ふたり 6日目

■5月10日(水)
 一通り話が終わり、日付が変わり水曜日になりました。午前5時には母が向かうことになりました。私と京華は家に居ることに。母について行っても何もできませんし、当事者である京華がいるのも良くないですしね。
「さて、私は準備するものがあるから外に出るけど二人は鍵を閉めて家に居なさいね」
 母はいつも通りの母に戻って、颯爽と出ていきました。色々話をしましたし、京華からも話を聞けたのできっと満足したのでしょう。
「お母さん颯爽と出て行っちゃった」
『颯爽って言うほどじゃなかったよ』
「どういうこと?」
『京子はいまいち気が付かなかったかもしれないけど、京子のお母さん凄いお化粧が濃かったよ。たぶん顔色を隠していたんじゃないかな』
 京華のくせによく見ていますね。なんかちょっと腹が立ちます。初めて会った時の大人(笑)京華の雰囲気がありますね。
「京華がそんな風にきちんと人の事を見るなんて」
『京子、それはひどい言いぐさだよー。だってほら、私に関係することだったんだよ。しかもそれが京子に迷惑かけちゃってさ』
 話の途中から京華の声がどんどん小さくなっていきました。よく顔を見てみると、泣くのを我慢しているのが丸わかりでした。
「け、京華・・・?」
『京子、ごめんなさい。私が京子に憑いたから、だから・・』
 声になっていませんでした。困りましたね、こんな京華は見たくなかったのですが。ここはいつも通りの私でいるのがよさそうですね。
 私は思いっきり京華をハグすると見せかけてその着痩せする二つのお山をつかみました。
『!?!?!?』
「いつか揉んでみたいって思っていたのよ。幽霊とは言えちゃんと実体化(仮)していると柔らかさが分かるね」
『な、なにやってるのよ京子のバカぁ!』
「ほうほう、これはあれですね。E・・いやFはありますか」
『わからないよ!幽霊だから計測とかできないし!』
「でもブラのサイズにはFって書いてあるけど」
『いつの間にかブラが外されている!ていうか、なんでサイズかいてあるの!?』
「嘘ですよ、何も書いてないけどきっとFはありますね」
『そ、そんなこと、言われても』
 ふう。いつも通りの京華に少しは戻ったでしょうか。あ、私は今若干のあれですが気にしないでください。
「・・・少しは落ち着いた?」
『え?』
「京華が泣く必要はないし、謝る必要もないよ。たまたま、京華が近くにいた私に憑いた。それ以上でもそれ以下でもないよ。確かにお母さんの話は信憑性がありそうだけど、そんなの今は確かめようがないでしょ。京華は京華。ちょっと幼い感じがするなぜか霊感の無い私に憑いている幽霊だよ」
『京子・・・・。凄く感動的なことを言ってくれた所本当に申し訳ないけど、ブラ返してもらえるかな』
「え?」
『新しいものを想像するためには古いものの形を変える必要があるの!だから、ブラを返して!』
「ぶら・・・?」
『その!頭にかぶっている布よ!!』
「これがぶらというのですか?」
『いい加減ボケるのは止めて!』
「ごめんごめん、冗談。はい、ごめんね」
 きちんと京華のツッコミにキレが戻ってきたのでブラを返しました。さて、今日も学校があるので、正直寝たい気持ちがあるのですが5時からの件も気になります。
『もう・・。ブラの件はとりあえず横に置いておいて、京子、とりあえず私達は寝ようよ』
「京華は気にならないの?」
『気になるけど、私達が何かできるわけでもないし、念のために5時に目覚ましセットしてさ、もう今は寝ようよ』
 京華の言う通りです。ついでに言うとこの時間だともう銭湯も閉まっているので、どこにも行きようがないのです。仕方ないですね、大人しく寝ましょう。
「そうだね。流石にちょっと疲れているし」
『頭の良い京子でも、あんな突拍子もない話を聞かされたら流石に疲れるんだね』
「それはそうよ。疲れるに決まっているでしょ」
 私は横になり、京華も滑り込んできました。
『おやすみ、京子』
「おやすみ」
 目を閉じると一瞬で意識が落ちました。

 午前4時50分。墓地の前には二人の男がいた。1人は夕方に京子に接触した男。もう一人はいかにも霊能力者という雰囲気が出ている。
 男二人を遠巻きに見ていた京はため息をついた。
「はあ。めんどくさいわね」
 よく漫画やアニメで見るような、呪力のようなものを使った戦いのようなことにはならない。現代の霊能力者は過去に存在した悪霊を従えるような力は残っていないし、それを戦闘に応用できるだけの技量もない。その能力は京華が全て消し去ったと言われている。
「それにしてもあんな可愛らしい子が本当にあの京華なのかしらね。信じられないわね。京子はどちらかと言えば綺麗系だけど可愛い系に振ったらきっとあんな感じになる気がするのよね」
 親の京から見ても京子と京華は似ていた。系統が違うとは言えるが、下手をしたら親の京や宇京よりもあの二人は似ていたかもしれない。
 少し感傷的な気分になりながら、5時になるのを待つ。
そして午前5時ピッタリに京は男二人の前に出て行った。
「おはようございますお二方。先日の会合振りですわね」
「・・・・私は田村京子に来いと言ったはずだが」
 京子と接触した男が声に出した。京が来ることを想定していたからだろう、動揺は見られない。
「子供が不審者から呼び出しされて、ノコノコ子供を行かせる親なんていないでしょ」
「まあ、いい」
 もう一人の男が初めて話した。
「田村家はこの事態をどうとらえているのかね」
「この事態とは?」
「しらばっくれるのは止めていただきたい。京華の幽霊だ。あれは、突然現世に現れては二日ほどで消えてまた現れるを繰り返してきた。除霊協会にはその記録が残っている。そんな幽霊が今回はもう6日も現世に留まっている」
「ふーんそれが?」
 京は少しばかり挑発する言い方をした。田村家としてもそれは計測していたが青森と東京という物理的距離のせいではっきりとは分かっていないことが多い。一方の除霊協会は東京を拠点としているため、幽霊の京華に関する情報は一番持っている。京は出来るだけここで情報を引き出したかった。
「それがではない!あれは間違いなく田村京華の生霊だ!それが分からないわけではなかろう!!あれは過去の記憶を失っているが、記憶が戻ればまた大災害を引き起こすぞ!」
「そんなの分からないじゃない。それにあなたも今言ったけど相手は所詮幽霊よ。仮に記憶が戻ったとしても何かできるわけがないでしょ」
「普通の幽霊であれば我々もここまで強硬手段には出ない。あれは記憶が戻れば受肉するだろう。その媒体がお前のところの娘だ。同じ田村家の血筋だからな。だからこそやつは田村京子に憑いているのだ」
「筋は通っているけど、いまだかつて受肉した幽霊なんて存在していないでしょ。妄言もいい加減にしなさい」
「我々では計り知れない才能を持っていたのが田村京華だ。生霊から受肉するなどたやすいだろう」
「それはあなたたちの推測でしょ。現実を見なさい。彼女は名前以外の記憶を全て失っているし悪霊ではない。生霊という証拠もないでしょ。田村京華が今どこかの病院で意識を失って生きているのであれば話は別だけど。ただの幽霊であれば、除霊対象ではないはずよ。除霊協会の会長ともあろうあなたがそれを曲げるの?」
 京が今対峙しているのは、除霊協会の会長だ。田村京華の大災害の当時は活躍した家系だがその後没落したため、並々ならない憎悪があるのだろう。
「分かっておらんのはお前らだ。身内だからとやつの力を過少評価しておる」
「ふーん」
「奴は既に死んでいる。いや正しく言えば肉体は滅んでいる。しかし、奴は肉体が死んでも生霊として現世に留まる方法を既に作っていた」
「・・・そんなこと無理でしょ」
「もちろん奴の才能でも完璧には作り上げられなかった。本来生霊は肉体が目を覚ますまでの間の仮の幽霊だ。そのため霊と言いつつ生霊は半分生きている。その肉体が滅んでいるのだ。当然条件が出る」
「条件?」
「眠りと現界を繰り返す必要がある。生霊としての存在を維持するために、奴はまるで植物人間のように長い時間存在を消して眠りにつく。しかし寝続けると完全に消えてしまうために定期的に現界して存在をこの世に記す。そうすることで生霊としてここまで生きながらえている」
「そんな方法があるわけないでしょ」
「田村京華が残した唯一の降霊術書に記載されている。現代ではだれも再現できないが理論だけ言えば可能だ。そして併記して霊の受肉に関する考察が記載されておる」
 京はその話を聞いて思い出した。倉で発見した唯一の京華に関する資料。あれはこの話に関することがまとめられている。どこの誰がコピーを取ったのか分からないが、あれが除霊協会に出回っている。
「それは分かったけど、今の京華がまた大災害を引き起こす理由はなによ」
「・・・田村本家が分からないとは皮肉なものだな」
「どういうことよ」
「先の京華の大災害は霊に関する人間全てを根絶やしにすることを目的にして行われたのだぞ。特に田村家周辺はかなり強く焼かれた」
 事実だった。田村本家もあと1時間大災害が続いていたら耐えられなかっただろう。
「その田村本家がまだ名家として残っている。それをやつが許すはずがないだろう。そして田村本家に限らず除霊協会も含め霊に関する人間が現代にも生き残っているとなれば」
「・・・また大災害を起こして今度こそ完全に根絶やしにするってことね」
「そうだ」
「でも今まではそんなこともなく消えていたのでしょう。だったら今回も待てばいいじゃない」
「最初我々もそう考えたさ。ただ、先ほども言っただろう。今回は現界の時間が長い。何より田村本家の娘に憑いているときた」
「大災害の準備が整たって言いたいのね」
「そうだ。だから田村京子のみを呼んだのになぜ」
「はあ、そんなのさっきも言ったでしょ。親だからよ」
 今までの話を聞いて京も少しばかり考えてしまった。除霊協会の推測は正しいし間違っていない。そして記録と存在を抹消してしまった本家よりも協会の方が良く京華について研究をしている。宇京が現在も解読を続けているが解読が終わっても協会の蓄積してきた情報量には敵わないだろう。
「親である前に貴様らは本家だ。霊界の事を考えろ」
「・・・そうね。では、田村本家当主の宇京に代わって命じます。この件からは手を引きなさい。そして、本件は田村家預かりとします」
「な!?」
「文句がおあり?」
「・・・せめてもの抵抗だ」
 そう言うと黙っていたもう一人の男が墓石を倒した。
「ば、罰当たりな!」
「大災害が起きる、起きないもあるが、我々としては我々の力で京華を除霊したいのだ。そしてこの京子の墓がトリガーであることは間違いがない。本当は本人を前にして倒したかったがな」
 二人はあっという間に姿を消した。おそらく協会に戻ったのだろう。場所が割れているので後を追う事も可能であるが、起きてしまった事象はもう戻せない。京は倒れた墓石を起こして、元の位置に戻して京子の部屋へ急いだ。

 時刻は午前4時50分です。おはようございます京華です。京子は私の横でよだれを垂らして寝ています。私が1人で起きた理由はきっと皆さん分かるよね。
『京子、ごめんね』
 静かにつぶやいて、私は京子の家を後にしました。家を出る前に京子に触りながらすまーとふぉんを操作して目覚ましは解除したのできっと京子は起きないと思う。もしかしたらお昼くらいまで寝ているかも。
 私は一人でお墓に向かうことにしました。不思議な物で、今ならこの家からも離れることが出来そうなのです。京子のお母さんからお話を聞いて、これ以上京子を巻き込んじゃいけないって凄く強く心から思ったからかもしれないです。私は京子の事が大好きだから。
 京子には菜緒ちゃんもいるし、有子ちゃんや鳴海もいるからきっと私が居なくても大丈夫だと思う。そもそも、私は幽霊だし、この間まで京子は1人だったんだから関係ないかもしれないけど。
 除霊っていうのは正直いまいち分からないけど、きっと現世に出てきていない時と同じような感覚なんだろうなって思うの。記憶はないけど、なんだかふらふらと宙に浮いているような、そんな感じ。
 でもでも、京子のお母さんもあの場所にいるはずだし、そんな簡単に私が除霊されちゃうなんてことは無いんだろうなって淡い期待もあるの。うーんなんて言うか、幽霊になってこんなに沢山の人と接したことは初めての事だから。だから挨拶とか無しで簡単に消えちゃうのはちょっと嫌だなって。幽霊だから挨拶とか意味わからないかもしれないけど、意識がある幽霊って人間と変わりないんだよね。
 あ、1人であれこれ考えていたらあっという間にお墓に着いちゃった。なんか京子のお母さんと見るからに怪しい男二人が話している。近くに行きすぎるとだめなのでなるべく距離を取って。
 うーん距離を開けすぎたから声は聞こえないなぁ。なんだか、京子のお母さんが凄い必死に色々と言っているのだけは見えるな。いいなぁ京子は。ちょっとつっけんどんに見えるけど凄く優しいお母さんが居て。
 私にもきっとお母さんっていう存在がいたはずなんだけど全く覚えてないし、もしかしたら恋人なんて存在も居たのかも。さっき京子のお母さんから京子っていう双子の妹がいた事を聞いたけど、それも正直ピンとは来ない。
 こういう時って昔の話を聞いたりすると記憶が戻るものなんじゃないのってちょっと思っちゃったよね。幽霊の私が言うのも変な話しかもしれないけど、神様って本当にテキトウだよ。
 でも、京子が他人な気がしないのははっきりと感じる。だからこそ、京子には私が見えているんだと思うし、実体化(仮)とかテレパシーが使えるのも京子だけなんだと思う。
 もどかしいなぁ、私の記憶が戻れば色々と良いんだろうけどさ。記憶が戻ったらまずは自分の年齢を京子に伝えないと。「ほらみろ!私の方がお姉さんだったぞ!!」って。京子はいつも私の事を妹とか娘扱いするからちょっと納得いってないなんだよね。
 あ、なんか男二人が変な動きしている。なんだか、凄く嫌な感じ。
「・・・せめてもの抵抗だ」
 その言葉だけはっきりと聞こえた。そして、墓石が蹴られて倒れた。その瞬間、私の頭の中で何かがかっちりハマって、そして壊れた。

「京子!!」
 部屋の扉をたたく音が聞こえました。近所迷惑なのでもう少し声のボリュームを落としてほしいところです。本人が気が付いていないのですが母の声は想像の5倍くらい通る綺麗な声なんですよね。
「うーんちょっと待って」
 私が扉を開けると血相を変えた母が入ってきました。
「京子、京華はいる!?」
「京華・・・?」
 そういえば、京華が居ません。
「あれ、お母さん今何時?」
「今は5時30分よ!京華はいないのね?」
「・・・うん・・・いない」
 私はスマートフォンを手に取り目覚ましが解除されていることを確認しました。きっと京華の仕業でしょう。私に触れていれば実体化(仮)は出来るので、私が寝ている間に目覚ましを解除したのでしょう。
「京華が行きそうなところは?」
「・・・わかんないけど、この時間でいないってことはたぶんお墓に行ったんだと思う」
「それはないわ。さっきまで私がいたけど京華はいなかった」
「ううん。私の勘なんだけど京華は絶対にお墓の方に行った」
「・・・絶対って言える?」
「勘だから絶対って言っちゃいけないけど、絶対に」
「わかった。お墓の方に行くわ」
「待ってお母さん。私も行く」
「ええ、いいわ行きましょう」
 本当はせめて着替えくらいはしたかったのですがそんな空気じゃなかったので部屋着のまま家を出ました。
 まだ6時にもなっていないので人通りは少ないですが、日が出てきています。部屋着は若干目立ちますね。母はむっつりした顔で無言です。私も何となく、何を話していいか分からなくて無言です。
 こういう時に京華がいてくれればこういう空気を壊して話してくれるんですが、今はいないですからね。京華は意外と空気をしっかり読むので案外こういう時には黙るかもしれないですね。
 あっという間にお墓に着きました。
「京華はいる?私は見えないから京子が頼りよ」
「うんちょっと周りを見てみる」
 私は母から少し離れてお墓の周りを歩いてみました。しかし、京華はどこにもいませんでした。いたという形跡もありませんでした。
困ったものですね。こういう時、幽霊ってどうやって探すのでしょうか。
「どう、京子。京華さんいた?」
 母も少し落ち着いてきたみたいで、京華の呼び方が丁寧な呼び方に戻っていますね。
「ううん。いなかった。形跡みたいなものも何もなかった」
「・・・そう」
「ねえお母さん」
「どうしたの?」
「幽霊が行方不明になった時ってどうやって探すの?」
「難しい質問ね。とりあえず、もう少しこの辺を歩きながら京華さんを探そう。その間に説明するわ」
「うん」
 母と二人で並んで歩きます。こんなこと子供の頃以来でちょっと恥ずかしいですね。
「幽霊の探し方だけどね、存在しないのよ」
「ええ?」
「だって、幽霊自体の存在が不安定だから探そうとして見つけられるものじゃないのよ」
「そう言われてみるとそうかも」
「でもね、幽霊には人間で言うところの帰巣本能が備わっているの。自分のお墓や、霊として初めて現界した場所とかね」
「そっか、私達で言うところの家みたいなものが幽霊にもあるんだ」
「そう。そしてそれは人間以上に幽霊を縛り付けているから、仮に幽霊を見失ってもその拠点に行けばほぼ100%いる」
「でも、京華は」
「そうね。京華さんの場合どこが拠点なのか全く分からないから探しようがないわね。もしかしたら、京子が住んでいるあの家が拠点になっているかもしれないから、もし出来たら今日大学を休んで欲しいんだけど」
「うん。一日くらいなら休んでも大丈夫だよ。菜緒ちゃんには体調不良って連絡しておくし、有子ちゃんと鳴海君は事情を知っているからきっと何かしら協力してくれると思う」
「本当にいい友達を持ったわね」
「うん」
「私はまず除霊協会に行って、その後宇京さんと話をしてくるわ。もし京華さんが戻ってきたらすぐに電話して」
「わかった」
 私と母は一旦家に戻り、母は荷物だけ持ってすぐに出て行きました。私はとりあえず着替えて、ご飯を食べてみんなに連絡をしました。
【菜緒ちゃん、ごめん。今日ちょっと体調悪くって大学休むね】
【え!京子ちゃん大丈夫?】
【うん、大丈夫。実はたまたまお母さんがまたこっちに来ていたみたいで、お母さんに看病してもらっている】
 半分は嘘で半分は本当の事ですが、菜緒ちゃんに少しでも嘘をつくってなるとかなり申し訳なさを感じます。
【そっか、それなら良かったよ!ゆっくり休んでね】
【菜緒ちゃんありがとう!】
 菜緒ちゃんには連絡が済んだので、有子ちゃんと鳴海君に連絡をします。
【京華が居なくなりました(行方不明の方です)】
【昨日戸締りしろって言っただろ】
【ちょっと鳴海その言い方はないでしょ】
【戸締りはしたよ!でも幽霊だから関係ないよ!】
【あ、確かにそうか】
【まあちょっとその話は置いておいて。今お母さんもこっちに来ていて、京華の事探しているんだけど私は今日大学を休むことにしたの】
【それは、まあ仕方ないねえ】
【それで、田村は俺らにどうしてほしんだ】
 こういう時、鳴海君のこの速さには助かります。
【もし、大学近辺で京華らしき幽霊を見かけたら連絡してほしい】
【うっし、了解】
【おっけーだよ。まかせて、京子ちゃん】
【二人とも、ありがとう】
 さて、私に今できることはここまでですね。とりあえず、大人しく家で京華を待つしかありません。母を信じて、待ちましょう。

 京は京子と別れた後真っ先に除霊協会を訪れた。毎年挨拶をしているし、先日も会合したばかりでこの事件だ。
「失礼します。田村京です」
「おお、田村さん。この度は申し訳ない」
 出てきたのは除霊協会の副会長だった。
「副会長、これは一体どういうことですか」
「申し訳ない。クーデターという言い方は正しくないのですが、会長及び会長一派の反逆です」
「反逆?」
 京にとっては寝耳に水だった。
「はい。先日の会合の際には話題に上げませんでしたが、京華という幽霊に憑いては私達の懸念事項の一つでした。当初は会長含め当面静観し、必要に応じて田村家に連絡するということで全会一致していたのです」
「それがなぜあんなことに?」
「どうやら、全会一致は表向きだったようで会長一派は京華という幽霊の除霊を虎視眈々と狙っていたようなのです。それが見抜けなくて大変申し訳ないと思うのですが、会長は常日頃から機会があれば我々除霊協会が赴くこともあるだろうが、基本的には田村家に一任すると言っていましたので完全に信じていました」
「そうだったの・・・。ということは」
「ええ、今除霊協会はほぼ空っぽです。7割弱が会長一派だったようでして。今もどこかに潜んでいるかと思います。除霊自体にそんな何人も出張る必要はありませんから」
「そうね。何か副会長は知っていることはある?」
「それが、全く何もないのです。除霊協会内の資料等も全てきちんと残っています。コピーを取っている可能性はありますが原本は全て残っています」
「なるほど。別に除霊協会を壊滅させて京華を除霊するっていう訳でもなさそうね」
「そうだと思います。除霊協会は世の中的にも絶対に必要な組織ですから。むしろ会長一派は京華という幽霊を除霊して新しい組織を立ち上げるのではないでしょうか」
「うん、私もそんな気がするわ。ま、そんなことさせないけどね」
 京は軽い感じで副会長に話をしたが、何も形跡が残っていないのは流石に想定外だった。ここに居ても他に得られるものがなさそうなので、宇京に連絡することにした。
「副会長、どうもありがとう。とりあえず私達は私達で動くわ。もしかしたら除霊協会に正式に助けを求めるかもしれないからその時には応じてね」
「もちろんです。お気をつけてください」
 京は除霊協会を後にして近くの公園のベンチに座り、宇京に電話した。
「宇京さん?」
「京、すまない。除霊協会の件、完全に私も分からなかった」
「今副会長から話聞いてきたところよ。完全に上手く隠していたならもう仕方ないわよ」
「すまない」
「謝っても仕方ないでしょ。それで、京華の残した資料について解読はできた?」
「大体は出来た。肉体が死してなお生霊としてこの世に留まる方法と受肉についてだった」
 除霊協会の会長が言っていた通りだった。
「それで、内容については」
「そうだなざっくり言うと、理論的には全て正しい。だが現代でこれを実施できる人はいないな。京華という才能があること前提だ。
それから受肉について」
「うん」
「こっちも理論的に正しい。そして、一番肝なのは生霊だけが受肉できるという事だな。だからこそ京華は生霊に拘ったのだろう」
「通常の霊では受肉は無理?」
「無理だな。それは京華の研究の結果でもある。受肉には血筋と能力の均等という二つが必要らしい」
「血筋と能力の均等?」
「そうだ。血筋はそのままだな。同じ血筋であること。もう一つは能力が同じ程度であること。例えば、私が生霊になっても京とは能力差が大きいので受肉対象にはならない。ただ、私と同じくらいの力量の霊能力者が同じ血筋に生まれれば受肉できるということだ」
「実にシンプルな理論ね」
「ああ。シンプルすぎるがゆえに多くの人間が見落としていたのだろうな」
 宇京の説明を聞いて京は改めて疑問を抱く。京華は何故京子に憑いているのか。最初は京子という同じ名前で同じ血筋だからかと考えていたがもしかすると。
「宇京さん」
「どうした」
「私達の娘、もしかしたらとんでもない才能かもしれない」
「・・・やはり京もそう思うか」
「宇京さんも同じ結論ね」
「そうだ。だからこそ、京子の近くにいてやってくれ」
「わかったわ。今のところ手がかりが何もないから京子の所に戻ることにするわ」
 京は電話を切って、京子の家に戻ることにした。どちらにしても、京華が戻ってくるとしたら京子の家かあの墓のどちらかだろう。それは間違いない。

 昼を過ぎましたが京華が戻ってくる気配はありません。そして私は今凄く暇です。
「おかしいな。1人でいるのって平気だったはずなんだけど」
 ほら、独り言が出てしまっています。どうやら短い期間だったとはいえ常に京華と一緒に居たので1人でいる時の時間の潰し方を忘れてしまったようです。
「うーん。暇!!」
 ちょっと大きな声を出してみるも何も反応がありません。ぶっちゃけかなり寂しいです。独りぼっちってこんなに寂しいのですね。
「どうしようもないし、お昼作ろ」
 テキパキと焼うどんを作りました。そういえば、初めて焼うどんを作った時、京華が信じられないくらい喜んでくれましたね。口の周りにソースを沢山つけながら笑顔で食べてくれていました。
「ふふふ。京華、子供っぽかったなあ」
 そのまま焼うどんを食べていると、焼うどんの上に雫が落ちてきました。
「・・・私が泣いているんかい」
 1人で突っ込んでみましたが虚しいですね。はい。寂しいです。京華が居なくなってまさかこれほどまでに寂しくなるなんて。
「京華、戻ってきてよ」
 ポソリと呟いたらスマートフォンが鳴りました。
「えっとあもしもし」
「あ、京子?」
「お母さん」
「ごめんね。除霊協会の所に行ってきたけど正直何も得られなかった。だから家戻ってきたから開けてもらってもいい?」
「うん今開けるね」
 電話を切り、涙を拭いて扉を開けました。母もどこか疲れた顔をしています。
「とりあえずね、宇京さんとも話をしたんだけど京子の近くにいるのが一番色々と可能性が高いだろうって」
「そうなんだ」
「そうよ。現状、正直できることがほとんどないから、少し休みましょう。京子、今凄い顔しているわよ」
「凄い顔って・・・」
「うーん、恋人には絶対に見せちゃいけない顔かな」
「!?!?」
 急いで鏡で見てみると確かに信じられないくらい表情が死んでいました。これは酷い。死んだ魚の目にも失礼なくらい目も表情筋も顔色も死んでいます。
「うん、お昼食べたら少し寝る!」
「そうしなさい。私も少し寝させてもらうわ。流石に疲れたわ」
「お母さん夜中からずっと起きているもんね」
「そうよ、夜中から起きているのなんてお肌に悪いのに」
 珍しく母が冗談を言いました。こんな冗談を言うということは、私は本当に今、人に見せられないような顔をしているのでしょう。菜緒ちゃんが居なくて本当に良かったです。
 私も母もその後1時間程度横になりましたが、ほとんど眠れませんでした。ですが、張りつめていた緊張は少しばかりほぐれて幾分かマシになりました。
 スマートフォンが点滅していたので手に取ると、鳴海君から連絡が来ていました。
【確証はないけど、京華っぽい人がいた】
【場所は大学近く】
 そのメッセージの後には地図のリンクが記載されていました。こういうちょっとした気遣いが鳴海君の凄く良いところだなって思います。
【鳴海君ありがとう】
 返事をしたのちに母に伝えます。
「お母さん」
「んーどうしたの京子」
 母は少しウトウトしていたようです。
「鳴海君から、京華っぽい人がいたって」
「え!?」
「場所はここだって」
 地図アプリを立ち上げて場所を母に教えます。間違いなく大学の近くですが京華と一緒に行った場所ではありませんので私もはっきりとしたことが分かりません。
「京子はここ、分かる?」
「分からない。京華とも行ったことないと思う」
「手がかりがないし、とりあえず行ってみましょう」
「うん」
 急いで大学近くの地図が示す場所に行きました。そこは、墓地でしたが母曰く「特に京華とは関係のない場所」とのことです。
 でも、(おそらく)記憶が戻った京華が無駄な動きをするとは思えません。それとなく色々とお墓を見て回りましたが気が付きました。
そうです、私には何も知識がありません!これは盲点です!
「京子、行くわよ」
「行くってどこに?」
「ここは京華とは関係ない場所だけど、京子には関係するところなの」
「私?」
「あ、ごめんね。分かりにくいわね。京華の双子の妹京子のこと」
「京子・・・さん」
「そう、この墓地は京子を養子として迎え入れた人達のお墓よ」
「え?」
 すぐに疑問が出ます。一般的にお墓というものは親族であれば同じお墓に入るはずです。
「でも、京子さんは」
「そう、一緒のお墓に入っていないわね。これについての理由は何も分からないのよ。ほら、家族の問題は家族の問題だから」
「・・・そっか」
 家族の問題は家族の問題。そう言われてしまうと何も言えません。そしてまた思います。京華は幽霊とは言え、私達の先祖ですので、今この問題は私達家族の問題ともいえます。なんとしても京華を見つけて文句の一つでも言わないと気がすみません。
「あれ、それでどこに行くの?」
「京華の妹、京子に関係するところを片っ端から回るわよ」
 母の考え方はたぶん間違っていません。でも、なんとなく私は違う気がしました。ここは京子さんの言ってみればご両親のお墓なわけです。たぶん、お墓参りをしただけじゃないかなと私は思うのですが、専門家である母には何も言えませんでした。

 除霊協会と呼ばれる人たちがしつこくついてくるからそいつらを撒くのに時間がかかってしまった。でも、無事に京子のご両親のお墓に挨拶をすることが出来たので満足はした。
『さて、つぎは』
 そうです。私は京華です。はっきりと言えます。記憶が戻りました。もちろん今まで京子と過ごした記憶もはっきりと残っています。そして、なぜ私がここまで生霊に拘ってきたのかもはっきりと思い出しました。
『まだ少しだけ時間に余裕があるし』
 現代の京子と一緒に行ったところを巡ろうと思います。この数日間、私は無邪気な幽霊として京子のそばに居ましたがとにかく楽しかったのです。だから、それを忘れないように再度目に焼き付けておきたいのです。
『でもちょっと失敗したかな。まさかお墓の近くで鳴海に見られるなんて』
 せめて過去の京子の両親に挨拶だけでもと思って行動してみたら大学の近くだったため鳴海に見られてしまう失態。
 鳴海は天才的に霊感が強いみたい。だから私の事をはっきりと見ることができる。どんな時代にも突然変異って現れるのね。
 除霊協会の人達については正直放置しておいて問題が無いです。それはシンプルな理由です。あの人達如きに私が除霊できるわけがないからです。この物語において、この先彼らが出てくることはありません。断言しておきましょう。所詮没落した人達の集まりです。私の目的の邪魔は出来ませんし、させません。
 そして今頃現代の京子や京子の母はきっと私を探すために過去の京子に関係する場所を訪れているでしょう。
 意味深に過去の京子の両親のお墓に行けば専門家はみんなそう思うでしょう。もしかしたら、京子だけは違うかもしれないけれども。
 あらためて京子と一緒に行ったところを訪れてみると、どれもこれも平和で、特別なところはありませんね。どれもこれもみんなあくまで”京子の日常”に含まれています。そこかしこに京子の痕跡があるので、京子の行動範囲の狭さがよくわかります。
 そして、京子の痕跡の近くにはいつも菜緒ちゃんの痕跡もあります。本当にあの二人は仲が良いようで私はとても嬉しいです。私にはそのような友達と呼べる存在が居ませんでしたから。
 いや、友達になろうとしてくれた人は沢山いました。ツルという女性は常に私にべったりでした。結局ツルの事は適当にあしらって離れてしまいました。今思い返せば、ツルはきっと私の事が好きだったのでしょう。時代が違えば、あるいは私が普通であればきっと同性であっても恋仲に落ちたでしょう。
 一通り京子との思い出を振り返った後は、銭湯ですね。今の私は自分自身で実体化(仮)ができます。そしてそれは京子とのそれと変わらず、他の人が認識できるものではないので安心できます。
『せっかくだからね、身を清めてから目的のために動きましょう』
 誰がいるわけでもありませんが、1人口に出してから私は移動を始めました。

「ああもう!!」
 母が頭を掻きむしっています。その後京子さんに関係する場所をいくつか訪問しましたが京華に関する情報は何もありませんでした。
「一体なんなのよ!京華の目的は!!」
 実は途中、除霊協会の人達と邂逅しまして、ひと悶着ありました。それが母を苛立たせているのです。
「お母さん、落ち着いて」
「落ち着けないわ!時間もないのよ!」
 母が焦っているのは時間がないからのようでした。
「時間がないって」
「・・・詳しくは説明できないわ。でも、早いところ京華を見つけないと」
「うーんお母さん」
「?」
「その、汗かいたし昨日もあれだったからできればちょっとだけ時間作って銭湯に行きたいんだけど・・・」
 意を決して言いました。そうです、女子としてはあり得ないことです。とにかく今すぐお風呂に入りたいのです。
「・・・そう。私は京子の部屋に先に戻ってまた作戦を練るから」
「うん分かった」
 私と母は私のアパートの最寄り駅まで移動して、私は銭湯に向かいました。
「・・・!?」
 扉を開けたら目玉が飛び出そうになりました。普通に京華がいるんです。しかも全裸で。
『あ』
「けい」
『ごめんちょっと黙って』
「むぐ」
 すぐに私の近くに来て口をふさがれました。他の人には何も見えていないので、番台のおばちゃんが不思議な顔をしています。そうか、この時間はおばちゃんなんだ。
「お姉さんどうかした?」
「い、いえ、なんでもないです」
「そう?それならいいわ。ごゆっくり~」
 私は急いで服を脱いで、京華を引っ張って浴室に入りました。
『ちょっと京華』
『何よ』
『なんでこんなところでさっくり会えるのよ』
『・・・失礼な言いぐさね』
『あとなんでそんな落ち着いていると言うかお姉さんっぽいのよ』
『記憶が戻ったからよ』
『ずるいよ。あの可愛い京華を返して』
『・・・ちょっと他に言う事あるでしょ』
『お姉さんっぽい京華、最初に見た時以来だからちょっとドキドキする』
『・・・はあ』
『お姉さんの雰囲気だからこそ、そのスタイルの良さが際立ってとてもえっちです』
『・・・京子って本当に京子ね』
『えっへん』
『褒めてないわ』
『え』
『とりあえず、逃げたりしないからしっかりお風呂入りなさい。私は脱衣所でゆっくり休んでいるから』
『わ、分かった』
 その言葉通り、京華はのんびりと脱衣所で休憩を始めました。本当に逃げたりしないようなので私も私でのんびりとお風呂を堪能しました。
 なんでかは分かりませんが、そもそも京華は逃げていたわけではなく、必要な行動をとっていただけできちんと私のところに帰ってきてくれたとその時に分かったのです。
 ゆっくりして出ると流石に京華も呆れていました。
『ゆっくりとは言ったけどまさか本当にこんなにゆっくりするなんて』
『だって、京華、もう逃げないでしょ』
『なんでわかるのよ』
『うーんそうね。京華の家族だからかな』
『・・・・ありがと』
 京華はほほをポリポリとさわりながらそっぽを向きました。子供京華には見られなかった行動でちょっとドキドキしますね。
『着替えるからもう少し待ってね』
『ええ』
 私は着替えて、髪を乾かしてフルーツ牛乳を2本買って銭湯を後にしました。
『なんで2本買ったの?』
 京華は私にちゃんとついてきながら聞きました。
『え?だって京華も飲むでしょ?』
『本当に京子って京子ね』
『ええ?』
『飲むわって言ったのよ』
 二人で歩きながらアパートに向かいます。もうすっかり日も暮れてきています。さて、アパートについてからどうなるのでしょうか。私には何も分からないですし、想像もできません。そして、京華が何を考えているか、流石にその真意までは分かりません。
 いずれにしても、アパートに着けばきちんと京華が説明してくれるのはずです。
『ちゃんと帰ったら説明するわよ』
 私の心を読んだように京華が言いました。ちょっと大人バージョンの京華は凄く良いですね。包容力が抜群にありそうです。抱かれたい女第1位ですね。
『今、絶対変なこと考えたでしょ』
『え?なんでわかったの?』
『家族だからよ』
 さっきの私のセリフに対するお返しのように京華は言いました。今度は私がそっぽを向きながら返さないといけないですね。
『そっか。ありがと』
 なんだかちょっとどころかかなり恥ずかしいですね。家族とは言いましたがうまく言い表せない独特な関係な気がします。
 家に帰ると、母は何か電話をしていたようでした。
「ええ、いや宇京さんまでこっちに来たら」
「ただいまー」
「京子が帰ってきたから切るわ。また連絡するわね」
「お母さん、京華、いたよ」
「は!?」
 母はそれはもう顎が外れるのではないかというくらい大きく口をあんぐりと開けていました。そしてそのタイミングで京華が実体化(仮)をしました。帰り道に自分1人でも実体化(仮)ができるようになったと聞いたので私は驚きませんでした。それにしても、1人でも実体化(仮)ができるって本当に京華って天才だったんですね。
「え、は、え?」
『京子のお母さん、落ち着いてください』
「いや、しゃべり方が全然違う!!」
「お母さん、ツッコむところが違う・・・」
『京子は人の事言えないでしょ』
「って言うかなんで、え?だってこれからえ?」
 母が落ち着くまでは時間がかかると思いましたが、京華のひと言ですぐに落ち着きを取り戻しました。
『おそらく勘違いされているようです。私は過去のような大災害を引き起こすつもりはありません。そのことについて、これから京子にもきちんとお話をさせていただきます』
「・・・そうなのね」
『おそらく、宇京さん・・・京子のお父さんもそこを一番気にしているのだと思います。そして、除霊協会と呼ばれる没落した人達もです。いやまああの人達は私を政治利用したかったみたいですが』
「そうよ。私達の一番の懸念点はまた大災害を引き起こすのではないかということ。それは田村本家として絶対に止めないといけないわ」
『私は死んでいますが田村本家です。本家を汚すようなことはしません』
「それを聞いてちょっと安心したわ」
『では、改めてですが京子も聞いてください少し長くなります』
「うん」

『どこから話せばいいのか私もまだ迷っていますので、長くなりますが許してください。まず、既にご存知の通り私は霊に関するありとあらゆる才能がずぬけていました。私自身も自覚しています。ですが、まずそこが大きな間違いだったんです』
「間違い?」
『そうです。今もあるか分かりませんが、田村本家のしきたりとして二人子供が生まれた場合は上の子を本家に残して、下の子を養子に出していました。これについては私も細かくは知りませんが、先祖代々常に霊能力は上の子が強かったことが由来らしいです』
「そんな由来があったのね」
『ええ。話を戻しますが、そこで間違いが起こったのです。実は私よりも妹である京子の方が圧倒的な霊能力者だったのです』
「ええ!?そんなこと、どこにも記録残ってないわよ」
『それはそうです。気が付いていたのは本人を除くと私ただ一人でしたから。ですが、そんなことは言えません。当時、霊能力者は万能であり、世から必要とされていました。そのため厳しい躾という名の暴力がまかり通っていました。ありきたりな話しではありますが、妹の京子をそんなことに巻き込むわけにはいきませんでしたから』
「・・・本家でもそんなことがあったのね」
『京子自身も自分の才能に気が付いていたようでした。ただ京子の能力は霊関係だけではなかったのです。なんといえばいいのでしょうか。先を見通す力と言えば伝わりますか』
「それって未来予知ってこと?」
『京子、それです。分かりやすいです。過去の京子は未来予知という能力が一番ずば抜けていました。だから私が大災害を引き起こすことも分かっていたようでした。今でこそ妖怪大戦争・大災害と言われているようですが京子が居なかったらもっと酷いことになっていたと思いますよ』
「ええ・・・」
『知っての通り、霊関係者は色々と歪です。既に養子に出されていた京子に対しても元田村本家ということで利用価値があると考えた輩がかなり多くいたのです。そんな輩たちからも京子の養夫婦はしっかりと京子を守りました』
「その養夫婦は」
『ちょっとお金を持っている人達でした。ですので、憲兵のような人を雇って常に京子を守っていたのです』
「過去の京子さんって凄いお嬢様だったのね」
『ただ、それも限界があります。結局京子は裏の霊関係者に拉致されます。そしてそこでほぼ人体実験のようなことをさせられました。もちろん拉致した人間たちは京子の才能には気が付いていませんし、知りませんでした。ただ田村家の娘で全く何の能力もないわけがないと』
「その推測は間違ってはいないわね」
『そうです。間違いではないですが、非人道的です。その中で京子の才能に気が付いた輩がそれを利用して田村本家を潰そうとしました』
「あ!ちょっと待って!空気読めなくてごめんなさい」
『どうしました、京子』
「私はお母さんから、田村家の霊能力は20歳になると発現するって聞いているけど今の京華の話だと二人とも20歳になってないよね?」
『ええ、私が自分の才能に気が付いたのは7歳の時です。既に京子は養子に出されていましたが姉妹ということで定期的に会うことが許されていました。だから私が京子の才能に気が付いたのも7歳です。おそらく京子自身も気が付いたのはそのくらいでは』
「じゃあ、いったい今の20歳になったらって話はどこから出てくるの」
『私には何とも言えませんが・・・』
「京華さんいいわ。これは私も推測でしかないけど、大災害が引き起こされたときに本家の人間も過去の京子の才能に気が付いたのでしょう。だから下の子を養子に出すというしきたりをなくして才能が20歳になったら出るという変な説明をするようになったんだと思うわ。そうすれば、才能を取りこぼすことがない」
『京子のお母さんの予測の通りではないかと私も思います』
「ただ、実際に20歳になってから才能が発現している人達がちらほらいるのよね。私もその一人だし。もしかしたら何かしら細工でもされているのかしらね」
『かもしれません。昔の本家の人間たちならそれをやりかねません』
「・・・そんな・・・」
『納得がいかないかもしれませんが、話を戻しますね。京子を拉致した人達は本家に揺さぶりをかけました。京子の才能と、それを使った大災害を引き起こすと』
「え?」
『本家は当然慌てます。ですが、私は落ち着いていました』
「なんで?」
『少しだけ話の時間を戻します。まだ京子が拉致される前、私達は定期的に会っていました。その時私達は18歳でした。色々なことを話しましたがやっぱり中心になるのは能力の話です。私はイタコとしての降霊能力が一つ抜けていました。一方京子の未来予知は万能に見えて決して良いものではありませんでした。未来の事が分かるだけ、しかもその未来は京子が予知として見た時点で確定してしまうというのです』
「もはやそれは予知ではないというか」
『そうですね。未来確定です。その京子が見た未来の一つが2年後の20歳の時に自分が拉致されること。そして、人体実験に使われること。それを使って本家に揺さぶりをかけようとしてくること。揺さぶりは半分成功するけれども、京子自身の身体が暴走して大災害が引き起こされることです』
「え・・?」
『それに加えて京子はずいぶん先の事も見ました。時代は分からないけれども、遠い未来自分と同じ名前を持つ女の子が田村家に生まれる。その子の霊関係の力はまさに京子と瓜二つだと。ただ、かけているところもあると』
「かけている?」
『ええ。私達は双子だったので結局二人で1人なんです。確かに私達の才能は突出していましたが完成系ではありません。京子と私が1人になって初めて完成系になるんです』
「・・・」
『もう少し詳しく説明をしますね。降霊能力と未来確定。全く関係ないように見えますが、この未来確定という能力、おかしいと思いませんか』
「さっき京華が言っていたけど、本来なら未来予知じゃないの?」
『京子、惜しいです。未来確定は確定ですが正確には未来不確定のはずなんです。未来というものは変えられます。自分達の行動で』
「うん」
『そこが過去の京子のかけていたところです。未来を見ることができる。けれどもその未来を変える力がない。だから未来確定。つまり未来を変える力が欠けています』
「・・・」
『そして、未来確定と聞くと超能力のようなものを思い浮かべるでしょう。何が霊能力なのかと。この未来を見る能力は本来であれば悪霊になる人達を見定める力です』
「あ!」
『京子のお母さんは気が付きましたね』
「ええ。昔は町に1人は霊能力者がいて、死して悪霊になる人を事前に見つけて悪霊にならないようにお祓いをするっていうルールがあったはず」
『そうです。それが未来を見る霊能力です。能力がずば抜けた京子は霊に関係もない未来も見ることが出来ましたが普通は悪霊になるかならないかという未来のみしか見えません』
「それで、何がどうして京華と一緒で一つなの」
『シンプルな話しです。降霊能力は一般的に言えば既に死んでしまった人を降ろす力です。そうですよね?』
「そうね。私なんかがまさにそうよ。既に死んでしまった人の魂を私という器に降ろすことで無念を晴らして悪霊にせずに成仏してもらうの」
『私の降霊能力は未来のつまり、まだ生まれていない、つまり死んでいない人も降ろすことが出来たのです。もっとも、10年~15年くらい先まででしたが』
「え!?」
『つまり、京子の未来確定と私の降霊能力はどっちも未来に向いていました。ただ私は降ろせる未来に限界がある。京子は見てしまった未来を変えられない』
「それで」
『仮に私達が一つになったとしたら限界なしで未来を見る力におそらくですが限界なしで未来の人を降ろすことができる。つまり、未来を変えることができる。あるいは未来の悪霊やその暴走を過去から防ぐことができます』
「そんなばかげた話が」
『実際にあるのですから仕方ないですよね。さて少し話を戻しますが京子が見た未来確定についてです』
「う・・ん」
『彼女が見たのは遠い未来、自分と同じ名前の女の子が田村家に生まれること。そして、その子は京子と同じ未来に関する霊能力に長けていること。ただ、何かが欠けている』
「何かが?」
『遠い未来過ぎてそこまでは見えなかったそうです。つまり不確定ですね。ですが、予測は立てられます』
「予測?」
『はい、おそらく能力は制御できない。そして時代が進んで霊能力が廃れることは未来を見なくても分かっているところ。つまり』
「また、大災害が起こるかもしれない?」
『そうです。その大災害を防ぐために私が今ここに居ます』

 だいぶ話が長くなったので一旦休憩をすることにしました。私は少しだけ外に出て夜風に当たっています。気持ち良いです。
『京子』
「ん」
 京華が出てきました。
『最初に言おうと思って言い忘れていたけど』
「何?」
『私の方がお姉さんでしょ』
 京華は胸を張りました。えっへんって聞こえてきそうです。その行動を見て、京華は京華だなって思いました。
「っぷ」
『ちょっとなんで笑うのよ』
「いや、京華は京華だなぁって思っただけだよ」
『・・・そうですか』
「うん」
 少しの沈黙です。うーん気まずいわけではないですね。なんと言いますか凄く心地良いです。
『京子、色々とごめんね』
「え?」
『ほら、私がきちんと記憶を保持出来てれば』
「あーもうめんどくさいな。京華は京華。私の家族でお姉さんで妹で遠いご先祖様。それ以上でも以下でもないの」
『・・・ありがと』
 京華は少し顔をずらしました。うん、真っ赤ですね。お姉さんとはいえ、可愛いですね。抱きしめても良いものでしょうか。だめですか・・・。
「部屋に戻ろうか。続き、お母さんと聞かないと」
『そうね。また長くなるけど許してね』
「うん!」
 私達二人は部屋に戻りました。さて、ここからまた長い話が続きます。
『前回の大災害ですが、まあ私が引き起こしたことになっていますよね』
「そうね。消された記録や伝承も含めて田村京華が引き起こしたってなっているわ」
『それなら良かった。先ほども説明をしましたが、没落貴族たちは京子を使って人体実験をしました。ありとあらゆる悪霊を降ろして一つにまとめて生きている人間の中に入れようとしたのです』
「何それ」
『まあ要するに無敵に近い生霊を作ろうとしたのです。生霊は除霊できないですから』
「そうね。生きている霊は戻すことは出来ても祓うことはできない」
『そこをうまく使おうとしたのでしょう。結果は京子の肉体と精神が耐えられずありとあらゆる悪霊を集めるだけの装置になってしまったんです』
「え!?」
『そこに京子の肉体があるだけで悪霊が集まってくる。そして暴走する。それを繰り返す。霊能力自体がそもそも高かったのもあってある意味無限に京子は悪霊を集めたんです』
「それで・・・」
『そうです。それが大災害の真相です。私は悪霊が少し集まった時点で感知して、すぐに京子が拉致された場所に向かいましたがもう既にダメでした』
「・・・」
『だから私は京子の肉体を完全に壊すことにしたんです。起点が無くなれば解決すると思ったのです。しかしそれが間違いだった』
「間違いだったの?」
『悪霊を集める京子の力だけが霧散したです』
「・・・そうだったのね」
『そうです。それは京子が見た私が大災害を引き起こしたという未来です。結局、京子は死んでしまい大災害の中心で生きていたのは私ただ一人でした』
「だから京華さんがやったってことになっているのね」
『ええ。それは事実ですし否定はできないのでいいのです。さて、また少し話が戻りますが京子と話をしたとき、つまり現代の京子が生まれるという話ですね。私は京子と準備を始めました』
「準備って何?」
『あなたを守る準備ですよ、京子。まず肉体が滅びても生き霊として現世に留まる方法、次いで受肉の方法』
「えええ!」
『私か過去の京子、どちらかが生き霊として未来の京子が生まれるときまで現世に留まろうと。そうして未来の京子を導く役目を果たそうって』
「本当にそれじゃお姉さんじゃん」
『だから言ったでしょう。お姉さんだって。京子が拉致されてからも、私はなんとか急いで研究を続けて結果生霊になる方法を開発して、受肉する方法も考えつきました。私か京子のような突出した霊能力がないと無理ですが』
「その京華さんが書いたメモというか本が本家で見つかったのよ」
『本家の倉の奥の方にこっそり見つからないように隠しましたからね。今の時代まで残っていて良かったですよ。大災害が発生してしまった直後、私は真っ先に死してなお生霊になる方法を使いました。完全に生きている間に1回肉体から離脱するんです。意識がある状態での離脱です。そうすることで霊として肉体から離れたとしても肉体が死んだという認識ができないんです。脳みそって面白いですよね』
「え?」
『意識がある状態で肉体から離脱することで脳をだますんです。通常、肉体からの離脱は死んでいない状態かつ意識がない状態でしか起こりません。意識がないからこそ肉体から離れて結果として生霊になります』
「わかるわ」
「私はわかんない」
『京子が分からないのは仕方ないです。意識がある状態で肉体から離脱すると脳みそはバグを起こします。つまり生霊になっているとしても脳は肉体の意識があると思っているので死んでいないと認識するんですよね。この状態で肉体が無くなったとしても、脳は既にバグが起きているので所謂幽霊にはなりません』
「意識あるまま離脱するなんて本当にあなた天才なのね」
『ええ。天才よ。ま、そうして離脱して大災害が収まるまでひっそりしていたの。大災害は結果的に多くの人を巻き込んでしまったし、結局京子は死んでしまった』
「・・・うん」
『大災害が何とか終わった後、京子の両親は大災害の中心に京子のお墓を作りました。それがあのお墓です』
「え!?あそこが大災害の中心だったの?」
『そうです。京子のお墓が建ったのを見て私はそこを拠点として眠りと現世を繰り返すことにしたんです。いつかの未来の京子に会えるまで』
「・・・ありがとう」
『そして今に至ります。まあ後は簡単ですよ。受肉って言い方は良くないですが私が京子の中に溶け込むんです。京子は京子のまま変わりません』
「ええええええええええええええええええええええええ!?」
 私が大きな声を出したところで一旦話は終わりました。

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