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プレイアブル・エネミー 2050 年の参院選|夢想広告代理店 vol.12

第一章 夢想広告代理店への相談


「売れるゲームのアイデアがあるんです」

POLIX Games の CEO、黒川が僕たちの会議室でニヤリと笑った。

「フルダイブVRで他人の人生を完全体験するゲーム『プレイアブル・エネミー』。まだプロトタイプですけど、これ、絶対バズりますよ」

私——夢想広告代理店の社員は、資料を眺めた。確かに面白そうだが、よくあるVRゲームの域を出ていない。

「で、何の相談ですか?」

黒川は前のめりになった。

「2050年の参議院選挙、めちゃくちゃでしょ?政治家たちがSNSで24時間罵り合って、もはや政策論争じゃない。リベラルと保守、AI推進派と人間至上主義者が殺し合いみたいな論争してる。これ、うちのゲームにとって最高の宣伝材料じゃないですか」

「つまり?」

「政治家たちに実際にプレイしてもらうんです。でも普通のネット広告じゃ誰も注目しない。夢想さんの『広告の先出し実装』で、壮大な虚構PRを打ちませんか?」

黒川の目が輝いていた。完全に商売人の顔だ。

「開発費もまだ50億円足りないんです。
話題になれば投資家が食いつく。一石二鳥です」

第二章 虚構から戦略を始めよう


私たちは戦略を練った。

「つまり、存在しないゲームを政治家に『体験』させて、その反応を世間に見せることで、開発前から話題にしたいと」

「そういうことです!」黒川が手を叩いた。「今の政治状況なら、絶対に炎上します。炎上は最高のマーケティングですから」

私は現在の政治情勢を分析した。
狙い目のトレンドはこうだ。

  • Twitter(X)での政治家同士の24時間バトル

  • #AI政治家導入 vs #人間政治家死守 の存在論争

  • #ネオ既得権益を潰せ vs #デジタル格差是正 の新階級対立

  • 火星移住政策をめぐる #地球第一 vs #多惑星共栄 論争

  • 長寿薬配布問題での #平等延命 vs #選択死権利 の生命倫理対立

「この分断状況を逆手に取って、『相手の人生を完全体験する』というコンセプトを投げ込むわけですね」

「まさに!批判合戦に疲れた人たちが、きっと飛びつきますよ」

第三章 投下。


架空のゲームパッケージを主要政治家たちに送付。メッセージカードにはこう書いた。

「政治の分断にお疲れではありませんか? あなたを最も激しく批判する相手の人生を24時間完全体験してみませんか? きっと新しい発見があります —— POLIX Games」

狙い通り、政治家たちは即座にSNSで反応した。

@田中議員「変なゲームが届いた。POLIX Games?聞いたことない会社だが、『相手の人生を体験』って発想は面白いかも」(RT 12,000)

@山田大臣「最近の企業は政治家をVRのネタにするのか。しかし『相手の人生』なら、火星移住反対派の諸君にこそ体験してもらいたいものだ」(RT 34,000)

SNSは案の定、大炎上した。

第四章 予想外の変化


それから1ヶ月後、奇妙なことが起き始めた。
まず、山田大臣のツイートが変わった。

@山田大臣「佐藤議員の火星移住政策について考えてみた。私とは手法が違うが、人類の未来を案じる思いは同じかもしれない。昨夜、彼女がAI娘に『お父さんのような政治家になりたい』と言われて涙していたことを知った」

これまで「地球裏切り政策」と批判していた相手への、突然の理解を示すツイートだった。しかも、誰も知らないはずのプライベートな情報まで含んでいた。

一方で、佐藤議員は逆の変化を見せた。

@佐藤議員「地球第一派の皆さんの『故郷を守りたい』という気持ちは分かります。山田大臣が毎朝、水没した故郷の写真に手を合わせていることを知りました。その重みを軽視していました」

誰も知らないはずの山田大臣の私生活に言及していた。しかし、全員がいい方向に変わったわけではなかった。

鈴木議員は、むしろ攻撃的になった。

@鈴木議員「長寿薬既得権益世代の本音を聞いた。『200歳まで生きて当然』『若い世代は我慢しろ』。家族の前でさえ、この傲慢さ。確信犯だ」

田中議員は、政治への絶望を露わにした。

@田中議員「みんなの本当の気持ちを知ってしまった。表向きは『人類のため』と言いながら、心の中では保身ばかり。自分も含めて」

第五章 社会の気づき


政治家たちの急激な変化と、プライベート情報への言及に、メディアとSNSが騒然となった。

@政治記者A「各議員が他議員の『非公開情報』に言及。これは異常。どうやって知ったのか?盗聴?監視?」

@IT系インフルエンサー「これ、技術的におかしくない?フルダイブVRで、なぜ他人のリアルタイム生活データが分かる?」

@プライバシー権団体「明らかな個人情報の不正取得。法的措置を検討します」

#POLIXGames監視疑惑 がTwitterトレンド入り。

国会でも問題視された。鈴木議員は委員会で「我々の生体データまで監視されている可能性がある」と政府を追求。田中議員は国会を欠席し、「政治家の脳内プライバシーはどこまで許されるのか」とコメントを出した。

第六章 ヒーロー登場と技術暴露


混乱が最高潮に達した時、黒川は記者会見を開いた。涙ながらに語る姿は、まさに理想に燃える若き起業家だった。

「皆様、この度は私の行動で社会を騒がせてしまい、
申し訳ありませんでした」

黒川は深々と頭を下げた。

「私は、今の政治分断状況に心を痛めていました。相手の本当の人生や背景を知れば、きっと手を取り合えるはずだと信じていました」

記者が質問した。

「技術的にどうやって他人のリアルタイム生活データを取得したのですか?」

黒川は一瞬躊躇したが、決意を固めて答えた。

「我々は『完全人生再現AI』を開発しました。全国の監視カメラネットワーク、スマートフォンからの音声データ、生体認証決済記録、SNS行動履歴、さらに医療目的で収集された脳波データ——これら全てを統合解析し、対象者の人生を完全に再現します」

会場がざわめく。

「つまり、監視していたということですか?」

「監視ではありません!」黒川は力強く否定した。「既に存在している公的データインフラを活用しただけです。監視カメラは治安維持目的、音声データは利用規約同意済み、脳波データは医療目的で既に政府が収集済み、我々は法的に問題のないデータのみを使用しています」

技術者としての黒川が前面に出た。

「AIが再現するのは、朝の歯磨きから深夜の読書まで、対象者の完全な一日です。家族との会話、一人の時の表情、誰にも言えない悩み——これら全てを体験者が追体験できます」

「それは人権侵害では?」

「違います!」黒川の目に涙が光った。「相手の家族のこと、抱えている責任、背負っている歴史、そして弱さまで知れば、憎しみは消えるはずです。山田大臣が毎朝水没した故郷に祈る姿、佐藤議員がAI娘に語りかける愛情、田中議員が一人で抱える実存的孤独——これらを知って、まだ『敵』と呼べますか?」

会場が静まり返る。

「プライバシーと平和、どちらが大切ですか?私は技術で人と人をつなげたかっただけなんです!」

第七章 POLIX Gamesの功罪


記者会見後、社会は二分された。

賛成派:「これこそ真の相互理解」「プライバシーより平和が大事」「政治家なら当然の犠牲」「技術進歩の必然」

反対派:「完全な監視社会の完成」「技術による人格侵害」「デジタルファシズムの始まり」「人間性の終焉」

しかし、皮肉なことに黒川の技術は大企業から引く手あまたとなった。

「従業員の本音を知りたい人事部」「顧客の潜在意識を探りたいマーケティング部」「家族の真意を知りたい親たち」

投資オファーが殺到。黒川の会社の企業価値は一夜にして10兆円になった。

ゲームの正式発売時、購入には以下が必要となった:

  • AI心理カウンセラーとの面談

  • 法的同意書への署名

  • 対象者からの書面同意

  • 政府機関への事前報告

それでも予約は殺到した。

エピローグ 浅はかな計算


後日、黒川は私に本音を漏らした。

「いやー、まさかあんなに感動してもらえるとは思いませんでした」

黒川はビールを飲みながら笑った。記者会見での涙はどこにもない。

「あの涙、演技だったんですか?」

「半分は本気ですよ。でも半分は確実に演出でした」黒川はあっけらかんと答えた。「理想を語れば投資家は食いつくし、メディアも同情的に報道してくれる。一石二鳥です」

「政治を変えたいという思いは?」

「それもあります。でも正直、一番は金です。政治分断をネタにして50億円調達できたんですから、これほど効率的なビジネスはないでしょう」

黒川は窓の外を見た。街には監視カメラが溢れ、人々は互いの「真の人格」を知ることができるアプリをスマートフォンで使っている。

「山田大臣と佐藤議員が和解したのは想定外でしたけど、おかげで『技術で世界を変えた』って評価されて。株価も上がったし、結果オーライです」

「それでいいんですか?」

「いいも悪いもないでしょう。僕は技術者で、起業家です。世界を変えるのは政治家の仕事。僕の仕事は売れるものを作ることです」

黒川は肩をすくめた。

「でも面白いですよね。『プライバシーと平和、どちらが大切ですか?』なんて大層なこと言いましたけど、結局みんな他人の秘密が知りたいだけ。だから売れるんです」

私は答えた。

「それも含めて、人間ですからね」

「そういうことです。理想も金も、両方あっていいじゃないですか」

浅はかで、計算高くて、それでも結果的に社会を動かしてしまった男。技術と金、理想と現実——すべての境界が曖昧な世界で、私たちは次の「存在しない商品」を考え始めていた。


株式会社夢想広告代理店

P.S.
あなたも明日、誰かの人生を覗き見したくなるかもしれません。
その時、理由なんてどうでもいいのです。


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