【小説】或る愛のIrony
“パーフェクト”
脳に電子チップを埋め込み、人間の脳の働きや身体能力の活性化に成功した人間の総称。
博士の頭脳と、Aの経済・政治的手腕で崩壊寸前の世界で人類が生き延びる手段として一気に広まる。
博士の技術とAの政治的手腕は、二人が理想とする人間、“パーフェクト”を作り出す為に出会ったようなものだった。
私の“パーフェクト”化の成功に、博士とAの二人はまさしく手と手を取り合って喜んでいた。
それが、私の喜びだった。
しかし、次第に博士とAの思想の違いが開いていき、とうとう二人の道の別れが確実になった。
そんな頃だった。
「君は、僕から離れないよね?」
と、Aは私に麻薬を打ったのだ。
“パーフェクト”となった私には麻薬の効力はあまりなかったのだけれど。
私を離さない為に、薬という鎖をつけられた。
信じてもらうには私の努力が足りなかったのだと、私の身に起こった出来事に驚き、困惑し、絶望した。
Aの理想に賛同し、だが戦争孤児のため何も持ってなかった私は喜んでこの身を実験体として差し出した。
私がさらにAにあげられるものといえば、あとは忠誠心くらいしかない。
Aのために尽くす道を選んだ私は、Aの請われるままに自身の体をも捧げ。
いつしか私は、この身に子供を宿している事に気づいた。
驚きと同情の目を隠そうともしない博士。
私を聖母かのように扱うA。
破格の金額で引き抜いたどこかの王族専属だったドクターを私にあてがい、パーフェクト化初の母親としての日々が始まった。
はずだった。
産まれた子には、Aが付けた鎖の跡が現れていた。
私達の子への関心がなくなったAは、再び私を自身の補佐として呼び出し始めた。
注射の儀式はAの懇願の時間。
Aの世界に私がどれだけ必要なのか。
それを乞われ、脅され、持ち上げられ。
Aを支えようと動いていたはずなのに、次第に動けなくなっていく私を感じていた。
「あいつを、殺してきてくれ。もう必要ない」
博士の何度目かの離反の噂がAの耳に届いた頃だった。
「僕に反対はしないだろう?僕の事を一番に理解してくれたのは君だ。僕には君しかいないんだ」
今度の博士の離反は噂では済まないらしい。
Aから、博士が持っているパーフェクト関連の研究書類と博士の殺害を命じられた。
博士もあれで、実はAの事を気にかけてはいたのだ。ただ、立場的にAの機嫌を取る必要がなかったから、Aには敵意にしか見えなかっただけ。
「あなた、私は」
「グランドマスター、だろう」
突然鋭くなった眼光に気圧され、私は言葉をなくした。
冷戦と友好を繰り返すAと博士、二人の補佐をしている私に、博士を殺せと命ずる。
私の目の前にいる、この人は、一体誰なのだろう。
博士の元へ向かった私の困惑を見透かすかのように、博士は私に提案を持ちかけたのだった。
◇ ◇ ◇
Aに、書類は既に燃やされていたことを伝える。
そして私は、切り取った博士の片腕を差し出した。
「グランドマスター、こんなやり方ではいつか下にも離反者が出てしまいます。今ならまだ」
精一杯の意見だった。そこからの突然の暴風に、私は身をすくめて無抵抗を貫くしかなかった。
だって、私が抵抗したら。
“パーフェクト”である私が、本気でAに抵抗したら。
「君は僕の理解者だ。君は僕を理解して支えてくれればそれでいい」
あぁ──この人の、愛は
「次の手を考えよう。君のことは信じているよ。君が、僕を信じているならね」
この、“愛”は
気付けば、私の足元にAだったものが転がっていた。
私は、私の妊娠がわかってからずっと私と子供のそばにいるドクターへと連絡を取った。
「ドクター……私、あの人を殺しちゃった」
【¬ PERFECT World: Eironeía】
(1500文字)
いいなと思ったら応援しよう!
サポートして頂いたら、とんでもなく舞い上がります。
「頑張ってるね」の気持ちを素直に嬉しく受け取る体験をしたのはnoteが初めてかもしれません。
あなたのサポートを糧に、他の誰かに「頑張ってるね✨」を届けたい✨