タヒチの星の下4話
南十字星
時々、日本の両親から電話や手紙がくる。
決まって「食事は摂れてるのか必要なものは送るから言いなさい」
「勉強は頑張ってるのか」これぐらいですが、いつも口うるさい父は、驚くことに何も言わない。
ボクが長い間苦しんでいたことなんて、これっぽちも思ってないだろう。
勿論、ボク自身がそういう内容を避けていることもあるのですが、もし、
アメリカで恋人ができた。それも男だと話したら腰を抜かすのは目に見えているからなんです。特に保守的な考え方を持つ父の耳へでも入ったものなら即帰国しろと言われるのは目にみえている。ボクの実家は旧家で何かと厳しく、自分で判断して右から左へ物事を動かすことすらできない。とても厳しい家訓がある。でも、ばーちゃんだけは、何でも話せて幼少の頃は、必ずめざまし菓子を枕元に置いてくれていた。電話口から聞える鹿威(ししおどし)が、まだ響いていた。
ばーちゃんの作る具沢山のみそ汁が食べたい。元気にしてるのかなと思いながら電話を切った。
この部屋の窓際に座って外を見ると色んな人種の人が行き交う。他にも犬の吠える声、車の騒音、赤ん坊の泣き声思えば遠くに来たものだと思う。ノスタルジックなここから見える風景は好きだ。言葉の勉強とはいえ文化の違いに本当に驚きと発見の毎日だった。タオは、ニューヨーク、ロスアンゼルス、シアトルへと移り住んだと聞いた。ミュージカル俳優を目指しダンスや芝居、歌と特訓をして何度もオーディションに挑んでいた。
「合格したらお前をとびっきりのいい席で観せてやるからな」と約束してくれた。ボクはこの約束が現実になるようにいつも祈った。夢はブロードウェイだが、力試しでロスアンゼルスでのオーディションに合格したが、足の故障で舞台は降板した。それでもたまにデート中タップダンスを見せてくれた時もあった。負けても輝いているのは最高だと思う。夢を諦めないって素敵なことだ。舞台でタオのダンスを観れたら「あそこで踊っているのはボクの恋人だ」と自慢したい。
些細なことで口論になる時もあった。ボクの嫉妬だがタオは、よく人に見られる。誘うような目つきや仕草をされるのだ。特に女性、流石に足元から髪に視線を流す女性がいるとボクは、すかさず他の所へ行きたいとかここはイヤだとワガママをいう。ボクが言うのは変だが彼は美しくセクシーだ。誘いにのるとは思わないが、万が一のこともあるので安全策を考えている。
「折角、来たのになんだよ!」と言って言い訳もせず強引に店を後にしたりだ。「ここの店のチェリーパイは直ぐ売り切れるのにな・・・」


「How childish you are selfish! 子供みたいだなお前のワガママ」と理由も聞かず言うので口論になるのです。
「あ。あ。やってしまった・・・」とボクは後悔するのですが、心でゴメンと思いつつ「熱々アップルパイのアイスクリームのせが急に食べたいから」と取ってつけたような言い方をして次の店を探す。呆れた顔をしてタオが車のドアを開け乗り込む。ため息をつくタオには悪いけど、車を走らせればいつものタオに戻ることボクは知っていました。

いつだったかタオが「南十字星(正確には南十字座)を見たことがあるのか」と聞かれたことがあった。「もちろん無いよ」と応えると
タオはその歴史を語った「南十字星は、遠い昔、タヒチの人達が新天地を求め航海する時に南十字星を目指したんだ」
小さいから見つけるのは大変だけどまだその星には幾つかの意味があるんだ。」延々と説明してくれたが、半分以上解らなかった。
英語では理解できたものの時折、入るフランス語はさっぱりだった。
日本からは見えない星なのでボクは大変興味をもった。
机の中からタオからもらった大切なネックレスを取り出して、まじまじと
見ていた。タヒチでは愛する人に真珠を贈る習慣があると言っていたが
重さもあるので普段は付けない。綺麗な箱に入れて毎日愛されている実感を
かみしめている。
連絡をしてこないということは、アルバイトで疲れてヘトヘトなんだと
思っている。3つも4つも抱えていればそうなるよな。とボクも理解していた。その分、トムやマーガレットがよく来るようになった。
相変わらず騒がしいトムだが、アルバイト先のピザ屋で売れ残ったピザを
沢山もってくる。いつもトムはボクの部屋のドアをトントントン、トントントトン早く打つので直ぐトムだと分かる。部屋のドアを開くとトムの顔が隠れるぐらいの箱入りピザの山をテーブルの上に置く。
「トニー食うぞ!」「こんな量食べられるわけないじゃん」「残ったら冷蔵庫にしまえば明日ぐらいまで食える!」
「トムの家で食べれば?いや俺のうちは、もう食べ飽きて断られるんだ。あとはお前に頼むしかない」と言って笑っている。
「確かに美味しいけど太るな」・・・というと「アメリカ人はな、ピザとポップコーンで体ができてるんだ!」意味不明なことを言い仕方なく
受け入れた。
「なぁトニー最近はどうだ?」「なにが?」「タオとの仲だ。幸せか?」
「あ。あ。幸せだけど数日連絡もないし、会ってないよ」「そっか」
「タオも相当忙しくしてるらしいぞ。この前、車で彼が移動してるところを
見たんだ。信号で止まっている時に声をかけると割りのいいアルバイトを
見つけて3,4つやってるみたいだ」冷蔵庫からコカ・コーラを取り出し
飲みながらまたピザを頬張るトム「そうなんだ」相槌をボクは打った。
改めて思ったことがあってな。「え?なに?」
「タオは、トニーにぞっこんだぞ!バックミラーにお前の写真が貼ってあったぞ」
「え?そうなの?ボクはそれは見てないかも」
ペーパータオルで口を拭きながら。「いいかトニー何で掛け持ちでアルバイトをするのか考えたことあるか?生活の為も勿論ある。がだ!何か金が必要だと俺は思う」
内容は知らんが、何か特別な何かがあるに違いない。ボクは見当もつかなかった「マーガレットも友達も俺らはお前達が愛し合ってることは知っているけどな」「トニー今のお前の気持ちはどう変化したんだ」
「そうだなータオと出会って、人生の一部が燃えた。いい意味でね」
「初めての体験だから深いというか。とにかくタオのことは、いつも
ボクは思っているよ会えないのは少し寂しいけどね仕事だから仕方がない」
「オイオイ・・・トム食べかす床に落とすなよ。掃除大変なんだぞ」
あっという間に2箱分空になっていた。
「マーガレットとは会ってるのか?」「たまに来るよ学校でも会うし」床の食べクズを拾いながら言った。「マーガレットは、ボーイフレンドができたってこの前自慢してたよ」
「へぇよかったな。その内紹介してくれるらしい」
食べ終わったトムは窓から見える景色を見て「ここからタオの姿が見える日を待ってんのか」「まるでロミオとジュリエットだなトニー」
俺も欲しいなぁカワイ子ちゃんでセクシーな子いないかぁ・・・」
手でボディーラインを作るトム
「その内できるよトムはアメフトしてたからモテルはずだよ。たぶん?」
ボクの3倍はありそうな大きな体だが優しい性格をしていた。
トムが来ると一週間分の掃除をするぐらい汚して帰るのだ。でも何故だか
顔を見るたびにホッとする。ロミオとジュリエットか・・・と思いつつ
確かにこの窓から60年代の車のようなビービーッというレトロなクラクションの音をずっと待っているような気がする。
シアトルに来てはじめ心に棘があった時期があったけどトムという親友は、一緒に抜いてくれた。「社会のちゃんとした所で堂々と生きれ!」そう言ってくれたのは、トムだった。自分のことを理解してくれる友達は本当にいいなと実感していた。「トニー30バックス貸して?来週には戻す」
「あ。あ。いいよ」と言って30ドルを財布から出しトムに渡した。
左手で「またな」とボクの心臓付近を軽く叩きオレンジ色の夕暮れになった外のシルエットに浮かぶいつものトムは帰って行った。
