【小説】Lv.2 幽体Wi-Fiの国会議員VS俺 〜正義が制度に変わるとき〜
本作は、医療現場における「現場の正義」と「制度設計の論理」の衝突を描いたフィクションである。
人手不足や過重労働といった課題の中で、現場の声はいかにして政策へと変換されるのか。
看護師と国会議員の対話を通して、「記録」が制度を動かすための証拠=弾薬となるプロセスを描く。
理想は光。制度は影。
その狭間で、俺たちは働いている。
「優しくしてくれた看護師さん」
そう言われるたび、胸の奥で氷が鳴る。
笑顔の下では、疲れきった炎が音もなく燃えている。
俺の優しさは、いつから“職務”になったのだろう。
献身は祈りだったはずが、
いつしか制度の隙間を埋めるパテになっていた。
もう、魔法のような言葉で現実を誤魔化すのはやめたい。
「正義を制度に変える」――そのためのツールとは‥
何世代先の働き方まで考えて仕事をしていきたい。現場の声を未来へ残すためのフィクション第2弾。
夜勤明け。またクタクタで帰る俺に先輩が「気をつけて帰ってね!夜勤明けの看護師なんてサボテンくらいのIQしかないんだから!」と声をかけてくる。
‥‥サボテンくらいのIQって何だよ。
そもそもサボテンにIQあんのか?
サボテンIQの俺が考えながら歩いていたらまた人影が‥。
「え‥‥?アンタ‥嘘だろ。何で。だってまだ生きてんだろ‥?」
「私くらいになると生きていても幽体Wi-Fiで自宅のスマートスピーカーからでも飛ばせます。(データ、戦略)」
俺の前に現れたのは、看護師出身の政治家だった。
‥‥いや今もか。
俺、今まで選挙なんてロクに行ったことなかった。でも、先輩から『あの議員さんが落ちたら、厚労省の看護課が潰される』って聞いてから、真面目に投票行くようになったんだよ‥。
まったく、この街は夜勤明けに幻を見せるのが好きらしい。
「夜勤明けの脳機能低下はエビデンスが取れています。あなたの疲弊は、政治的アクターとしてのアドバンテージになり得ますよ。(データ、戦略)」
「……いや、俺ただのカフェイン切れで寝不足看護師だからな?国会議員にでもスカウトされんのか?俺の政治力なんて、明日朝9時までに書類を終わらせる力しかないぞ。」
ナイチンゲールの理想論にケンカ売った俺が、今度は幽体Wi-Fiの議員とバトルだ。
議員はナイチンゲールと同じくついてきた。
コンビニで缶ビールを2つ買おうと思ったが、
「あ、議員さん。アンタ飲めないんだっけ?政治家なのにアルコールに弱いって、どうやって飲み会を乗り切ってるんですか?コーラがいいか?」
「よく知ってますね。」
「俺、アンタの秘書の講演聞きに行ったことあるんだよな。そん時に酒飲めねぇ、って言ってた気がする。」
コンビニ店員が俺と缶ビールの間にいる空気を怪訝な顔で見てくる。
やっぱりこの幻は周りには見えていないのか。
帰りながら議員の幻と話す。
「秘書さん、アンタのことすげー褒めてた。すげぇ慕ってる感じがした。」
「私はそんな素晴らしい人間ではありませんよ。」
「でも‥身近な人に慕われるっていいことじゃねぇか?」
言っててちょっと悲しくなった。
俺は身近な人を喜ばせられているのだろうか?
家に帰って缶ビールとコーラで幻の議員と乾杯する。
俺は1番聞きたかったことを聞いた。
「アンタの秘書の講演を聞いて‥どれだけすごいことを成し遂げてきたかはよく知ってる。でもな、行き場のない精神科患者のアパートを見つけてきてあげたエピソード‥あれは素晴らしいけど‥ああいうのは美談にしたらダメじゃないですか‥?」
「ほう。それは何故?」
なんかその余裕ぶった態度にイラっとした。
「その行動は愛だけど‥制度の外でやったことは責任の所在を曖昧にする。次に同じことが起こったとき、制度として誰も患者さんを守れねぇじゃねぇか!」
「ほうほう、なるほど。だが、その怒りこそが変革の第一歩だよ。」
「アンタが一回限りの奇跡を起こすことで、行政や病院の責任逃れを助長していませんか?俺たちは奇跡を求めるのではなく、制度の進歩を求めなきゃいけないんじゃないですか?」
議員は俺の言葉を聞いて、ふっと笑った。
「で、あなたの言う制度とやらは、誰が動かすのです?人の情熱なくして制度が回るとでも?」
「……いや、俺は今ただの寝不足看護師で、制度を回すどころか、今から風呂で沈むだけだわ‥。」
俺がそう返すと、議員はまた例の「ほうほう」と笑って、缶コーラを片手に持ち上げた。
幽体Wi-Fi、便利すぎだろ。
「あとな、加算についても言いたいんだけど。加算が増えてお金は取れるようになったけど、その分書類や手間が増える。あんたは記録が大事だって言うけど、今の記録は患者のためじゃなくて、カネのためと監査のために時間を奪ってるんですよ!加算が増えても、その分、書類とハンコが増えるだけ。ベースを上げなきゃ、俺らの体力は書類に吸い取られて終わるんだよ!」
怒鳴るように言ってから、自分でも驚いた。情熱と疲労の境界は、夜勤明けにはもう曖昧だ。
八つ当たりだとは思いつつ‥ダメだ、止まんねぇ。ナイチンゲールには理想を捨てるなと言われたが、議員よ、俺の現実は制度でしか救えねぇぞ。
「転倒リスク評価シートに退院支援シート、身体拘束シート‥監査用に保管。これで患者の顔見る時間減ってるんだよ!俺たちはもっと患者の顔が見たい。加算じゃなく、夜勤手当てを倍にして看護師の定着率上げろよ。それなら書類減らしてもいいだろ?」
「あなたの言う通り、制度は不完全です。書類は煩雑で、現場を疲弊させている。だが、知っていますか?その『加算』一つを取るにも、現場からの数字と声が何百と必要になる。あなたが今、『カネのための書類』と吐き捨てたものが、『ベースを上げるため』の唯一の『証拠』となり、国会を動かす『武器』になるんです。」
議員は消えた。缶コーラだけが、テーブルに残っている。
──情熱なくして制度は動かない?
チクショウ、俺は政治家にはなれない。
でもな、あんたの言いたいことはわかったよ。
俺たちが「無理です」と声を上げ、カネのためだと罵るその書類を、疲弊の証拠として正確に残すこと。それが、いつかあんたたちが制度を変えるための唯一の弾薬になる。
美談はいらない。奇跡も求めない。
俺の正義は、今、目の前の患者を救うこと。
あんたの正義は、その救いを制度として未来に保障すること。
俺たちは、違う場所で、同じ目標に向かって戦っているのかもしれない。
疲れた。寝る。
正義が制度に変わる時。
その時まで、俺は現場(ここ)で、文句を言いながら記録を残し続ける。
国会議員編で手に入れた武器
Lv.2 弾薬:正義を制度化する戦略。
(完)
⚠️厚生労働省の医政局の下に「看護課」は現存しています。
⚠️【理想論バトルシリーズ:フィクションに関する注意書き】
この対話は、実在の人物の公的な言動やエピソードをモチーフとして構成された完全にフィクション(創作)の物語です。
登場人物の発言、行動、およびその解釈はすべてフィクションであり、実在の人物の考えや行動を代弁するものではありません。
夜勤明けに幽体Wi-Fiが飛んだり、偉人が缶コーラを飲んだりすることもありません。たぶん。
ある国会議員
看護師として超エリート街道を歩み、政治家となった人物。男性看護師の黎明期に東京大学医学部保健学科を卒業(看護師・保健師)。その後、聖路加国際病院(内科)や東京武蔵野病院(精神科)での臨床経験と、日本看護協会での政策立案経験という、現場と制度の両方を知り尽くした異色のキャリアを持つ。
看護師が個人の献身や情熱だけで過酷な労働環境に耐えるのではなく、「公定価格である診療報酬の仕組み」や「看護職の賃金」といった制度によって報われ、守られるべきと主張し続けてきた。
誰もが、俺たちの声が国に届くことを願っている。
だが、現実は甘くない。俺たちの「現場の悲鳴」は、数字として、崩壊の事実として示されている。
ナイチンゲールの理想が届かなかった現代。この本が語るのは、制度が生んだ過酷な現実だ。
この本は、日本の医療現場の危機を徹底的に暴いた一冊だ。
☑️ 現場の悲鳴が、数字になる理由
長時間夜勤や過労。看護師たちが次々と現場を去る理由。 それは、制度が生んだ過酷な労働環境と、その中で直面する流産、うつ、過労死という深刻すぎる現実だ。年間10万人以上が現場を離れている。
☑️ 日本の医療を潰す「看護師不足」という爆弾
超高齢化社会のド真ん中にある今、この看護師不足は日本の医療全体を崩壊へと加速させている。それは、いつか誰かが解決する未来の話ではない。今、この瞬間に、俺たちの足元で起きている危機だ。
本書は、このクソみたいな現実から目を背けるなと社会に訴えかける。これは、俺たち看護師だけでなく、いつか医療に頼るすべての人に関わる、最悪の「警告の書」だ。
制度は冷たい。でも冷たさは、時に人を守る鎧にもなる。
正義とは何か、制度とは何か。 俺は、ふと、ある映画を思い出した。
厳格な判事である父を、都会の弁護士である息子が弁護する『ジャッジ 裁かれる判事』だ。 判事である父が長年貫いた「情熱による正義」は、制度(法律)の法廷という場で、「血も涙もない証拠と記録」によって裁かれようとする。個人の信念が、公的な制度にかけられるとき、真に人を救うのは、どちらの武器なのか。
俺たちが今ここで記録に残すのは、怒りや疲弊という感情ではない。制度の弾薬となる、冷徹で確固たる「証拠」だ。
その制度と証拠こそが、俺の、そしてあの議員の、最終兵器なのだろう。
⚠️Amazonアソシエイトはしておりません。
⚠️「働き方を変えるツール」の応募が終わったので疲弊した夜勤明けの「俺」がサボテンIQを回復させるため、今後は更新を隔週とさせていただきます。Lv.3「明治のナイチンゲールVS俺」の更新まで、少しお時間をいただきます。
#働き方を変えるツール
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