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現場目線と圧倒的な技術力の結晶。「Facilo物件売却クラウド」はいかにして生まれたか

2024年10月に発表されたFacilo物件売却クラウド(以下、物件売却クラウド)。これまで物件を買う側の体験にフォーカスしたプロダクトを提供してきたFacilo(ファシロ)が、今度は売主の体験に手を広げた形だ。このFacilo物件売却クラウドはどのようにして開発されたのか。代表取締役CEOでこのプロダクト開発のプロダクトマネージャーを務めた市川紘さんと、リードエンジニアを務めた齋藤大さんに話を聞いた。

PROFILE
CEO 市川 紘さん

リクルートに入社後、SUUMOにて営業・プロダクト・経営企画マネージャー・新規事業開発部長として従事。2016年にサンフランシスコに渡り、シリコンバレーの不動産テック企業MovotoのCFOとしてM&AによるEXITを牽引。この実績を評価され、米国の「Top 100 Leaders in Real Estate and Construction」に選出された。日本に帰国後、株式会社Faciloを創業し、不動産コミュニケーションクラウドFaciloを2023年2月にローンチ。休日は公園で走り回る6才と4才の子供を追いかけて奔走し、帰りに自分へのご褒美として趣味の日本酒を買うのが日課。

Backend Engineer 齋藤 大さん
ACM/ICPC国内2位・アジア3位に入賞。日本学術振興会の特別研究員として東京大学大学院博士課程にて理論神経科学の研究を行いPh.Dを取得。その後、DeNAにエンジニアスペシャリスト枠で入社。OpenID Connect を用いた認証・認可プラットフォームの開発を経て、peroliに出向し、女性向けコミュニティメディアMERYのバックエンド開発に従事。SmartNewsではTechLeadとして広告配信とニュースランキングのバックエンドサーバ開発チームに所属。休日は8歳の息子と出かけたり、ゲームをしたりしている。息子向けにマイクラのModを改造したり、電子工作でおもちゃを作ったりもしている。

幾度も重ねたインタビューで得た、
売主の顧客体験の課題

インタビューが行われる会議室に入る時、両者が少し照れくさそうにしているのが気になった。きけば、こうして長時間対面で話すのは初めてなのだという。全く新しいプロダクトを対面コミュニケーションなしで作り上げてしまったということか。思わず姿勢を正し、まずは開発背景からインタビューを始めた。

物件売却クラウドの構想背景には、不動産一筋のキャリアの市川さんがこれまでのキャリアの中で感じていた物件の売主の体験の課題があった。物件を売却することを決め、媒介契約を結んで物件を売り出した後から、売却が完了するまでの一連の体験のことだ。

市川さんは、前々職時代に400名あまりのエンドユーザーのインタビューに立ち会った経験がある。その体験を、少し苦い顔をして話し始める。

市川「インタビューではモチベーショングラフと言って、気持ちの浮き沈みを折線グラフにして書いてもらうことがあるんです。物件を買う人は、浮き沈みがあったとしても最後は必ず高くなって終わります。最終的には気に入った家を買って新しい生活が始まるわけですから。

ところが、売主の場合は中途半端に下降して終わることが多い。売主は、内見対応をしてもなかなか売却できなかった場合は、価格を下げるか、家の掃除をするくらいしかできることがないのです。それでも買い手が決まらないと傷ついてしまう方も多い。このような課題を、Faciloが提供しているプロダクトや、そこで培ってきた“情報を可視化する力”で解決できるのではないかと考えました」

これまで売主に共有される情報は、不動産会社の営業担当者が2週間に一度発行する営業活動報告書だけであることが多かった。問い合わせ件数と意気込みなどが書かれた書類が届くだけでは、問い合わせ数の推移やその背景にある営業活動まで把握することは難しく、競合物件との相対的な評価もつかめない。これらをFaciloが得意なクラウドで情報を集め、ダッシュボードで見せることで解決できると踏んだのだ。

齋藤さんが深く頷いて続ける。

齋藤「エンジニアの視点では、紙の報告書からでは読み取れなかった情報を、報告をデジタル化することでリアルタイムに得ることができれば、売主の体験に大きな影響を及ぼすだろうと考えました。さらに踏み込むと、AIの活用により物件情報の提案や売り方の解決策の提示もできるようになるだろうな、と」

意外にも開発当初、競合は見当たらなかったと言う。不動産DXはどれも売上に直結する集客に比重を置くもので、集客後の体験にフォーカスしたプロダクトは珍しかったのだ。

市川「不動産仲介を仕事にする人の大半は集客後のエンドユーザーに向き合う仕事をしています。売主から見ても、媒介契約後の緊張感が最も高いんですよ。本質的に考えれば、この体験をよくすることはとても重要なんです」

エンドユーザーに向き合う姿勢が、Faciloを稀有なプレーヤーにしていたというわけだ。かくして、物件売却クラウドの開発が始まった。

あえて技術負債を作り、
スピード優先で開発した“プロの技”

冒頭でも触れた通り、開発はフルリモートで行われた。Faciloの開発ポリシーでは、非同期コミュニケーションを大切にしている。このプロダクトも例に漏れず主にSlackでのテキストコミュニケーションを中心に開発が進んだ。

齋藤さんが難所と予想したところはいくつかある。まず、既存プロダクトとの連携だ。

齋藤「既存の物件購入クラウドとの連携は難しそうだなと思っていました。がっつり連携させて作る開発方法もありましたが、それでは開発速度が落ちてしまう。そのため、物件売却クラウドはある程度の技術負債を承知で独立したプロダクトとしてまず作り上げ、今後余裕が出てきた時に物件購入クラウドとの基盤統合をすることにしました」

そして、と齋藤さんが話を続けようとすると、市川さんが満面の笑みで「すごいことなんですよ」と入る。

市川「こういうところにFaciloのエンジニアのレベルの高さを感じます。技術負債を完全になくすこともできる一方で、あえてそれを残してスピードを優先することもできる。これらを使い分けられる開発組織は珍しいんです。Faciloのエンジニアは経験豊富なので、戦略に基づいてこのふたつをうまく行き来できる。負債を返す方法まで見据えて開発するのは、本当にプロの技ですよ」

難所と予想された点は他にもあった。入力した情報をもとに書面を作成し、規定のフォーマットを崩さずに自在に情報量やレイアウトを調整できるようにする方法や、クラウドを活用した内見の日程調整機能。中には現在も開発中の機能もある。

聞くだけでも複雑なやりとりであることが容易に想像できる。しかし、その解決方法を話す齋藤さんは穏やかで、それをを楽しんでいるかのような印象すら与える。インタビューを小休止させた時、開発中の機能要件に花が咲く場面もあった。休憩だというのに二人とも身を乗り出し、穏やかに、アイデアのやりとりを楽しんでいるのだ。

優れた技術力と現場目線により編み出された
プロダクトの見せ場

お二人の仕事の仕方が垣間見えるエピソードがある。開発中に互いが「助けられた」と感じた働きを尋ねた時のことだ。市川さんは、先に触れた技術負債のバランスとそれを可能にする優れた技術力を挙げ、その後齋藤さんの“質問する力”に触れた。

市川「オンライン、オフライン問わず素朴に鋭い質問をされますよね。不動産業界の慣習などについて『そもそもなんでこうなっているんですか』と無邪気に聞いてくれる。それによって機能開発の精度が上がるだけでなく、周りの人が勉強になったり、質問しやすい雰囲気ができている感じがします」

齋藤「社歴が長い分、だんだん“わかってます感”が出てしまうのが嫌で。『こんなこともわからないのか』と言われてしまいそうな基本的なことでも、わかった気にならずにカジュアルに質問するようにしています。そうやって不動産に関わることが増えたことで、プロダクトを作る時に『今後こっちの方法に拡張していくかもしれないな』と想定して作り方を変えることができるようになりました」

齋藤さんからは、市川さんの営業現場目線のフィードバックが挙がった。

齋藤「ある書面を作る機能があって。エンジニアの私は、フォームを順に入力していくと全体が表示される設計を考えていたのですが、市川さんがもっと直感的でわかりやすいUIを提案してくれたのです。実際に不動産会社さま向けのデモに同行したら、その操作で書面ができた時に歓声が上がって、すごいなと思いました」

市川「自らデモを行って営業を行うことも多いので、どう山場を作ってプレゼンするかを意識していたからこのフィードバックが出たのかもしれません。齋藤さんがこの機能を実装してくれたおかげで見せ場ができました」

不動産会社の担当者のニーズを知り尽くした現場の視点を持つプロダクトマネージャーと、それを叶える圧倒的な技術力。Faciloのプロダクトの確かなクオリティを支える最強のタッグを見せられた瞬間だった。

売主の顧客体験を大きく変える
プロダクトが完成。その手応えとは

かくして物件売却クラウドは、無事にリリースされた。市川さんも齋藤さんも、プロダクトのクオリティに確かな手応えを感じていると言う。現在はさらにそのニーズを広げるため、売却の案件数を増加させるための機能開発を急いでいるのだそうだ。プロダクトの魅力を語る声には力がこもる。

市川「売り手が、似ている物件情報と比較しながら価格変更の意思決定ができる競合物件レポートなど、自分が売り手だったら欲しいなと思える機能がたくさんあります。こうして情報が可視化されることで、これまで自分でコントロールできる打ち手の少なかった売主が、納得感のある売却体験ができるようになるのが楽しみです。冒頭でお話ししたモチベーショングラフも大きく変わるはずです」

齋藤「これからこのプロダクトはもっとすごくなるぞ、という感覚があります。特に物件購入クラウドとの連携が進むと、物件の閲覧時間や買い手の属性情報などさらに詳細な情報を売主に見せてあげられるかもしれない。こうして買い手の動きが見えるようになれば、売主の体験はさらに飛躍的に向上すると思います」

さて、このようなプロダクト誕生のストーリーを聞いて、そんな仕事をしてみたいとうずうずしている人も多いだろう。今のFaciloにジョインすることで、このようなプロダクトの誕生に関わることはできるのだろうか。質問を投げかけてみた。

市川「ゼロイチに関わるチャンスはこれから増えますよ。この2つのプロダクトだけでなく、Faciloはどんどんマルチプロダクト化を進めていくつもりです。そして、プロダクトが増えるごとに積極的に権限委譲していきたいと考えていますから。プロダクトオーナーとして、ほぼ事業の立ち上げに近い体験を一緒にやっていきたいです」

齋藤「Faciloでの仕事において、責任範囲が決まりきっているのではなくさまざまなことを経験できるのはもちろん、エンジニアが望めば実際に不動産会社さまに出向いて使っているところをみられるのもとても良い経験になると思います。ユーザー目線に立ちながらプロダクトを作り、それを喜んでもらえるのは大きな仕事の楽しみです」

市川さんはすでに、3つ目以降のプロダクトにも目を向けていた。

市川「最近では私たちが作ったプロダクトが、不動産会社さまで働く方の業務の基盤になってきている手応えがあります。今ではさまざまな不動産会社さまにとても期待をしていただいて『この業務に課題があるから助けて欲しい』『こういうプロダクトが欲しい』とお声をいただくことも増えました。そういった声にこれからも答えていきたい。そのためにやりたいことは尽きません。今回第二弾のプロダクトをリリースしましたが、作りたいプロダクトは10個くらいあるんですよ」

齋藤「そうやって私たちが提供するプロダクトによって、皆が気軽に住み替える世の中になったらすごくいいですよね」

予定されていた質問がひと通り終わったのを確認し、取材の終わりを告げると市川さんが齋藤さんを見て「今、楽しいですか?」ときいた。齋藤さんは深く頷き「楽しいです」とゆっくり答えた。

(写真・文:出川 光)

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