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十二星座物語(エピソード①)

12の星から使命を宿された、人間たちの不思議な物語。正義感あふれる一人の男が、大切なものを守るために、自らを省みず、炎の中に突撃していく。主人公、牡羊座の奏斗(かなと)には幼馴染で魚座生まれのめぐるとの、切っても切れない繋がりがあった。彼らが大切にしているもの。それは白いひつじのぬいぐるみと、それににまつわる大切な思い出。彼らの生きる時間を、星たちがそっと繋いで、見えない糸でコンステレーションする。
月が形を変えて巡るたびに、その星座の織り成す人間模様を描いた、ファンタジーな12の星の物語。

あらすじ


Ariesの火消し


 アラームが鳴った。今日も長い一日の始まりだ。カーテンの隙間からわずかに零れる光の粒たちが、さあ朝だ目を覚ませと、まだ頑丈に閉じた眼を開かせるように、燦燦と奏斗かなとの上に降り注いでいる。

昨夜の仕事が長引いたせいで、身体は疲れ切っていた。今日は少し遠方に出向かなければならない。奏斗はその鉛のように重い体を起こし、跳ねた前髪をのっぺりと下方に撫でる。

「あちゃ。焦げてる…」

昨夜は疲れすぎていて、前髪を失っていることに全く気が付かなかった。さては火の子が飛んできていたか。奏斗は縮んだ前髪の束をオイルで馴らし、コップ一杯の水で常薬を流し込んだ。

4月4日生まれの牡羊座。巷では、桃の節句と端午の節句のちょうど中間、属に言う「ハーフ&ハーフの日」の生まれ。そのため、誕生日を話題にするたびに、周囲から、面白おかしくからかわれることも多かった。

言いたい奴には言わせておけばいい。人生において、そんなことはあまりにもくだらなくて、取るに足らない。なぜ自分がここに生まれてきたのか?考えるまでもない。この地球で、自分らしくあるための、とても重要な任務があるからだ。そのことに彼自身、尽力したいと心からそう思っていた。

いつからか正義のヒーローってものに憧れを抱いていた。人がやりたくない仕事に従事することに迷いはない。奏斗が小学校の頃、いじめの対象になった友人を助け、彼もそのグループからトバッチリを受けたが、一切怯まないその姿に、クラスからの信頼が集まった。生まれながらにしてそういう気質なのだと、奏斗は自負していた。

🔥

 夜がそっと忍び寄る、海沿いのコンビナートが並ぶ工業地帯。闇の怪物たちを横目に、奏斗は静かに真っすぐ歩を進める。空にはぽっかりと、三月の薄青みがかった丸い月が浮かんでいた。

「今日は満月か。そんなにこっちを見ないでくれよ」

さっきから月はずっと、後を追ってついてくる。奏斗はチラチラと月の方を伺いながら、参りましたと言わんばかりに、その背中を丸めて小さくにやりっと笑った。兎のシルエットを残す淡色の月に照らされながら、奏斗は先を急いだ。

着いたところは、古ぼけた二階建ての建物。かつては一階を店舗にしていたのか、ガラス戸の前に、今は動かなくなった自動扉のマットセンサーが置かれている。もちろん人影はない。もうすぐ4月だというのに、その夜はやけに寒かった。震える指でタバコに火をつけゆっくりと吹かす。立ちのぼる煙が、白い蛇のように蜷局を巻きながら、風に流されていく。

そこへ静かに忍び寄る影があった。もちろん合点承知の助。奏斗はその影に気付かれぬよう、そっとタバコを揉み消し、物陰に身を潜めた。するとその影は、辺りを伺いながら塀を乗り越え、建物の中へと消えていく。奏斗はそっと後を追った。

暗闇の中でその影は、裏庭にある勝手口から中へ入り、細い廊下を歩く。踏みしめるたびに、軋む床がきゅうきゅっと音を立てる。その奥に続くリビングのある部屋の隅で、影は突如歩みを止めた。

「さあ!やっとここに来れた。今日が最初で最後のショーの始まりだ!」

影の主はそう呟くと、背中に背負っていた荷物を下ろし、中からライターとオイル、そして真っ白でふかふかのボアで覆われた白いひつじのぬいぐるみを取り出した。

「アリー。やっと君のもとへ行ける」
影の主がライターに点火しようとしたその時、後ろから声がした。

「めぐる。久しぶり」
奏斗は影の主を刺激しないように、できる限り静かに、落ち着いたトーンで言った。

「おまえは誰だ?」
「俺だよ。奏斗」
「何でお前がここにいるんだ」
「なんでだろうな…」
「おまえ、今頃何しに来た…。邪魔しにくんな」

めぐるは保育園の頃から奏斗の幼馴染みだった。温厚で生き物を大切にする優しい性格で、先陣を切って前に出る奏斗の後ろを黙ってついていく、そんなおとなしい存在だった。ただ、いつもどこかうわの空で、空想の世界を旅しているような、不思議なオーラも放っていた。

奏斗はめぐるを落ち着かせようと、ゆっくり彼の目線までしゃがみこみ、手を振りながら「邪魔なんてしないよ」というサインを手で送って見せた。

「おまえ、今日誕生日だろ。ここに帰ってくるような気がしてたんだ」
「今更…なんだ。身勝手にここを出て行ったのはお前の方だろ」
めぐるは表情を変えずに言葉を吐いた。

奏斗は幼いころから消防士になる夢を抱いていた。もともと地元愛の強い彼は、この場所で夢を叶えたかったのだが、家族の都合で止む無く、親しんだ街を出ることになった。

「あの日。なんで…来てくれなかったんだ」
めぐるは、これまでには見たこともないような、鬼の形相で、仄暗いわずかな月の光に照らされた奏斗の顔を見上げた。
「ごめん。父親が倒れて、放っておけなかった」
奏斗はうな垂れて肩を落とした。

「アリーはお前が来るのを待ってたんだぞ」
「そうだったんだ…すまないことをした」
「アリーは奏斗のことがずっと好きだったんだ」
「はっ!おまえら、付き合ってたんじゃなかったのか?」
「いつもお前は、後ろは振り返らずに前ばっか見て、光の中にいた。それに比べて俺はちっとも冴えなくて…。気付かなかったのか。アリーが想い悩んでたこと…」
奏斗は自分の鈍感さに返す言葉がなかった。

「ごめん。全く知らなかった」
めぐるは奏斗を上目遣いにキッと睨んだ。

「アリーは今どこに❓」
「死んだ。もうここにはいない」
めぐるの瞳から希望の灯が消え、その細い体から、怒りと悲しみの黒煙が上がるのを奏斗は感じ取った。
「なあ…もう邪魔しないでくれよ。これ以上俺の気持ちをかき乱さないでくれ!」

めぐるはライターを再び手に取り、アリーと名の付くぬいぐるみに火を点けようとした。
「めぐる。俺はお前の夢を一緒に…」

すると次の瞬間、小さな爆発音と共に古びたカーテンに炎が引火した。
「まずい!このままでは瞬く間に火が拡がってしまう」

奏斗はすかさず、側にあった消火器で鎮火を試みるも、みるみるうちに火の手は二人に迫る。だが、彼にとっては現実の火など怖くはなかった。使命に燃える彼の体は、もはや熱さなど感じない。その火の威力よりも、自分の内側に宿る情熱の炎の方が数倍熱い。

絶対にこいつを助けて、共に生きてやる。絶対に死ぬな…生きろめぐる…

🔥

眩しくて目を伏せた。いや、目が覚めた!?夢・・・だったのか?凄い汗だ。でも、自宅にいる。辺りを見渡し、確認するも、そこにはめぐるの姿も、炎に包まれたあの家もさえも、跡形もなく消えていた。

奏斗は慌てて起きた拍子で、するりとベットから滑り落ちた。そしていつもと様子が違うことに気付く。なんだろう…この匂い。それは焦げたカーテンでも、オイルの匂いでもなく、その場を浄化する爽やかなハーブのような、落ち着いたアロマな植物の香りだった。

テーブルの上に置かれた薄紫のアロマキャンドルが、先ほどまで火を灯していたであろう痕跡を残していた。

いったい誰が持ってきたのだろう。奏斗には皆目見当がつかなかった。

ただ、そこにあるのは、どこまでも突き抜ける太陽。その光の矢の矛先は、未来で出逢う、数々の部屋へと、その方角を示すように、果てしなくその波を繋いでいくのだった。


牡羊座(Aries)の正義感溢れるその性分は、まさに生まれたばかりの子供と同じ。素直で正直で、自分の望みに忠実です。

取り繕うこともなく、ありのままでそのままというのが最もふさわしく、12星座中で最も単純明快。その内側の情熱は一度火がつくと一気に燃え上がるが、意外に冷めやすい性質も持っています。

情熱を失わないために、常にその炎を燃やせるだけの火種を探している人物かもしれません。理屈ではない。とにかくはじめの一歩を踏み出すということは、それ相応の動力が必要となります。

その力を蓄えて前に進めるのは、牡羊座の心の奥底に、情熱という「燃料」が常備されているということなのかもしれません。

この生まれたばかりの前に突き進む力を、次の星では、内側に感じるセンサーとして認知していく(己を知る)部屋へと進んでいきます。

牡羊座の解説


#創作大賞2026
#ファンタジー小説部門

#牡羊座第1ハウス



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