきものがかり…か?」
「そう ♡ 」
スマホでSpotifyを開き…検索する。
イヤホンの右側を真凛の耳に装着させ
「一緒に聴こう?」
「うん ♡ 圭ちゃん優しい ♡ 大好き ♡ 」
真凛が窓側で初めて見る景色を眺めている…
「真凛?」
「なに?」
振り向きざまに真凛の頬にキスをした。
「もぅ!圭ちゃんったら!」
「今夜…たくさんしよ?ねっ?」
悪戯な笑顔を見せる。
そしてまた、車窓から景色を眺めはじめた。


「圭太ってさ…他に好きな子いるでしょ!」
香織と付き合いだして3年の月日が経過していた
「なんで?」
「だってさ、いつも心ここに在らずじゃん!」
「私と一緒に居てもつまらないんだよね!」
香織のヒステリックな面が日に日に増していく。
「えっちの時も必ずスキン付けるし…
  出来たっていいんだよ!なのにさ…」
香織に対して、好きという感情は薄れていた。
好きという感情があったのかさえ…
分からなくなっていた。
「結婚する気がないんなら、
  はっきりそう言ってよ!聞いてる?」
渚沙を突然の出来事で失った。
香織の存在がその事実を忘れさせてくれていた。
" くれていた? "
" 好きなのか? "
" 性欲を満たすだけの存在? "
自問自答を繰り返す日々が続いていた。

「アタシの3年!返してって感じだよ!」
婚約者として付き合い始めたが、
香織には相応しくない人間だと、
思い知らされた。
また…失ってしまった。
香織には香織の魅力的な面があった。
にも関わらず…
頭の中には、渚沙の存在が消える事はなかった。

「な」
「波!!」
いつの間にか眠りについていた…
「真凛どうした?」
「あのね、怖い夢を見たの。大きな波が…」
きっと…怒涛の大きな水の壁が襲いかかってくる
死を覚悟し受け入れ、どうする事もできない
そんな状況を体験した恐怖は計り知れない。
「な?波…おれ好きなんだよ」
「えっ?」
「波って人の感情に似てて…」
「押し寄せては引き、また押し寄せては引く。」
「つまり、常に一定ではないんだよね。
  波にも喜怒哀楽があって、
穏やかな凪の日もあれば、荒れ狂う時化もある」
「おれ、波を見ると何故か落ち着くんだよな…」

「その感覚、真凛にもわかる!」
「ありがと…真凛はおれが大好きんだな?」
腕に、真凛自身が腕をきつく絡み付かせ…
「当たり前じゃん!圭ちゃんは真凛のもの ♡ 」

車窓からは瀬戸内海の透き通った綺麗な海…
真凛と時間を共有している心地良さ。
自分が自分で居られる唯一の場所だと。

松山駅で下車し13時30分発の
特急宇和海15号に乗車した。
「お尻痛くないか?」
「大丈夫 ♡ 今夜、圭ちゃんに揉んでもらうから」
「ははっ」
「他のとこも揉んじゃうぞ!」
「いゃん♡ えっちな圭ちゃん大好き ♡ 」

約1時間ほどで八幡浜駅に到着した。
「少し時間があるからご飯食べようか?」
「何が有名なの?」
スマホで " 八幡浜グルメ " で検索する。
「海鮮と、みかんと…ちゃんぽん?」
「真凛!ちゃんぽん食べたい!!」
「ははっ、じゃあ…ちゃんぽん食べるか!」
不思議だった。
街で見るカップルも、
こんな会話をしながらお互いを相愛してるんだと
今のおれには真凛が居る…
真凛さえ居てくれたら他には何も要らない…

昼食を済ませ、八幡浜の街を歩きながら
八幡浜フェリーターミナルに到着した。
「真凛?夕日が見れるといいな?」
「ねっ!こんなに晴れてるんだから!」

" そうか!あの日。河原で夕日を見た…
  渚沙がご機嫌で歌って…キスをした。
   真凛?あの日の事。覚えてるんだね? "

定刻の17時25分。
別府港へ向け出港した。2時間50分の船の旅。
初めてのフェリー。
真凛が無邪気に船内を探索する。
「圭ちゃん!すごい!海の上に浮かんでる!」
真凛の無邪気な笑顔に自然と笑みが浮かぶ
「もうちょっとしたら甲板に出よ?」
「か・ん・ぱ・ん?」
「なんのパンなの?」
「食べる方のパンじゃないって!」
頃合いを見計らって…

「真凛?目を瞑って?」
「手を繋いで?おれが真凛を連れて行くから」
真凛の手を取り、船内後方にある甲板に出る。
「まだだよ?」
「うん…なんか怖いよ」
「おれが付いてるから大丈夫だよ!」
一歩ずつ歩を進め真凛を誘導する。
真凛を前方にし、
後方から真凛の腰に手を添え支える。
「真凛?両手を拡げて?」
「う、うん。こう?」
「そうだ!」

「いいぞ!真凛!目を開けて?」

「わぁー!!キレーイ!!」
「圭ちゃん!めっちゃキレイだよ!」
「圭ちゃん!圭ちゃん!見て!見て!」
焼け爛れた真っ赤な空…圧巻だった。
「ははっ、見てるよ!」
「真凛?寒くないかい?」
「圭ちゃんはいつも優しいよね…」

「なんか、空を飛んでるみたい…」

思い出した。このシーン…
実際に豪華客船が沈没した事故を題材にした
映画  " タイタニック "
船首の柵にローズの足をかけさせ、
ジャックがその後ろから両手を広げさせるシーン
映画の二人はその後、
放ればなれになる結末…
" おれ達は…ずっと一緒だからな "


" 泣いて笑ってつないだこの手はすべての言葉に負けない約束
あなたと出逢えた 茜の空にほらあの日とおなじ
ことを願うよ "

真凛が口ずさむ…
「いきものがかり…だな?」
「そう!茜色の約束!」

" 真凛は…渚沙の心の中には。
あの頃の二人の思い出が色濃く記憶されている "

20時15分。定刻通りに別府港に入港した。
「さっ!真凛!温泉だぞ!」
「やったー!真凛…ちょっと疲れちゃったの」
「ごめんな。温泉に入ってゆっくりしよ!」
「うん ♡ でも、圭ちゃんと一緒がいい…」
「大丈夫!ちゃんと手配済みだ!」

別府温泉…
源泉数、湧出量共に日本一。
日本3大温泉の一つ。

「えぇー!!圭ちゃん!このお部屋すごいよ!」
ホテルの一室に案内されるや否や
真凛が部屋中を探索し始める。
「あら、可愛い妹さんだこと」
部屋を案内してくれた仲居さん…
「妹じゃないよ!彼女なんだから!!」
真凛が口を尖らせて反論する
「あらあら、ごめんなさいね」
「彼女さん?こちらをご覧になって?」
「わぁ!お風呂があるー!!」
「ねぇ!圭ちゃん!お外にお風呂があるよー!」
仲居さんと目が合い、
恥ずかしさと真凛の無邪気な笑顔に
照れ笑いを浮かべる。
「後で一緒に入ろうな!」

夕飯は部屋食。和食コースを予約していた。
時間が刻々と刻まれていく…
残り一日。たったの24時間…

「圭ちゃん?早く!」
部屋に備え付けの客室露天風呂。
真凛は髪を後ろで結い…湯船に浸かっていた。
「なんでもう大っきくなってんのよ!」
「疲れ…なんたらってやつだよ」
「もぅ!バカ!」
真凛の舌が絡みついてくる…
唾液がソレを纏い粘着音が響き渡る
「圭ちゃんのコレ…」
「真凛、大好きなの ♡ 」
「いっぱい出してもいいんだからね?」
「真凛の中にも…いっぱいちょうだいね」
湯船の水が激しく波を打ち…
肌を重ね合う音と
二人の荒々しくなる刹那声が
夜空の下で、いつまでも奏で合っていた…

「圭ちゃん!すごーい!」
「この煙って…」
「温泉から出た水蒸気みたいだよ」
「すごい…街中、煙だらけ」

11時にチェックアウトをし、
別府温泉が見渡せる高台に来ていた。
残り時間…10時間。たったの10時間。
「圭ちゃん!」
「今日もまた列車に乗るんだよね?」
「うん!今日のも、真凛、気に入るはずだよ」
別府温泉を後にし、別府駅へと向かう。
14時43分発のゆふいんの森4号。
「なにこれー!めっちゃ可愛い!!」
前面は丸みを帯びた
貴賓のあるメタリックな緑の車体色。
ヨーロッパを走る高原列車をモチーフとしていた
「真凛….感動して、ウルウルしてる」
「圭ちゃんすごいね!」
「こんな可愛いのよく知ってたね!」
「にわかだけど…少しだけ鉄オタなんだ。」
「へぇ〜」
「やっぱり圭ちゃんってすごいな!」
「圭ちゃんを好きになって…」
「これからも…好きでいていい?」
刻々と時間が刻まれ…焦りが出てくる
「約束したろ?」
「おれ達はずっと一緒だし、
  真凛はおれを。おれは真凛を。
    ずっとずっと好きでいるんだよ!」
「う、うん。ごめんね」

車窓からは大自然を一望できた。
「すごいな!九州って。日本ってすごいな!」
周りは海で囲まれ、
川や湖。山々の大自然を目の前にすると、
いかに自分の悩みがちっぽけなものだと
痛感させられる。

香織の最後の言葉…
あの言葉は…きっと、おれへの励まし。
香織なりの優しさだったのかな…
そう思える自分に驚いていた。

列車が博多駅に到着したのが、
18時10分。3時間を切っている…
「ちょっと予定変更するよ?」
「どうしたの?」
「ちょっと…時間が」
「うん!真凛は圭ちゃんに付いていく!」

18時18分発の " のぞみ60号 " で小倉へ。
小倉から在来線を乗り継ぎ、
下関駅に到着したのが、18時59分だった。
" ヤバいぞ…時間がない "
" まだ、あれも手配の手段が… "

「圭ちゃん?」
「ごめん!さぁ!フグを食べに行こ!」
「やったー!!」
「フグって…美味しいの?」
「ははっ、あの魚は美味すぎて化け物だよ!」

小倉駅からの車内で、
フグ料理店の予約を済ませていた。
" 大手は駄目だ…それでいて個人店も… "

下関駅から徒歩3分ほどで、
その店はあった。
「さぁ!真凛!好きだけ食べな?」
「えぇー!!」
「でも、よく分からないよ…」
「そうだな…」
「このスペシャルコースいくか!」
「いいの?」
「でも、めっちゃ高いよ…」
「いいんだよ…お金は」

前菜に、ふくさし大皿、ふく唐揚、白子焼、
ふくちり、雑炊、香の物、季節のフルーツ
1人3万円のコース料理。

「うわー!!」
「このお刺身めっちゃ美味しい!」
「この白いのは?」
「白子!フグの精巣だよ!」
「めっちゃぷるんぷるんでクリーミー!」
「圭ちゃん!めっちゃ美味しいよー!」
「ははっ、美味しいよな!」

「ちょっとトイレ!」
「うん!」

急がないと時間がない…
もうすぐ20時になってしまう。
さっきの、料理を配膳してくれた…
居た!あの女性だ!

「あの?すみません…」
「はい?どうなさいましたか?」
「一つ…お願いがありまして」

「真凛!お待たせ!」
「もう行くの?」
「もう、20時10分だから…
     砂浜へ向かわないと!」
お会計を済ませ店を後にする。
「あっ!ヤバ!忘れ物しちゃった!
  真凛、ちょっと待っててくれるか?」
急いで、店内の裏側へ回り…
ある物を手に取る。

「あの…すみません。ほんの僅かでいいんです!
  絶対にしてはならないと。
    分かった上でお願いしています!
ほんの少量を…お姉さんには一切、
  一切のご迷惑はかけませんので!
少ないですが、3帯び入ってます。
  お店の裏手に置いて下さい。
後程、取りに伺います。
  お願いします。何卒…お願いします」

"  ありがとう。感謝します "

「真凛!さぁ、行こうか!」
タクシーを捕まえる…
「西山海水浴場まで」
リミットの21時まで…30分ほど。
「圭ちゃん?」
「どうしたの?何か様子が変だよ?」
落ち着け…
落ち着け…
「あぁ、ごめん。何でもないよ」
海水浴場に着き、
裸足になって砂浜を歩み進める。
今のおれに怖いものなどなかった。

「圭ちゃん!」
「あのね、実はね…」
「真凛…」
「ありがとな」
「えっ?」
「ごめん。最初は気づかなかった」
「口の悪い生意気な女…」
「少しずつ」
「あれ?あれ?って…」
「色々な、様々な事が合致していって」
「真凛がこの地をコンパスで刺したのも、
       偶然ではなかったんだと。」
「えっ?見てなかったよ?」
「ほんとにたまたまだよ?」
「うん。」
「それは分かっている」
「圭ちゃん!あのね」
「真凛…戻らなくちゃ」
「あのね、圭ちゃん….」
「渚沙…」
「えっ?」
「真凛!君の名は、渚沙っていうんだ」
「な・ぎ・さ ?」

・ー・ ー・ー・・・・な ぎ さ ー・ー・ー

「真凛…」
「おれの事」
「見つけてくれて」
「ありがとな」

「圭ちゃん!今何時!!」
時計は20時54分を表示している。
「20時54分…55分になったよ」
「後5分しかない」
「圭ちゃん!」
「えーっと、えっと…」
「色々言いたくて頭の中とっちらかって!」
「真凛…」
真凛と唇を重ね合う…
「圭ちゃん…」
「落ち着いて?」
「えっ、うん。」
「でも!」
「もう!時間がない!」
「21時ちょうどに…」
「海に…海に入らないと」

「居なくなるんだろ?」

「えっ?」
「なんで…」
「それを」

「そして、ちょうどに海に入らないと」

「おれも死ぬんだろ?」

「圭ちゃん…」
真凛の涙が頬を濡らしていく

「圭ちゃんは死んじゃ駄目…」
「圭ちゃんは死んだら駄目なんだから!!」
「圭ちゃんは…」
「圭ちゃんは!」
「私の大好きだった人…」
「今も」
「これからも」
「ずっとずっと!大好きなんだから!!」
「圭ちゃん…」
「圭ちゃんと放れたくないよ…」

「でも、約束したの」
「72時間限定で」

「圭ちゃん…大好きだよ」
「大好きだから」
「圭ちゃんは死んだら」
「駄目」
「何時!今!何分になった!」

「20時58分40秒」

「真凛?」

小さなビニール袋から取り出し…
口へ入れ水で流し込んだ。
「圭ちゃん」
「それ」
「何を飲んだの」

「テトロドトキシン」
「フグ毒だよ」

「おれも間もなく」
「死ぬよ」

「なんで!!」
「なんでそんなバカな事すんのよ!!」
「なんで!」
「なんで…」

「言ったろ?」
「おれと真凛はずっと一緒だって」

「今も」
「これからも」
「ずっとずっと」
「一緒だって」

「今度こそ」
「ずっと一緒だからな」
「もう」
「絶対に」
「一人にはさせない」

「さみしくないよな?」

「おれと」

「一緒なら」

「そうだろ」

「渚沙…」

21時ちょうどに、
真凛は自ら…海の中へ消えていってしまった。
おれを死なせる訳にはいかないと
真凛の姿は…
もう、そこにはなかった。

「今すぐ行くからな」

砂浜を一歩一歩…
沖を目指し歩いていく。
身体中に痺れを感じていく…
「真凛…ありがとな」
「向こうで渚沙に戻って…」
「また一緒に」

「一緒にいような」

「な?」

波が打ち寄せる…
そして引き戻され…
また打ち寄せる。

「ずっとずっと」
「好きでいて」
「かまわないか?」

「もしも今すぐ会えなくても」
「いつか必ず会えると」
「おれは信じてる」

「おれは信じてるから」

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