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第5回 SPRの原理— BLIとSPRを学ぶシリーズ —

みなさま、こんにちは。本シリーズでは、BLIとSPRを学びます。
BLIは Bio-Layer Interferometry(バイオレイヤー干渉法)、SPRは Surface Plasmon Resonance(表面プラズモン共鳴) の略であり、いずれも分子間相互作用をラベルフリーかつリアルタイムで解析するための代表的な手法です。テキストとしては、”A Compendium for Successful BLI and SPR Assays”、和訳すると「BLIおよびSPRアッセイを成功させるための総合ガイド」になりますが、こちらを使います。下記のリンクから入手可能です。

それでは、本論に入って行きましょう。

SPRは何を見ているのか?  

表面プラズモン共鳴から分子間相互作用を読み取る仕組み

SPR(Surface Plasmon Resonance)は、抗体と抗原などの分子間相互作用をリアルタイムで解析できる代表的なラベルフリー技術です。しかし、BLIと比較すると、SPRは「何を測定しているのか」がさらに直感的に理解しにくい技術でもあります。SPRでは、単純に「結合量」を直接見ているわけではありません。実際には、金表面近傍で生じる特殊な光学現象を利用して、分子結合に伴う屈折率変化を測定しています。

Figure 20A:まずは通常の全反射

Figure 20Aでは、金膜が存在しない状態が示されています。ここでは、単色光の収束ビームがプリズム内部で全反射しています。しかし、金膜が存在しないため、光は単純に反射されるだけであり、特定の角度で反射強度が低下することはありません。その結果、右側のグラフでは、どの反射角度でも反射光強度が一定となっています。これは、SPR現象がまだ発生していない基準状態を表しています。

Figure 20B:金膜による表面プラズモンの発生

Figure 20Bでは、表面に薄い金膜が導入されています。SPRの本質は、この金膜にあります。金には自由電子が豊富に存在しており、特定条件下では、光のエネルギーが金表面の電子集団へ移動します。このとき発生する電子の集団振動が「表面プラズモン」です。

特定の入射角では、光子のエネルギーや光子の運動量が、表面プラズモン生成条件と一致します。すると、光エネルギーの一部が表面プラズモン生成へ使われるため、反射光強度が低下します。これが右側グラフに現れる「ディップ」です。このディップが現れる角度を「共鳴角(resonant angle)」と呼びます。また、このとき金表面近傍には「エバネッセント場」と呼ばれる局在した電磁場が形成されます。SPRは、このエバネッセント場近傍で起こる変化に極めて高い感度を示します。

Figure 20C:分子結合による共鳴角変化

Figure 20Cでは、金表面にリガンドが固定化されています。ここへアナライトが結合すると、金表面近傍の屈折率(RI)が変化します。SPRでは、エバネッセント場内部の屈折率変化によって、表面プラズモンの共鳴条件が変化します。その結果、共鳴角がシフトします。

右側グラフでは、ディップ位置が横方向へ移動しています。つまりSPRは、「金表面近傍の屈折率変化を、共鳴角の変化として読み出している技術」と言えます。

そして、この屈折率変化は、実際にはセンサー表面近傍の質量変化と強く相関しています。
そのためSPRでは、分子結合量をRU(Response Unit)として扱います。
本文では、「1 RU ≒ 1 pg/mm² のタンパク質蓄積」という一般的な目安も示されています。

Figure 20. SPR検出システムの基本原理 (A) 金層が存在しない場合、単色光源からの収束光ビームによる入射光は、すべて同じ強度で反射されます。(B) 金層が導入されると、特定の入射角において、光子は表面プラズモン生成に必要なエネルギーと運動量を持つようになります。表面プラズモン生成に使われたエネルギーは反射光から失われるため、反射強度にディップ(低下)が現れます。(C) 増強エバネッセント場内の屈折率が変化すると、新たな共鳴条件が形成されます。その結果、共鳴角が変化し、反射強度低下位置(ディップ位置)がシフトします。

Figure 21:SPRが見ているのは表面近傍だけ

Figure 21では、SPRの「侵入深さ(penetration depth)」が示されています。
エバネッセント場は、金表面から離れるにつれて指数関数的に減衰します。
つまりSPRは、溶液全体を見ているわけではなく、金表面近傍の非常に薄い領域だけを見ています。
本文では、多くのSPRシステムで侵入深さは約210 nm未満と説明されています。
このためSPRでは、
- リガンドを金表面近傍へ固定化する必要がある
- 表面近傍で起こる分子結合だけがシグナルへ寄与する
という特徴があります。

Figure 21. SPRの侵入深さはセンサー表面からの距離に対して指数関数的に減衰する SPRのエバネッセント場は、金表面から離れるにつれて指数関数的に減衰します。侵入深さは一般に、指数減衰における1/e(37%)の位置として定義されます。多くの商用SPRシステムでは、侵入深さは約210 nm未満です。

Figure 22:SPRは速度論をリアルタイムで観測する

Figure 22では、平衡解析とリアルタイム解析の違いが示されています。
左側は、平衡到達後の応答値を用いてKDを求める「Steady State Affinity」です。
一方、右側では、結合と解離の時間変化そのものをリアルタイムで追跡しています。

SPRでは、association(結合)dissociation(解離)の時間変化を連続的に観測できるため、kon(結合速度定数)、koff(解離速度定数)、KD(平衡解離定数)を求めることが可能になります。

つまりSPRは単なる「結合量測定」ではなく、「金表面近傍の屈折率変化を、表面プラズモン共鳴条件の変化としてリアルタイムに検出し、その時間変化から分子間相互作用の速度論を解析する技術」と言えます。

Figure 22. リアルタイムアッセイは速度論情報を提供する エンドポイントアッセイでは、平衡到達後の応答値から平衡親和性を求めます。一方、SPRやBLIのようなリアルタイムアッセイでは、結合および解離の時間変化を直接観測できるため、平衡親和性だけでなく速度定数も求めることができます。平衡解析を行う場合には、すべての濃度条件において十分に平衡へ到達している必要があります。

BLIとSPRはどちらもラベルフリー技術ですが、BLIは干渉スペクトルシフト、SPRは表面プラズモン共鳴条件変化を利用している点が、本質的な違いになります。

今回は以上です。
本シリーズの過去の記事は以下のリンクからお読み頂けます。

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