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雨がやんだあとの長靴問題


梅雨になると、私には毎年どうしても解けない問題がある。哲学でも人生相談でもない。もっとくだらない。「雨がやんだあと、この長靴をどうすればいいのか」という問題である。
去年、私は思いきって長靴を買った。雨の日に足が濡れるのがいやで、もうこれで安心だと、レジの前でちょっと得意な気持ちになったのを覚えている。ところがいざ履いてみると、出かけた先で雨がやんでしまうことがある。すると私は、晴れた空の下を、長靴でぺたぺた歩くはめになる。これがどうにも、いたたまれない。かといって脱ぐわけにもいかず、結局その日一日、自分の足だけが梅雨を引きずっているような気分になるのだ。
それ以来、私の長靴は下駄箱の奥でじっと眠っている。雨の日になると「今日こそ」と思うのだが、やんだあとのことを考えると、つい普通の靴で出てしまう。そして案の定、靴下をぐっしょり濡らして帰ってくる。我ながら、何のために長靴を買ったのか分からない。
気になって、雨の日の靴の話をネットでのぞいてみた。すると、驚いた。みんな、私とまったく同じことで悩んでいたのである。「やんだあとも長靴は嫌」「結局履かない」。一字一句、私の心の声だった。世の中の人たちは、靴カバーを試したり、撥水スプレーをかけたり、つるつるしたエナメルのパンプスにしたりと、それぞれ知恵をしぼっている。靴カバーの話などは「滑らない?」「破れたっていう評価ばっかり」「そもそも使っている人を見たことがない」と、もう総ツッコミ大会になっていた。
なんだ、みんな迷走しているのか。そう思ったら、急に心がふっと軽くなった。正解を出せていないのは、私だけじゃなかったのだ。
そういえば、と私はつい脱線する。「レインコート使っている人いますか」という相談を見つけたので開いてみたら、これがすごかった。本題そっちのけで、レインコートを着せられた猫の写真に、みんなが夢中になっていたのである。「迷惑そうな顔がいい」「脱がないのが可愛い」「うちの猫なら破り捨てる」。レインコートの使い心地を聞きたかったはずの相談は、見事にどこかへ流れていった。私もしばらく猫を眺めて、すっかりなごんでしまった。自分が何を調べていたのか、危うく忘れるところだった。
ついでに言うと、置き型の除湿剤を部屋に五十個置いていた、という猛者もいた。五十個である。湿気と戦う、というより、もう戦争だ。それだけ置いても湿度はたいして下がらなかったらしい。とほほ、である。
話を戻すと、つまり梅雨の靴問題に、人類はまだ正解を出していない。長靴を買えば持て余し、普通の靴で出れば濡れ、靴カバーは破れ、レインコートは蒸れる。どこかに「もうカッパでよくね」と書いている人がいたが、もしかすると、これがいちばん潔い答えなのかもしれない。
今日も外は、ぐずぐずと降ったりやんだりしている。下駄箱の長靴と目が合った気がしたけれど、私はそっと見なかったことにして、普通の靴をはいた。たぶんまた、靴下を濡らして帰ってくる。まあ、それもいい。雨の季節は、毎年こうして、ぼんやりと過ぎていくのである。

*マンガは新宇佐美式で描きました

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