ふたり 5日目
■5月9日(火)
目覚まし時計が鳴る時間よりもずいぶんと早くに目が覚めました。1時間以上余裕があります。そして京華はまだ寝ています。
二度寝をしようかなとも思ったのですがどうにも二度寝できる感じではなかったので少し散歩をすることにしました。
美味しいけど朝早くに売り切れてしまう評判のコッペパンのお店があることを思い出したので支度して京華を起こさないように静かに家を出ました。
5月と言えば割と夏が近く、暑い日もありますがこの日は程好い風があり、朝の散歩としては持ってこいな気候です。
「うーん、なんだか1人で歩くのって久しぶりな気がするな」
思わず独り言が漏れましたが、先週の金曜日の夕方に京華に出会ってからこうやって1人で何かをするというのは初めてでした。
そんなことをぼんやり考えながら歩いているとあっという間にコッペパンのお店に到着しました。
「あら、ずいぶんお若いお客さんですねいらっしゃいませ」
お店の奥にいたおばあさんが腰を上げて出てきてくれました。
「おはようございます。早起きしましたのでお散歩がてら来てみました」
「早起きは良いことよ。今日はね、まだ人気のポテトサラダコッペとハムカツコッペが残っているわよ」
おばあさんの言葉を聞いてショーケースの中を覗くとポテトサラダ、ハムカツ以外にも美味しそうなコッペパンが残っていた。
「全部美味しそうに見えますね」
「うふふ、全部美味しいわよ」
おばあさんの笑顔が素敵です。京華の分も当然買いますが二人でシェアすれば色々な味が楽しめそうです。
「ではせっかくなので、ポテトサラダとハムカツを一つずつください」
迷いはしたものの結局おばあさんのオススメにすることにしました。こういうのは店員さんのオススメに従っていればはずれを引くことなんてないんですよね。
「はいはい、ちょっと待ってね」
おばあさんはとても丁寧にコッペパンを包んでくれました。
「はい、美味しいからすぐに食べてね」
「ありがとうございます!」
商品を受け取って、来た道をのんびり歩いて帰ります。程好い風を受けながら、少しずつ起きていく街の様子を見て歩くのは楽しいです。ふっと気になって帰り道にあのお墓を見てきました。
「あれ・・・?動いていたお墓がもとに戻っている」
ちゃんとしたお墓でもなんでもないので、管理している人とかはいないはずですがきちんと元の位置に戻っている気がしました。
「うーんそもそも動いていたのが気のせいだったのかもしれない」
そんなことを考えながら家に帰りました。
○
『あーーー!京子どこに行っていたの!!』
家に着くと既に京華は起きていたようで、ぷりぷりと怒っていました。
「ちょっとお散歩してきたの」
『なんで私も起こしてくれないの!』
「ごめんごめん。京華、すごく気持ちよさそうに寝ていたから」
『ぶー!!もう!起きたら京子がいなくてびっくりしたんだから!また1人でどっかに行っちゃったんだと思って心配したのよ』
「また?」
『え?』
京華がはまた一人でと言いました、でも、京華と出会ってから京華に何も言わずに1人で行動をしたのはこれが初めてのはずです。
「また1人でって」
『私、そんなこと言ってないよ』
「いや、言ったよ」
『言ってない!』
京華は頑なです。明らかに言ったのに言っていないと。ここでもめても仕方ないので気を取り直してコッペパンを出しました。
「まあいいや。それより京華朝ごはん買ってきたよ」
『なにそれ!』
コッペパンに興味津々でした。流石コッペパンの魔力。
「ポテトサラダコッペとハムカツコッペ。半分に切って二人で食べよう」
分けたコッペパンを二人で頬張って、大学に行く準備をします。
『京子』
「んー?どうしたの?」
髪の毛を梳いていると京華が少し真面目な顔をして話しかけてきました。
『京子がお付き合いしている、菜緒ちゃんって霊感あるのかな?』
「菜緒ちゃん?」
『うん』
「どうだろう。昨日は全く京華に気が付いていなかったし霊感はないんじゃないかな」
『そっかー・・・』
京華は凄く残念そうな顔をしました。どうしたんでしょうか。何か気になるというか引っ掛かりがあるようなニュアンスですが。
「菜緒ちゃんがどうかしたの?」
『えっとね。菜緒ちゃんって京子と一番仲良しなんでしょ?』
「お付き合いしているし、そういう意味では一番仲良しかな」
『だからね、菜緒ちゃんとも友達になりたかったなぁって』
なるほど。確かに京華と菜緒ちゃんが仲良しになってくれたら私も嬉しいですし、このまま菜緒ちゃんに京華の事を隠しているのはなんか浮気しているみたいで後ろめたいです。あ、京華には何もエッチなことしてないので浮気ではないですね。
『・・・京子鼻の下が凄い伸びている』
「え?」
『何かエッチなこと考えていたでしょ』
「気のせいだよそれは。京華の胸に飛び込みたいなんてそんなことは微塵も考えてないよ」
『考えているじゃん!』
「は!知らないうちに口から言葉があふれ出ている」
『京子がそう言うなら、少しくらいはいいよ』
「え!?」
『嘘だよ~!京子って頭良いはずなのになんかちょっとおバカだよね』
「おバカではなく、思春期と言って欲しいですね」
『もういい大人が思春期って・・・』
京華に呆れられてしまいました。ちょっと子供っぽい所がある京華に呆れられるのはちょっとそそられますね。襲いたいです。
『ぶー。またエッチな顔している』
「気のせいですよ」
無事に準備が終わりましたので大学に向かうことにします。今日は講義の後特に予定はないのでできれば菜緒ちゃんと放課後デートをしたいところです。そんなことを考えながら京華と家を出ました。
京華と出会ってから数日しか経っていないのに違和感なく京華が私の日常に溶け込んでいます。昔からずっと一緒に居たみたいな感じがして不思議な気持ちです。
幕間
京は田村家の倉で過去の資料を漁っていた。現在の田村家の家系図から京華という人物は完全に抹消されているが昔の資料には何かしらが残っているかもしれないと思ったからだ。
「歴史がある家系っていうけど、こういう倉はもう少し片付けをしないとだめね。すぐに資料が引っ張りだせない所が現代において不便すぎるわ。できれば全部電子化しておきたい」
文句を言いながら、片っ端から資料をひっくり返すが何も出てこない。現代の資料だけでなく過去、京華について触れられたであろう資料も全て処分されているのかもしれない。
少なくとも、過去に京華が起こした大事件以降京華という存在が幽霊とは言え現代に現れたことは無いはず。仮にあったとしても誰からも認知はされておらずひっそりとしていたはず。
「霊に関わる全ての能力が優れていたって聞いているし、降霊術とかそういう方向の資料を漁ってみようかしら」
別の棚に移動して、資料を探すと一つ気になるものが出てきた。
「霊にかんする・・・読めないな」
文字がかすれて読めないが、著者らしき所に薄っすら華という文字が見える。田村家は代々”京”という字を名前に宛がうことになっているため華の前に来るのは間違いなく京。つまり京華が書いたものに違いない。
ペラペラと何ページかめくってみるが文字がかすれすぎている。
「ちょっと宇京さんにも見てもらおう」
宇京は宇京で現代の技術を駆使して京華について調査をしている。霊に強いのは何も田村家だけではない。既に廃れてきてはいるが過去には名門と言われる家系がいくつもあった。その名門の本家から分家まで片っ端から当たっているのが宇京だ。
またモグリの霊能力者も多いためすべての情報を信頼することができるわけではないが、ネットを使い情報を集めている。真偽は定かではないが京華に関することはいまだに都市伝説として語り継がれているものが多い。
集まった情報は精査する必要があるが、ネット情報はバカにすることができないことが多々ある。悪霊の目撃情報も最近ではネットを頼りにすることが増えている。
「宇京さんの方もある程度は情報集まっているかしらね。もう火曜日だし、早いところ何かしらの対応策が立てないと」
情報が少なすぎたため今日まではひたすらお互いに情報を集め続けた。今日、明日には対策を立て木曜日には実行しなければ金曜日には京子が20歳になる。このままでは何が起こるか本当に分からない。急がなければならない。
「ゲッホ。うえ。片付けの前にまずはまた掃除しないと」
ほこりを吸い込んでしまった京はぼやきながら倉から外に出た。
○
午前の授業が終わり、久しぶりにラーメンが食べたくなった私の希望で菜緒ちゃんとラーメンを食べに来ました。美女が髪の毛を書き上げながらたラーメンを食べる姿って凄い絵になりますよね。いつも通りちょっと下心があると思ったでしょう。ここまで絵になるともうそういう気持ちも湧きません。嘘じゃありません。
『嘘じゃん』
『・・・京華は黙っていて』
『黙っていてって言いながら、今テレパシーで話しかけてきたもん』
『・・・そうです。誰かにこの菜緒ちゃんのすばらしさを共有したかったんです』
『むー。京子の言う通り、菜緒ちゃんは凄く絵になるから私もあんまり何も言えない』
『京華にも分かりますか』
『わかる。一枚の絵を見ている気分だもん』
私と京華に噂されている菜緒ちゃんは熱々の麺をふーふーと冷ましながら食べています。
「・・?京子ちゃんどうかした?」
「えっとなんでもないよ」
思わず見惚れていたら菜緒ちゃんにばれてしまいました。
「そういえば、菜緒ちゃん今日はバイトあるの?」
「今日はバイト無いよ!」
「そっか!じゃあ、デートしようよ。今日はサークルもお休みらしいし」
「うん!いいよ!昨日もサークルお休みだったけど何かあったのかな?」
「なんかね、今次の題材を何にするのか揉めていて決まらないからお休みだって」
「そうなんだ!いつも通りの理由だね!」
私達が所属している文学サークルではこういうことが多々ある。毎回持ち込み企画のような形式で題材となる文学を決めて、全員が読んできてディスカッションをするという少し変わった文学サークルなのです。持ち込み企画のため、今回みたいに題材が決まらないことがしょっちゅうあります。
「私もそろそろ何か題材考えないとな」
「京子ちゃんが?」
「うん。部長にね、田村も久しぶりに題材考えてくれって前に言われたの」
「確かに最近京子ちゃんの持ち込み題材無いね」
私が持ち込もうとする題材はもれなく他の人達が出しているので、ネタが無いのです。困ったものです。ちなみにこっそり読んでいる官能小説というジャンルはまだ誰も出していないのですが流石に恥ずかしすぎて持ち込めません。
「菜緒ちゃんも最近は持ち込み無いんじゃない?」
「うん。でもね、今読んでいる恋愛小説が凄く良くてね読み終わったら題材として出そうかなって」
「菜緒ちゃんは本当に恋愛小説が好きだね」
「えへへ」
スープを飲みながら、ふと考えます。
『京華』
『うーんどうしたの京子』
京華は流石に暇なのか大人しくしてくれてはいますが空中で半分寝ているようでした。
『京華って本は読むの?』
『記憶にないけど、前に京子と本屋さん行った時凄く楽しかったからきっと読んでいたと思う』
『確かにあの時の京華は凄く楽しそうだった』
『なんでそんなこと聞くの?』
『もし京華が覚えている本とかあったらそれを題材としてサークルに持ち込むのもいいかなって思ったの』
そうすれば、京華もサークルに参加している気分を味わうことができるんじゃないかと思ったのです。けれども記憶がないならあきらめるしかないですね。
『えへへ』
『なんで笑っているの』
『京子の愛を感じるな~って思ったから』
なんと恥ずかしいことをストレートに言ってくるのでしょう。菜緒ちゃんとは違う方向の可愛さがあります。両手に華とはまさにこのことですね。
「そうだ。京子ちゃん、今日はどこに行く?」
「どうしようか。ちょうど今サークルの話をしたし本屋さん含めてショッピングしよう」
「うん!ちょうど本屋さんも見たかったし、服も見たかったんだ」
「じゃあ決定!午後の講義も頑張ろう」
「うん!」
菜緒ちゃんとのデートを楽しみに午後の講義も乗り切れそうです。そして本屋さんにしたのは京華のためでもあります。前回行った時もそうでしたが、京華も楽しそうだったのでせっかくなら一緒に楽しめたらと思ったのです。
『むにゃむにゃ』
その京華は空中で寝ているのですが。私と菜緒ちゃんが話している間はどうしても暇になってしまいますからね。仕方ないです。
○
午後の講義もつつがなく終わりました。途中、鳴海君と有子ちゃんから声をかけられ京華も嬉しそうでした。鳴海君は陸上部の練習、有子ちゃんはバイトということで二人と別れて菜緒ちゃんと電車で移動中です。
「ねえ京子ちゃん」
「ん?どうかしたの?」
「なんだか、鳴海君も有子ちゃんもさっき凄く嬉しそうだったね」
菜緒ちゃんには見えていないのですが、それは京華がニコニコしながら手を振っていたからでしょう。ちょうどその時は菜緒ちゃん、鳴海君、有子ちゃんしかいなかったので実体化(仮)をしていたので有子ちゃんも京華の事が見えていたはずですし。
「そうだね。何かきっと二人とも良い事が合ったんじゃないかな」
「そんな感じがするね。鳴海君も有子ちゃんも凄く素敵なカップルだよね」
「うん。二人とも接しやすいし」
「私達もあの二人みたいなカップルになっているのかな」
「え?」
「えへへ。なんでもないよ」
菜緒ちゃんがハニカミながら私を見つめています。守りたい、この笑顔。
『絶対今、守りたいこの笑顔って思っているでしょ』
京華とお笑いコンビを組んだら間違いなく京華がツッコみですよね。そして確実に売れる気がします。
『なんでわかったの』
『京子だったからこういう時に絶対に言うだろうなって感じたから』
『そんなのを感じるの!?』
『うーん。なんかね昨日あたりから凄く京子の考えに敏感になっているって言うか、はっきりとは分からないんだけど何となく感じるようにはなってきたんだよね』
『なんか以心伝心みたいな感じ?』
『そう!そんな感じがする!』
『まあ今、憑かれているからそういうことも起こり得るかもね』
京華には言いませんが私も何となく京華の考えていることが分かるようになっています。京華と同じく漠然としかしていませんが、話しかけてくるタイミングが分かるので急にテレパシーが飛んできても焦ることが無くなってきました。幽霊に憑かれている人間っぽいですね。
あっという間に目的地の最寄り駅に着きました。駅から出て直ぐに大きい駅ビルがあってそこが複合施設になっているのです。
「まずは本屋さんから行こうか」
私が菜緒ちゃんの手を取って先導します。
「うん!」
京華は変わらず私の上からついてきます。
本屋さんは結構混みあっていたので、菜緒ちゃんといったん分かれて20分後に出口で合流することにしました。この本屋さんは駅ビル内なのにかなり広いのです。
『さて、京華』
『どうしたの?』
『どこか見てみたいジャンルってある?』
『えーっとね。せっかくだから歴史の本が見てみたいな』
『歴史?』
『うん。私の記憶ってかなりあ曖昧だから、いくつか時代を追える本があるといいなって』
『それならオススメというか、いい本があるよ』
私達は参考書のコーナーに移動しました。いくつか京華にオススメの参考書を見せながらどれにするかを決めます。なんと言っても購入するのは私ですからね。えっへん。褒めて欲しいところです。
『うーん、こっちがいいかな!』
京華が決めたのは、大人が日本歴史を学びなおすために出版された参考書でした。私もざっくりと振り返るのであればこれが一番いいと思っていました。
『じゃあこれを買ってこようか』
『京子は何も買わないの?』
『私はもう買うもの決めているから』
『いつの間に・・・!』
私は文庫のコーナーに移動して、今話題の作家の新刊を買いました。男女入れ替わり物ですが、どちらの心情も素晴らしく丁寧に書かれていると評判らしいです。らしいというのは菜緒ちゃんから聞いたからですよ。流石恋愛小説が好きな菜緒ちゃん、こういう大作も外さずに読んでいます。
会計を済ませて入口に戻ると、菜緒ちゃんもちょうど買い物を終えたようでした。
「同じタイミングだったね」
「ね~京子ちゃんは何を買ったの?」
「私はちょっと歴史の勉強しようかなって歴史の参考書と前に菜緒ちゃんがオススメしてくれた本だよ」
「あーそれ!やっと読んでくれる気になったの!嬉しいな。早く京子ちゃんの感想が聞きたい」
「気長に待っていてね」
その後は菜緒ちゃんの新しい洋服と下着選びを手伝いました。下着選びはなんかこう付き合っている人の特権って感じがして興奮よりも感動が勝りました。あと内緒ですが、ちょっとばかし菜緒ちゃん大きくなっていたようです。何がとは言いませんが。ついでに私も測定してもらいましたが全く変化が無くて思わず笑ってしまいました。
菜緒ちゃんと手を繋いで駅に向かっている途中、凄く視線を感じました。菜緒ちゃんが凄く可愛いのでたまに男の人の視線を感じることがあるのですが、今回の視線は全く違いました。何か見透かされているような感覚です。
『ねえ京子』
『うん。京華も感じている?』
『うん。凄い見られているよ。鳴海と比較にならないくらい。たぶん、京子だけじゃなくて私の事も見ている』
『そっか。なんか嫌な予感がするね』
『する。とりあえず京子は菜緒ちゃんを無事に送り届ける所までしっかりやって』
『もちろん』
菜緒ちゃんと他愛のない事を話しながら無事に駅までたどり着きました。
「は~京子ちゃん今日はとっても楽しかったね」
「うん!めっちゃ楽しかった」
「今週の京子ちゃんの誕生日も楽しみにしていてね」
「え!?」
「えへへ。我慢できないから言っちゃうけど、今日は買い物しながら京子ちゃんに何あげようかな~ってずっと考えていたの」
「そうだったの!」
「うん!それでね、何となくだけどプレゼント決まったから楽しみにしていてね!」
「ありがとう、菜緒ちゃん」
まさかそんなことをしているなんて微塵も思わなかったです。菜緒ちゃんからのプレゼントなら何でも嬉しいのですが、こうやって真剣に選んでくれているのが分かるとより一層嬉しくなりますね。
電車に乗り、菜緒ちゃんの家の最寄り駅まで一緒に行き改札で別れました。
「じゃあまた明日ね京子ちゃん!」
「また明日ね!」
菜緒ちゃんが見えなくなったところで京華との会話に戻ります。
『さて、京華』
『うん』
『まだ視線感じるよね』
『凄く感じる』
『だよね。とりあえず、私達の家の駅まで行こうか。念のために有子ちゃんと鳴海君に連絡しておいてみる』
『二人とも今日は用事あるんじゃなかった?』
『たぶん鳴海君は練習も終わって帰っているはずだから』
『そっか。鳴海がいてくれるなら心強いかも』
私は電車を待ちながらスマートフォンで鳴海君と有子ちゃんに連絡を入れた。
【二人ともごめん。もし出来たら20分後くらいに駅に来れない?】
すぐに既読が付いた。たぶん鳴海君。
【どうした、なんかあったのか】
【うん、ちょっとなんか怪しい視線を感じて】
【視線?】
【たぶん京華の事も見透かしていると思う。私も京華もなんだか嫌な予感がして】
【分かった。有子はまだバイト中だと思うから俺が駅まで行くよ】
【ありがとう鳴海君】
【駅に着いたら連絡してくれ】
【了解】
連絡を取っている間も視線はずっと続いていました。その視線は例えるならねっとりとみられている感じで京華も黙ってしまいました。
電車に乗るとすぐに男の人が近づいてきました。その時に気が付いたのですが周りには誰もいませんでした。
「田村京子だな」
「だ、だれですか」
「私が名乗る必要はない。一つ話がある。大声を出したりしても意味ないからな。今この車両に人払いをかけているから」
「な、なんなんですか。ど、どうするつもりなんですか」
「危害を加えるつもりはない。一つ話をするだけだ。お前に憑いている京華という幽霊は正確に言えば幽霊ではない。いや幽霊ではあるが生霊に近い」
「い、いきれい?」
「ああそうだ。この会話も聞かれている前提で話すぞ」
「は、はい・・・?」
「田村本家も動いているが動きが遅すぎる。だから私が動いている。いいか。明日午前5時にお前の家の近くの墓地に来い。必ずだ」
「え、っと意味がわかな・・・」
私が言い終わる前にその男の人はいなくなり、いつの間にか車両には人が戻ってきていました。
「え?」
『京子、今の人知り合い?』
『いや、えっと知らない。むしろ京華の知り合いじゃないの?』
『私は分からないよ。でも生霊って言っていたよね私の事』
『うん』
『生霊って何・・・?』
『えっと私も分からない。だからとりあえず、家に帰ったらお母さんに電話して聞いてみる』
京華との話を終えて気が付いたのですが、びっしょりと汗をかいていました。信じられないかもしれませんが下着までぐっしょり濡れています。運動してもこんなに汗をかくことはありません。これが通常の時であればいつも通り猥談に持っていけそうですがそんな思考にはなりませんでした。
『とにかく、駅に着けば鳴海もいるんだからまずそこで話をしなよ』
京華に言われて思い出しました。鳴海君が駅で待っていてくれているはずです。人に話すだけでもきっと心が軽くなるはずです。今は誰でも良いので知っている人に会いたいと心から思いました。
幕間
時間は戻り、本日午前。田村家本家では宇京と京が向かい合っていた。
「宇京さん、何か情報はあった?」
「ああ、いくつか気になるのがあった。京は?」
「私もあったけど、ちょっと字が掠れていて何も読めないかも」
一冊の資料を見つけた後、倉以外の本家内もあちこち探し回ったが結局何も出てこなかった。情報が消されているとは言え、まさかここまで徹底的に消されているとは思わなかった。
「そうか。とりあえず私の方から共有しよう。どうにもきな臭い動きがあるようだ」
「・・・どういうこと?」
「東京の方に居る、除霊協会が動いているようだ」
「除霊協会が・・・」
除霊協会はその名前の通り、除霊を専門としているプロ集団。過去に名門と言われ廃れてしまった霊関係者がこぞって所属している。
「京子があそこに住んでいるから、京華と呼ばれる幽霊が憑いた時点で既に感知していただろうが、ちょうどその時に京が東京に居たからしばらく静観していたんだろう」
「静観していたのになぜ今動き始めたの」
「それはもうシンプルな理由だな。京子の誕生日が近くなってきたからだろう。私達が動いているのも当然知っているだろうがそれよりも自分達が動いた方が早いと判断したんだろう。彼らは除霊のプロだからな」
「でも除霊って言っても」
「今の京華と呼ばれる幽霊は一般的な除霊対象にはならん。名前だけ同じ幽霊の可能性も高いし、何か害があるわけでもない」
「そうでしょう。それに現状だと除霊できるような霊でもないはず」
「それがどうも京華は生霊かもしれないそうだ」
「生霊ってことは」
「正確には除霊ではないが、除霊協会の対象に当てはまるだろう」
生霊とはその字の通り生者の肉体から霊魂のみが離れた存在の事を言う。交通事故にあってしまい植物状態になってしまった人が生霊となってしまい相手方を呪うという事例は多数ある。
「でも、京華が生霊ってなるとどこかで本体が生きているってことになる」
「そうだ。除霊協会の考えとしては京華という突出した才能だと死してなお生霊として現世に留まることができるのではないかと」
「そんなこといくら才能があったってできるわけがないわ」
「私もそう考えている。ただ、除霊協会は我々の想定以上に京華という幽霊を恐れている。だからさっさと存在を消したいのだろう」
除霊協会の内部事情は詳しくは分からない。現代においても田村家は霊関係の名家で血筋が途絶えていないため一部から妬まれていることは知っているがそれ以上のことは分からない。
「本当にそれだけかしら」
「どういうことだ?」
「京華という幽霊が現れた、そして除霊協会が京華という幽霊を除霊したってなると勢力図が変わるわ」
「・・・その通りだな」
「その幽霊が本物かどうかはもうこの際は関係ないわ。そして今まで静観していたのはおそらく除霊協会も情報を集めていたからだと思うわ」
現代においては廃れてしまっていても名門であったことは間違いない。その集まりである除霊協会が京華と呼ばれる幽霊を除霊したとなるとすべての中心が除霊協会になる。
「京の言う通りかもしれん。ただ今ならまだ私達の対応も間に合う」
「そうね」
とにかく策があろうがなかろうが私達も動かないといけないことは今の時点で決まった。
「それともう一つ。どうやら京華には双子の妹がいたらしい」
「え!?」
「家系図からは完全に抹消されているし、戸籍も変えられている。田村家の昔のしきたりに従って下の子が養子に出されたんだろう」
「そんなことがあったなんて」
「そして、その双子の妹の名前が京子というらしい」
京は絶句してしまった。こんな偶然があるのだろうか。
「これ以上の詳しいことは全く分からなかった。とりあえず私は京が見つけたという資料を解読してみる。京は今から京子の所に向かってくれ、何ができるか分からんが京がいればそう簡単に除霊協会も手は出してこないと思う」
「わかったわ」
話が終わると京は早々に東京へ向かった。大きな事件になったりはしないがここまで霊関係の事からは遠ざけてきた京子が混乱していることは容易に想像できる。少しでも近くに行って安心させてあげたい。
○
駅に着く前に鳴海君に連絡を入れておいたので改札を出たらすぐに鳴海君が待っていてくれました。
「よお、田村大丈夫だったか」
「うん、鳴海君ごめんね」
「いいよ。さっき有子からも連絡があって田村の家まで送って行けってさ」
「ごめんね本当に」
『鳴海ありがとう。私幽霊だから何も出来なくて』
「幽霊も自虐するんだな」
鳴海君が笑いながら言ったおかげで私も少しだけ気分が上向きました。私の家に向かいながら先ほどの話を鳴海君にしました。
「そんな怪しい男がねえ」
顎を撫でながら反応してくれます。
「うん。なんかすごい怖かった」
「田村の家ってそういう家系なのか?」
「え?」
「いやほら幽霊とかそういう系の」
「あ、うん。と言っても私は全然霊感ないよ。お母さんはイタコやっていて霊感凄いらしいけど」
「そうか。まあ、詳しいことは俺もサッパリ分からんからとりあえず家に着いて落ち着いたら連絡した方がよさそうだな」
「うん・・・」
本当はあの後すぐに連絡しようと思ったんです。でも、また見られていたらって思ったら両親には連絡ができませんでした。
あのお墓を避けて少し遠回りして無事にアパートに着きました。ここまで何も起こらなかったので安心しました。
「鳴海君本当にありがとう」
「いいよいいよ。ま、幽霊見えるの俺だけだしな。京華はずいぶん静かだな」
『え?何か言った?』
「なんでもねえよ。二人って言い方が良いのか分からんけど二人でゆっくり休めよ」
「うん、また明日ね」
「おう。京華もな。特別に明日の昼に俺が飯おごってやるよ」
『え!鳴海本当に!?』
「ああ、色々と話の分かるマスターがいるラーメン屋があるからそこでラーメン奢ってやるよ」
『やったーありがと!!』
「じゃあ田村戸締りだけ気をつけてな。また何かあれば俺と有子に連絡してくれ」
「うん、ありがとう!」
鳴海君は帰って行きました。部屋の前まで行くとまさかのびっくり。母が居ました。
「お母さん!?」
「あー良かった京子おかえり」
「えっとなんでいるの?」
「それはこれから話すわ。あとさっき京子の身に起こったことも分かっているから。とりあえず、家に入れてもらってもいいかしら」
母がいることにさらに安心して腰が抜けそうでしたが何とか踏ん張って部屋に入りました。やっぱり家、ホームに戻ってくると安心しますね。京華も安心した表情をしています。さて、母からどんな話が出てくるのでしょうかちょっと不安ですが、聞かない訳にはいかないのでしっかりと色々聞きたいと思います。
○
部屋に入ってお茶を飲んで、一息ついてから母と話始めました。
「京子。何となく分かっているとは思うけど、今日あったことを教えて」
「うん・・・。けどその前に私から聞きたいことがあるの」
「何?」
さて、母は霊感が凄い(らしい)のです。この間家に来た時には試しませんでしたがここで京華に実体化(仮)をしてもらったらどうなるでしょうか。有子ちゃんが京華の事をしっかりと見ることが出来ていたのであれば、母は確実に見ることができるのではと推測を立てたのです。
「えっとね。今からここにいる幽霊、京華に実体化(仮)をしてもらうから」
「実体化(仮)?」
「それはまた後で説明するね。京華、お願い」
『うんおっけー。えい!』
京華は私の後ろからハグする形で接してきました。実体化(仮)をするときなぜか京華はバックハグをしたがります。いつも菜緒ちゃんにバックハグする側なので、される側だと凄くドキドキしますね。
「・・・!」
母が目を見開いています。おそらく、母は今京華を見ているのでしょう。
「どう、お母さん。京華の事が見えた?」
「・・・ええ。なんというか、とっても可愛らしいわね」
『やっぱり私って可愛いの?ねえ、京子?』
「うん、可愛いけどちょっと今は黙っていてもらえるかな」
『はーい』
流石に真面目な話しをこれからすると分かっているからか今日はずいぶんと大人しく従ってくれました。いつもこれなら良いのですが。
「えっと、あなたが京華さん・・・?」
母はまだ疑っているというか、信じられないという目をしています。
『そうです!京子のお母さん初めまして。京の華で京華と言います』
「えっと、京子の母の京です」
『えー!みんな京っていう字を使った名前なんだね!凄い!』
京華は凄く嬉しそうです。確かにみんな京という字が使われていますね。今まで気にしたこともありませんでしたが、今日はあの事件もあったので偶然な気がしません。
「そうね。それも話さないといけないけれども、改めて京子話をして頂戴。今日あった事件の事も含めてね」
「うん分かった」
私は母に京華と出会ってからの事を一通り話しました。途中京華が補足をしてくれたりしました。有子ちゃんと鳴海君の話をした時にふっと疑問がわきましたので話終えてから母にぶつけてみました。
「事件までの話はこれで終わりだよ。事件の話の前にお母さんに一つ聞いてもいい?」
「いいわよ」
「さっき話した鳴海君なんだけど、実体化(仮)しなくても京華の事が見えていたの。本人曰く霊感が強いってことだったけれど、お母さんも霊感が強いのにどうして京華の事が見えなかったの?」
「・・・その話はあとでするわ。事件の事を先に聞いてもいいかしら」
「うん・・・」
母はなんと言いますか、言葉をかなり選んでいる様子でした。私達を動揺させないためなのかあるいはシンプルに他の言葉が見つからないのか分かりません。とりあえず事件の事をさっと話しました。
「明日の午前5時にか・・・」
『5時って何か理由があるの?』
私が聞くよりも先に京華が聞いてくれました。
「そうね、先にその話をしてしまいましょうか。京子や京華さんは幽霊が一番活発に動く時間は何時だと思う?」
「そりゃあ」
『もちろん丑三つ時』
私と京華は全く同じ意見でした。
「半分正解で半分不正解よ。幽霊と言っても所謂悪霊と呼ばれる悪い幽霊が最も活発に動くし、霊力が強くなる時間が丑三つ時なの」
「じゃあ悪霊じゃない幽霊は?」
「丑三つ時とか関係なく四六時中活発に動いているわよ」
「ええええ!」
『じゃあ私は悪霊じゃないってこと?』
「そうよ。京華さんは悪霊なんかじゃないわ」
『よかったーなんか安心したよ。良かったね京子。私が悪霊じゃなくて』
「部屋が散らかされた時点で私の中では悪霊ですが」
『えへへ、それは忘れてよ』
私と京華がちょっとふざけると母が咳払いをしました。やってしまいました。どうにも京華と一緒に話をしていると周りの事が見えなくなりがちです。
「丑三つ時は大体午前3時~4時のことを指すわ。午前5時は丑三つ時も終わっているし一般の人もまだ多くが寝ているでしょう。だから午前5時という指定なんだと思うわ」
「でもさ、京華は悪霊じゃないんだから丑三つ時とかそう言うの関係ないんじゃないの?」
私は我ながら全うな意見を母に伝えました。京華は悪霊ではないので、呼び出しをするなら丑三つ時とかそんなのは関係がない。今からでも呼び出してしまえばいいのにとか思っちゃいますね。
「そうね。ここから本題に入るわ」
母が少し背を伸ばしました。凄く緊張します。
「まず、京子に謝らないといけないことがあるの。ずっと京子には霊感が無いって言ってきたわね」
「うん、実際私何も感じないもん」
「実は嘘なのよ」
「えええええええええ!!??」
『京子驚きすぎでしょ。私が見えているんだから多少の才能はあると、私は思っていたよ!』
なぜか京華が偉そうでした。
「まずね、田村家って言うのはずっと昔からある霊関係の名門なのよ。そして代々20歳になると特筆すべき霊能力が現れるの」
「20歳になると?」
「そうよ。例えば私も20歳になるまでは何となく寒気がするな、くらいしか幽霊の事を感じなかったわ。でも20歳になるとはっきりと幽霊が見られるようになったし、降霊もできるようになった」
「お母さんも昔は幽霊が見えなかったの」
「そうなのよ。京子にはあまり幽霊には関わらずに生きて欲しかったから今までずっと言わなかったの。ごめんね」
「ううん。大丈夫。でもそっかー私もしかしたら才能があるかもしれないんだ」
「まだ全然分からないけれども、可能性はあるわ」
「ちょっとわくわくするね。今までの自分とは違う自分になれるかもしれないってことでしょ」
「可能性の話ではあるけどね。京華さんが京子に憑いた一つの理由として考えられるのが京子の霊能力が少し出てきているかもしれないってこと」
母は少し俯きがちに言いました。そんなに話しにくいことなのでしょうか。私としては京華が悪霊じゃないと分かった時点でもうかなり安心しているのですが、母はそうではないようです。
『そっかー、私は京子の才能に魅かれちゃったのね』
京華は相変わらずちょっとズレていますね。そして凄く良い漢字を使ってくれている気がします。私ってそんなに魅力的なんでしょうか。
「そう。まさに京子の才能に惹かれたのよ。そして京華さん」
『うん?』
「落ち着いて聞いて欲しいのですが」
『うん』
「おそらくですが、あなたのフルネームは田村京華です。過去それからこの先の未来も含めて田村家の中で最も霊に関する才能があったと言われている人です」
『ええええええええええええええええええええええ!?』
「ええええええええええええええええええええええ!?」
京華だけじゃなくて私も腰を抜かしそうになりました。そして京華は変わらずバックハグの姿勢なので私の鼓膜が破れそうになりました。幽霊のはずなのに声に圧があるって不思議ですね。
○
京華が予想以上に戸惑ってしまったのでちょっと休憩を挟みました。私に触れながら牛乳を飲む京華の姿を母が「信じられないわ・・・」と言いながら見ていたのはちょっと笑ってしまいました。
『ごめんなさい京。落ち着いたわ』
「こちらこそ急に切り出してしまってごめんなさい。京華さんは過去の記憶は一切ないのですか」
『うーん前回現世に出た時のことはぼんやりと覚えているけどそれ以前の事はさっぱり分からないかな』
「現世に出てくる時のルールはありますか?」
『それは京子にも聞かれたけど、全然分からないのー。前回出てきたのは平成っていう時だったのははっきりと覚えているけど』
「そうですか。それについては後に考えるとしましょう。京華さんは信じられないくらいの才能だったそうですが、それ故に人を寄せ付けなかったそうです」
「今の京華からは信じられない・・・」
『私も信じられないよ・・・。こんなに人が大好きなのに』
「たぶん誰も信じられないでしょう。そして、京華さんあなたには双子の妹さんがいたそうです」
『妹!?』
「その妹の名前が京子と言うそうです。田村家の昔のしきたりで双子の場合は下の子を養子に出すことになっていたので京華さんと京子さんが一緒に居た時間はごくわずかだったと」
『そんな記憶は流石に全くないなぁ。ねえ京子はどう思う?』
京華は急に私に話を振ってきました。何となくですが、今京華は凄く不安なのでしょう。
「京華が姉なんて信じられないかな。だって、今私の妹どころかもう娘みたいな感覚だよ?」
『むー娘は流石にひどいよ!』
「よしよし、むくれないで」
『むむ・・・まあいいけど』
こういう所が娘っぽいのですが、本人は全く気が付かないみたいですね。このままでいて欲しいところです。
「んんん。話が逸れました。京華さんはその才能故に1人だったと言いましたがそれだけではないのです」
「お母さん、どういうこと?」
「歴史や記録からは完全に抹消されていますが、俗にいう妖怪大戦争を引き起こしたのは京華さんなんです。妖怪って伝わっていますが実際には数々の悪霊を率いて日本列島を恐怖のどん底に落としたんです」
『え・・・。私そんなひどいことをしたの?』
「ええ。妖怪大戦争の結果、京華さんは命を落としますが双子の妹である京子さんも京華さんのせいで命を落としたそうです」
京華の想像以上に重たい過去が明らかになりました。流石にこれは私も茶化す気持ちになりませんし、京華は京華でやっぱり受け止められていない感じがします。
『・・・・そうだったんだ』
「京華さんは命を落としたと言われていますが、それを見た人間は誰もいないのです。暴れまわった悪霊が居なくなると同時に京華さんも居なくなったからです。そのため、京華さんは死んでいないという話もあります」
『え!?じゃあ今の私は何?』
「生き霊と考えている人達がいます。それが先ほど京子と京華さんに接触してきた人間、除霊協会の人たちです」
「除霊協会?」
「詳しい説明は省くわ。読んで字のごとく、除霊を専門としたプロ集団。除霊は悪霊や生霊を対象としていて通常の幽霊は対象にならないの」
「悪霊は分かるけど、なんで生霊も除霊対象なの?」
「生霊は過去から現在までの統計から悪霊に変貌する確率が9割を超えているからよ。生霊=悪霊っていう考えもあるくらい」
『私は悪霊じゃないよ』
「今話してみて良く分かったわ。京華さんは生霊の可能性はあるけど悪霊ではないし、悪霊にもならないと思う」
「じゃあ」
「ただそれはあくまで私達の判断。除霊協会はあの突出した才能の京華という霊を除霊したという肩書が欲しいだけ」
「肩書?」
「除霊協会はプロ集団とは言ったけどその実、没落した霊能力名門の集まりなの。その人達が才能あふれる人間だった京華の幽霊を除霊したってなるとどうなるか分かる?」
『一気にまた名門に返り咲くかな』
京華が真面目な顔をして答えました。
「そう、京華さんの言う通り。それが除霊協会の狙い。そして、今動き出したのは京子の誕生日がかなり目前に迫ってきたから」
「え?」
突然自分の名前が出てきて私は焦りました。どうしてここで私が出てくるのでしょうか。
「例えば誕生日に除霊の能力が発現したら京子が除霊することができるでしょう。それだけじゃなく、京子に霊能力が出たら一応京子は現在の唯一残っている名門田村家の次期当主ってことになるの。流石に彼らも当主にはそう簡単に手出しができない」
『京子って実は凄いお嬢様だったんだ・・・。こんなボロアパートに住んでいるのに』
「このアパートはちょっと古いから引っ越ししてって何度も言っているのに」
母が呆れてしまっています。この流れはとても、とてもまずいです。私はここから引っ越ししたくないです。この少しぼろい雰囲気が凄く好きなのです。
「そ、それは今関係ないでしょ!」
「それが少し関係あるのよ」
「え?」
「この家の近くのあの墓地。あれ、京華さんのお墓だと思っているでしょ?」
「うん」
『京子のお母さん、私のお墓じゃないの?』
「違うのよ。あそこは京華さんじゃなくて双子の妹の京子さんのお墓なの」
「え・・・」
『え・・・』
私も京華も展開が急すぎてちょっと理解ができません。ですが、母はそんなことお構いなしという感じで話を進めていきます。
「私もきちんとは知らないけど京華さんは行方不明扱いだからお墓はないの。そしてあそこにあるのは京子さんのお墓。毎年私と宇京さんがこの時期に東京に来ていたのは、除霊協会との面通しとお見舞いの意味もあったの」
「お見舞い?」
「お見舞いって言い方は正しくないかもしれないけど。はっきりとした日時は分かっていないけど、過去の京華さんが引き起こした大災害は4月下旬から5月初旬って記録が残っているの。だから、この時期は東京に来てその被害にあった人の霊が悪霊になっていないか見る必要があるの。それは田村家がやらないといけないこと。そしてあのお墓はその災害の中心地だったの。それが最近調べたところどうやら京子さんのお墓だってことが分かって。田村って苗字じゃないから他人だと思っていたんだけどね。養子に出たなら苗字が変わるのは当たり前だよね」
「そうだったんだ・・・。てっきり私に会いたかったからだとばっかり」
「それもあるわよ。できれば京子は青森で大学に進学してほしかったのよ。まあ、今結果的に友達に恵まれているみたいだけど」
『そうだよ!京子の友達はみんな私にも優しいよ。菜緒ちゃんだけ、ちゃんと話せてないけど京子と一緒にいるときの菜緒ちゃんを見てると凄く良い子なんだろうなって言うのが分かるもん』
「京華さんの言う通りね。そうなのだから今は東京に出て良かったかなって思っているわ」
「お母さん、ありがとう・・・」
少しいい話になっていますが本題に戻る必要がありそうですね。
「それでお母さん、結局どうなの?」
「簡単にまとめると、除霊協会は京華さんを除霊したいってことね。京華さんは今までの話を聞いて何か思い出すことはある?」
『うーん特に何もないけど、京子に話して京子お母さんに話すの忘れていたことが一つあるの』
「それは何?」
『うん、私ねあのお墓にはあんまり近づきたくないの。最初はあそこが自分のスタート地点でもあってゴール地点だからって思っていた。けど、あそこに私の双子の妹が埋まっているって言うのが本当ならたぶん妹のお墓なんて見たくないからだと思うの』
京華が少し泣きそうな顔をしながら母に話しました。京華に涙は似合わないですね。やっぱりずっと笑っていて欲しいです。京華には笑顔が一番似合うのですから。
