第3回 ダウンストリームで Process Intensification をどう進めていくか:Process Intensificationを学ぶシリーズ
モノクローナル抗体(mAb)の製造において、ダウンストリームプロセス(DSP)は、キャプチャー、ウイルス不活化、ポリッシング、ウイルス除去濾過、限外濾過/透析濾過(UF/DF)、最終濾過(滅菌濾過)といった複数の工程から構成されています。これらは通常、逐次的に実施されるため、どうしても時間がかかり、効率面で課題が残ります。
実際、DSPはmAb製造コスト全体の50%以上を占めることが多く、精製対象となる物質量に応じて、各工程は3〜5日かけて順に進められます。そのため、ダウンストリーム工程をどう設計するかは、製造全体のコストやスピードに大きく影響します。
こうした背景の中で示されているのが、ダウンストリームにおける Process Intensification(PI) を、段階的に進めていくという考え方です。最初から連続プロセスを目指すのではなく、従来のバッチプロセスを出発点として、インテンシファイの度合いを少しずつ高めていく、という理解です。
レベル0:従来型のバッチプロセス
レベル0は、いわゆる標準的なバッチプロセスです。各単位操作は独立して実施され、培養上清の回収、Protein A キャプチャークロマトグラフィー、ウイルス不活化および凝集体除去、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーといった工程が、時間をかけて逐次的に進められます。
この段階では、ダウンストリーム全体で4〜5日程度を要し、COGsはおおよそ100ユーロ/g以上になるとされています。
レベル1:単位操作をインテンシファイする
レベル1では、DSP全体の流れはそのままに、個々の単位操作をインテンシファイすることに焦点が当てられます。具体的には、膜を用いた高速サイクリングクロマトグラフィー(RCC)や、膜または樹脂を用いたマルチカラムクロマトグラフィー(MCC)、連続的なウイルス不活化といった技術が挙げられています【注1】。
こうした技術を導入することで、各工程の生産性が高まり、コストは最大で30%削減、処理時間は最大で24時間短縮できる可能性があるとされています。レベル1の特徴は、比較的導入しやすく、効果が短期間で現れやすい点にあります。そのため、臨床製造段階において、時間やコストをすぐに改善したい場合の有効な選択肢と位置づけられています。
注1:
RCC(Rapid Cycling Chromatography)は、膜クロマトグラフィーを用いることで対流輸送を活かし、吸着・洗浄・溶出のサイクルを高速に繰り返すクロマトグラフィー手法を指します。
MCC(Multi-Column Chromatography)は、複数のカラムを切り替えながら運転することで、連続的な吸着・洗浄・溶出を可能にするクロマトグラフィー手法です。
レベル2:工程をつなぎ、同時に動かす
レベル2では、標準的、あるいはレベル1でインテンシファイされたDSPの単位操作を接続し、同時並行で運転します。各工程そのものは引き続きバッチモードですが、前の工程が終わるのを待たずに次の工程を立ち上げる点が大きな違いです。バッファー調製も含め、複数の工程が並行して進みます。
この運転方法により、工程全体の時間をさらに1日短縮でき、設備フットプリントは約半分に、施設全体のスループットは2倍になると言われています。レベル2の戦略は、従来型のフェドバッチバイオリアクターと組み合わせて使われることが多く、第III相臨床試験や商業生産といった、より大きなスケールでの製造段階を想定したものです。
レベル3:ダウンストリームを連続化する
レベル3では、DSPのすべての工程が連続フローとして統合されます。小容量の中間タンクを用い、それらをソフトウェアで制御することで、完全な連続プロセスが構成されます。各単位操作は、MCCなどを用いて連続モードで実施されます。
この構成はフェドバッチバイオリアクターと接続することもでき、その場合、DSP全体のタイムラインは従来の5日から1〜2日に短縮されます。さらに、連続パーフュージョン型バイオリアクターと結合すれば、エンドツーエンドの連続製造にも対応可能になります。
その結果、スループットや柔軟性が高まるだけでなく、設備フットプリント、設備投資、資源使用量の削減にもつながるとされています。
到達目標として示されている数値
クロマトグラフィー工程における理想的な目標として、COGsを15ユーロ/g未満に抑え、ダウンストリーム工程全体の処理時間を1〜2日に短縮することが示されています。これらは単一の技術で一気に達成できるものではなく、ここまで述べてきたような段階的な Process Intensificationを通じて実現されると言われています。
次回は
ダウンストリームにおける Process Intensification の中でも、特にコストと時間への影響が大きい クロマトグラフィー工程のインテンシファイに焦点を当てます。抗体のキャプチャーや不純物除去に使われるクロマトグラフィーは、DSP全体の中でも最もコストと時間を要する工程の一つですが、膜クロマトグラフィーやミックスドモード樹脂、Rapid Cycling Chromatography(RCC)、Multi-Column Chromatography(MCC)といった技術や運用方法を組み合わせることで、その前提がどのように変わり得るのかが示されています。単一工程の改善にとどまらず、連続キャプチャーやバッファー使用量の削減、設備サイズの縮小といった観点から、クロマトグラフィーが Process Intensification の中核としてどのように位置づけられているのかを整理していきます。
なお、ダウンストリームの説明を視覚的に分かりやすく説明した図が下記リンクの記事(12ページ以降)に掲載されていますので、ご案内します。
また、本シリーズの過去の記事は以下のリンクからお読み頂けます。
