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【掌編小説】失恋カフェ

海辺のカフェに来た。

失恋した気持ちに浸りたかったからだ。

大きいガラス窓から見える海は、私の心と共鳴するように荒れていた。


冬の北陸だ。

荒れてない海の方が珍しい。

海岸には「A」のモニュメントが3つある。

二人で来てアルファベットを体で作ったら、ちょうどここの地名になって映える写真が撮れるらしい。

どうせ私は二人でなんて来れないよ。
第一、二人で来たって写真撮れないじゃん。そのへんの人に頼むの?
海水浴場でもない海岸に人なんて来ないよ。
第一、冬じゃん、今。
え?冬に1人で海辺に来てる女がどう思われるか?
そうね、そうよね。
どうせ私は寂しい女ですよ。


「……あ〜〜〜……」

脳内独り言を“ヒス構文”みたいに繰り広げて、余計に落ち込む。


冬の海岸沿いのカフェにお客さんが来ないのは本当だ。

ここが一番人が多いのはすぐそこの神社への初詣の時位だろう。

その時は、このカフェは定休日だけれども。
ここは物産店と併設のカフェだから仕方ない。

チェーン店のカフェや、古民家カフェには行きたくなかったのだ。

誰か知り合いに会いたくない。

店員さんに気を使いたくない。


オーダーしたものを提供してくれたら、スタッフ同士おしゃべりしていてくれて構わない。

一人になりたい。

けど、家で『とっておき』として買ったコーヒーを丁寧にドリップする気にはなれなかった。

失恋の痛みを癒そうとして買ったのに。

私自身を大切に扱うことが、まだ、出来ない。


だから、ちょっとだけ。

自分を甘やかしに来たんだ。

「お待たせしました」

店員さんが運んできたのはマルガージェラートの“能登プレミアムミルク”と加賀棒茶のホット。

本当はコーヒーにしようかと思ったんだけど、物産店併設だからか、コーヒーはこだわりなさそうだったのだ。
結果、地元の加賀棒茶の方にした。

芳ばしい香り。
舌に含むと甘みが伝わるが、さっぱりとした味わい。
濃厚なジェラートとの調和が美味しさを高め合う。

身体も温かくなって、うん、今の私にちょうど良かった。


家に帰ったら届いたコーヒーを淹れよう。
はちみつのような甘みと、フルーツティーのような余韻がするらしい。

きちんとコーヒーを味わうのは初心者だけど、大丈夫かな?

いくつか買いながら、旅行に行く計画も立てようかな。

あのコーヒー豆を買ったショップも、海岸沿いだというし。


その頃には、失恋旅行なんかじゃなくて、楽しい一人旅になるはずだから。



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