Photo by
sentimentalism
【短編】花降る街の
信号待ちの交差点。
「サクラ通り」と呼ばれるその道は名前の通り、歩道に等間隔でソメイヨシノが植えられていて、春には見事な花を咲かせて人々の目を楽しませている。
今は見頃を過ぎ、満開だった桜は花吹雪となって道のあちこちや車体に張り付いて、掃除する者の手を焼かせていた。
目の前の横断歩道を、ランドセルを背負った小学生達、スマホを見つめ無表情で歩いている若者、急ぎ足のサラリーマンが渡っていく。
ここは一度捕まると、待ち時間が長い上に次々と信号に引っ掛かる。
少しイライラしながら道行く人々を眺めていると、ふと、カーラジオからよく知る曲が流れてきた。
懐かしい、彼女の優しい歌声。
あぁ。
学生時代によく聴いていたあの曲。
寂しい夜、私の心を抱きしめてくれた。
何度も何度も救ってくれた。
子守唄のような、美しく、どこか寂しい彼女の歌声。
急に周りの景色がスローモーションのように見える。
花びらがゆっくり、1枚、2枚とフロントガラスに張り付く。
流れてくる曲に、不意に胸の奥底をぎゅっと掴まれて、涙が溢れて止まらない。
あの頃は、大人になれば泣くことなんて無くなると思ってた。
充分大人になった今、泣かなくはなったけれど、こんなに寂しいのは何故だろう。
毎日騒がしくて煩わしくて、でも楽しくて。
満ち足りているはずなのに。
なのに今、寂しくてたまらない。
信号が青に変わる。
後ろからのクラクションでハッと我に帰り、慌てて車を走らせる。
優しい彼女の歌声。
まだ耳の奥に残っている。
あの頃と変わらず、震える私の心を抱きしめてくれる。
涙を拭ってハンドルを握りなおす。
