短編小説|お風呂に入りたい
お風呂に入りたい。
私はお風呂が大好きだが、もう一週間は湯船に浸かっていない。今日こそは入るぞと意気込んでも、夜帰宅するとその意気込みはどこかへ消え失せる。お風呂の存在など忘れ、気が付けばシャワーで済ましている。
「なぜなんだちくしょう!!」
シャワー後にハッとし、思わず叫んだ時もある。しかし今からお風呂を沸かそうにも面倒臭い。
妻にお風呂を沸かしておいてくれと連絡しても無視される。
銭湯に行くことも考えたがそれは違う。
私は自宅のお風呂に入りたいのだ。たまらなく入りたい。
その日も私はお風呂に入るぞと意気込みながら家路についた。だがやはり帰宅すると忘れてしまう。妻とはすれ違いが続いており、今日もいない。
お風呂のことなどすっかり忘れた私はシャワーを浴びようと浴室に入る。すると鏡にメモが貼られていた。
「お風呂に入りたい」
そうだ、今日こそは忘れないぞと出社前にメモを貼ったではないか。まだ間に合う。私は蓋をされた浴槽を見て自分に言い聞かせる。お湯張りしろ。お湯張りをするのだ。
気が付くと私はシャワーを浴び終えリビングにいて、やっぱりお風呂のことは忘れていた。あんなに愛しいのにどうしてなのかと頭を抱えながら、なぜか今日は妻のことも考える。専業主婦なのに、もう一週間ぐらい顔を見ていない気がする。
そういえば先週、喧嘩したな。ゆったりとお風呂を楽しんでる最中に浴室まで入ってきて、些細なことでネチネチ攻めるから私もカッとなってしまった。それで妻を浴槽に引きずり込み、頭を押さえつけた。ただ静かにしてほしかっただけで、もちろん本気じゃない。ぎゃあぎゃあと喚いていたが徐々に静かになってそれから……それからどうしたんだっけな。
あのことをまだ怒っているのだろう。確かに少々やりすぎた。実家に帰ったのかもしれない。
お風呂に誘って謝ろうか。いや、それだともっと怒られるか。
まぁとりあえず、明日こそはお風呂に入りたい。
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