2026年に向けた投資の核心 | 「AIが見える側」への招待状
2025年12月年末の深夜。
Anthropic共同創業者のJack Clarkは、生まれたばかりの赤ん坊を寝かしつけた後、久しぶりにMacBookを開いた。妻も、上の子も、ようやく眠りについた。静寂の中、彼はClaude Codeを起動した。
捕食者と被食者の生態系シミュレーションを作りたい。A*探索でパス検索を実装したい。昼夜サイクルで夜行性生物の行動を変えたい。3Dプリント用の座標も出力したい。
数時間後、彼はすべてを完成させていた。
「10年前に独学でプログラミングを学んでいた頃、数週間かかったものが、5分でワンショットで完成した」
私も、2025年の夏ごろからClaude Codeを使い始めているが、明らかに何かが変わっている。3週間かかるはずのソフトウェア開発が3時間で終わる。3日かかるはずの分析作業が3分で終わる。この体験を誰かに説明しても、うまく伝わらない。まるで、ファンタジーを聞いているかのようなきょとんとした顔をされる。
(いや、現実に起こっているんだけどな・・)
Clarkはこの違和感を、的確に言語化してみせた。
「2026年夏までに、フロンティアAIを使って仕事をしている人々は、使っていない人々とはまるで別の平行世界に住んでいるかのように感じるだろう」
平行世界。
彼はそう表現した。
あなたは今、どちら側にいるか
街を歩いてみてほしい。
ドローンが飛んでいるか。自動運転車が走っているか。ロボットが荷物を運んでいるか。
おそらく、何も見えない。

Clarkも同じことを言っている。自宅の周りを散歩しても、AIが物理世界を変えている証拠はどこにも見当たらない。
だから多くの人は、こう思っている。
「AIはまだ早い」
「もう少し様子を見よう」
「騒がれているほど大したことはない」
その感覚は、ある意味で正しい。
目に見える変化は、物理世界において、まだほとんど起きていない。
しかし、見えないところで起きている変化を知っている人間にとって、この「平穏」はむしろ不気味だ。
OpenAIが2025年に公開した「The State of Enterprise AI」レポートによると、AI活用度の上位5%に位置する従業員は、同じ会社の中央値の従業員と比較して、ChatGPTに6倍のメッセージを送信していた。
6倍だ。
コーディング関連では17倍。データ分析では16倍。
同じオフィスで、同じツールにアクセスできる環境で、これほどの差が生まれている。
これを「可視性AI格差」とでも呼ぼうか。

AIの進歩が見えている人と、見えていない人。使いこなしている人と、まだ触っていない人。その間には、数字で測れる巨大な溝が広がっている。
そして厄介なのは、この溝が外からは見えないことだ。
「AIで速くなった」という錯覚
ここで、投資家には胃がキュッとなる研究結果を紹介したい。
METR(AIツールの影響を測定する研究機関)が2025年7月に発表したランダム化比較試験だ。経験豊富なオープンソース開発者に、AIツールを使う場合と使わない場合で同じタスクを実行してもらった。
結果は驚くべきものだった。
AIツールを使った場合、開発者は19%遅くなった。
速くなったのではない。遅くなったのだ。

そして最も興味深いのは、開発者自身の感想だ。彼らは「平均20%速くなった」と感じていた。
認知と現実のギャップ。
私自身もAIを使った開発体験を振り返らずにはいられなかった。確かに出力は圧倒的に増えた。しかし、その一方でAIが出してくるゴミコードの取捨選択による手戻りも増えた。本当に速くなっているのか。それとも、速くなった気がしているだけなのか。
(正直、AI銘柄に本気投資している側としては嫌な数字だ…)
ただ、この研究には重要な注釈がある。対象は「既存のリポジトリで作業する経験豊富な開発者」だ。自分のコードベースを熟知している人間にとって、AIは「邪魔」になることがある。
一方で、Clarkのような体験もある。新しいプロジェクトを0から立ち上げる場合、AIは圧倒的な加速装置になる。
つまり、こういうことだ。
AIを使えば誰でも速くなるわけではない。AIの恩恵を受けるには、「使い方」を知っている必要がある。
Clarkはこれを「深いファネル」と呼んだ。
AIの恩恵を受けるには、4つの条件が揃わなければならない。

知的好奇心
強力なAIシステムへのアクセス
好奇心をAIへのタスクに変換する能力
実験に費やす時間
このファネルは、驚くほど狭い。
EYの2025年調査によれば、88%の従業員がAIを使っていると回答した。しかし、高度な使い方で仕事を変革しているのは、わずか5%だ。
MIT NANDAの調査はさらに厳しい。組織の80%以上がChatGPTやCopilotを探索・パイロット段階で試している。しかし、カスタムビルドやタスク特化型のGenAIツールを本番環境に導入できているのは、わずか5%だ。
80%が「試している」。
5%が「本気で使いこなしている」。
この数字のギャップが、AI格差の正体だ。
3500億ドルはどこに消えたのか
ここで、投資家として最も重要な問いに向き合いたい。
これほど巨額の資金が動いているのに、なぜ私たちの日常は変わらないのか。
Reutersの報道によると、2025年、ハイパースケーラー4社(Amazon、Alphabet、Microsoft、Meta)の設備投資額は合計で約3500億ドルに達する見込みだ。
(注:ここでの「CapEx」は各社の定義が異なり、リース資産を含むかどうかで数字が変わる。たとえばMicrosoftの四半期349億ドルはリース込みの数字だ。横比較には注意が必要。)
個別の数字を見ると、その規模に圧倒される。Microsoftは第3四半期だけで349億ドル(リース込み)を投じた。前年同期比75%増だ。
Goldman Sachsの試算では、2025年から2027年の3年間で、累計1.15兆ドルがデータセンターに投入される。
1.15兆ドル。
日本円で約170兆円。日本のGDPの約3分の1だ。
NVIDIAの2025年11月決算を見れば、この資金の流れが実感できる。売上高570億ドル。データセンター部門だけで512億ドル。前年同期比62%増。Jensen Huang CEOは「Blackwellの売上は記録を塗り替え、クラウドGPUは完売状態だ」と語った。

しかし、私たちの日常には、何も起きていないように見える。
この膨大な投資は、どこに消えているのか。
Clarkの答えは明快だ。
「変化はデジタル世界で起きている」

クラウドの奥深く、データセンターの中で、AIは24時間休むことなく稼働している。トークンを生成し、推論を行い、エージェント同士が情報を交換している。
Clarkはこれを「ゴーストリー(幽霊のような)」と表現した。
「私たちの物理的現実には、その痕跡がある。データセンター、サプライチェーン問題、サンフランシスコの奇妙なAI看板。しかし、真の活動の大部分は、デジタル世界で起きている」
さらに彼は、SF作家Iain M Banksの概念を引用した。
「私たちは4次元に存在するが、AIはまるで5次元に存在するかのようだ。私たちはそれが現実を通過する際の『スライス』しか見ることができない」
エクセッション。高次元の存在が低次元の世界を通過するとき、私たちにはその断面しか見えない。
この膨大な投資は消えたのではない。私たちには見えない次元で、活発に動いている。

2026年に見えるAIの景色
ここからは、私の独自見解を述べたい。
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