【実録】昭和〜平成〜令和サラリーマン生存記#9 「トラブル対応編2」
「トラブル対応編2」
〜燃える装置と寝袋の男、そして赤いケーブルの惨劇〜
顧客の怒りは頂点に達し、ついに米国ベンダーの責任者が召喚された。ホワイトボードに書かれた「BAD!」の一言と、なぜか信頼を勝ち取ったインド人エンジニア。深夜のマシン室で目撃した
「寝袋で漫画を読む男」の正体とは。
そして、私が犯した「赤いケーブル誤抜」という絶体絶命のミスが、予想だにしない「最高のご褒美」を連れてくる。
〜インド人エンジニアと「BAD」な回答〜
トラブルの嵐は、国境を越え、人種を越え、ついには物理的な「火」となって吹き荒れた。顧客の怒りは頂点に達し、ついには米国ベンダーの責任者を日本へ呼び寄せる事態にまで発展したのである。
米国からやってきたベンダーの責任者を伴い、重苦しい空気のなかで顧客との協議を終えた。宿題を山ほど抱えて帰社し、すぐさま対策会議が始まる。
顧客の最初の質問は正に禅問答、
「このトラブルについて、どう思うか?」
多分顧客は真剣に反省しているのかという意味だと思う。
日本人向けの抽象的な問いに対し、米国の責任者はホワイトボードに迷わず巨大な文字を書いた。
「BAD!」。そして皆で大笑い。
米国人に向かってこの質問ムダだよね、身も蓋もないがこれ以上の正解はない。
続けて「ソフトの開発担当は何人だ?」という、これまた意図の読めない質問が飛ぶ。だが、これが顧客にとっては信頼の分岐点だった。次の日、
「インド人です」
その回答に、顧客は初めて深く頷いた。「インド人は真面目で優秀だ。彼らがやっているなら任せよう」
えー何これと思ったが、顧客は過去に経験しているらしい。
実際、米国での試験中、日曜返上で親身に助けてくれたのはインド人エンジニアたちだった。一方、現地の白人エンジニアたちは休みになれば影も形もなかった。偏見ではなく、それが当時の「現場の真実」だったのだ。
〜燃える装置と、隣の寝袋〜
数週間後、また悪夢の火が噴いた。装置の電源部分から煙が発生したのだ。
現場はパニックになり、顧客より原因が特定されるまで全国のマシン室に常駐員を置けという厳命が下った。
案内された顧客のマシン室。整然と並ぶラックの片隅で、私は奇妙な光景を目にした。
……寝袋に入って、漫画を読んでいる男がいる。
「あれは……?」と尋ねると、顧客は淡々と答えた。「ああ、あっちのPBX(交換機)も先日燃えてね。メーカーに常駐させてるんだよ」
見れば、日本を代表する巨大メーカーのロゴ。
不謹慎ながら
「ああ、あんな大企業でも燃えるんだな」と、
妙な親近感と勇気が湧いてくるのを感じた。
〜真っ赤なケーブルと、決死の脱出〜
トラブル対応の最終評価試験。深夜のマシン室で、事件は起きた。
実運用のケーブル(青)と区別するため、試験用には目立つ「真っ赤なケーブル」を使用していた。これなら間違えるはずがない――そう過信していた。
撤収作業中、私は「赤いからこれだ」と一本のケーブルを抜いた。
「あーーー!!!」
背後で顧客の絶叫が響く。なんと、実運用のケーブルも「たまたま赤かった」のだ。
「……すみません!」
一、二秒で挿し直したが、通信は一瞬途絶えた。顧客の怒声が飛ぶ。
「なぜ抜いたんだ!」
「……フダ(識別タグ)が付いていなかったので、試験用かと思いました」
咄嗟の言い訳に、顧客が絶句した。本来、重要拠点には行き先を示すフダを付けるのが鉄則だが、顧客側もミスをしていたのだ。
今だ、私は「失礼します!」と叫ぶなり、携帯を握りしめて各所に連絡し始めた顧客を尻目に、全力の駆け足でマシン室を脱出した。逃げ出せたと喜ぶが、結局逃げられず後日、たっぷり絞られて始末書を書かされた。ただ結果として私は
「マシン室出禁」となった。
監視の厳しい密室に入らなくて済む。それは、私にとって最高のご褒美だった。
〜メルトダウンの果てに〜
半年後、長く苦しいトラブルの連鎖は、ようやく終息の時を迎えた。また2年後自社で開発を行い、高品質の日本製に替えたら、完全に終息した。流石日本製です。開発してくれた皆様に感謝!
振り返れば、F事業部長という人は、
基本的には「いい人」だった。
ただ、感情の起伏が常軌を逸していただけだ。怒り始めると歯止めが効かず、周囲を巻き込んでメルトダウンしていく。
だが、ゴルフでも必ずお土産をくれたし、会食の帰りにも必ず、家族への土産として巨大なホールケーキを持たせてくれた。ただ独身の若手が「金曜の夜に貰って、土日の朝昼晩、二日間ケーキ漬けでした……」と、糖尿病一歩手前の顔で嘆くのも、今では微笑ましい思い出だ。
彼は、ライオンの親が子を崖から突き落とすように、私たちを鍛えようとしていたのかもしれない。ただ這い上がれずに脱落していった同僚も少なくなかった。
しかしあの地獄を生き抜いたおかげで、私はどんな理不尽なゴルフ場でも、どんな炎上するビジネス現場でも、冷静に対処できる「鋼の精神力」と「悪知恵」を身につけることができた。
感謝。。。します?
