ふたり 7日目

【5月11日(木)】
 随分と長い時間話を聞いていたようで気が付いたら0時を回っていました。私が目を白黒している間、母と京華は至って冷静でした。
「京華さん、それは本気なの」
『本気ですよ。でなければ、ここまで生霊で生きてきてないですよ。いや死んでいるんですが』
 母は今の京華の話が実現できると思っているようです。京華が私の中に入るってもう意味分からないですよね。
「受肉って言い方は正しくはないわね」
『そうですね。ですが、生きている人間に溶け込むのでそういう意味では受肉です。まあ私の意識は消えるわけですが私の能力は受け継がれるはずです。同じ家系ですから』
「理論上はそうね。ところで京華さんはまだ能力があるの?」
 母が真剣な目をして京華に尋ねました。当たり前ですが、ここで京華に能力が無ければ意味もないですからね。
『もちろん。ただ、降霊をした瞬間に私は消えてしまうわ。全て生霊として維持するために力を回しているから』
「さすがの天才でもそれが限界なのね」
『そうですね。あるいは、過去の京子なら出来たかもしれません』
 なんだか二人で話が進んでいますがちょっと私の事なので本人を置いてけぼりにするのは止めて頂きたいですね。
「ちょっと二人とも!」
「もう夜中なんだから静かにしなさい」
『そうですよ、京子。ご近所の人に迷惑でしょう』
「冷静にツッコまないでよ!」
 悔しいですがいつもと立場が逆転しました。なんで私がツッコみなんてしているのでしょう。ぐぬぬぬぬ。
『日付も変わってしまいましたし、少し急ぎましょうか。できれば京子が20歳になる、能力がきちんと発現する前に私が溶け込んでおきたいのです』
「それは何故?」
 冷静ではない私の代わりに母が京華に尋ねます。自分の娘の事なのにずいぶんと冷静な母ですね。ちょっと冷徹過ぎませんかね。
『先ほども言いましたが、おそらく京子は霊能力を制御できないでしょう。時代も違いますし。そして、制御できない状態の京子に目をつける輩がいます。時代が変わっても人間の業の深さは変わりませんからね』
 こんなか弱い可愛い女子なのでみんなの注目を集めてしまうのは仕方ないですよね。京華も良く分かっているじゃないって思います。
『京子、ちょっとそれは違うからね。京子は可愛いじゃなくて美人の分類だから』
「そうよ京子。京華さんは可愛い系だけど、あなたは美人系なのよ」
「二人してなによもう!お願い京華!心を読まないで!」
 半泣き状態で訴えたのですが、無理な話しだったみたいです。
『今私と京子は根っこの所で繋がっているのでどうしても京子の思考が私にも流れてきてしまうの。受肉の前段階みたなものよ。だからごめんねそれは無理なの』
「じゃあなんで私には京華の考えていることが分からないの?」
『それは私が今話していること以外の思考を停止しているからよ。このくらいは訓練すればだれでもできるようになるわよ』
「っく・・・お姉さん京華にあれだけ萌えたのに今は憎たらしい」
「京子ってたまに変になるのよね。わが娘ながら将来が不安だわ」
『私も京子がいずれ田村家当主になるって考えると悪寒がします』
「・・・酷いよ二人とも」
 私はもうあきらめてすみっこの方で小さくなることにしました。そして意図せず親に私の癖がばれつつあります。思春期にエッチな本を読んでいた時、ノックもせずに母が入ってきた時と同じ恥ずかしさがあります。
『えっと話を戻しますね。歴史は繰り返すってことです。除霊協会の人達もまだ気が付いていないようですがたぶん京子に才能があるって分かればたぶん拉致すると思いますよ』
「・・・今の離脱した除霊協会の人達を見ていると否定できないわね」
『ですが、20歳になる前に私と一緒になればたぶん大丈夫なはずですだからこそです』
「それで、受肉って一体どうするの?」
『大変言いにくいのですが』
 京華がなぜか目を逸らしました。しかもちょっとアンニュイな感じの逸らし方です。なんでしょう、ちょっと嫌な予感がします。
「どんな方法なの」
 私が改めて先を促します。
『・・・私と京子が大人の接吻をすることです』
「ええええええええええええええええええええええええええ」
 私の叫び声がまた部屋に広がりました。

『人間が一番他人に近くなりかつ、何かを移す時に使われる手法は昔から決まって接吻だったんですよ』
「確かにキスすると風邪が移ったりするもんね」
『ちょっとそれは私も分からないのですが、きちんと私の力を京子に流し込むには少し長めの接吻が必要です。だから、大人な接吻と言いました』
 母は額に手を当てています。そして何やらうなり声をあげています。
「理論は分かるわ。でもまさか娘が先祖とキスするのが唯一の方法なんて思いもしなかったわよ」
『ごめんなさい。色々な方法を研究したのですよ。例えば額をくっつけるとか、指と指をくっつけるとか、抱きしめるとか。でもダメなんですやっぱりそれじゃ全てが不完全なんです』
 京華もかなり申し訳なさそうにしています。うん、これはもう仕方ないですね。たぶん時間もそんなに残っていないでしょうし。
「えっとそれでちょっと気になっているんだけど、除霊協会の人達ってどうなっているの」
『ああ、あの人達ですか。めんどくさかったので土曜日まで偽物の私を追いかけるように暗示をかけてありますよ』
「は!?」
 母が信じられないくらい目を見開いています。
「え、あの人達をそんな簡単にあしらえるの?没落しているとは言え現代においてもそれなりに力がある人達なのに?」
『ええ』
「そんな軽々しく・・・」
 そんな風に少し明るい雰囲気になった時、インターホンの音が鳴りました。
『うーん暗示が効かない人もいたのね』
「京華、誰が来たか分かるの?」
『除霊協会の会長さんだね。あ、元会長かな?』
 京華の話を聞いて母が出て行きました。
「これは会長さん、どうかされましたか」
「ふざけるのもいい加減にしろ。ここに京華がいるだろう」
「だからって正面から来るなんてどうしたんですか」
「うるさい。もうなりふり構っている暇はなくなったのだ」
 そう言うと、会長さんは土足で家に入り込んできました。ただ、入り込んできた瞬間に京華が私の手を引いてアパートの外に飛び出ました。窓から。え、窓から?
「ちょおおおおっとけえけ」
『京子、落ち着いて。今あの人に構っている時間はないの。それに誰にも見られてないから安心して』
 よく見なくても私は空を飛んでいます。飛んでいるというより京華にしがみついて浮いているというのが正しいですが。
「どこにいくの・・・」
『とりあえず遠く』
「京華」
『何よ』
「部屋に戻って」
『なんで戻らないといけないのよ』
「あの人との決着をつけないと、もうどうしようもないから。仮に京華と私が一緒になったとしてもあの人を説得というか、御さないと安全とは言えないでしょ」
『・・・ぐうの音も出ないくらいの正論ね』
「でっしょー。戻ろ、京華。大丈夫、私達二人ならね」
『はあ・・・京子がそう言うなら戻りましょうか』
 京華が折れてくれてよかったです。本当にちょっと会長さんをなんとかしない限りたぶん私の身の安全は保障されないと思うんですよね。
 部屋に戻ると、会長さんは静かに座っていました。そして母もなぜか静かに座っていました。
「えっと」
『二人とも何故そんな落ち着いて』
 私と京華が困惑していると、母が口を開きました。
「あなたたちが出て行ったこの短い時間に会長さんの話を聞いていたのよ。それだけ」
「・・・私だって決して無理強いしたいわけじゃない。先祖代々、京華を許すなと言われてきているだけだ」
『うーん一体なんでそんな。そもそも先祖代々って。確かにたぶん多くの霊能力者は私の事をきっと恨んでいると思うけれども、そこまでって』
「私の苗字を聞けば、何か思い出すかもしれんな」
『あなたの苗字?』
「そうだ。私の苗字は御剣だ。霊関係としての初代は御剣ツルという女性だ」
『・・・・!』
 京華が目を見開いてしまっています。一体どういうことなのでしょうか。
「京華、黙っていても私達は何も分からないよ」
『そう、御剣さんなのね。現代にも響くかぁ』
「どういうことだ」
 会長、えっと元会長ですかね。凄い目力です。
『私がちゃんと生きていた時代の話。あなたの先祖である御剣ツルは私にべったりだったの』
「べったり?」
『うーん。なんというか友達になろうとしてくれていたのよね。でも私は私で妹の京子の事で頭一杯だし、そもそも才能があるって自覚もあったから友達なんていらないって思っていてあしらっていたの』
「うわー・・・京華、それは昔とは言ってもひどすぎるよ」
『今はそれが良く分かりますが、でも当時はなんとも思っていなかったんです。いつしかツルは私からも離れていき、私は大災害を引き起こしました』
「京華、貴様はツルの能力を知っていたのか?」
『いえ。ツルはもしかしたら話をしてくれていたかもしれないけど、何も知らなかったわ。知ろうともしなかった』
「・・・そうか。それで我が先祖のツルは貴様を許さないということにしたんだろうな」
『どういうこと?』
「御剣家の能力は代々悪霊・生霊のコントロールだ。支配と言えば分かりやすいかもしれないな。条件もあり、時間制限もある。だがコントロールした霊はそれが解けた時に無条件で除霊される」
『・・・そんな力、私ですら聞いたことないわよ』
「それは貴様が聞かなかったと言っただろう。そして御剣家の始まりは貴様が邪見に扱ったツルからだ。それまで、そのような能力はなかっただろう」
 京華はまた黙りこくってしまいました。うーん深刻なのは分かるのですがどうしたんでしょう。
「京華?」
『ごめんなさい。少しだけツルが言っていたことを思い出しました。京子が拉致された時、もちろん他の人達にもその話は伝わっていました』
「それで?」
『ツルははっきりと、私なら京華ちゃんの役に立てる。京子ちゃんを助けることができる。だから私にも協力させてってね。でも私はそれを邪見に扱って、結果大災害を引き起こした』
「そりゃツルさんは京華の事許さないよ」
「そんな話だったのか。そこまで細かいことは現代までは伝わっていない。もしかしたらツルはそういう許せない話を笑い話にしていたのかもしれないな。ただ、私達には笑い話ではなく、真剣な話しとして京華は許すなと伝え聞いてきた。それは本来であれば未然に防げたはずの大災害を引き起こした張本人だからこそ」
『・・・』
「そして今、目の前に貴様がいる。だから除霊したい。御剣家は今こそ没落しているのは事実だが貴様を除霊できれば名が上がる。そして今は亡きツルの無念も晴らすことができる」
 さて、皆さんもちょっと引っ掛かりませんか。素人である私ですら引っ掛かったのです。私のお母さんのイタコの力でツルさんを降ろして話を聞いたらそれで済むのではないでしょうか。というか、済みますよね。うん。
『京子、安直な発想すぎるわ。それにさっきあなたのお母さんも限度があるって言っていたでしょう』
「もうまた思考読み取って!いや仕方ないんだろうけどさ!!」
「京華さんどういうこと?」
『京さんの能力でツルを降ろせば万事全てが解決するんじゃないの?って京子は思っているんですよ』
「・・・京子それはいくら何でも安直すぎるわ」
「時期田村家当主がこんな思考なのか」
 京華もお母さんも元会長さんもみんな酷いですよね。私、こんな扱いを受けた事今まで・・・あったかもしれないですけど記憶にございません。
「だ、だって。素人なりに色々考えてみたらそうとしか思えなかったんだもん」
『まあ、それはそうかもしれないですね。ところで元会長さん』
「なんだ」
『あなたにはまだ御剣家の霊能力が残っているのですか』
「・・・本筋から離れた除霊協会に参加している時点で察しがつくだろうに何故わざわざそれを聞く」
『いえ。念には念を入れてです。今まで溜め込んでいた悪霊をここで解き放たれてコントロールされては流石に私達も勝てません。私は除霊されて終了です』
「そうか。良い事を聞いたが残念ながら私にはほぼ残っていない。コントロールなんてできない」
『そうですか。それを聞いて安心しました』
「だが、貴様を除霊する方法等はいくらでもあるぞ」
『・・・会長さんも私の話を聞いていただけませんか。聞いた後に私を除霊するかどうか決めて頂きたいです』
「ちょ、京華!」
『京子、黙っていて。過去にも決着をつけるためにはここで会長さんに全てを話す必要がある。そうじゃないとツルにも面子が立たないわ』
「いいだろう、話くらい聞いてやろう。それでも除霊するに決まっているがな」
 元会長さんはどっしりと座り込みました。本気で長時間話を聞く姿勢ですね。私、そろそろ寝たいし明日も大学あるんだけどどうすればいいんでしょうか。
『京子、頑張って起きていて』
「・・・はあ。姉であり妹でありご先祖にそんな風に言われたら頑張って起きていますよ」
 私の回答を聞いて京華は安心したのか、ゆっくりと先ほど私とお母さんに話したことを元会長さんにも話しました。

 少しエッチな漫画で見た【朝チュン】ってやつをまさかこんな形で経験するとは思いもしなかったです。部屋にはしっかり日差しが差し込んできていて、スズメがちゅんちゅん鳴いています。朝チュンするなら菜緒ちゃんとが良かったなあ。
 元会長さんは京華の話を一通り聞き終えて、唸りながら天を見上げました。えっと、きっと知らない天井だと思うんですけどね。
「・・・あの大災害にはそんな裏があったのか。田村本家は知っていたのか」
「いいえ。私達も知りませんでした。今の当主である宇京さんも知らないはずです。あの人は婿養子ですから」
「そうか。京華、貴様の話を聞いたところで絶対に除霊してやろうと思っていたが、一つ思い出したことがある」
『はて、何でしょうか』
「我々の先祖のツルの事だ。彼女は大災害の後の復興に一番力を入れていたらしい。そしていつも笑顔だったと。京華を許すなと言いながらも、笑顔で復興していたと」
『ツルらしい行動ね』
「今思えばやはりツルは笑い話にしていたのだろう。いや、笑い話ではなく少し悲し気だったかもしれんな。ツルがついて行けばこんなことにはならなかった。だから京華を許せない。そんな風に話していたのかもしれん」
『それは私には何とも言えませんが、そうだと嬉しいですね』
「貴様が現代の時期当主である田村京子と混ざれば、大災害は防げるのだな?」
『はい。それは間違いないです』
「では、今回は引こう」
「え!そんなあっさり!?」
 思わず私が口を挟んでしまいました。なんて言うか、こういう時漫画やアニメだとそれでも貴様を許せない!的な展開になりません?私ちょっとわくわくしていたんですけど。
「あっさりも糞もないぞ。貴様が完成した能力を発現するのであれば今京華を除霊している。しかし、また大災害が起こればそれは前回の比にならん。まともな霊能力者がいない現代で同じような大災害が起きてみろ。いくら復讐が完遂できても人類が滅んでしまっては全く意味がない」
「元会長さんの言う通りよ京子。茶化さないの」
「・・・ごめんなさい」
「ただし、一つ条件がある。田村家当主に話してほしい」
「はい、可能な限り受けましょう」
 お母さんが少し居住まいを正しました。
「除霊協会をきちんとした組織として再結成してくれ。そして今回除霊協会から離れた者たちもきちんと迎え入れてくれ」
「・・・それはもちろんです。当主ではなく私になるとは思いますが。矢面に立って私が組織を立て直します」
「なら、いい。私はこれで失礼する」
『どうされるんですか』
「ツルを含めた御剣家の先祖に事の全てを報告してくる。その後は隠居する。私は組織には戻れんし戻らん。外側からこの霊関係者たちの事を見張るようにする。もちろん田村本家もな」
『あなたのような人が外側から見張ってくれるのであればきっと大丈夫でしょう。霊能力者も廃れずに引き継がれていくと思います』
「ふん。貴様に言われなくとも分かっているわ」
 元会長さんはそう言うと、のっそり立ち上がって部屋を出て行きました。さて、残ったのは私達だけですが、どうしよう本当に京華と、その、あの、大人なキスを。まだ、菜緒ちゃんともフレンチなキスしかしたことないのに。ごめんなさい菜緒ちゃん、一足先に大人になります。
『京さん。あなたの娘は本当に頭の良い子のはずなのに、ちょっと精神年齢が中学生男子並みですよ』
「・・・上京する前からなのよ。どうにも思春期が抜けきらないというか、男子中学生の生まれ変わりなのかもしれないわね」
「二人とも酷いよ!さっきは美人って言ってくれたのさ!」
 私が反論するとやっと少し空気が緩みました。夜通し緊張しっぱなしだったので一気に疲れが来て意識が飛びそうになりました。
「あ」
 嘘です。意識が飛びました。私の目の前はブラックアウトしました。直前に京華が『安心して休んで』って呟いた気がしましたがもう脳みそが意識を遮断しようとしていたので定かではありません。

 目を開けるとそこは見知った天井でした。当たり前ですが自分の家ですからね。首を横にひねると京華が居ました。母はいません。
「あれ、京華、お母さんは?」
『ん、京子起きたのね。京さんは除霊協会にことの顛末を話に行ったわよ』
「ことの顛末かぁ」
『何をそんなしみじみとしているのよ』
「いやだってさ、事実は小説より奇なりって言葉があるくらい体験としては奇妙な体験をしたのに結末があまりにも簡素すぎるというか」
『ここまでの体験が奇妙だったんだから、最後くらい普通でいいでしょう。というよりも、そんな凄い展開なんてあまり現実で起こって欲しくないわよ。私は過去に妖怪大戦争と言われる大災害を見てきているんだから』
「そっか。不謹慎だったかも。ごめんなさい」
 私が素直に謝ると京華は『ん』と言いました。その横顔がとても綺麗でしっかりと見惚れてしまいました。私ももう少し大人になれば京華のような人になれるのでしょうか。
『なれないわよ』
「あ!思考が読み取られているの忘れていた・・・」
『京子って本当に抜けてるわね』
「ぐぬぬぬ」
『京子は京子なんだから別に私みたいになる必要はないよ。でも、そのね。憧れてもらえるのは嬉しいわ。京子は私にとって家族以上の存在でもあるし』
「家族以上?」
『そう。うまく言葉に出来ないのがもどかしい限りだけど、あなたは私にとって間違いなく家族以上の存在』
「えへへ。なんか照れるね」
 私がちょっと下を向くと扉が開く音がしました。母が戻ってきたようです。
「除霊協会側はもうこれで大丈夫。組織の再構築には少し時間がかかるけどね。元会長さんにも外部で役職つけて見張ってもらうことに出来たから」
『そうですか。あの人の事、隠居させてあげないんですね』
「今回これだけの事をしたんだから償いはしてもらわないとね。本家としての示しもつかないし」
『確かにそれはそうですね』
 私は二人の会話をボーっと聞いていました。この後一体どうなるんでしょうか。
「京華、どうするの」
『そうですね。京子の心の準備が出来次第と言ったところでしょうか』
「ええ?」
 私はまたぽかんとしてしまいました。
『忘れたとはさすがに言わないでね』
「忘れてないけど。心の準備って言うより、京華に最後のお願いがあるの」
『何?』
「一緒にデートして」
『でえと?』
「恋人とするようなお出かけ!!」
『・・・京子って思春期男子と乙女が混ざってるよね』
「私の娘は本当に大人になれるのかしら」
「二人ともひどすぎる!!」
 そんな風に言われましたが結局母も二人で出かけることを許してくれました。期限は日没まで。日没時にその、大人なキッスをして私は大人になるのです。

 鳴海君と有子ちゃんにことの顛末はまた話すと連絡をして、菜緒ちゃんにはまだちょっと復調できないから今日まで休むと連絡をしました。
 京華と一緒に駅に行き、過去の京子さんのご両親のお墓詣りを一緒にしました。
『意外だったわ』
「何が?」
『京子がお墓詣りしてくれるってこと』
「うーんだってさ、このお二人のおかげで拉致されちゃったとは言え過去の京子さんは大切に育ててもらったわけでしょ。だったらきちんと挨拶しないと」
『良識が備わっていて頭も良いのにどうして男子中学生なんだか』
 京華がなんかまた私を小馬鹿にしましたが無視しました。
 その後、京華とは街を散策して、公園でご飯を食べて、本屋さんに行って、銭湯に行って、過去の京子さんのお墓に来ました。
『京子、本当にここで良いの?』
「うん。まあなんというか、妹的には姉が女の人とキスする所なんて見たくないかもしれないけど、これはねけじめでもあるから」
『そうね』
 私は改めて京華の顔を見ました。記憶が戻ってからの京華は少しだけ表情がキリっとしていますがやっぱり可愛いです。私もどちらかと言えば可愛い系に分類される女の子になりたかったです。ないものねだりですが。
「ねえ、京華」
『うん』
「私ね、この1週間とっても楽しかったの。誰かと一緒に生活するって凄く楽しいんだなって。だからね、京華が居なくなったとき、一人で家でポツンとしちゃって凄く寂しかった」
『うん』
「それだけじゃなくてね、やっぱりご先祖様だったからか、他人な気がしなかったというか。本当だったらきっと幽霊なんて存在受け入れられないし、初日にすぐに引っ越ししてたと思うの」
『うん』
「でも、受け入れられた。この1週間は私にとって間違いなくかけがえのない時間だった。だから、正直京華が居なくなるっていうのは受け入れがたいの」
『それは嬉しいことを言ってくれるわね』
「でもね。さっきスマホ見たら菜緒ちゃんから連絡が来てて、明日の誕生日にはしっかり体調戻ってると良いねって」
『菜緒ちゃんは本当に素敵な女の子ね』
「うん。有子ちゃんと鳴海くんも詳しい事は落ち着いてからで良いからまずは休んでねって」
『あの二人も変わってるけどいい子達ね。鳴海に関しては京さんにきちんと相談しなさいね。突然変異で霊視の能力を持て余しているみたいだから』
「うん。それは鳴海君にも話してみる。とにかくね、今、私は沢山の人に囲まれてて、恵まれて、守ってくれる人がいて、幸せなんだなって思ったの」
『うん、京子は間違いなく幸せよ』
「だから、京華が居なくなっても・・・うう」
 ダメでした。格好つけて、最後くらいさらっとお別れしようと思ったのに涙が止まりません。なんで人は最後に悲しいお別れをしないといけないのでしょうか。
 別れは悲しくない、また会うための儀式なんていう人もいますがそんなことは詭弁です。どんな別れで会っても悲しいし寂しいです、ましてや、それがもう二度と会えないとなれば悲しい以外の感情はありません。
 涙をぬぐっていると、ふわりとハグをされました。そしてそっと頭を撫でられました。
『京子。今まで現界した中で間違いなく今回が一番私にとって幸せな時間だったわ。それは血筋とか関係なく、京子だったからだと思うの』 
「・・・うん」
『私の記憶が戻る前。あの時間の私にとって京子はお姉さんで友達だった。ツルをあしらった私にとって最初で最後のたった一人の友達』
「うん」
『だから、泣かないで。あなたの心に私は残るから、なんてそんなことは言わない。けど、この時代のこの時に私が居た事は京子が証明してくれるでしょう』
「うん・・・」
『お別れというよりも、未来に進みましょう。過去は振り返る必要があるし、反省もして、後悔もする必要があるけど変えることはできないの。だから、そこに時間を割きすぎることは良くないのよ』
「・・・急に先生みたいなこと言うね」
『あなたのお姉さんだからね』
 京華がウィンクをしました。悩殺ウィンクでした。
『だから、私の事だけじゃなくて今後の霊能力者たちの事をよろしくね。京子は京子だから。ずっと私はあなたの側であなたの事を見守ってるから』
「うん、絶対ね。約束だからね」
『約束』
 私達二人は指切りをしました。ちょうど陽が沈み始めていました。
『じゃあ京子、みんなによろしく伝えてね』
「うん、私頑張るから。大学も、霊能力も、全部。京華みたいな立派な人になるから」
『うん、期待してる』
 私はそっと目を閉じました。リップ塗ってくればよかったなとか、歯磨きしたっけとか、そんなことを考えていたら暖かくて柔らかいものが唇に触れました。そっと優しく。ゆっくりと、ゆっくりと、唇を開いてそして、舌が触れあった直後に感触が消えました。
「京華!」
 ぱっと目を開くとそこにはもう何もありませんでした。誰も何もいない。そして、私の身体は内側からじんわりと暖かさを感じます。間違いなく私と京華は一つになりました。

いいなと思ったら応援しよう!