ふたり 3日目

■5月7日(日)
 ここまで曜日を言っていませんでしたが、京華と会ったのが5月5日(金)でした。よくよく考えてみればこどもの日に子供っぽい京華に出会うのはなんか不思議ですね。そして昨日が5月6日(土)。今日は日曜日です。ありがたい休みです。
「あら京子起きたの?」
『おはよう京子』
「おはよう・・・」
 まだ半分しか覚醒していない脳をフルに覚醒させるために顔を洗いました。そこで気が付きます。とてもいい匂いがします。
「お母さんもしかして朝ごはん作ってくれたの?」
「もちろんよ。母親だからね」
 シンプルなトーストとハムエッグでしたが、母の優しさが沁みました。
「京子はどうするの今日」
「うーん。今日は特別な予定もないし、昨日一昨日ってちょっと疲れているから家でゆっくりしてようかなって」
「そっか。私はご飯食べたらまたちょっと出てそのまま午後には青森まで帰るわ」
「わかったー。お母さん気を付けて帰ってね」
 朝ごはんを食べ終えて、洗い物を済ませると宣言通り母はキャリーケースを引いて帰って行きました。
『ねえ京子』
「どうしたの京華」
『京子って絶対にお母さん似だよね』
「え?」
 この子は急に何を言っているのでしょうか。この唯一無二な私が母に似ている?霊感もまったくないのに?
『ほらそういう思考が声に出ているところとか』
「ええ!!」
『全部じゃないけど、京子結構心の声が現実に漏れているから気を付けた方が良いよ』
「もっと早く言ってよ!」
『だって面白かったんだもん』
「面白かったじゃないよ・・・」
 京華は凄くケラケラしながら言いました。これ、もしかして菜緒ちゃんや有子ちゃん、鳴海君とかと話しているときも出ていたんでしょうか。だとしたら恥ずかしすぎる。穴があれば今すぐ入って埋まりたいです。
 さて、今日はゆっくりすると決めているのですが、よくよく考えたら明日は普通に大学の授業があります。有子ちゃんは何となく京華の存在に気が付いているようですが、菜緒ちゃんが不安です。しかも明日は1限から授業があります。これは、対策をしないといけないですね。
『へへへ』
 京華はテレビに夢中です。再放送のしているバラエティ番組を見ているようです。なんで日曜日の昼時ってバラエティ番組の再放送やっているのでしょうね。かと言って、ワイドショーがやっているのもそれはそれであまりいい気持ちではないのでバラエティで良いのですが。
「京華―」
『んーどうしたの京子?』
「ちょっと話をしよう」
 私が言うと京華はくるりと振り返りました。今日の京華は白のニットに黒のガウチョパンツで黒のボブヘアーです。なんというお洒落ないで立ちでしょう。私ですらそんな恰好したことないのですが。
「相変わらずお洒落な格好だね京華」
『えへへ。本屋さんに行った時にね。雑誌の表紙にあった服装を覚えてきたの』
「うん可愛い」
 気が付いたらまた京華を抱きしめていました。
『むぐ、京子、ちょっと、苦しい』
「は!ごめんね京華」
『もう!京子だってスタイル良いんだから、急に抱きしめられて埋もれる身にもなってよ!!』
「私のスタイルが・・・良い・・・だと・・・」
『なんでそんな昔の漫画みたいな劇画チックな顔になっているの』
「えっと、そんなスタイル褒められたこと全くないから」
 男子から「田村ってエロいよなー」って言われたことはありますがエロい=スタイルが良いではないことを私は良く知っています。学校ではちょっとばかしミステリアスな雰囲気を出しているのでおそらくそれをエロいと勘違いしているのでしょう。男子って本当にチョロい。
『む。今自分の事ミステリアスな女って思っているでしょ』
「なんで分かるの!」
『声に出ていたからだよ』
 私は顔を真っ赤にしたのですが、京華はゲラゲラと笑っています。
「そんなに笑わなくてもいいでしょ!」
『ごめんごめん。えへへ。でも、京子のスタイルが良いのは本当だよ。だって胸大きいし、くびれあるし、おしりも大きいし』
「なんでそんなに私の裸体に詳しいの」
『一緒に銭湯行ったからだよ』
 確かにそうですね。私と京華は裸?の付き合いをした中でした。ちなみにどうでもいい情報ですが、菜緒ちゃんとも裸の付き合いをしたことがあります。ええそうです、スーパー銭湯に一緒に行ったのです。さては皆さんちょっとエッチなこと想像しましたね。残念でした。そういうエッチなやつは他の所を当たってください。
「そういえばそうね」
『急に冷静にならないでよ!』
「でも京華の方が凄いわよ。なんて言うか着痩せするタイプだよね」
『着痩せ?』
 本当に京華の知識の偏り方は謎ですね。着痩せくらいの言葉は知っていそうな気もしますが。
「服を着ていると分からないけど、実際脱いだらスタイルが良いってこと」
『は!なんで私の裸事情を知っているの!?』
「・・・さっきの私と同じくだりをしないで。恥ずかしくて顔から火が出そう」
『あははは!!』
 もう話題が逸れて逸れて逸れまくりですね。逸れ行けアンパンマンって感じです。嘘です。すみません、今の駄洒落は無かったことにしてください。
「んん!ちょっと本題に入りたいのだけど」
『うん。どうしたの』
「明日から大学の授業が普通にあります」
『うん。明日は月曜日だもんね。そりゃ学校あるよね』
「京華はどうする?」
『え?』
 京華はぽかーんと口を大きく開けて呆けています。これはどういうことでしょうか。
『京子、何言っているの?』
「えっと私はそんなに変なことを聞いていますかね」
『愚門だね京子。そんなの絶対に学校に私もついて行くにきまっているでしょう』
「・・・ですよね」
『そうよ』
 えっへんという効果音が聞こえてきそうなくらい胸を張っています。うん、やっぱり着痩せするタイプですね。今日の夜にこっそり揉んでみようと思います。
「ま、まあ憑いてくるのは良いのだけど」
『ねえ京子。今凄い悪意のある漢字の使い方しなかった?』
「え?付いてくるのは良いけど?」
『むむ。なんかさっきと違う・・・』
 ジト目の京華も良いですね。なんかこう、背筋がゾクゾクします。ところで、これ私逮捕されたりしないですよね。大丈夫ですよね。
「と、とにかく。大学に付いてくるのは良いけど実体化(仮)のタイミングが難しい気がするの」
『え?だって実体化(仮)をしていても他の人には全く見えないって検証済みでしょ』
「それはそうだけど、念には念を入れておきたいの」
『うーん、まあ京子の気持ちも分からないではないけど』
「わかってもらえたならなにより」
『でもさ、結局学校に行ってみないと分からなくない?』
「え?」
『だって、ほら昨日京子が街中歩いて実験したのと同じでしょ』
「・・・京華の言う通りですね。あれこれ今考えても仕方ないか」
『そうだよー!』
「でも、最低限のルールだけ決めておく」
『ルール?』
 実体化(仮)をただするだけなら問題ないのです。そこに例えば何か飲むとか食べるって行為が加わると一気にリスクが増します。それに会話もテレパシー(仮)があるとは言え、私の脳みそへの負担が半端ないのです。テレパシー(仮)と普通の会話を同時にやると一気にカロリーを消費している気がするのです。だからこそ、ルール決めだけは必須です。
「そう。ルール」
『んー具体的にはどうするの?』
「そうだなあ・・・。まず、京華には申し訳ないけど大学にいる間は飲食を我慢してほしい」
『ええー!幽霊の唯一の楽しみを奪うなんて極悪非道!』
「帰ってきたら好きな物作ってあげるから」
『ぶうー分かった』
 ぶうーという時の口、めっちゃ可愛いです。いやあ人様にお見せできないのが悔やまれるくらいの可愛さですね。たまらない。
「それと、私が誰かと話をしているときはテレパシー(仮)を使わないでほしいかな」
『むー。どうして』
「私の脳みそが死んじゃうから」
『それなら仕方ないなあ』
 おや、今度のルールは意外にすんなりと飲み込んでくれましたね。実体化(仮)よりもテレパシー(仮)の方がうじうじ文句言われると思っていましたからね。
「でも、何か緊急事態があればすぐにテレパシー(仮)で話しかけてね」
『緊急事態ってどんなの?』
「うーん・・・例えば誰かに京華の存在が気づかれていそうとか」
『そんなことあるかなぁ』
「いや昨日有子ちゃんの反応みたでしょ。大学って大勢・多種多様な人がいるから霊感が強い人がいる可能性だって十分あるのよ」
『むー。なんだかあんまり信じられないけど』
「お願い京華。これだけは信じて」
 私がしっかりと懇願すると、流石に京華も分かってくれたみたいです。
『京子がそこまで言うの、なんだかレアな気がするからいいよ』
「承諾してくれた理由が癪に障るけど、ありがとう。とりあえず最低限のルールとしてはこんなもんかな」
『これくらいなら私も守れそうだよ!』
 とりあえず笑顔で言われて私もほっとしました。京華とじゃれたり真剣に話したりしているうちに夕方になってしまったみたいです。
「京華、晩御飯を買いに行こうか」
『うん!!』
 ご飯の話題になると満面の笑みになる京華がどうしても憎めないですね。さて、焼うどんばっかりじゃ飽きてくるでしょうから今日は少しだけ奮発してハンバーグでも作りましょうか。何となく、京華はハンバーグが好きな気がするのです。
□幕間
 新幹線の中で、京子の母である京はずっと考えていた。
「まさか、京子に憑いているのが京華って名前だなんて」
 京華と聞いて京もそして旦那の宇京も思い当たる節は一つしかない。そして、帰り際に確認してきた墓地。あそこのアパートを反対した本来の理由。それらが重なってしまっている。
「京子はもうすぐ成人になる・・・。まさか、このタイミングだからこそ発生しているの?」
 ぶつぶつと1人で色々と考えているがどうしても考えがまとまらない。京華は間違いなく”あれ”だ。毎年、この時期に夫婦そろって東京に出てきている理由の一つでもある。でも京子にはこのことは一切話していないし、京子も知ろうとしたこともないはず。そして、覚えているという事もあり得ない。最も、人間の脳は時に想定外の記憶力を発揮するとも言われているが。
「霊感なんてまさに脳の想定外の力の一つだしね。もしかしたら京子もちゃんとうちの家系の血を引いているって証拠なのかもしれないわ」
 少しポジティブに捉えてみてもやっぱり考えがまとまらない。少なくとも今すぐ京子の身に何かが起こることは無いと断言できる。まずは宇京と相談して対策や方針を考えないと。
「時間があるとは言いつつも、この1週間以内には解決に向かわないと良くない方向になりそうね」
 最後にぼやいて、京は目を閉じた。

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