ふたり 4日目
■5月8日(月)
目覚まし時計の音でしっかりと予定していた時間に目が覚めました。友達はみんなスマートフォンで目覚ましの設定をしていると言いますが、私はきちんと目覚まし時計を使っています。特に深い理由はありません。
「んー!」
しっかりと伸びをしてから起きました。昨日の夜に作ったハンバーグはやっぱり京華が喜んで沢山食べていました。けれども少し多めに作ったので、朝ごはんはそれを使った簡易ハンバーガーです。
ハンバーグを焼いていると、匂いにつられたのか京華が起きてきました。
『うーんなんかいい匂いがする』
「朝起きて第一声がそれ?」
『あ、京子おはよう』
挨拶が先に来るべきだとは思いますが、おこちゃまな京華だから仕方ないですね。
『おこちゃまじゃないよ!』
「また声に出ていた?」
『今回は顔に出てた』
京華は頬を膨らませて怒っていますが、朝ごはんの事を伝えればきっとすぐに忘れてくれるでしょう。
「京華、今日の朝ごはんはなんちゃってハンバーガーだよ」
『ハンバーガー⁉』
ほら、私の思った通りです。それにしてもハンバーガーにここまで食いつくとなると、楽しい気分になりますね。
「京華、ハンバーガーは知っているのね」
『知っているよ!でも食べた事無い。前にテレビで見た事があるだけ』
「じゃあ今日が初のハンバーガーなんだね」
『うん!!』
満面の笑みを向けられました。朝ごはんなので、なんちゃってハンバーガーなのですが、まあそこは許してもらいましょう。
「ちょっと待っていてね。すぐにできるから」
『わかったー!』
もうハンバーグ自体はしっかりと火が通っているのを確認していたので、厚切りの食パンをトースターに入れてその間にレタスを準備します。本当はトマトも入れたいところですが、あいにくトマトは買い忘れてしまったので、変わりにケチャップを多めに入れたソースを作ります。
あっという間にトーストが出来上がったので、丸く形をとって具材を挟んで完成です。なんちゃってと言いつつ、我ながらかなり良い出来だと思います。
「京華、できたよー」
『わーい!』
今日の京華はサイドテールに白いビックシルエットのパーカー、ジーンズというシンプルな服装です。可愛い服装やお洒落な服装もしますがどうやらシンプルな服装が一番好きみたいです。
「いただきます」
『いただきまーす!!』
京華は私に触れていないと実体化(仮)ができないので食事の時はいつも手を繋いでいます。なんだか、カップルっぽいですね。菜緒ちゃんごめんなさいちょっと邪な気持ちが出てしまいました。
『んんーーーー!美味しい!!』
「ほら、京華口にソースがついているよ」
『んー拭いてー』
食事の度にこのやり取りが発生している気がしますね。可愛いので許してしまいますが。
食事が終わり、私も身支度を済ませていよいよ大学に向かいます。
「京華、行くよー」
『うんわかったー』
私の前に現れた京華はリュックを背負っていました。
「・・・なんでリュック背負っているの?」
『私も学校に通っているって気持ちになりたいの』
「それにしてもちょっとパンパンじゃない?」
『中は何も入ってないよ。ただちょっと荷物が多いリュックをイメージしたからパンパンになっちゃった』
「中身は何も入っていないんだ」
『そうだよ!だって何も持っていけないもん』
実体化(仮)をしているときならともかく、通常の京華では確かに何も物を詰めることができません。ちょっと可哀そうではありますが、電車の時間も迫っているので家を出ることにしました。それにしても、リュック姿凄く可愛かったなぁ。
『京子の大学ってどのくらいかかるの』
『電車ですぐだよ』
『そっか電車に乗るんだ!電車に乗るのもたぶん初めて!』
『初めて?』
『うん。だって電車に乗った記憶なんてないもん』
記憶が無いだけで、きっと過去に乗っているとは思うんですがここでその話をしても不毛なので急いで駅に向かいました。
○
大学に付くと京華はぐったりしていました。ずっと実体化(仮)はしなかったはずですが満員電車の圧は幽霊すら疲れさせるみたいですね。
『うげえ・・・ものすごく疲れたよ京子』
『なんで京華が疲れているんですか』
『だって、あんなに沢山の人・・・おじさんばっかりだとおもわなくて』
『おじさんばっかりじゃなくて、他にも沢山いたでしょ』
『でも、私の視界にはおじさんしかいなかったよ!!』
1限から授業がある時はどうしても通勤ラッシュと時間が被るため、サラリーマンの方が多いのは致し方ないのですが、京華はそういうこと自体が初めてなので、実体がないにしても疲れてしまったんでしょうね。
『うう・・なんか臭かった気がするし』
『それは気のせいです』
「あー!京子ちゃんおはよー!」
声をかけてきたのは私の愛すべきエンジェルの菜緒ちゃんでした。
「菜緒ちゃん、おはよう」
「京子ちゃん、お母さん大丈夫だった?」
そういえば京華のインパクトが大きすぎてサラリと過ごしていましたが母が襲来していたんですよね。いや、母が来ていたこともかなりインパクトがあると言えばあるのですが。
「うん、ちょっと様子見に来ただけーって言っていたから大丈夫だったよ。菜緒ちゃんにもよろしくって言ってた」
「それなら良かったね!私も京子ちゃんのお母さんに会いたかったなぁ」
「それは、また今度ね」
菜緒ちゃんと話をしている間、京華はずっと菜緒ちゃんの事を見ていました。
『京華、どうかした?』
『菜緒ちゃんってすっごいスタイル良いね』
『最初の感想がそれ!?』
確かに菜緒ちゃんは168cmなので女子の中では高身長で、出るところは出ているのにすらりとしているのでモデルさんのような雰囲気はあります。
『まさか、こんな子が京子と仲がいいなんて』
『なんて失礼なこと言うのよ』
『京子はてっきりロリコンだと思ったから』
京華に反論しようとしたところで菜緒ちゃんが私の顔を覗き込んできました。
「京子ちゃん、今日はなんだか上の空?」
「え?そんなことないよ」
「本当?」
菜緒ちゃんは、霊感なはさそうですが勘が働くタイプなので見透かされていそうでした。それは困るので話題を変えないと。
「そうだ、今日のお昼はどうする?」
「まだ1限も始まってないのにもうお昼ご飯の話?」
菜緒ちゃんはニコニコしながら話に乗ってくれました。セーフです。
「うん。菜緒ちゃん今日は何が食べたいのかなーって」
「あそこ行きたいな!大学の近くに出来たカフェ!」
「カフェ?」
「うん!パンケーキセットがとっても美味しいんだって!」
朝がパンだったのでできればお昼はお米を食べたかったですが、菜緒ちゃんにそんなことは言えません。なので私もしっかりと乗ります。
「パンケーキ良いね!じゃあお昼はパンケーキ食べようね」
「楽しみだね、京子ちゃん!」
嬉しそうだったので一安心です。その間、京華はしっかりと黙っていましたが、何かソワソワしている気がしました。あとでトイレにでも行ってその時に聞いてみましょう。
○
私と菜緒ちゃんが話している間、ずっと何者かの視線を感じていたようです。
『なんかね、いやらしい見られ方とかってわけじゃなくてずっと見られているなって感覚』
『京華を見ていた人が男性なのか女性なのかまでは流石に分からないですよね?』
『うん。でも、何となくだけど男性な気がするな』
『なるほど。まあ今は考えても仕方ないので、授業に出ることにしますね』
『うん。私も大学の授業って初めてだからちょっと楽しみなんだー!』
まさかこの後すぐに京華の事を見ていた人が分かるとは思いもしなかったです。
「田村、ちょっといいか?」
授業の合間の休憩時間に話かけてきたのは鳴海君でした。有子ちゃんの彼氏の鳴海君はおっとりしているように見えてバリバリの陸上部でしかも上位入賞するくらいの実力者なんです。有子ちゃんと仲良くなったのがきっかけで鳴海君とも話したり有子ちゃん含めた3人でご飯に行ったりするくらいの仲です。
「うん?鳴海君どうかしたの?」
「いやまあちょっと。できれば教室の外で。大丈夫手間は取らせないから」
「うん分かった。菜緒ちゃん、ちょっと鳴海君と話てくるね」
「悪いな、後藤。ちょっと田村借りていくな」
「うん。次の授業の準備をして待っているね京子ちゃん」
教室の外に出るとなんと有子ちゃんも待っていました。
「あれ、有子ちゃんも?」
「うん、ごめんね京子ちゃん」
「ぜんぜん。それで二人して話って何?」
「ああ、これに関しては俺から話すよ。いきなりだけど田村、今幽霊に憑かれているぞ」
「!?」
なんとリアクションをしていいのか分からなくて目を見開いてしまいました。
「有子から田村に何か憑いている気がするって言われて、ちょっと見たらすぐにわかったよ。俺、なんだか知らないけど無駄に霊感が強いみたいで幽霊とか見えるんだよ」
「鳴海君は幽霊が見えるだけで何か対処できるわけじゃないんだけどね。私はそもそも見えないけど、何となく感じるくらいだし」
有子ちゃんが後を引き継いで話ましたが私の頭の中にはその話は全く入ってきませんでした。もしかしたら見える人がいるかもしれないとは京華にも話しましたし、私自身も思っていました。でもまさかこんな早々に現れるとは思ってもみなかったです。
「えっと、その、どんな幽霊・・・?」
鳴海君は苦笑いをこらえているようでした。
「鳴海君?」
「いやすまん。憑いている幽霊だよな。髪の毛横にまとめているのってなんて言うんだっけ?」
「サイドテールかな?」
有子ちゃんが答えてくれました。
「そうそう。サイドテールに大きめの白いパーカーとジーンズ、パンパンに膨らんだリュックを背負った可愛らしい女の子の幽霊だ」
「なにその幽霊!」
有子ちゃんが驚いています。そして鳴海君が苦笑いした理由もはっきりしました。幽霊と言いつつ、その外見が全く持って害がなさそうだったからでしょう。だから苦笑いしてしまった、そんな感じですね。そして、ここまでくると次の言葉が私も予想できました。
「あとは雰囲気だな。幽霊に雰囲気って言うのも変な話しだけどさ田村と瓜二つなんだよ」
薄々、私も感じていました。京華は何となく他人な感じがしないのです。どこか遠い親戚かあるいはご先祖様なのかもしれないとそんな風に思ったりもしました。
「へえ~京子ちゃんに雰囲気が似ている幽霊ねえ。私も見てみたかったなぁ」
「まあ害はないと思うんだけど、田村って霊感全くないって前言っていたから一応伝えておこうと思ってさ」
「うん・・・。ありがとう」
さて、どうしたものでしょう。ここで京華の話を素直に全部話すのはリスクがあります。京華も嫌がるでしょう。でも、ここまで鳴海君に見られているならむしろ黙っている方が不自然な気もしてきます。
「あのさ、二人とも今日の夜って予定ある?」
「いや、俺も有子も今日は授業終わったら何も予定ないよ」
「そうそう、鳴海君は今日珍しく陸上部の練習が無いんだよね」
「今日は先輩たちも先生も居ないからたまには休もうかなってね」
これは好都合かもしれないです。菜緒ちゃんに話すかどうかも含めて二人の見解を聞いておいていいかもしれません。
「じゃあさ、ご飯食べながらこの幽霊の件、相談しても良い?」
「ああ、俺はかまわないよ。有子は?」
「私も大丈夫。というか、京子ちゃんに似ている幽霊とか普通に気になるから話聞きたいし」
「二人とも、ありがとう。凄く助かる」
そう言って、教室の中に戻りました。
「どんな用事だったの?」
当然のように菜緒ちゃんが聞いてきます。さて、どう答えた物でしょうか。
「えーっとね、鳴海君が有子ちゃんも含めてちょっと相談したいことがあってーって話で。なんか詳しくは今日の夜にご飯食べながら話したいって」
「えーいいなぁ。私も行きたかったな」
「菜緒ちゃん、今日何か用事あった?」
「京子ちゃん忘れちゃったの?最近私バイト始めたんだよ~」
そういえばそうでした。夕方から夜までやっているケーキ屋さんで菜緒ちゃんはバイトを始めたのでした。夜までやっているケーキ屋さんというのも中々珍しいのですが、どうやら結構な有名店のようで菜緒ちゃん曰く「閉店ギリギリまで男性も女性も凄い沢山くるの!」とのことです。
「あ!ケーキ屋さんのバイトだ!」
「うん。今日は授業終わったら夕方から入って欲しいって言われちゃって」
「そっかー。そうしたら今日話す内容はちゃんと二人に許可取って菜緒ちゃんにも話するね」
「うん!ありがとう!」
ちょうど話が終わったところで、教授が入ってきて授業が始まりました。
『京子~』
きちんと大人しくしていた京華が話しかけてきました。先ほどの鳴海君たちとの話についてでしょう。
『うん?』
『さっき廊下で話していたの、私のことでしょ?』
『うん。私に話しかけてきた男の子がいたでしょ?』
『あの髪の毛がとっても短い人?』
『そうそう。彼が京華の事がはっきりと見えているんだって』
『え!?!?』
信じられないくらい驚いていました。ちなみに京華は今私の頭上で胡坐をかいて授業を受けています。時々うんうんと頷いているので多少は理解しているんでしょう。いや、京華の事だから理解している風を装っているだけかもしれません。
『そんな驚くことじゃないでしょ。さっき京華自身が誰かに見られている気がするって言っていたんだから』
『まさか本当に見ることができる人がいるなんて思っても無かったんだもん』
頭上にいるので想像でしかないですがきっと頬を膨らまして怒っているんでしょう。
『まあね。それで京華に相談をしたいの』
『?』
『今日の夜さっきの男の子、鳴海君って言うんだけど、鳴海君とこの間公園で会った有子ちゃんの二人に京華の事を相談したいんだけど良いかな』
『相談?』
『そう。大学で授業受けたりなんなりするときに協力してくれる人は多いに越したことは無いでしょ?』
『そっかー!それなら全然いいよ!京子以外にも話せる人が増えたら私も嬉しいし』
『それなら良かった』
京華と話している所で教授と目が合いました。
「じゃあここは田村に答えてもらうか。前に来てくれ」
「はい、分かりました」
先ほどまで京華と話をしていましたが、最初に言いました通り私はかなり勉強ができますので余裕で答えました。えっへん。
「さすが田村だな。席に戻っていいぞ」
「はい、ありがとうございます」
席に戻ると隣に座っている菜緒ちゃんがニコニコしていました。
「さすが京子ちゃんだね。あとでさっきの問題私にも教えて」
「うん、いいよ」
小声で菜緒ちゃんと話をして、ふと上を見ると京華はなんだか考え込んでいるようでした。余計なことを考えていなければいいのですが。
○
授業はあっという間に終わり夕方です。お昼に菜緒ちゃんと食べに行ったパンケーキはそれはもうお腹が一杯になりました、。パンケーキってあんなに暴力的にお腹を埋めてくるんですね。あと、信じられないくらい高かったです。京華の問題があるのでとりあえず今週一杯はバイトを休むことにしたのですが、ちょっとしんどいかもしれないです。
『は~大学の授業ってなんか不思議だね』
『不思議とはどういうこと?』
何だかんだ京華は授業中静かにしていました。時折、分からない言い回しや言葉の意味等を聞いてくるだけで真剣に授業を聞いていたようでした。
『うーんとね。授業が始まっても結構人が出入りするし、座る所決まってなくて自由だし』
『確かに中学校や高校みたいな決まりって言うのは少ないかも』
『それに、先生たちもあんまり教えるって気持ちがなさそう』
『それは否定できないなぁ。あの人達は先生だけど、研究とかをしている人達だから教師とはまた少し違うよ』
『そうなんだねー。でも、分からないことが沢山だったけど楽しかった!』
京華には大学の授業が合っていたようでした。ちょっと安心しました。さて、ここからは一度家に戻って少し休憩してから鳴海君、有子ちゃんと合流です。
『この後すぐにあの二人に会うの?』
『ううん。一回家に帰るよ。授業の道具とか家に置いてきたいし』
『じゃあまた電車?』
『うん、電車』
『うげえ』
朝の満員電車を思い出しているのでしょ。今にも吐きそうな顔をしています。仕方ないので安心材料を与えてあげましょう。
『京華、安心して。この時間の帰りの電車は空いているから』
『本当!?』
『うん、本当』
『良かったーー!』
かなり安心したようです。さて、帰りながらどこから鳴海君と有子ちゃんに話すか考えないといけないです。
家について、京華がまず飲み物を飲みたいと言いました。
『ちゃんと大学にいる間は我慢したんだから!コーラが飲みたい!』
確かに京華は飲み物どころか食べ物もしっかり我慢していましたので、致し方なくコーラを上げました。
「京華、とりあえず二人に話すことをまとめたいんだけど」
『うん』
「話してほしくないこととかある?」
『うーん。あのお墓の事とこのアパートが起点になることは出来れば話さないで欲しいなぁ』
「お母さんには話しちゃったけど良かったの?」
『うーん。あの時も本当は話してほしくなかったけど、仕方ないかなって。それに、京子のお母さんってたぶん嘘とか見抜ける気が下から』
「うっ。それは当たっている」
それにしても、なんでお墓の事と起点があることを話したがらないのでしょうか。京華にしてはちょっと歯切れが悪い言い方で引っ掛かりましたが本人が話さないで欲しいというのであれば素直に従うしかないですね。
『あとは特にないかなー。ねえねえ、私もその鳴海君?とお話できるようになるかな?』
「それは分からない。まだ見えているってだけだから実際に面と向かってみないとね」
『そっかー。お話できる人が増えると良いなぁ』
「うん、私も京華と話ができる人が増えると良いなって思うよ」
そうして京華と色々と話しながら鳴海君と有子ちゃんに話す内容を一通りまとめました。うん、だいぶ綺麗にまとまりましたし、時間もちょうどいい時間です。
「じゃあ京華、そろそろ行こうか」
『はーい!』
私と京華は駅に向かう事にしました。鳴海君と有子ちゃんの住んでいる部屋も最寄り駅は同じなのでこういう時には都合が良いですね。少し肌寒いですが、上着は着ないで部屋を出ました。
幕間
「京子に憑いている幽霊が京華っていうのは本当なのか」
宇京は京に改めて尋ねた。霊感があり、イタコの家系に婿入りした宇京。非現実出来な事象にはこれまでいくつも触れてきたが、”京華”という幽霊の名前だけはどうしても受け入れることができない。受け入れてはいけないのではないかと思う。
「京子がそう言ったから間違いないわね。あと、あんなに姿がぼやけている霊には初めて会ったわ。輪郭すら分からなかった」
京はしっかりとイタコの力だけでなく霊感がかなり高い。一般的に幽霊と恐れられる存在は輪郭も含めてはっきりと視認することができる。だが、京華については”そこにいる”という事以外何も分からなかった。
人間は視覚から得る情報が圧倒的に多く、例えば相手の第一印象は初見で全てが決まると言っても過言ではない。幽霊も同じで、初見で良霊か悪霊かが大体分かる。また、その霊が何をしようとしているのかまで分かることがある。ただ、京華は本当に何も読み取ることができなかった。
「京が見ても輪郭すら分からないなら、たぶん私が見てもまったく見えないだろうな」
「うん。宇京さんには申し訳ないけど全く見えないと思う」
「となると、やっぱり京に動いてもらう必要が出てくるんだが如何せん情報が無さ過ぎる」
「そう。京華という名前から私達の予想は外れていないはず。悪霊ではないし、今すぐに京子に何かが起こるわけでもない」
「それはもちろん分かっている。だが、今週の京子の誕生日まで引っ張るわけにはいかんだろう」
田村家では20歳はかなり特別な意味を持つ。もちろん一般的な大人になるという意味以外に除霊や降霊という霊に対する能力がはっきりと決まる。京子は自分に才能がないと思っているようだがそれがそもそも間違っている。20歳になるまではどんなに才能があろうとなかろうと普通の人と変わりない。
「もちろん宇京さんだけじゃなくて私も分かっているわ。京子にどんな霊に対する力が出るのか分からないけど20歳になる時に霊と共存していると発現する力に影響が出るし」
「そうだ。そして何より、田村家で一番才能がありそれ故に孤独に能力に飲み込まれてしまい暴走し、今では無かったことになっているが大災害を引き起こしたとされる女性と同じ名前の霊なんて洒落にもならん」
「・・・そうね」
京は一言返すのがやっとだった。
○
駅に着くと既に鳴海君と有子ちゃんが待っていました。どうやら二人とも家には帰らずに駅で時間を潰していたようです。
「二人ともごめんね。週の始まりからなのに」
私が謝罪をすると二人は首を振ります。
「むしろこっちが謝らないと。霊感がちょっとある鳴海のせいで首を突っ込むことになってしまったんだし」
「・・・それに関しては申し訳ないと思う。ただ、そのうまく言えないんだけど」
「いいよ、いいよ。その話はまずお店に入ってからにしよ」
『そうだよ京子!私の事忘れていたでしょ!?』
『忘れてないから。ちょっと落ち着いて。とりあえずお店向かうから』
駅すぐに個室の居酒屋があります。誰も20歳になっていないのでお酒は当然飲めませんが個室であるために誰かとお話をする際等によく利用しています。かくいう私も菜緒ちゃんとの密会によく使っています。
店員さんに誘導されて個室に入り、みんながソフトドリンクと適当におつまみを頼みました。
「こんなところに個室のお店があったなんて知らなかったな」
鳴海君が知らないとは意外でした。
「あれ、鳴海は知らなかったの?私はたまに友達と来ていたよ。個室なのにリーズナブルで大学生の懐にはとても優しいからね」
「あ、有子ちゃんと同じで私もたまに来ています」
「・・・二人ともしっかり大学生を楽しんでいるな」
何となく鳴海君が悲しそうですが気のせいですね。スルーしましょう。
飲み物と料理が届き、適当に食べたりしていると我慢の限界を迎えたのでしょう。京華が暴れました。
『もう!いつになったら私の話始めるのよ!!ねえ!!』
私の頭の上をぐるぐる回っています。鳴海君の目もぐるぐる回っています。本当に見えていますね。
「京華、落ち着いて。わかったこれから話するから」
『ぶー。もっと早くから初めて欲しかったもん』
さて、どこから何を話すべきなのか。事前に京華から聞いていた伝えてほしくないことを除いて有子ちゃんと鳴海くんに全てを話ました。
「・・マジかよ」
「信じられないよ京子ちゃん」
『信じてよ!というか鳴海は見えているなら信じているでしょ!』
「いや信じてねえよ」
「え?」
『え?』
鳴海君がしっかりと京華の言葉に対してツッコミをしてくれたので一瞬で私と京華は固まりました。
「もしかして、鳴海君って京華の声が聞こえているの?」
「ああ。パッと見ると普通の人間にしか見えねえよ」
『えええええ!やった!鳴海!聞こえている?二人目!』
「ああ聞こえているからもう少しだけ静かにしてくれ頼む」
『えへへ。ごめんね』
京華は少し大人しくなりました。さて、少し話が途切れましたがさらにこの土日で調査した京華の実態についても二人に伝えました。
「ってことはさ、その実体化(仮)をしたら私にも見えるんじゃない?」
「有子ちゃんにも?」
「うん。だって今私もぼんやりと雰囲気だけは感じ取れているから。だからその実体化(仮)状態ならもしかしなくても見えるんじゃないかなーって」
「確かにそうかも?」
『そんな気がするよ』
「田村、この幽霊バカだろ絶対」
『バカとは失礼だよ鳴海!たぶん私は君たちより年上なんだからね』
「マジかよ」
鳴海君と京華が馬鹿話をしている間に簡単に思考をまとめました。確かに有子ちゃんの言う通りかもしれません。ある程度霊感がある人間であればぼんやりと京華の存在を感じとることができる。
その状態の人間を前にして実体化(仮)は試したことが無かった。いやもしかしたら既に街中でそういう人に出会っていたかもしれません。これは試してみる価値があります。
「京華、実体化(仮)しようか。ついでに私の烏龍茶を飲んでいいよ」
『良いの!?やったー!えいっ!』
京華は私に後ろから抱き着いて実体化(仮)しました。そのままの勢いでテーブルからコップを取り、烏龍茶をあっという間に飲み切りました。
「・・・」
有子ちゃんが今までにないくらい目を見開いています。そしてその視線は烏龍茶では無く間違いなく京華をとらえています。
「有子ちゃん、見える?」
「うん、ものすごく可愛い女の子が京子ちゃんの背中に引っ付いているのが見える」
「じゃあ成功だね。それがさっきまで私と鳴海君にしか見えてなかった京華だよ」
「やっと有子も見えるようになったか。まあ条件付きとは言え身近に見える人がいるのは田村的にも安心材料になるんじゃねーの?」
「そうだね。正直ちょっ心配だなって思うところはあったから今かなりほっとしている。それに、たぶん京華も」
『わ、私の事が見えているの有子?』
「うん、見えているわよ。えっと、京華ちゃん」
『・・・京子』
「うん?どうしたの」
『こんなに友達が増えるなって思っても無かったよお』
私の背中に顔を押し付けてわんわんと泣き出してしまいました。
結局その後は特別何かをするわけでもなく、みんなでワイワイ話をしていました。あ、何もしていないは嘘でした。実体化(仮)やテレパシーを鳴海君や有子ちゃんが京華に対して使えるかどうか実験をしました。結果は予想された通りです。私じゃないと実体化(仮)は出来ませんでしたし、テレパシーも私しかできませんでした。鳴海君が言うには「田村に憑いている幽霊だからじゃないか」らしいです。
しかし結果として京華に友達が新しく出来たので良しとしたいと思います。二人とも、出来ることは少ないかもしれないけど何かあれば協力してくれると申し出てくれましたし。
そんな二人のおかげか帰り道も銭湯でお風呂入っているときも、家に帰って布団に入っているときも京華はずっと上機嫌でした。
『へへへ』
「京華、笑い声が漏れるよ」
『いいの今日は!友達が増えたんだから』
「私も友達なの?」
少し疑問に思ったので聞いてみました。私と京華の関係って友達とはちょっと違う気がするのです。憑いている、憑かれているの関係だからだとは思いますが。
『え~京子は友達っていうよりは宿主かな』
「・・・冗談だとしても笑えないよ」
『嘘だよ!本当はなんていうか、家族みたいな感じかな』
「家族・・・」
『うん家族。なんかでもその恥ずかしくなってきたからもうこの話は終わりね!お休み京子!』
そう言うとすぐに寝息が聞こえました。幽霊に寝るという概念が存在することを京華から学びました。余計な知識ですが、いつかもしかしたらどこかで役に立つかもしれませんし。さて、明日も1限から講義があるので私も早く寝ないけません。寝ましょう。
