【短編小説】吉日
飲み干せるのかと思うほどサイズの大きいカップコーラを傍らに、ソースをびしゃびしゃにかけたパストラミサンドを頬張る女。
指もテーブルも汚れるにまかせ、心ここに在らずといった風体で一心不乱に貪りついている。
その向かいの席に座っている老いた男が、見慣れたもんさといった態度でコーヒーを飲んでいる。
「なんぞいいことでもあったんかい?」
あるかなしかの微笑でもって男がそう聞くが、女はリスのように両頬に食べ物が詰まっている、汚れた手のひらで「ちょっと待って」とジェスチャーした。
「やれやれ」と紙ナプキンを女の近くに無造作に置き、ゆっくり食べなと手のひらでジェスチャーを返した。
やがて女のコーラの飲む音がズゾゾっと鳴り、食事が終わったことを告げた。自由になった口で言う。
「じいちゃん、私クロックムッシュも食べたいの」
男にはそのメニューがなんなのかわからなかったが、孫が食べたいと言えばなんにせよ食わせてやるつもりで今日も来ているのである。いくらするかも知らない、「まだ食うのかい」と言いつつ財布ごと渡して買っておいでと促した。
孫は「わぁ」と言うとナプキンで口と手を綺麗にしてから注文カウンターに向かった。
孫は、報告したい成果や身の回りでいいことがあると「じいちゃん、ご飯に行こう」と誘うのが常だった。模試の結果がどうだったとか、部活で大会出場が決まったとか。要するに褒められたいのだ。
そうだろうなとわかっているが、誘う時の口調で上機嫌を漏らす孫が、男はかわいくて仕方がないのだ。会えば孫の目論み通り褒めてやった。
男にとっては、孫と会うのにいかなる理由も必要なかった。別に話すことがなくても誘ってくれよと思っている。ご飯をたかられるだけだって男は満たされるのだ。
孫は例のクロックムッシュと少し小さいコーラ、そしてチーズケーキを両手に帰ってきた。
「食べ終わるまで待って!」
男は両手をあげて参りましたとジェスチャーした。
