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第9回 Bufferの選択は重要なのか?— BLIとSPRを学ぶシリーズ —

SPRやBLIでは、バッファーは単にタンパク質を溶かすための液体ではありません。バッファーの組成によって観測される会合速度定数(kon)や解離速度定数(koff)が変化し、その結果として解離定数(KD)も変化するため、バッファー選びは実験設計の重要な要素です。

DOEを用いて効率よく最適条件を探索する

バッファーを最適化するといっても、検討すべき因子は数多くあります。
例えば、
・pH
・塩濃度
・界面活性剤の種類や濃度
・添加剤
・バッファーの種類
などです。

これらを一つずつ変更して比較すると、実験数は膨大になります。また、複数の因子が同時に影響し合う場合には、一因子ずつ検討する方法では最適条件を見逃してしまう可能性もあります。
そのため、DOE(Design of Experiments:実験計画法)を利用して、複数の因子を同時に評価しながら効率的に条件を探索することが有効です。
DOEはSPRやBLIだけでなく、培地開発や培養条件の最適化など、バイオプロセス開発全般で広く利用されている手法です。

バッファーは分子の性質に合わせて設計する

バッファーの役割は、タンパク質を安定に保持することだけではありません。分子間相互作用を適切な条件で評価するための「反応場」を設計することも重要な役割です。

例えば、タンパク質表面には酸性アミノ酸や塩基性アミノ酸が存在しており、pHによってそれらの電荷状態は変化します。その結果、相互作用に働く静電引力や静電反発が変わり、会合速度定数(kon)や解離定数(KD)が変化することがあります。

また、イオン強度も重要です。塩濃度を高くすると、タンパク質同士の電荷の影響が弱まり、静電相互作用が遮蔽されます。そのため、静電相互作用が主要な結合では会合速度が低下する場合があります。

一方、疎水性の高いタンパク質では、表面への非特異的吸着が起こりやすくなります。このような場合には、Tweenなどの界面活性剤を添加することで不要な吸着を抑えられることがあります。

つまり、バッファーは「いつもPBSを使う」といった固定的なものではなく、解析対象となる分子の物性や相互作用のメカニズムを考慮して設計するものなのです。

BLIとSPRではバッファーに求められる役割が少し異なる

BLIとSPRはいずれも分子間相互作用を解析する手法ですが、バッファーに求められる役割には違いがあります。

SPRでは、センサー近傍の屈折率変化を利用して結合を検出します。そのため、DMSOや培地成分などによる屈折率の違いが、結合とは無関係のシグナル(バルクシフト)として現れることがあります。このため、試料とランニングバッファーの組成をできるだけ一致させることが重要です。

一方、BLIはセンサー表面の分子層の厚さの変化を測定するため、溶液の屈折率変化の影響を受けにくく、培養上清など比較的複雑な試料も測定しやすいという利点があります。

しかし、どちらの手法でも、バッファー条件はタンパク質の安定性や非特異的結合に影響します。そのため、最適なバッファー条件を検討することは、SPRでもBLIでも重要です。

非特異的結合もバッファーで改善できる

非特異的結合(NSB:Non-specific Binding)は、SPRやBLIにおける代表的な測定上の課題の一つです。NSBが大きいと、センサグラムに本来の分子間相互作用とは異なるシグナルが重なり、速度定数や解離定数(KD)の解析精度が低下する原因となります。

NSBはタンパク質の性質だけでなく、バッファー条件にも大きく影響されます。pHや塩濃度、界面活性剤の種類や濃度を調整することで、不要な吸着を大幅に低減できる場合があります。

バッファー条件を変更した際には、リガンドを固定化していないリファレンス面や、アナライトを含まないネガティブコントロールを測定し、観測されたシグナルが特異的結合によるものか、それとも非特異的結合やバルクシフトなどの影響を含んでいるのかを評価することが重要です。これにより、バッファー条件の変更によってNSBが実際に低減したのかを客観的に判断できます。

重要なのは、測定後の補正に頼るのではなく、NSBそのものが発生しにくい条件をあらかじめ設計することです。バッファーの最適化は、より信頼性の高い速度定数やKDを得るための重要な実験設計の一つといえるでしょう。

実験条件は「分子」から考える

SPRやBLIで重要なのは、「どのバッファーを使うか」ではなく、「分子の性質に合わせて実験条件を設計する」という考え方です。

実験では、メーカー推奨のバッファーや過去の実績がある条件をそのまま用いたくなります。しかし、タンパク質ごとに電荷分布や疎水性、安定性は異なるため、最適な条件も同じとは限りません。

そのため、pHや塩濃度、界面活性剤、添加剤などを適切に組み合わせ、分子の性質に応じた反応場を設計することが重要になります。

正しい速度定数や解離定数(KD)を得るためには、解析ソフトやフィッティング手法だけでなく、測定前のバッファー設計やコントロール実験を含めた実験設計そのものが重要です。良いデータは、解析によって生まれるのではなく、適切な実験設計によって生まれるということが、大切な考え方だと思われます。

今回は以上です。
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