市場 その1

「おかえり」との言葉も無い寮に帰り、何時もの通り母の鏡台の引出しを開けると百円札が一枚入っていた。家族四人の副食費である。「竹かご」をぶら下げ、創成川沿いの市場へ向かう。今では考えられない事だが、「毛ガニ」が百円札一枚で二杯(ひき)買えた。これを如何におかずにするか、ヤングケアラーの腕の見せどころである。取り出した身は丼ぶり一杯になった
身を三杯酢であえ食卓に、まさか毛ガニが
おかずになるとはと、両親、弟は喜んた。
それ以来、弟は「毛ガニ」が大好物になった。弟が旅立つ前に、彼のマンション(横浜市青葉区)近くの公園のベンチで「毛ガニ」を食べたかったが果たせなかった。