「救いの凛」第3話

 俺は失念していた。

「だああああ!多いんだよ!多い!」

 この街の治安の悪さを。

「よお、小京!今日も元気だな!」
「これのどこを見て元気だっつーんだよ」

 カツアゲしようとしていた連中をシメてから通学路を歩いていれば翼に声をかけられた。
 コイツとは最近よく会う。
 クラスは違うが、割と一緒にいることも多い。

「俺に巻き込まれんなとか言ったくせにお前は巻き込まれに行ってるじゃねぇか」
「うるせぇな。俺はやるしかねぇんだよ」
「確かに、お前……」

『小京、はよ!』
『小京くん、この間はありがとうねぇ』
『坊主!これ持ってけ!』

「ぶっきらぼうな割に周りから愛されてるよな」
「別に俺がどうこういうわけじゃねぇよ。俺はアイツについて歩いてただけだし」
「アイツ?」

 いつもの調子で口にした言葉に思わず立ち止まる。
 翼がニヤァと笑ったのが見えた。

「もしかして九条凛か?」
「ち、違ぇし!」
「図星だなー」
「だから違ぇって!」

 わーぎゃーしながら翼と歩いていけば、目の前に怪しい奴が一人。
 とはいえ、誰かに暴力を振るっているわけではないし、物を壊している様子もない。
 ただコソコソと物陰に隠れながら歩いているだけだ。

「なんだアイツ」
「俺らと同じ高校の制服だな」

 無視しても良かったが、流石に気になる。

「おい、お前。一人でコソコソ何してんだよ」

 それは翼も同じだったのか、俺より先に声をかけていた。
 男はびくりと肩を跳ねさせ、こちらを振り返るとちいせぇ声で答える。
 俺や翼とは違って優等生っぽい男だった。

「あ、兄貴を追い、かけてた」
「行くぞ翼。ただのブラコンだ」
「ま、待て!」

 予想以上にヤバそうな回答に通り過ぎようとすれば、男に静止された。

「お前ら不良だろ!聞きたいことがある!」
「初対面の相手への態度じゃないだろ」

 その通りだ。
 翼は肩を竦め、男と向き合う。

「まぁ、先に声かけたのは俺だけどさ。まずは名乗れよ、雪城蓮矢」
「知ってるなら聞くな!」

 翼と男、蓮矢のやり取りに俺は首を傾げる。

「有名な奴なのか?」
「学年首席だよ、コイツ」
「マジか、頭いいんじゃねぇか。で?そんな奴がなんで兄貴のストーカーしてんだよ」
「僕はストーカーじゃない!」

 蓮矢はそう叫ぶと兄貴をストーカーしている理由と語り始めた。

「兄貴は頭いいけど、昔から夜中に出てって帰ってこない事も多かった。母さんに言われて詮索しないようにしてたけど、もう限界なんだ。何か危ないことしてたら心ぱ……僕も何か言われるかもしれないし!だからつけてるんだよ!」
「何、お前の兄非行に走ってんの?」
「それを確かめるためにつけてるんだ!」

 翼の言葉にまたしても蓮矢が叫ぶ。

「君たちが不良だったら兄貴の知り合いかもしれないだろ!?だから確かめてくれ!」

 蓮矢が指さした先には三人の男子高校生がいた。
 一番似てるのは端にいる茶混じりの髪をした奴だろうが、それはそれとしてその中にいる見知った顔に俺は思わず名前をこぼす。

「紅矢」
「小京、知り合いか?」
「ああ」

 髪型も雰囲気も全然違う。
 しかし、確かにソイツは九条凛の懐刀、副総長の紅矢だった。
 基本的に凛への攻撃は全てコイツに止められる。
 朱夏からは「凛の犬」と呼ばれていたくらいだ(俺は「凛の猫」だった)。

「やっぱり兄貴は非行に走って……!」
「何勝手に決めつけてんだよ、お前」

 紅矢は常識人だし、倫理観もしっかりしてた。
 朱夏だったらやべぇけど、紅矢だったら普通のダチがいても何ら不思議じゃない。
 ダチが不良っつーだけで決めつけんのはどうなんだよ。

「お前、兄貴と知り合いなんだろ」
「は?お前の兄貴じゃねぇよ」
「こっちこそは?だ。紅矢は僕の兄だ」
「いやいや、似てねぇし」

 性格も外見も全くと言っていいほど違う。
 俺の言葉に蓮矢は舌打ちをして目を逸らした。

「……兄貴と僕は血の繋がりがないんだ」
 
 ……てことは。
 コイツ本当に紅矢の弟!?
 




いいなと思ったら応援しよう!