親切にされればされるだけ、身動きできなくなる人だっている。
小説に出てくる登場人物に対して自分が年齢を重ねるにつれて見方が変わってくるということはよく聞く。
例えば‥私の周りの本好きの間では田辺聖子の乃里子三部作に出てくる剛。
自分勝手でモラ気質の男だが、よく考えたら主人公の女も大概だから年とったら可愛く思えてきたわ。と私の友達なんかは言うのだが私は年を重ねても先に挙げた男は嫌いなのでそれはきっと私が未熟故だろうと思っていた。
だが大きく見方が変わった小説の人物がいる。
吉田修一「熱帯魚」の大輔だ。
若き大工の主人公・大輔は、水商売をしていた子連れの美女・真実(まみ)と同棲している。そこへ、毎日引きこもって熱帯魚ばかり眺めている大輔の義理の弟・光男が転がり込む。大輔は、周囲からは面倒見が良い「いい人」と見られているが、無意識のうちに自分の価値観を押し付け、相手を追い込んでしまう厄介な一面を持っている。大輔の押し付けがましい親切や、自分本位な鈍感さ‥。
恋人の真実は大輔に「親切にされればされるだけ、身動きできなくなる人だっているの。それにもし、その親切にしてくれる人が淋しそうな人だったら.......」本質を抉るような台詞を吐く。
私が最初にこれを読んだ時は20代前半。
大輔はただただ一生懸命なだけなのになんてひどいことを言うのだろう、と思っていた。
だが、年齢を重ねるにつれて真実の言うことは最もだと思えてきた。
大輔は格好良いことを言う割に行動が伴っていない。
中三の少女と性的な行為に及んでボヤ騒ぎを起こしたり、鴉(カラス)をTシャツで捕まえ段ボールに入れて持ち帰ったり、大量の100円ライターを大量に夜の区営プールに投げ入れたり。
不器用とも少し違う、そうした精神のバランスを欠いた行動が、読者にある種の不安感を与える。
この人は人助けなんてやってる場合か?と。
大輔は「今年の夏はお前らを旅行に連れて行ってやる」と意気込むが誰も乗り気ではない。
引きこもりの光男は大輔が旅行のために貯めていたお金を盗んで家を出ていく。「お前がいたらお前が邪魔で前にすすめない」と書き置きを残して。
大輔の根底にはいつでも「俺は一生懸命なのに誰もわかってくれない」との思いがある。
若い頃は「大輔、一生懸命やってるのに可哀想」と応援したものだが、今なら「見返り求めてやってるならやめれば?」と思う。
大輔の「厄介さ」は、真実の言葉に全て凝縮されている。
「親切にされればされるだけ、身動きできなくなる人だっているの」
大輔のようなタイプと接していると、人は無意識に「この人に親切にしてもらったら、その見返りに何を要求されるのだろう?」と身構えてしまう。
これは、相手の自立や境界線を踏み越える「善意の暴力」だ。
大輔のようなタイプは、相手の「助けてほしい」という声を聞いているようでいて、実は「自分を必要としてくれる相手」を確保して自分の精神を安定させたいだけというエゴが透けて見える。
若い頃は、その「一途さ」や「一生懸命さ」というベールに騙されがちだが年齢を重ねると、その裏にある「見返りを求める心の重さ」に気づいてしまう。
私が真実の言葉を「最もだ」と思えるようになったのは、多くの「本当に助けを求めている人」と「依存してくる人」の境界を日常的に見てきたからかもしれない。
本当に相手を助ける人は、自分が必要とされることを求めない。
相手が自分なしでも歩いていけるようになることを願う。
一方で、大輔の親切はどこか重い。
それは相手のためというより、「必要とされたい自分」のための親切に見えてしまうのだ。
二十代の私には見えなかったものが、今は見える。
それが成長なのか、単なるひねくれなのかは分からない。
ただ、『熱帯魚』を読み返すたびに、私は真実の言葉の重さを思い知るのである。
「親切にされればされるだけ、身動きできなくなる人だっているの」
『熱帯魚』を読み返しながら、私は「誰かのため」という言葉の危うさも考えるようになりました。
40歳を超えたら自分のためだけでなく何か人のために‥と今まで漠然と思ってきました。
中二病のように「力が欲しい力が欲しい」と思いながら。大輔のようにはなりたくない。
40をちょっと超えた今、なりたかった自分になれているだろうか。
私は本当は小説、書きたくないです(笑)苦手だしすごくエネルギーが要ります。
いつもより反応も少ないし心もバキバキにやられます。
それでも書くのはやはり未来の看護師が今よりも良い環境で働けたらいいな、と思っているから。現状を変えたい。
制度や現場の課題を正面から語るより、物語の中で登場人物と一緒に悩んでもらった方が、届くこともある。現場で感じたことを、説教ではなく物語として残したいと思っています。だから今、小説を書いています。
まーくん(看護師出身の国会議員:石田まさひろ氏)ように、現場の苦しみを政治というテーブルに乗せて直接変える道もある。しかし私には政治という舞台で現場を変える才能も経歴も適正もない。
だから書き続けることで、どこかに届いたらいい。
一人の読者に届き、その人が誰かに話し、少しずつ景色が変わっていく。
そんな小さな連鎖を信じて、私は今日も物語を書きます。
創作大賞も終わったので今後はマイペースに更新します。
あ、たまにスキくれる医学書院さん、私に連載を下さい(笑)
物語で、看護師の未来を少しでも変えられるなら、本望です。
いつもマガジンに入れて下さる優しいクリエイターさんたち。
ありがとうございます😊

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