スポーツテックを調べたら、「ゆる部活」に必要なアプリがまだなかった——体育教師が考える7つの機能
以前、こんな提案をした。
「指導者はAIでいい。人間は安全管理だけに専念する」——『プール監視員型AI指導モデル』と名付けたこのアイデアで、複数種目を1名が見守りながら、AI アプリが練習メニューとフォーム指導を担う。そのコスト削減効果によって、月謝3,000円以下での「ゆる部活」(勝ち負けより楽しさを優先する部活)の運営が現実的になる、という主張だった。
提案として書いたものの、当然こんな疑問が残る。「そのAIアプリ、具体的に何を使えばいい?」
答えを出すため、現在市場に存在するスポーツテックアプリを調べてみた。結論から言うと、「ゆる部活」の全要件を満たすアプリは、2026年6月時点では存在しなかった。
既存のスポーツテックアプリを調べた
市場に存在するスポーツテックアプリは、大きく6つのカテゴリに分類できる(著者調査・2026年6月時点)。
① AIコーチ系
国内最大手はAIスマートコーチ(SoftBank)で、23種目のフォーム解析と練習メニュー生成を備える。海外ではHomeCourt(バスケットボール専用のAIドリル)、Hudl(プロ・大学チーム向け動画解析)が代表格だ。
これらは「もっと上手くなりたい競技者」向けに設計されており、技術指導の質は高い。しかし「楽しむことを第一にした初心者グループ」への適合は低い。フォームが崩れていれば容赦なく指摘し、上達を前提とした反復練習メニューを提案する。
② コンディション管理・分析系(日本)
国内で注目すべきはONE TAP SPORTS(株式会社ユーフォリア)だ。1,700チーム以上が導入し、パリ五輪では日本選手団の45%が利用したという実績を持つ。選手の体調・疲労度・練習強度を日々記録し、AIがコンディション変化を検知してオーバートレーニングを防ぐ設計になっている。月額費用は一般チーム向け5,000円、学校向け3,000円。東京都立高校56部活動への公式採用実績もある。
強くなる・怪我をしない、という目的に対しては高い完成度を持つ。しかし「楽しく続ける初心者グループ」への適用は設計思想として異なる——状態の最適化を前提としたツールであり、楽しさの継続を優先する用途にはフィットしない。フォーム解析機能は持たず、ローテーション管理や安全管理モードも設計範囲外だ。
③ スクール・クラブ運営管理系(日本)
既存の部活アプリ / クラブマネージャー(82〜110円/人/月)に加え、近年存在感を増しているのがスグラム(Sgrum)(株式会社ユーフォリア)だ。ONE TAP SPORTSと同じユーフォリアが展開しており、運営管理・コミュニケーション・決済に特化している。2,000組織・15万人以上(2024年時点)が利用し、スケジュール管理・保護者連絡・写真共有・オンライン月謝決済を1つのアプリに統合している。1世帯100円/月またはクラブ単位3,000円/月という低コスト設計で、部活動向け専用プランも提供している。
LINEやBandが非公式に活用されているケースも多い。価格・日本語対応・保護者連携という点での完成度は高い。ただしAI指導機能は持たず、ローテーション管理・安全管理モードには対応していない。
④ 施設・会員管理系(日本)
hacomono(株式会社hacomono)は、フィットネスクラブ・スポーツスクール向けの総合施設管理システムで、12,000施設以上に導入されている。会員管理・Web入会・チェックイン・予約・決済・データ分析を一元化し、QRコード・顔認証などにも対応する。コスト可視化と経営分析機能は他のカテゴリには見られない強みだ。
注目すべきは部活動地域展開への対応実績だ。成田市・千葉市・柏市の部活動実証事業で管理システムとして採用されており、地域クラブ運営の実績がある。料金は1店舗38,500円/月(初期導入費165,000円)と施設規模での設計になっており、スクール向けプランでも最低11,000円/月(108円/生徒)かかる。コスト可視化・経営支援機能は強力だが、AI指導・フォーム解析・ローテーション管理には対応していない。
⑤ チーム管理系(海外)
TeamSnap(登録3,000万人超)・Spond(無料コア機能あり)が充実した機能を持つ。スケジュール管理・出欠・保護者通知・支払い処理まで対応するが、日本語対応がなく、UIも日本の学校・地域スポーツの文脈にはフィットしない。
⑥ 安全管理系・カジュアル系
Life360やbSafeはGPS共有とSOS機能を持つが、スポーツ活動との連携はなく「別アプリ」として使う必要がある。GoodRecやSport.lyはカジュアルな一回限りのピックアップゲーム向けで、継続的なグループ活動には対応していない。
「ゆる部活」には、どれも中途半端だった
ゆる部活の運営に必要な機能を7つ定義し、既存の各カテゴリのカバレッジを整理した。
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import numpy as np
from matplotlib.colors import ListedColormap
from matplotlib.patches import Patch
features = [
'AI練習\nメニュー',
'フォーム\n解析',
'ローテー\nション管理',
'出欠管理\n(ゼロ圧力)',
'安全管理\nモード',
'コミュニティ\n機能',
'コスト\n可視化',
]
categories = [
'AIコーチ系\n(AIスマートコーチ等)',
'コンディション管理系\n(ONE TAP SPORTS等)',
'スクール・クラブ管理系\n(Sgrum・部活アプリ等)',
'施設・会員管理系\n(hacomono等)',
'管理系(海外)\n(TeamSnap等)',
'安全・カジュアル系\n(Life360・GoodRec等)',
'提案:\nゆる部活アプリ',
]
# 0=未対応, 0.5=部分対応, 1=対応
data = np.array([
[1, 1, 0, 0, 0, 0, 0 ], # AIコーチ系
[0.5, 0, 0, 0.5, 0.5, 0.5, 0 ], # コンディション管理系
[0, 0, 0, 0.5, 0, 0.5, 0.5], # スクール・クラブ管理系
[0, 0, 0, 0.5, 0, 0, 1 ], # 施設・会員管理系
[0, 0, 0, 0.5, 0, 0.5, 0.5], # チーム管理系(海外)
[0, 0, 0, 0.5, 0.5, 0.5, 0 ], # 安全・カジュアル系
[1, 1, 1, 1, 1, 1, 1 ], # 提案:ゆる部活アプリ
])
fig, ax = plt.subplots(figsize=(12, 7))
colors_map = {0: '#EF5350', 0.5: '#FFA726', 1: '#66BB6A'}
proposal_color = '#42A5F5'
for i in range(data.shape[0]):
for j in range(data.shape[1]):
val = data[i, j]
if i == len(categories) - 1:
color = proposal_color
else:
color = colors_map[val]
ax.add_patch(plt.Rectangle([j, i], 1, 1, color=color, ec='white', lw=2))
label = {0: '×', 0.5: '△', 1: '○'}[val]
if i == len(categories) - 1:
label = '○'
ax.text(j + 0.5, i + 0.5, label, ha='center', va='center',
fontsize=13, fontweight='bold',
color='white' if val != 0.5 else '#333333')
ax.set_xlim(0, len(features))
ax.set_ylim(0, len(categories))
ax.set_xticks(np.arange(len(features)) + 0.5)
ax.set_xticklabels(features, fontsize=10)
ax.set_yticks(np.arange(len(categories)) + 0.5)
ax.set_yticklabels(categories, fontsize=10)
ax.xaxis.set_tick_params(length=0)
ax.yaxis.set_tick_params(length=0)
for spine in ax.spines.values():
spine.set_visible(False)
legend_elements = [
Patch(facecolor='#66BB6A', label='○ 対応'),
Patch(facecolor='#FFA726', label='△ 部分対応'),
Patch(facecolor='#EF5350', label='× 未対応'),
Patch(facecolor='#42A5F5', label='提案アプリ(設計目標)'),
]
ax.legend(handles=legend_elements, loc='lower center',
bbox_to_anchor=(0.5, -0.22), ncol=4, fontsize=10, frameon=False)
ax.set_title(
'スポーツテックアプリのカバレッジ比較(著者調査・推計。2026年6月時点)\n'
'既存カテゴリはゆる部活の全要件を同時に満たさない',
fontsize=11, pad=12
)
plt.tight_layout()
plt.show()

表から読み取れることは単純だ。AIコーチ系は指導機能に強いが安全管理もローテーションもない。ONE TAP SPORTSはコンディション管理という明確な強みを持つが、楽しさ優先の設計ではなく、AI練習メニューやフォーム解析もカバーしない。sgrumは連絡・決済を統合した運営管理で現場の手間を減らすが、AI指導・ローテーション管理は機能範囲外だ。hacomonoはコスト可視化に優れ、自治体の部活動実証事業でも採用実績があるが、施設規模での月額コストは地域の小規模クラブには高い。全ての列に○が入るカテゴリが、現時点では存在しない。
「それぞれ組み合わせれば」という声もあるだろう。しかし、指導員1人で安全管理を担いながら複数のアプリを並行操作することは現実的ではない。ゆる部活を動かすには、一体化したツールが必要だ、という結論に至った。
提案——ゆる部活アプリに必要な7つの機能
以下は、プール監視員型AI指導モデルを実際に動かすために必要だと考える機能の一覧だ。体育教師・CSCSとしての現場経験を踏まえて整理した。
機能① マルチスポーツ対応 AI練習メニュー生成
野球・サッカー・バスケットボール・バレーボール・テニスといった複数の種目を、1つのアプリでカバーする。AIが参加人数と活動時間を入力として受け取り、その日のメニューを自動提案する。
最重要の設計思想は「上達」ではなく「楽しむ」こと。メニューの難易度はデフォルトで「全員が参加できるレベル」に設定し、上達を急がない。AIスマートコーチが23種目をカバーする点は優れているが、あくまで技術向上を前提とした設計だ。ゆる部活では「ここまで来れたらOK」という基準が低い設計が必要になる。
機能② カメラフォーム解析(称賛型フィードバック)
スマートフォンのカメラで動作を撮影し、AIがフォームを解析する。HomeCourt や AIスマートコーチが提供する機能と基本的には同じだが、出力のトーンを変える。
競技向けアプリが「ひじの角度が浅い」と指摘するとすれば、ゆる部活アプリは「体の使い方が安定してきている」と称賛する。スポーツドロップアウトの最大の原因が「楽しくない」であることを考えると、AIのフィードバックが萎縮を生むような設計は本末転倒だ。
機能③ 補欠なしローテーション管理
練習やゲームへの全員参加を保証する自動ローテーション提案機能。現在出席している人数を入力すると、試合形式・ポジション・交代タイミングを自動で組む。「ベンチに3年間座り続ける」ことがゆる部活では構造的に起きないようにする。
既存の出欠管理アプリには、こうした機能は存在しない。出欠を記録することと、全員を均等に使うことは別の問題だ。
機能④ フレキシブル出欠管理(ゼロ圧力設計)
「来られる日だけ来る」を前提とした出欠管理。欠席連絡不要・事前申告不要・前日にリマインドが届くだけ。「連絡しないと怒られる」「毎週来なければいけない」というプレッシャーを排除した設計だ。
参加者が自然に集まり、来た人数でその日のメニューをAIが組む——この流れを完結させるには、出欠管理そのものを軽くする必要がある。
機能⑤ 安全管理モード(監視員1名サポート)
プール監視員型モデルにおける「人間1名」の役割を支えるための機能群。
活動開始・終了の記録と保護者通知: 活動開始時にワンタップで記録し、登録された保護者に自動プッシュ通知
緊急連絡先リストの一括表示: 参加者全員の緊急連絡先を一覧表示。探さなくていい
ヒヤリハット記録: 軽傷・体調不良・トラブルの発生を簡易入力で記録・共有
これらを別々の安全系アプリで管理するのではなく、スポーツ活動の記録と一体化していることが重要だ。
機能⑥ コミュニティ機能(思い出の積み上げ)
活動写真の共有・今日の一言・練習記録のタイムライン。競争ではなく「あの日の楽しさ」を蓄積していく機能だ。保護者向けには、安全確認を兼ねた閲覧専用ビューを提供する。
「部活の思い出」は、勝敗ではなく日常のスナップで作られる。その文化的な機能を持つアプリが、スポーツ継続の動機になる可能性がある。
機能⑦ コスト可視化ダッシュボード(運営者向け)
地域クラブの運営者向けに、月謝収入・アプリ利用料・監視員報酬・施設費の収支を見える化する。「第三の財布」(toto助成金・スポンサー収入・企業版ふるさと納税)の入金記録欄も設ける。
ゆる部活の最大のリスクは運営者の資金不足による廃止だ。収支の透明化は、持続可能な運営のための基盤となる。
コスト試算——月謝3,000円に収まるか
前回の記事で試算したプール監視員型AI指導モデルのコスト構造に、アプリ代を加えて再試算した(いずれも推計)。

中立シナリオでは3,000円を超える可能性がある。ただし、アプリの普及規模が大きくなれば1人あたりのライセンスコストは下がる傾向がある(推計)。また、toto助成金や地元スポンサーからの収入で一部を補填できれば、保護者負担を3,000円以下に抑えられる可能性がある。「確実に3,000円以下」とは言えないが、「実現不可能ではない」という範囲には入ると考えている。
正直なところ
今回の調査と提案について、限界を正直に書いておく。
AIの能力に関して: 現行のAIフォーム解析は種目によって精度に大きな差がある(推計)。バスケットボールのシュートフォームのように「反復動作が映像で確認しやすい種目」は得意だが、サッカーの守備判断のような「状況依存の動作」はまだ苦手だ。AIが提供できるフィードバックには、現時点で明確な上限がある。
法的・保険上の課題: 専門資格を持たない監視員1名が複数種目の活動を見守るモデルが、実際の保険設計・学校側の許可・保護者の同意という面でどう扱われるかは、現時点では未整理だ。制度的な裏付けなしに「このモデルで動かせる」と断言することはできない。
アプリの実装コスト: ここで提案した7機能を実装するコストは、スタートアップ1社が単独で賄えるものではない可能性が高い。既存の部活アプリやAIコーチアプリとの連携・API統合、あるいは公的なサポートが現実的な道筋かもしれない。ユーフォリアのようにONE TAP SPORTSとSgrumを同一会社が展開している例は、「指導×運営」の統合に近い方向性として参考になる。
提案は「こういうものがあれば」という仮説の段階だ。次のステップは、実際に近しいアプリを使ってみて、何が使えて何が足りないかを現場で確かめることになる。
まとめ
現行のスポーツテックアプリは「AI指導」「コンディション管理」「スクール・クラブ運営管理」「施設・会員管理」「チーム管理(海外)」「安全管理・カジュアル」に分断されており、ゆる部活の全要件を単独で満たすカテゴリは存在しない(著者調査・2026年6月時点、推計)
株式会社ユーフォリアのONE TAP SPORTS(コンディション管理)とSgrum(運営管理・決済)は日本の部活動文脈への対応を進めており、hacomonoは複数自治体の部活動実証事業で採用実績がある。いずれも部分的な要件を満たすが、ゆる部活の7要件を一体化したツールは現時点では存在しない
ゆる部活アプリに必要な機能は7つ: ①マルチスポーツAI練習メニュー、②称賛型フォーム解析、③補欠なしローテーション、④ゼロ圧力出欠管理、⑤安全管理モード、⑥コミュニティ機能、⑦コスト可視化
コスト面では月謝3,000円前後での運営が「可能性の範囲内」にある(推計)。確実ではない
AIの精度・法的課題・実装コストは未解決であり、現段階は仮説の整理にとどまる
参考・調査対象アプリ(著者調査・2026年6月時点)
AIスマートコーチ(SoftBank、日本): 23種目対応AIコーチアプリ
HomeCourt(Homecourt AI Inc.、米国): バスケットボール専用AIドリル
Hudl(米国): プロ・大学向けスポーツ動画解析
ONE TAP SPORTS(株式会社ユーフォリア、日本): コンディション管理・パフォーマンス分析。1,700チーム以上、月額5,000円/チーム(学校向け3,000円)
スグラム / Sgrum(株式会社ユーフォリア、日本): スポーツスクール・クラブ向け運営管理・決済統合。2,000組織・15万人超、100円/世帯/月
hacomono(株式会社hacomono、日本): フィットネス・スポーツスクール向け総合施設管理。12,000施設超導入、38,500円/月(施設)・11,000円〜/月(スクール向け)
TeamSnap(米国): チーム管理プラットフォーム(登録3,000万人超)
Spond(ノルウェー): 無料コア機能を持つグラスルーツ向け管理アプリ
部活アプリ / クラブマネージャー(日本): 82〜110円/人/月の低価格管理アプリ
GoodRec(米国): ピックアップスポーツマッチング
Life360 / bSafe(米国): 安全管理・GPS共有アプリ
