第三回 あたらよ文学賞 二次選考結果発表
【二次選考通過作品について】
あたらよ文学賞選考委員会による厳正な選考の結果、一次選考通過作品44作品のうち、下記13作品を二次選考通過としました。(到着順・名前はペンネーム、敬称略)
この後、最終選考を行い、受賞作品を決定致します。
※選考過程に関する問い合わせには一切応じられませんのでご承知ください。
雷電爲右エ門vsフランケンシュタインの怪物 / 梧桐彰
ゾウは嘘つき / ちくわノート
天蓋の封 / 蛯原テトラ
真菜ちゃんはかわいそうでかわいい / 曾根崎十三
あの日燦然と悔を / 森山満穂
ダブルフェイス・ベトナム / 戸成 一翔
犬は吠えているか / 小山征二郎
ある家のタカラ / 木田あゆみ
夜を咲く花 / 橋爪志保
白蛇 / 聖
インディペンデンスデイ / 三ツ星みーこ
秘密主義者たち / 鰐子
求嘘 / 青のキカ
◇
【二次選考通過作品・追加講評】
雷電爲右エ門vsフランケンシュタインの怪物 / 梧桐彰
元力士で巨体の雷電が、国後島で「化物」と呼ばれている人造人間に出会い、力と根気の強さで相手を「人間」へ変えていく物語。
言葉のチョイス一つ一つが本作の世界観を構築していく、文章の美しさを強く感じる作風に惹きつけられた。その中で、強さゆえの孤独や孤立した状況から心を歪ませてしまった「化物」の、「幸せになりたい」という生々しい苦悩と抵抗が痛いほど伝わってくる。また、環境が整えば人は変わっていけるという救いの形も自然で無理がなく、好感が持てる。
相撲が分からないと序盤が少し読みづらいので、個人的にはさりげなく違和感のない程度に専門用語の説明が入っているとありがたいなと感じた。
設定と題材が図抜けて面白い。なぜ雷電とフランケンシュタインの怪物が国後島で遭遇? と一瞬思うものの、その設定の奇抜さに温かみのある展開と人物造形の分厚さが見事に縒り合わさり、滋味深い格別のエンタメ作品となっている。
今回のテーマである「嘘」がやや弱く感じられる点が多少気になるものの、総合的な完成度が極めて高く、非凡な一作。
ゾウは嘘つき / ちくわノート
嘘つきは鼻が伸びる。有名どころだとピノキオでしょうか。それを現代社会に落とし込んで、それを物理的に知覚出来てしまう主人公。伸びる鼻に囚われて、それを愛でることだけが行動の主因になってしまっています。
よくも悪くも欲望に忠実で、端から見ると狂気的(共有できる相手がいないから)。生きづらいだろう現実に対しても大して興味を感じていない辺り、これからも閉じた世界で生きていくのだろうなと考えると、何故だかとても哀れに思えました。
多少強引だが、主人公の人物造形と合致しているのでそこも含めて大変面白く読んだ。するすると流れるように読める。舞台にしても面白いと感じた。
前半の登場人物が若干多いように感じたが、主人公の性癖描写と展開がうまく重なり、欠点とまではならない。タイトルは再考してもいいのでは。
天蓋の封 / 蛯原テトラ
虚無僧がある村で不思議な女に出会うのだが……
僧が女から西瓜を貰うシーンが奇妙で艶があり、大変よい。様々な騙しのある展開は楽しめ、高評価をつけたが、さらに磨ける余地があるようにも思った。
すさまじい人間のカルマ。読んでいて圧倒されました。
次に何が起こるかわからなくて、夢中で次の行へと目を移しました。女から漂う淫靡な香りを私も感じたように思います。描写の濃度だけでも十分素晴らしい作品でしたが、展開にも目をみはるものがありました。あまりにも強烈、あまりにも凄惨。
真菜ちゃんはかわいそうでかわいい / 曾根崎十三
最初は依存しあう友人関係かと思って読んでいたら母子だったとは。驚きつつも、確かにこういう関係もあり得るなと納得してしまいました。
毒親と、知らず影響を受けていた娘。葛藤はありつつも、変える術も必要性も持ち合わせていないから変わらない。果たして「かわいそう」なのはどちらなのか……
残酷とは思いますが、これはこれとして成立してしまっている関係性。そして今後も変わることのない閉じた世界なのだろうと確信させられてしまいました。
冒頭から圧倒されてしまった。圧倒されたまま、気付けば読み終わっていた。
女子二人の相当病んだ歪な共生関係の話だな、などと思っていたら、中盤から病み度が格段に上がって思わず変な声が出た。終盤で真菜ちゃんを「毒親」と認識してから語りが一人称に変わり、それまでずっと三人称視点だと思っていたものが実は最初から一人称視点だったことに気付いた。
その上で、あのラスト。出口のない地獄を、そうと知りながら自ら選んでしまう闇。凄まじい作品だった。
あの日燦然と悔を / 森山満穂
仮病を使って会社を休む同僚に苛立ちが募り、だんだんと感情がエスカレートしていく描写が読者の感情をコントロールさせてくれます。
同僚の姿が最初と最後で逆転していく演出力も良かったと思います。文字数の割に冗長ではなく、よくまとまっていました。読み終えた直後、自分の中にあるどす黒い感情が主人公の心情と重なり、悔いとなって胸に溜まっていました。
どこまでも完璧な同僚のとある「嘘」を知った主人公が、その嘘の真実を知るまでの物語。心理描写が巧みで、宝石の比喩もとても印象的だった。彼女の嘘が最後まで嘘であったことが、この作品の強度を高めているように感じた。
ダブルフェイス・ベトナム / 戸成 一翔
タイトルが効いている。ダブルフェイスという切り口で、さまざまなモチーフを貫いているところがよかった。文章がうまい。
敢えて欠点をあげるとすれば、回顧録の形をとるか、進行形をとるかはっきりしないところがあったので、読者が迷子になるおそれがある点か。構成に多少の工夫があればさらに良くなっただろう。
ベトナム戦争下のスパイの半生。重めでソリッドな文体が、忍苦に屈しない正義感を持つ主人公の気性や、緊張を強いられる過酷な状況に、高い迫真性を持たせている。
厳しい訓練により獲得した冷徹さが、潜入先のハノイの人々との触れ合いで変化していくさまや、戦時で荒んだ主人公一家の心の変容の描写が秀でている。
また、この作品は「スパイ」をはじめとする複数の嘘が響き合う構造になっており、今回のテーマに沿っていると感じる。
犬は吠えているか / 小山征二郎
自分自身も理解できない運命の流れによって、祀り上げられてしまった人物の悲劇。それをどうにかしようと足掻きつつも、何だか上手いこといってしまっているので徐々に絡めとられてしまっている『巨匠』。
女優の卵が、巨匠目線だと極めて下らない現実によってどんな開眼を見せるのか。そして巨匠は何というしょうもない方法で誤魔化そうとしたのか。
とはいえ、笑ってしまった以上は私の負けです。面白かった!
いや、野波剛毅は間違いなく巨匠ですよ。彼はこの演技の世界で立派に演技を貫き通しているのです。真衣のパートではちょっといけ好かない感じのところのあるおじさんでしたが、野波剛毅パートは終始笑ってしまいました。
コメディのセンスがあります。詩的な表現の使い方もタイミングがいいです。
ある家のタカラ / 木田あゆみ
ある一家について描かれたヒューマンドラマ。ただし、主人公は猫!
両親の再婚、異母姉妹、進路の悩み……四人家族が抱え込んでいる悩みを、猫のタカラにそれぞれ打ち明けていくシーンに、大切な人を思う温もりがこもっていて、愛情深さが胸を打った。読後感が大変よくて、「嘘」というテーマと物語の絡め方も素晴らしかった。
猫視点で綴られた、とある家族の日常物語。一貫して主人公の猫が猫独自の視点で観察し、仲を取り持つ様子にユーモアを感じ、面白かったです。
起こることと言えばどこの家族にもありそうですが、娘の進路の悩みから家族全員に波及していき、それぞれの感情がクローズアップされていく流れがスムーズで、プロットの精度を感じました。末っ子の嘘もかわいらしく、ほっこりとした物語に仕上げているのがお見事です。
夜を咲く花 / 橋爪志保
映画というフィクション(嘘)をきっかけに出会った二人が、同じく嘘によって別れる話。主人公がついた嘘が連鎖的に嘘を呼び、最終的にはともに過ごした時間や気持ちさえも嘘に変質してしまうという展開がなんとも切ない。月下美人の象徴的な描き方もよかった。
大学のサークルの空気感と、大学生である主人公とその友人のキャラクター造形にリアリティがあり、物語に入っていきやすかったです。
主人公の心情が手に取るように伝わり、同性の友人に惹かれていく過程も、それがある一夜の出来事をきっかけに崩れていく虚しさも、感じられて苦しくなるほどでした。自分たちが映画という最大限の「嘘」をつくっていることも、関連づけて語っており、そこがお見事だと思いました。
白蛇 / 聖
白蛇とともに生きる先の短い映像作家の女性が死ぬまでの、死へと向かっていく静かな「作品」づくりを描いた物語。
死を受け入れそれすら映像作品として残そうとする彼女と、彼女に惚れ込んでいるゆえにその死に抗いたい助手で主人公の真白の、切なさと優しさと歯がゆさの入り混じる時間が妖艶で美しい。また後半では、人間味を感じさせなかった彼女の、人間らしい弱さや不器用さという一面も明かされる。
彼女の死後に度々現れ真白に噛みついた蛇は、何者だったのか。何を思い、彼に何を伝えたかったのか。あれこれ思いを馳せてしまった。
救いのない物語だな、というのが第一の感想でした。
死に向かう映像作家と、その才能に惚れ込んで押しかけ助手になった男性。映像作家と父との最期のひとときがどうにも許せなくて、彼女の最期の仕事を台無しにする。
果たして蛇に噛まれたのは報いなのか、そうではないのか。誰もが結局救われることのないラストは、どうしようもなく現実そのもので、何だかわけもなく悲しくなってしまいました。
インディペンデンスデイ / 三ツ星みーこ
たまにあるんだよな、こういう最初の数行で「あ、これおもしろいやつだ」とわかる作品。抜群のセンスです。
五十嵐も古賀も脳内で実写映画になりそうなくらいはっきりと人間像が浮かびます。プロの犯行じゃないか? 二人にはずっと名コンビのままアメリカで適当に暮らしていてほしくなりました。
ルート66にマスタング。いい大人の逃避旅行だが、流れるような筆致にドライビング感が宿っていて読み心地がよい。
こういう嘘をついてばっかりの友だち、私にもいたなあ。アメリカの地へ逃げても、やはりついてくる場違い感。歳を重ねて社会に呑み込まれそうになっても、どこか失われない青春、手放したくない青春。懐かしくなり、胸が苦しくなった。
気の置けないふたりのやりとりが小気味よいが、後半で古賀が明かす現状には、もうひとつ説得力が欲しかった。
秘密主義者たち / 鰐子
よかった。ほぼ同じプロットを考えたことがあるが、読者にとって「詩」が鍵になる構成は新鮮だった。
一読では混乱を招くので、二~三度の好意的な読み方が必要。好みの問題だが、もう一声ブラッシュアップさせたい(できるだろう)という私の中の編集魂がむくむくと湧き起こるほどには魅力的な作品だった。
祖母の介護……と見せかけて、といった作品。
久留須と松沢という二人の少女の主観がそれぞれ入れ替わっていたことに、途中まで気づきませんでした。途中で違和感をおぼえ、読み直してやっと理解できたところです。
老いて自分を見失った他人(祖母)に依存する久留須と、徘徊する祖母を施設へと送り、老いに対して自分なりの結論を見出した松沢。そしてその二人を繋ぐ詩。素晴らしい作品だったと思います。
求嘘 / 青のキカ
人を喜ばせるために嘘をついてしまう癖のある女性とお笑いコンビの話。
優しさからつい言ってしまう「嘘」の気まずさがよく表現されていて、読み続けるのがつらいほどだったが先が気になり読まされた。「嘘」のテーマに非常にまっすぐに挑んでいると感じ、好感を持った。
ひとつの小さな嘘から始まった関係が、やがて大きな崩壊を招く話。
ストーリーがある程度は予想通り進みながらも、予想以上の展開や伏線回収もあり、最後まで没入することができた。最初は独特だと感じたタイトルだが、最後まで読み終えると、違った見え方をするところも非常に美しい。
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最終選考の結果発表は10月中を予定しております。
なお、最終選考の詳しい模様につきましては、『文芸ムックあたらよ・第三号』に掲載予定です。ぜひ、本誌にてご確認ください。
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【一次選考通過作品について】
二次選考通過はならなかったものの、「一次選考通過作品」全作品の追加講評を以下に掲載致します。
Nの追跡 〜井頭ともこの日記〜 / 風丘春稀
水槽の夢 / 佐藤相平
レシピは嘘をつきかねて / ながやまれいこ
あの日のポッピングシャワー / なわしろスピノ
君の嘘に、恋をしたい / 坪井聖
ここから先は、 / 夜市川鞠
カラーズ / 丹路槇
槇原弥助の告白 / 白木楽
真実 / 水瀬文祐
春花爛漫譚 / 守崎京馬
地図のない国 / 我妻許史
幸せな―40 / 夏凪空
二面性彼氏 / けろこ
実践哲学のマルジナリア カントは年下おじさんにどう対処したか / 簓木周
トビウオクロニクル / 瀬川雨読
鵺の可食部 / 葉月氷菓
コイスルジルコニア / 鳥辺野九
首吊り男のカーニバル / 飯田太朗
母の残り火 / 夏原秋
迫りあがって、極彩 / 新田よう
清算 / 倉海葉音
月にうそぶく / 今福シノ
ノンフィクション / 床井瑞己
未完論稿、あるいは、B県J谷村に於ける明治初年の切支丹に就て / 瀬早トキモツ
センチメンタル・ジャーニー / 北原岳
残花 / 星空
XりXり / 自由一花
嘘を飛び越え踊るから / 奥津雨龍
泥沼 / まか
贋作 / 明日葉啓
そらごと / Celery
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【一次選考通過作品・追加講評】
Nの追跡 〜井頭ともこの日記〜 / 風丘春稀
モキュメンタリーのフォーマットを押さえている。
設定はよく考えられているが、明かされない部分は多く、「失踪した」とされるともこちゃんの残した「十行+1」の真相も推察は可能だが、社会派テーマでもあるので、もう少しサスペンスに寄せた方がより面白くなったかもしれない。
長編の社会派ミステリーとすることも可能なので、設定を捨てずに一般文芸として再考してみては。
とても質の高いモキュメンタリーでした。読んでいて背中がざわざわしました。
唐突に見える情報も後から読み返すとひとつひとつがつながっていて、よくぞ練り上げられました。また、ホラーならこういう「結局何だったんだ!」というオチも人気があります。私もわかりそうでわからない感じが好きです。
水槽の夢 / 佐藤相平
中学校の合宿に水槽を持参しそこで眠る同級生との話。
短い話だが独特の雰囲気があり、情景が鮮明で読まされる。
衣里子が語った過去と、主人公の語る過去には齟齬があり、どちらが嘘とも真実とも解釈できる不思議な読み心地だった。
衣里子の「川魚を殺した記憶」には主人公がいない。主人公が衣里子の水槽に入る行為は、その記憶に入り込んでいくような行為にも思えて、印象的だった。
過去の傷と現在の息苦しさを共有することで「呪い」を分かち合う、この二人だけの関係性が描かれていた。
レシピは嘘をつきかねて / ながやまれいこ
自身について日々いくつもの嘘をつきながら生活する主人公。そんな主人公が吐かれていたのは他者を思う優しさが込められた嘘だった。
軽快な読み口で読みやすく、最後まで楽しく読むことができた。主人公の周りには嘘がいくつもあったけれど、きっと主人公とパートナーの間には嘘は存在しないのだろうと思うと微笑ましく感じた。
英会話カフェの講師の男が、罪悪感を抱きつつ、生徒に対して嘘をつき続ける話。
比喩表現などは少なめだが、必要最低限の情報が丁寧に並べられているため、非常に読みやすい。ストーリー、文章共に、優しさにあふれた作品だった。
あの日のポッピングシャワー / なわしろスピノ
母親の死をきっかけに、嘘だらけの世界に気づいて喋らなくなった女の子みうちゃんと、生まれつき右手の指がない、ピアノを弾きたい男の子こうきくんの、残酷さと優しさの入り混じる物語。
性格の違う幼い二人が、互いに欠けた部分があることを知って心を動かされ、周囲に支えられながら世間に立ち向かい成長していく様子に心を打たれた。先生の嘘にも冷静さを欠かず、みゆちゃんを誘う際にも「こういうのは僕が先に誘わないとね」と大人びた対応をするこうきくんの人間性に、彼を穏やかに導く父親という裏打ちがしっかりとあり、人との繋がりという静かな強さが雨ともマッチしているように思えた。
終盤の激しい雨だけ心情との結びつきを感じず、それまでの流れもあって少しあれ?とひっかかりを感じてしまい、そこだけが残念。
六歳のそれぞれ事情を抱えた女の子と男の子が出会う話。
なかなかシビアな設定だがやさしさがあり、何よりピアノの連弾のシーンが素晴らしい。子供の体験する非常に色鮮やかな特別な経験が表現されており、多くの人に読んでほしい。
君の嘘に、恋をしたい / 坪井聖
正統派の余命もの。嘘というテーマを真正面から捉えているのが良いと思った。
余命宣告された彼女とその彼氏、二人の視点が交互に綴られており、両者の心理の動きが違和感なくラストまで読み通せた。二人で過ごした最後の日々の情景描写が丁寧で、自然と共感できる文章が好印象。
清々しい切なさの残る、ほのかな明るい兆しの読後感も良かった。
くっそー、シンプルな余命ものなのに号泣してしまった。
王道の設定、王道の展開をはずさずにここまでちゃんと書いてくださってありがとうございます。奇をてらわないところが好きです。二人の心情が丁寧に書かれていて、共感しやすかったです。
この先幸せになってくれと祈らずにいられない一作。
ここから先は、 / 夜市川鞠
信号無視をした車に轢かれ死んだ主人公は、あの世で不動明王に「貴女には、殺生の罪があります」と告げられる。
自分の想定より重い罪を与えられることとなった主人公。描かれる地獄があまりにリアルで、まるで目の前に本当の地獄があるかのように、そしてそれを自身が体験しているかのように恐怖してしまった。
ラスト、再び主人公を出迎えるのは「じごく」。新しい生を、今度こそ彼女らしく生きられることを期待したい。
不慮の事故で亡くなった主人公が、その後に堕とされた地獄にて、身に覚えのない「人殺しの罪」と向き合っていくお話。
主人公が裁かれていく過程や、地獄で受ける責め苦の数々は、淡々とした筆致であるがゆえに迫力があり、読み応えがあった。
カラーズ / 丹路槇
数字や文字に色がついて見える主人公の視点で描かれている作品。
色の描写が鮮やかで、実際に彼の見えている世界を体感しているような感覚になる。差別や迫害に遭いながらも、強く生きようとする姿が印象的だった。淡々とした文体が、人間の残酷さを際立たせていたように思う。
いわゆる共感覚もの。共感覚に近い能力を持つ「カラーズ」と、持たざる「クリア」に分かたれたオリジナルの世界観が精細に作りこまれており、作中で起きている社会問題や人々の閉塞した感情が、手触りを感じるほどリアル。
魅力的な謎がちりばめられており、クリア側の事情についても知りたくなった。長編でも読んでみたい印象。
槇原弥助の告白 / 白木楽
冒頭から惹き込まれる筆致で、どこか仄暗い情景に浸ることのできる作品。
庭師の息子と屋敷の息子、身分差のある二人の少年の間に芽生える友情からしか得られないエモがある。村で起きた恐ろしい事件、不気味な大蜘蛛の存在と、屋敷の息子の関係性、そして家同士の繋がりの秘密。全てがかちりと嵌る結末が見事。
主人公が一生背負うことになった罪の重さを感じさせる余韻が良かった。
時代物の空気感と少年漫画的な展開がうまく融合していました。また、桜や美しい少年についての描写も素敵で、場面が頭の中に浮かんできました。
ただ、展開にもう少し緩急があったほうがよさそうな気がします。詳しく描写するシーンとテンポよく展開を進めるシーンの書き分けを意識するといいかも。
真実 / 水瀬文祐
体の8割を失い人造の組織に置き換わっていたとしても真美は人間であった、という部分にテーマを置き、それを支えるようなモチーフやエピソードを深堀するともっと良くなる。
後半はあっさりでよいので、前半・真美とのエピソードを増やし、多くの諦念がある中で先へ進んでいこうとする主人公の姿に説得力を持たせることができるとなお良い。「あなたの声は風鈴のよう」というような部分のやり取りに厚みを持たせてみては。独白調の文体が説明的で、設定に引きずられた感がある。もっと魅力的なタイトルも見つかるはず。
近未来的な世界観の中で、ひとりの女性をめぐって青年がその存在に区切りをつけるまでが描かれていて、切なくもあたたかな読後感が好印象でした。
国家としての機能が滅ぶ直前であるのに、一個人の日常は静かで、一対一の人間関係にひたすら囚われているというのがどこかリアルでした。八割がた人工物でできている少女の名前が「真実」というのも、皮肉が効いていて良かったです。
春花爛漫譚 / 守崎京馬
『極楽』と呼ばれる花園の起源となる儚い悲哀の物語。
舞台が大正だからか全編を通して時代背景に合った口語体のような、文章を読むというより音を読むというような文体で語られ、その威力に圧倒されました。少年と地主の妻を取り巻く環境があまりにも厳しく、絶望へ突き落とされる過程が丁寧に綴られており、文学的な作品だと思いました。
選び抜かれた言葉と洗練された言い回しで、流れるように綴られる文章。情緒を揺さぶる風景が目に浮かぶようだった。古風な文体だが、リーダビリティの高さが素晴らしい。
文子と藤次郎、二人の間で結ばれた約束が悲劇を招き、しかし藤次郎が最後に吐いた嘘によってこれ以上ない純愛のメリーバッドエンドに繋がっていく流れがお見事。文子の死の直後に藤次郎の取った行動と心情描写が凄絶で、想いの強さが心を抉った。
地図のない国 / 我妻許史
なくなった地面を舗装するため、アスファルトを嘘で固めるという内容が当然のことのように描写されていて、かつ、その支離滅裂さを読者に受け入れさせてしまう不思議な力がある。
完全には意味を把握できないのに、感覚としては理解できるようなギリギリのライン上にある文章たちが癖になる。絶妙なバランス感覚が、作品を成り立たせていたと感じた。
地面の消失から始まる不条理小説。シンプルでフラットな文章が読みやすく、独創的な世界設定が印象的だった。
心の状態を地面に結びつけ、嘘=フィクションを「立つための装置」として描いた点が面白い。彼らがフーディーニのようにあの世界から脱出する日は来るのだろうか。
幸せな―40 / 夏凪空
信念による嘘をテーマにした作品。
「どうしてもつかなければならない嘘」をもうひとつ深堀りできればもっと良かった。家庭を持ち、父と同じ嘘をつくことになる主人公だが、父も主人公も、子を十二分に愛していると感じられるため、「子に対する嘘」の葛藤・説得力が足されればなお良い。
「幸せ」という言葉のチョイスは安直かもしれないが、メッセージ性を感じた。
冒頭で明かされる、嘘をつくたびに寿命が削られるという呪われたような設定もそうですが、後半でもうひとつ明らかになる切なすぎる真実。なんでこの家系ばかりそんな過酷な運命を背負わされなきゃならないんですか…!?
しかしこの家族はそんな自分たちの運命を恨むでもなく受け入れ、残された時間を自分の信念に忠実に生きていく。その真摯で健気な姿には心打たれ、思わず涙しました。「本当の正直というのは、自分の信念を貫くこと」深い言葉だと思いました。
二面性彼氏 / けろこ
たいへん可愛らしいお話でした! とてもイマドキで、ストーリーはシンプルですが、細かなところに気を配られていて好感が持てます。
最後収まるべきところに収まってどんでん返しにしなかったところも私にとっては好印象です。たくさんデートしてください、何事も実践練習ですよ!
可愛い格好をして女の子になりきる主人公。女装をしているからといって男の人が好きなわけではない。彼女のことだってちゃんと好き。でも女装をすることもやめられない。それが自分じゃない何かになりたいという思春期ならではの気持ちのように思えた。
誰にでもきっとある自分自身への不安や自信のなさと葛藤する気持ちが伝わってくる素敵な作品でした。
実践哲学のマルジナリア カントは年下おじさんにどう対処したか / 簓木周
自身で決めたルーティンと思想に忠実であろうとし、それを守りながら生きている男性カントと、そこに現れ彼に異を唱える元教え子のヘルダーの戦い。ドイツの街並みやカントを取り巻く状況の具体的な描写が、情緒ある光景を浮かび上がらせると同時に、カントの気難しさを物語っているように見えた。
最後の「今年何度目になるかわからない」が、作中の逸脱のことを言っているのか、それとも実はほとんどルーティン通りになんていっていないというオチなのかをもう少し明確にしてもらえると、よりこの物語の主軸が明確になってより読了の満足感を得られるのではと感じた。日本語の中に時折挟まるドイツ語がやや浮いて見えるのが気になる。
カントとヘルダーという、実在した哲学者のやり取りがユーモアにあふれた筆致で描かれている。
タイトルもキャッチーなうえに、双方の考え方を押さえつつも、難解な哲学の話はほんの一部となっており、読みやすさが優先されているように感じた。教養を学ぶための入り口にもなるような作品となっている。
トビウオクロニクル / 瀬川雨読
三幕構成の、トビウオにまつわる嘘の話。
情景が浮かびやすい平明な描写と、人生の含蓄を感じるストーリーは、おしゃれでどこかけだるさのある邦画を観ているような余韻を残す。日常から非日常への移行も、日常への回帰も、流れが自然につながっている。その作品全体に漂う穏やかさや余裕が、日々を少しハッピーにするささやかなこの「嘘」と嚙み合っていて、優しい読後感に包まれる。
バンドマンの男、コンビニバイトの女、新聞部の男子高校生。視点を変えながら、とある突拍子もない嘘が伝染していき、運命が変わっていく様子が描かれている。
本人たちの知らないところで影響を与え合っているという構図が面白い。物語の終わらせ方も秀逸で、兄の曲を聴いた彼がどんな反応をするかを想像して楽しむことができた。
鵺の可食部 / 葉月氷菓
冒頭から途中まで語り手の少女の性格に違和感がありましたが、彼女の抱えるものがはっきりわかるとその行動に納得できました。
主人公が魅入られた鬼の少女の過去や背景が曖昧で想像に頼るほかないのですが、もう少し描写してほしかったと思います。全体的にはよくまとまっており、少女二人の情景描写が良かったです。
鬼が転校生としてやってくる。美しくて優しい鬼に夢中になる主人公。圧倒的な存在に憧れ、その子の特別な存在になりたいと願う少女の心理がひしひしと伝わってくる。
友だちのことが好きすぎて依存のような関係になってしまうことがあるけれど、主人公はまさしくそうだったのだと思う。欠けたものがあるからこそ、埋まるものもある。ラストのワルツを奏でるシーンが、主人公の心の成長を表しているようでとても好きだった。
コイスルジルコニア / 鳥辺野九
AIの結婚が認められた世界での恋物語。
人気絶頂のヴァーチャルアイドルにAIがプロポーズするという面白味がある。紺瑠璃カチッというネーミングセンス、文体や雰囲気にも独特のいい味があるが、世界に入るまでにやや手間取る部分もあった。
エモい…!エモいSFでした。
バーチャルリアリティの解像度が半端なく、自分もその空間に入り込んでいるかのような没入感が味わえました。ただ、AI同士の婚姻という前例のなく人間には受け入れられるかどうか未知数の事象に直面していながら、あまり恋の障壁らしいものが伝わってこず、それを乗り越えるカタルシスが少し弱かったかもしれません。
出来事と結果の羅列のように読めてしまったのが惜しいところです。
首吊り男のカーニバル / 飯田太朗
凝ったどんでん返しです。最後の展開にドキッとしました。それまで少しのんびりしたファンタジーだったので、そんなオチが来るのかと……。
ただ設定が少し複雑すぎて描写が難しかったのかなという印象も受けました。15000字ぎりぎりまで書きつつ、もっと情報を取捨選択したほうがいいかもと思います。
私設図書館に集められた本たちと、屋主の話。いい、すごくいい。
アイデアの発端には、既存作品のいくつかに類似したものがないことはないが、おそらく長い時間をかけてこのテーマについて熟考されたであろうと思う。右ストレートだった。筆者の「書きたいこと」と、「嘘」というテーマが出会うことによって生まれた素晴らしい一篇。
気になるところがないわけではないが、プロの校正者の手が入れば修正可能な範囲であり、欠点とはならない。星新一を思わせた。タイトルも良い。推したい。
母の残り火 / 夏原秋
大人にとって触れられたくないものに触れようとした際に、母から何度も「爆発する」と言われ続けて育った主人公のお話。
なぜ、母は嘘をついたのか。その謎が繙かれていく過程がしっかりと描かれていて、嘘に込められた思いが判明したとき、切なくも鮮やかな爽快感を覚えた。人々の思いを推理できる描き方も素敵だった。
母から「火を使ったら爆発する」と言われて育った主人公とその家族の物語。
母の奇行にうんざりする主人公に共感するも、母の死から物語の色が一変し、複雑な余韻を残します。幼い頃から言い聞かせられるものは確かに頭に残り、まるで呪いのようです。本作は短い作品ながら、主人公や家族が過ごしてきた情景がありありと浮かび、読後に良い意味で重たいものを残してくれる。まさしくタイトル通りの良作だと思います。
迫りあがって、極彩 / 新田よう
作家の夢を一度は諦め、一度は別の道を選んだ主人公の田口結衣が、友人の病気と応援をきっかけに再び動き出す物語。
商業作家を目指す多くの作家志望にとって、スタート地点までの道はいつ抜け出せるか分からない泥沼のようなもの。明確な答えのない狭き門を前に、道半ばで筆を折る人も少なくない。そこにはさまざまな思いや事情が絡み合っている。だからこそ、熱心な読者の激励は毒にも薬にもなりうる――というリアルな気持ちや葛藤、苦しみが描かれている。結衣が病室で流した涙の意味を無限に考えてしまうのは、筆者にも「作家なんて無理だ」と諦めていた時期があったからだろうか。
友人ヒガシが椅子を蹴り上げるほど強い気持ちで応援するファンにいたった経緯があると、より共感度と深みが増す気がした。
高校時代に作家を目指していた主人公と、彼女の作品が好きな友人との再会が、優しく温かな筆致で描かれている。
主人公を取り巻く、仕事や家庭といった日常のシーンが非常にリアルで、読みながら感情移入することができた。友人であるヒガシがすごく魅力的なキャラクターだと感じた。
清算 / 倉海葉音
技術者、アナウンサー、医者になった小学校時代の同級生の現在が、改めて交わる話。
それぞれに人間ならではの弱さや愚かさが見えて、そんな中、今度こそは正しくありたいと願う主人公の決断が尊く感じられた。最後まで読み終えると、この短いタイトルに込められた意味がはっきりとわかるところも良い。
どこかの文芸誌に載っていそうな丁寧さと静謐さ。
ちょっと堅めの文体ですが非常に読みやすいです。また、最先端の時事ネタと何者にもならなかった一個人をうまく絡めていて、おもしろかったです。
ただ、最後もうひとひねりあるとさらに心が揺さぶられたかもしれません。
月にうそぶく / 今福シノ
男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしく。男女問わず、周囲から与えられ得る呪いのお話。
お互いの持ち物を交換することで結ばれた秘密の関係、という発想が面白い。嫌いなものを好きだと嘘を吐いたことより、親が買ってくれたものを勝手によその子にあげる行為の方が罪深く感じて、やや気になった。同級生から強請られる彼女を助けに入った時、「好きな彼女」のことを「好きだから」とちゃんと言えたシーンが良かった。
同じ嘘をつき続けてきた二人が秘密を共有する話。
終盤の主人公の決意と最後の一文がとても良かった。彼はこの先も嘘をつき続け、嘘による絆を保ち続けるのだろうか。唯一気になったのは、交換がばれるまで半年もかかった点。文房具だけならともかく、服やスニーカーがなくなれば普通の親はすぐに気づくはず(厳しい両親という設定なら尚更)。
ノンフィクション / 床井瑞己
入れ子式の多重構造そのものに「嘘」というテーマが組み込まれている点が面白い。
自分も自分に嘘をついているのではないかと考えさせられた。ラストの語り手の祈りが印象的。
虚構をリアルに話すのがうますぎます!! どこまでが創作で、どこまでが現実に即したものなのかわからなくなっていく不思議な感覚で読みました。
でも、そういえば物語って、いってしまえばこういう嘘をいかにもっともらしく並べら立てれるかが腕の見せどころですものね。フィクションをつくる者として、その原点に気付かされた気がします。
未完論稿、あるいは、B県J谷村に於ける明治初年の切支丹に就て / 瀬早トキモツ
フィールドワークもの。細部までこだわって明治の世を構築している印象を受ける。
いわゆる因習村へ入り真実を解き明かす形式だが、住民の方言のリズム感が、この村の持つ不穏さや秘密めいた気配をすばらしく高めており、話を追う楽しさが強い。方言や古風な言葉を多用しつつも、難なく読ませてしまう点に技術力を感じる。
ただ、終盤の処理は、作品の余韻と見るか、文字数が足りなかったと見るか、意見が分かれそうに思う。
よく調べられている。人物や地名の固有名称が多く、そのすべてがアルファベットで伏字にされているため多少読みづらさもあるが、方言が効果的に使われておりそれが助けとなっている。
最後に明かされる事実は驚きとはならず、筆者の伝えたいことはもうひとつ伝わってこなかった。モキュメンタリーの形式をとらない方がよかったかもしれない。
センチメンタル・ジャーニー / 北原岳
沖縄を出て東京で暮らすひとりの人間と、その家族や恋人など、周囲の人々を描いた作品。
前向きとも、身勝手ともとれるその自由な生き方に、読みながら色々な感情を抱いた。終盤での、メイの不安や悩みをさらけ出した台詞が心に響いた。
男として生まれ、女として生きる道を選んだ主人公メイ(新垣佐波人)の、苦悩と決意を描いた切ない物語。
結婚して子供がいるという状況がなければ、その決断はもっとスムーズだったのかもしれない。でも、メイは父親でもあった。自分か相手どちらか選ばなければ皆が不幸になると分かっていても、そう簡単に切り捨てられないのが普通だろう。その生々しい、人間らしい弱さに、読んでいて胸が苦しくなった。
最後、新垣佐波人としてではなくメイとして出会っている恋人と別れなければならなかった理由がイマイチ分からない。あとは、離婚届がその後どうなったのかにも触れてほしかった。
残花 / 星空
戦後十年ほどの時代の空気感をよく表す筆致。言葉選びに無駄がなく、ストーリー展開がなめらかで良かった。
腹違いの兄と共に過ごす時間の意味合いが、幼い子供から少女へと成長していく主人公の中でだんだんと形を変える危うさと淫靡さに、最後まで目が離せなかった。兄の秘密が明かされると同時に、彼がどれだけ苦悩していたかが腑に落ちた。この先のことにも想像の膨らむラストだった。
特有の背徳感が漂う、たいへん淫靡な作品です。
主人公の心の揺れ動きが繊細に描写されており、現実で起こったらまずいですが、まあそんなこともあるのだろう、と納得させられます。
ただ、ラストはもっと思い切ってもよかったかな、と思います。余韻を残したかったのでしょうか……。
XりXり / 自由一花
登場人物の言葉に対する感性の鋭敏さ、繊細さが鮮やかに描かれており、しっとりとした百合で非常によかったです。
全体的に放課後の部室の懐かしい香りが漂っているのですが、それだけに終わらず、彼女たちのこれからを想像させる明るいラストが好印象でした。みんなやさしくて、心が洗われるようなお話でした。
かつて同じ文芸部で過ごした少女たちが、再び懐かしい部室を訪れる、ノスタルジックな空気感のある作品。
二人がそれぞれ持ち寄った物語を披露し合うことで、作中作を挟む構成がおしゃれ。あのころ封じ込めた想いにお互い向き合い、通じ合い、これから新たに紡がれる物語へと続いていく。過去から未来へと繋がる、爽やかな展開が良かった。
嘘を飛び越え踊るから / 奥津雨龍
丁寧な筆致に好感が持てる。最後の手紙の一行が(ストレートだが)効果的に使われていた。
いじめと虐待が題材として含まれているとそれだけで構想に新しさを覚えにくいので、いじめ要素を薄める(もしくはなくした)うえで、自己肯定感を持てない理由をもうひとつ学校生活の中にプラスするか、両親とのエピソードを追加するなどして、人物造形に深みと説得力を持たせられたらもっとよかった。
同調圧力は強いけど、自意識や依頼心はもっと強い。そんな学生時代の女子の心理を、洗練された筆致によって圧倒的共感とともに伝えてくる作品。
構成も配慮されており、途中で「私」の見ていた世界が逆転することで、驚きと悲しみを深くしている点が秀逸。過ぎ去った青春の苦さとどうにか折り合いをつけた主人公の今後を、応援したくなる。
泥沼 / まか
憑依型の役者の主人公が魔王と呼ばれる女性と二人芝居をするお話。
演じることを嘘をつくことだというのなら、役者は皆一流の嘘つきなのかもしれない。役と向き合う中で、主人公は自分自身の心に嘘をついていたことに気づく。これから先、彼がどんな役者になるのかどんな人生を歩むのか、続きを見てみたいと思わされた。
憑依型の駆け出し俳優と、魔王と呼ばれるほどの実力を持つ人気女優が、舞台で共演する物語。
与えられた役になりきる情熱が、ひしひしと伝わってきた。自分と役の境目が曖昧になる酩酊感が、こちらにも伝播してくるような、少しひんやりとしたリアリティも印象的。
贋作 / 明日葉啓
亡くなったライバルの絵の贋作を作る主人公の揺れ動く心情が、過去の回想を交えながら描かれた作品。
様々な種類の感情に振り回されながらも、芸術家として絵と向き合う姿が印象的だった。遺された秘密が明らかになるシーンに力が入っていて、主人公の表情や息遣いまで感じ取れるようなリアルさがあった。
かつて好敵手だった画家の遺作の、贋作を依頼される主人公という、珍しい題材が目を引く作品。
大戦後の欧州という舞台の空気を肌で感じる筆致が素晴らしい。贋作を描くことで、思想や価値観や対外評価など、何もかもが正反対だった相手の辿った道をなぞる。ライバルだった主人公だからこそ理解できるメッセージを読み取った時、時代の大波に翻弄されながらも、必死に生きていた彼女の姿が目に浮かぶようだった。報酬の大金を燃やしたラストシーンがとても良かった。
そらごと / Celery
受験勉強中の高校二年生が、自身を取り巻くさまざまな「嘘」に触れていく物語。
「嘘」に動揺したり傷ついたりする心情が、丁寧な筆致で描き出されていた。「車内は静かで、どの座席にも小さな孤独が等間隔に並んでいた」の表現が、特に印象に残っている。
主人公を取り巻く人たちそれぞれとの間にあるズレに、確かなリアリティを感じる作品。
あなたのためと言いながら、小さな嘘をついて受験のプレッシャーをかけてくる母親が特にリアル。父親の浮気はショックだったろうけど、SNSを通じて会ったチャラ男の軽さに嫌悪感を抱いて引き返し、勢いで流されなかった主人公に好感を抱いた。ここから自分自身の足でしっかり歩いていってほしいと思った。
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ぜひ今後とも作品をお寄せください。お待ちしております。
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