新連載スタート「霧の町で」
「霧の町で」
霧に包まれた町で、
少しずつ、確かに、何かが失われていく——。
この物語は、
静かな喪失と、怪異を描く
ダークファンタジー/ホラー連載です。
文章は note で、
朗読音声は stand fm(スタエフ) でお届けします。
朗読・声劇を中心に活動している雪笹 が、
テキストと音声、両方で紡ぐ自作自演の物語。
霧の町で、
あなたも少し立ち止まってみてください。
✦・┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦
「霧の町」第1話 引越し 作 雪笹
梅さと駅に止まった電車から降りたのは、私ひとりだけだった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
無人駅だとは聞いていた。
駅員さんがいない、という意味だと思っていたけれど――
本当に、誰もいない。
もうすぐ四月になるというのに、山の中だからか、吹く風はまだ冷たい。ぶるっと身震いする。
電車はゆっくりと走り出し、やがて見えなくなった。
一車両だけの単線電車は、鎌倉で乗った江ノ電に少し似ていて、どこか懐かしかった。
電車でここに来るのは、初めてだった。
「二葉」
改札の前に、祖母が立っていた。
「遠かったじゃろ。荷物は?」
「このバッグだけです」
そう言って、私は肩にかけたバッグを示す。
無言で歩き始めた祖母について行き、車の助手席に乗り込みドアを閉めた。
「譲二は元気か?」
「はい。今朝も、いつも通り仕事に行きました」
見送ってくれなかった、と言外(げんがい)に滲ませたが、
祖母は何も言わなかった。
「創は?」
「昨日、お母さんと出ていきました」
それきり、会話は途切れた。
私は仕方なく、窓の外に視線を向けた。
父と二人で暮らすのは、どうしても嫌だった。
転校も、正直言えば嫌だったけれど……。
ぽつぽつと民家が点在し、山の斜面には小さな畑が見えた。
駅から十五分ほどで、祖母の家に着いた。
「にゃー」
玄関先で、三毛猫が鳴いた。
「みーこ!」
祖母の飼い猫だ。
ここで暮らすことにした理由のひとつが、この猫だった。
祖父のお通夜の夜、
初対面だったのに、みーこは私の腕の中で丸くなって眠った。
あの温もりを、また感じたかった。
「二葉の部屋だ。家具はもう届いとる。すぐ夕食にするよ」
「はーい」
部屋は、玄関を入ってすぐ右側だった。
前は納戸だったはずだ。
和室が苦手だと伝えていたから、板敷きの部屋してくれたのかもしれない。
手を洗い、食卓につく。
ちゃぶ台なので、自然と正座になる。
おかずはすでに並んでいて、祖母がご飯と味噌汁を運んできた。
「ありがとうございます。いただきます」
熱い味噌汁が、身体の奥まで染み込んでいく。
体があたたまると、緊張が少し緩んだ。
その夜は、疲れていたので
みーこを抱いたまま、早々に眠ってしまった。
目を覚ましたのは、五時。
まだ薄暗く、家の中に物音はない。
祖母も、眠っているようだった。
せっかくなので、外に出て散歩をすることにした。
駅とは反対の方向へ、足を向ける。
しばらく歩くと、霧が出てきた。
真っ白で、まるで雲の中にいるみたいだった。
このままだと道に迷いそうだ、と思い、引き返そうとしたとき。
「にゃー」
聞き覚えのある鳴き声がした。
「みーこ?」
返事をするように、もう一度鳴き声がする。
少しの違和感を感じながら、その声に引かれるように私はふらふらと、霧の中へ足を踏み入れた。
つづく
✦・┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦
昨年末は多忙のため 少しおやすみしました
今年は無理のないペースで活動して参ります
よろしくお願いいたします(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
