「救いの凛」第1話
〈あらすじ〉
元ヤンの高校生、藤谷小京。慕っていた総長がチームから抜けることを知り同時に抜けた小京だったが、人を放っておけずいろいろな事に首を突っ込んでしまう。そしてそのちょっとしたお節介が少年を憧れにさせる───。
〈第1話〉
6時半に鳴る目覚まし、カーテンの隙間から入ってくる光。
何も邪魔するものは無い。とても普通で清々しい朝だ。
「一人で起きれて偉いなぁ!小京!」
「うおおおおおお!」
しかし、そんな朝もほんの数秒で終わりを告げた。
突然視界に現れた歳上の悪友に俺は叫び声をあげる。
胡散臭い笑顔、よく目立つピアス、刺青の入った身体。
関わっちゃいけない奴ランキング上位に入るであろうソイツは不似合いなピンクのエプロンを着ていた。
「なんでいるんだよお前!」
「一人暮らしで寂しい思いしてるであろう弟分を見に来ただけだっての」
「ざけんな!少女漫画の導入じゃねぇんだぞ!」
「凛の持ってきたやつ読んだのか?オネーチャンの趣味に合わせるなんて偉いなぁ、こま……」
「黙れ!」
俺の拳が悪友───朱夏の顔面に入り、鼻血を出しながらも朱夏は話を続けた。
「相変わらずいい拳だなぁ。やっぱ勿体ねぇよ」
「うるせぇ!俺はもう喧嘩しないしお前らともつるまねぇって決めたんだ!早く出てけ!」
「へー、そうかそうか……じゃあ朝飯も弁当もお預けだな」
「な!」
自分が単純である事は誰よりも分かってる。
しかし、食欲には抗えるものでは無い。
この男が作る料理は美味しいのだから。
「あーあ、折角お前の好物の唐揚げを朝から揚げたのに残念だなぁ」
「うぅ!」
そうして俺は仕方なく朱夏がしばらく滞在するのを許してしまった。
そんな朱夏は俺にとって仲間だった男だ。
去年まで「桜龍」という不良チームのメンバーだったが、総長が交代するのをきっかけに俺たちは二人ともチームを抜けた。
「桜龍」が好きだったのでは無い。「総長」が好きだったのだ。
喧嘩じゃ化け物みたいな奴だったが、普段は物好きなお節介野郎で。
道を踏み外しかけてた自分たちを掬い上げるような存在だった。
でも、そんなアイツは俺らを掬い上げるのを、総長を辞めちまった。
俺はため息をつきつつ、しっかりと朱夏の作った朝飯を平らげ、家を出る。
「ちゃんと鍵閉めとけよ」
「勿論だとも。あ、それと凛がお前と話したいってさ」
凛。
俺を見捨てた奴の名前だ。
「俺らのこと捨てたクセに……」
「おいおい、面倒な彼女かよ……まあいいや。気が向いたら俺に連絡寄越せよ。アイツ寂しがってっし。いってらっしゃーい」
胡散臭いながらも律儀にお見送りまでしてくる朱夏に照れ隠しの舌打ちをする。
外見は明らかにやべぇし、ロクな奴じゃないことも分かってる。
それでも、俺たちの前でだけはアイツと同じただのお節介野郎だった。
……別に凛のことだって本気で嫌いになった訳じゃない。
悶々と考えていれば、路地裏に差し掛かったところで見覚えのある男を見つけた。
「サツのおっさん」
「誰かおっさんだ、俺はまだ二十代……って、誰かと思えば凛の連れの坊主じゃないか」
交番に勤めるオマワリサンであるおっさんを見つけ、俺は何となく声をかけて近づく。
おっさんに隠れていて気づかなかったが、俺と同い年くらいの銀髪の男が腕を掴まれていた。
そして、地面にはチンピラっぽい男たちが転がっている。全員意識は無さそうだ。
「何があったんだよ、おっさん」
「チンピラが少年をリンチしていると聞いて来たんだが、来てみればこれだ」
「大分派手にやったな」
しゃがんでチンピラの様子を確認しつつ、俺は男を見上げる。
身長は高い方だろう。少年っつーか、まあ、普通に高校生って感じだな。
「お前がやったのか?」
「何もんだ、お前」
銀髪頭に睨まれてイラついたが、取り敢えずおっさんに手を離すように言う。
そうすれば銀髪頭はすぐに逃げていった。
「たくっ、なんだったんだアイツ。俺は知らねぇけど、おっさんは知ってっか?」
「たまに見るな」
てことはここら辺に住んでんのか?
俺は頭をかきつつ、銀髪頭が去ってった方を見る。
……不安だ。
「おい、おっさん。アイツ見たら教えてくれ。多分大人への警戒心が強えから俺の方が上手く対処出来る」
「たしかにな。見つけたら連絡してやるよ」
そして俺はおっさんと別れた。
「ホント、似てきたよなぁ。凛に」
───
放課後。
不安は的中し、アイツは囲まれていた。
「一対大勢?随分物好きだな、お前ら」
大方、さっきの奴らの仲間というところか。
「待てよ、コイツ桜龍の奴じゃないか?」
「俺は九条凛の右腕。俺とやり合うっつーことは桜龍とやり合うってことだ。……それでいいのか?今なら見逃してやるよ」
大抵の奴はこれで怯む。
だからもういないのに、抜けたのにこの名前を、チームを使ってしまう。
しかし、馬鹿な奴が俺に向かって突っ込んで来た。
俺が言えたことじゃないが、あまりにも馬鹿が過ぎる。
「桜龍?それがなんだっ!」
「はぁ……聞き分けが悪ぃ、なぁ!」
拳を軽く受け止め、地面へと押し付ける。
あーあ、言うこと聞けば痛い目見ることもなかっただろうに。
「お前ら。こうなりたくなけりゃさっさと失せろ」
「おい、お前。大丈夫かよ」
「慣れてる。こんくらい平気だ」
「それよりお前強えな!つか、あの九条凛の右腕って本当かよ!?」
「ま、まぁ」
興奮した様子の銀髪頭に俺は一歩後退る。
冷たい奴かと思っていたが、この感じからしてどちらかと言えば明るい性格の奴なのだろう。
前は警戒してただけか?
それはそれとして、アイツに言ったら「右腕?犬か猫の間違いだろ」とか言われそうだけど。
「だったら九条凛に言っとけ!最近治安が悪化してるってな」
「っ」
言葉に詰まる。
本当にアイツは怖い。
アイツ一人いなくなるだけで街の治安までもが変わる。
だからこそ、面倒な奴らには九条凛が居なくなったことを知られるのを避けたい。いや、遅らせたいと言った方が正しいか。
「分かった、言っとく。その代わりに名前くらい教えろよ」
今度何かあった時の為にそれくらいは知っておきたい。
「俺は三上翼だ。お前は?」
「小京」
「小京……お前藤谷小京か!?なんだよ、有名人じゃねぇか」
「さっきからオーバーな野郎だな」
人の名前を聞いては興奮する翼にうんざりしつつ、俺は家に帰ろうと歩き出す。
「じゃあな、もう面倒な事に巻き込まれんなよ」
「待てよ、小京!」
「なんだよ、うるせ……」
「ありがとな!」
立ち止まって振り返れば、翼が笑いながらそう言ったのが見えた。
俺は目を見開く。
「おい、こんな弱っちぃ奴ら助けて何になるんだよ。朱夏たちはぜってぇ助けねぇのに」「アイツらと俺を同じにすんなっつーの」「じゃあ、お前はなんで助けるんだよ」「なんでってそりゃ、人助けしたら気分がいいだろ?」「はぁ?結局は暴力だろうが」「うるせぇな、この可愛げのない奴目が」
……なぁ、凛。
あの時はあんな事言ったけどな。
今だったらお前の言ったこと、少し分かる気がする。
───
「よお、藤谷小京」
「は?」
翌日。
唐突なフルネーム呼びに驚いて振り返れば、そこにはよく目立つ銀髪男がいた。
コイツ同じ高校だったのかよ!
第2話https://note.com/preview/nb0462021666d?prev_access_key=61fb1bbd8b3ddddb675009a185336fd7
https://note.com/preview/nb0462021666d?prev_access_key=61fb1bbd8b3ddddb675009a185336fd7
第3話https://note.com/preview/nc766407800c7?prev_access_key=4963f66f5e07f63bf26e2b656cb3cd27
