1999年から2003年までの阪神タイガース その⑥①
『キヨとの約束を果たす為
おれは応援のプロになる』
第㊽話の続きを。
「ねえねえお父さん。
夏なのに、とんぼが飛んでるよ」
レフト外野自由席。
小さな野球少年が父親に語りかけた。
「ほんとだねえ。弱い阪神に何か運を運んでくれそうだねえ。。。」
男の名は的場。
2001年。清原和博との約束を果たす為
会の中心となる人物に筋を通し
高額の上納金を支払いプロ入りを果たす。
的場の部屋住みがスタートする
的場の身に纏う応援着は素人では無く玄人の物となった。
的場には大きな夢があった。
今期FAとなる清原和博の横断幕を掲げ、
どこよりも大きな旗を全国の外野席で振る事。
大きく、強く、美しい旗を。
巨人戦試合前のレフトの風物詩
喧騒を切り裂く清原和博の姿
素人時代の的場はキヨと一つの約束をした。
「キヨ、話があるんや!来年、阪神に来てな!」
「おう、ええよ!!」
そう言い放つとキヨは的場にサインボールを投げた
軌道は虹のように輝き、
的場の心に吸い込まれるように消えた
大男からキャッチしたボールは蚕の繭のように繊細で温かかった
黄色と白のメガホンが一気に舞う。
とんぼは只静かに、
静かにこちらを見つめていた
私はこの一部始終をレフトで見ていた。
試合前に涙を流したのはこの日だけだ。
的場とキヨの会話は翌日誌面に大きく取り上げられ、僕ら常連をドキドキさせてくれた。
キヨ、的場。
おれたち、とんぼだよな?
全国を駆ける、繊細な。
阪神に出会うまで、言えねえ事も沢山したよ。
男たちは
何故敢えて厳しい道を選ぶのだろうか??
プロの道は険しい。
私生活を捨て全てを応援に捧げなければならない
上下は厳格
時に鉄拳が振り翳される現場
特攻服を着た少女
徹夜、遠征、オールスター
時に命の危機に晒されながら135試合に全てを賭ける
ビジターで殴り合いをしている団員を何度も見た
当時の素人は皆知っていた
『プロは怖い。恐ろしい』
外野に通う常連は皆、
プロと目を合わせないように持ち場へ戻る。
プロとなった的場は一試合も休まずに球場に通った。
誰よりも早く球場に来て弾幕を用意し旗を靡かせ、チンチロの場を用意した。
「おいコラ、何で女を連れて来てんだよ」
先輩からの鉄拳を食らったのはこの時だ
的場が女を現場に連れてくる事は無くなった。
的場は人相が悪かったが一本筋が通っており、
話してみると愛想が良く団員からも愛された。
入団して数ヶ月で旗を振っている的場を見た時は感銘を受けた。
時々顔にアザを作る的場は笑顔を振り撒きこう言った。
『こないだの遠征で、やっちまったよ!』
やってるな、的場。
軍団の一員が頬に皺を作り口にした。
待ってろ、キヨ
お前の舞台は兎でなく虎だ
おれが世界一の応援でお前を迎えてやる。
とんぼの羽が
いつもより凛々しく輝いていた
シーズン終盤、阪神は定位置
FA権を取得した清原は阪神との交渉に入った。
連日賑わう誌面を畳み掛けるよう、
ライターは一面にこう書いた。
『清原和博 讀賣残留へ』
応援で培った掌のマメが雑音を掻き立てるよう瘡蓋を外し真っ赤な血が流れる
誌面の記事は傷口に岩塩を塗るように的場の心を更に痛めつけた
続く
