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夫の乳液を買いに行ったはずが


私には、長年ひそかに抱えている格差問題がある。

夫婦間の、スキンケア格差である。

夫は、以前からクリニークの洗顔料とクリームを使っている。デパートの、あの明るく照らされたカウンターで、白衣のような制服を着た美容部員さんから、きちんと買うのである。かたや私はというと、ドラッグストアである。カゴにポイポイ入れて、レジでポイントを気にしている、あの私である。

同じ屋根の下で暮らしているのに、この差はなんなのか。長年、私は見て見ぬふりをしてきた。

この一年、私は何もしていなかった

正直に告白すると、私はこの一年ほど、メイクどころかスキンケアさえ、ほとんど何もせずに過ごしていた。

理由はいろいろある。家でほとんどの時間を過ごしていたこと。外に出る用事が少なかったこと。まあ、要するに、面倒くさかったのである。誰にも会わないのなら、肌のことなど、どうでもよくなってくる。人間というのは、こわいものだ。

そんな私も、さすがにこれではいけないと、うすうす思ってはいた。

AIに診断してもらった

そこで私は、AIに肌のことを相談してみた。今はそういう時代なのである。

AIの答えは、じつに堅実だった。「お値打ちなものでいいので、洗顔料、化粧水、乳液、日焼け止めを使うといいですよ」と。

なるほど。お値打ちなもので、いい。無理をしなくていい。地に足のついた、まっとうなアドバイスである。私は深くうなずいた。うんうん、そうだよね、高いものじゃなくていいんだよね、と。

この時点での私は、まだ何もわかっていなかった。

そして、クリニークのカウンターへ

その日、私は夫の乳液を買うために、一緒にデパートのクリニークへ行った。あくまで、夫の付き添いである。

ところが、である。

隣で夫が、自分の肌をいたわるように買い物をしているのを見ていたら、私はだんだん羨ましくなってきた。きれいな美容部員さんが、にこやかに、丁寧に、夫の肌のことを気にかけている。あの空間には、ドラッグストアのカゴには存在しない、なにかがあった。

気づいたら、私は口を開いていた。

「私も、欲しい」

夫は、あっさりと言った。

「いいよ」

気がついたら

こうして私は、化粧水と乳液と美容液、それから日焼け止めまで、一式そろえて帰ってきたのである。

……あれ。

家に帰って、ふと思い出した。AIは、たしか「お値打ちなものでいい」と言っていた。洗顔料、化粧水、乳液、日焼け止め。堅実な、あの四点セット。

私が抱えて帰ってきたのは、美容部員さんに勧められた、クリニークの、美容液つきのやつである。

なんというか、こう、話が違う。地に足のついたアドバイスは、デパートの明るい照明の下で、きれいに溶けてなくなっていた。

でも、まあ、いいのである。

きれいな美容部員さんに勧められたスキンケアは、やっぱりモチベーションが上がるのだ。翌朝、私はいそいそと顔を洗った。一年ぶりに、ちゃんと。

AIの言うことも大事だが、人間、羨ましさには勝てない。それだけの話である。
*マンガは新宇佐美式で描きました


はじめましての方は、こちらでご挨拶しています。 https://note.com/fair_beetle800/n/na00ef7f7fc1c


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