「パイじゃなくて焼酎と“うまい輪”を運ぶイソジ」
太古の昔、私が“女子高生”と呼ばれていたころ。
渋谷にあったアンナミラーズで、初めて「パイ」を食べた。
甘くて美味しくて、行ったこともないのに「アメリカー!」って感じがした。
でも何より私の目を奪ったのは、パイじゃなく制服だった。
アンナミラーズ(通称アンミラ)は、当時は渋谷や横浜にあったアメリカンレストラン。
チェリーパイとピンクの制服で有名で、女子高生の憧れでもあった。
ピンクのジャンパースカートに白いエプロン。
澄ました顔でチェリーパイを運ぶお姉さんたち。
その大人っぽい姿に、ただただ見とれてしまった。
「私もあの制服を着て、あのお姉さんみたいにバイトして、チェリーパイを運びたい!」
そう、強く願ったのだ。
パイの甘さよりも、制服の甘美さに惹かれていた。

けれど現実の私は、いまや脳出血の後遺症もち。
足は大丈夫かな?いや、マルチタスクなんて絶対できない。
未来が見える――パイを落とす私。
そうやって勝手に心配していたけど、もっと重大なことを忘れていた。
アンナミラーズは若いお姉さんがバイトするところ。
イソジ(五十路)は、そもそも採用外だったのだ。
夢は「アンナミラーズの制服でチェリーパイを運ぶこと」。
でも現実のイソジは、朱色ジャージで焼酎と“うまい輪”を運ぶ。
これが私のフルコース。
