その笑み、半分ちょうだい。
わたしのベンツは、部屋の前に住んでいる。
ベンツといっても、チャリ🚲️である。
どう見ても軽トラ寄りの、あの愛車だ。
(詳しくは前作をどうぞ)
駐輪場に置くと、
サドルを取られたり、
かごにゴミを入れられたりする。
だから毎回、エレベーターで
部屋の前まで連れて帰る。
エレベーターで会うおっちゃんたちは、
だいたい優しい。
「アンタ、かっこいい🚲️のってるね」
「小さいのに、電動なの?」
ベンツ、わりと人気者である。
なーのに。
なーのにだよ。
ただひとり。
上の階から降りてくる、あのおっちゃん。
エレベーターの扉がひらく。
わたしとベンツが乗り込む。
不機嫌、丸出し。
しかも、立ち方がおかしい。
普通、エレベーターって、
正面を見るじゃん。
今、何階かな〜、とか。
なのに、あのおっちゃんは。
真横。
まるで、わたしのベンツを
見たくないかのように。
壁と、にらめっこである。

わたしだって、気をつかっている。
「ごめんなさい、ご一緒していいですか」
無視。
降りるときも、ゆずる。
「どうぞ、お先に」
すると。
しっし。
すんごい形相で、
追い払うかのように、しっし。
人に、しっし。
野良猫じゃないんですけど。
……いや。
朝から、とんでもなくムカつく。
集合ポストで見かけたときも、
何やら不機嫌そうだった。
このひとは、
なぜそんなに不機嫌なんだろうか。
もしかして、家に鬼嫁がいるのか。
「ちょっと、仕事してないなら、
下の郵便ポストでも
見に行くぐらいできんでしょうが」
と、怒鳴られているのか。
ま、勝手な妄想なんだけどね。
ところが、である。
先日、郵便局で見てしまった。
あのおっちゃんが、
ATMから出てきた。
その瞬間だった。
満面の笑み。
見たこともない、
満面の笑みで。

……アンタ、笑えるんかい。
きっと、年金かなにかが
入金されたタイミングなんだろう。
でもさ。
その笑みの半分くらいはさあ〜、
欲しいよね。
ATMには見せられる笑顔、
一枚くらい、
エレベーターにも配ってください。
ATMに満面の笑みで、
ご近所に、しっし。
その配分、おかしくないですか。
というわけで。
ほんとに、むかついたから、
一緒に歌って踊ることにした。
おっちゃん。
次はエレベーターで、
壁じゃなくて、
こっち向いてね。
