焼き芋トラック、本気で追った日。
脳出血で、5ヶ月入院した。
食事は、めちゃくちゃ制限されていた。
そんなある日。
病室の窓から、聞こえてきたのだ。
あの、メロディーが。
焼き芋屋さんの、あのメロディー。
「いしや〜きいも〜」
食べたい。
でも、食べられない。
窓を見ながら、思った。
「わたし、昔から、この音に弱いんだよな」と。

思えば、小学生の頃からだった。
わたしの家は、3階だった。
焼き芋屋さんのメロディーが聞こえると。
エレベーターなんて、待てない。
階段を、二段飛びで駆け下りた。
お母さんから、大急ぎでお金をもらって。
軽トラを、全力で追いかけた。

その様子を、見ていた人がいた。
近所の男子たちである。
翌日、言われた。
「みーちゃん、昨日焼き芋追っかけただろーーー」
否定できなかった。
事実だから。

さて。
時は流れ、入院を経て、退院した今。
移動販売のパン屋さんも、焼き芋屋さんも。
普通に、見かける。
でも。
スルーである。
完全に、スルーである。
なぜだ。
食べたいはずなのに。
たぶん、こういうことだ。
「手に入らないから、欲しくなる」
子供の頃は、お金が自由にならなかったから。
入院中は、食べることが許されなかったから。
だから、あんなに恋しかったのだ。

ちなみに。
今、もし本気で「食べたい」と思っても。
きっと、追いかけない。
いや、追いかけられない。
子供の頃は瞬発力があったが。
今、急に走ったりしたら。
確実に、どこか痛める。無理はしない。
そういう体になった。
これも、老化いや、成長というやつだろうか。

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