憧れの犬に出会う
数日前、久しぶりに電車に乗って県内で1番栄えている街に行った。
駅を出て目的の店に向かう途中に出会った、絵画のような大型犬。
スラリと長い脚、シュッとシャープな、それでいて優しい雰囲気の顔、無駄な肉など一切ない引き締まった体。防寒対策か、赤いチェックのマフラーを巻いていて、それが白い被毛によく映えていた。
もしかして、ボルゾイ。
飼うのは無理だけど、一度は実際に見てみたい犬種。
さすがは都会、ボルゾイと会えるなんて!!
すれ違った瞬間に目が釘付けになって、気が付いたら声をかけていた。
「こんにちは、素敵なワンちゃんですね。近くで見せてもらってもいいですか?」
「こんにちは、良いですよ」
飼い主さんは私より少し年上と思われる、落ち着いた男性だった。
許可をいただいたので、ありがとうございますと言って早速犬に近付く。被毛はふわふわサラサラでどんなに近くで見ても毛玉や汚れは見つからず、とても美しかった。
すごい。可愛い。本当に可愛い。
この子はボルゾイですか?と聞きかけて、はたと口をつぐんだ。
さっきまでボルゾイと信じて疑わなかったが、別の犬種の可能性もある。
この子はボルゾイ?サルーキ?それとも、アフガンハウンド?
サルーキは数年前、トリミング店で奇跡的に一度だけ本物を見たことがある。
毛の色は違うけれど、あの時の子に似ているような。
アフガンハウンドはやはり数年前、動物病院で一度だけ本物を見たことがある。
やっぱり毛の色は違うけれど、あの時の子とも似ている気がする。
目の前の犬は本当にボルゾイなのか。
よく見れば見るほど、考えれば考えるほど分からなくなってきた。
自信たっぷりに「ボルゾイですか?」などと訊ねて勘違いだったらとんでもなく恥ずかしいので、
「珍しいワンちゃんですよね、こんなかっこいい子見たことないです。何ていう犬種ですか?」
と聞いた。
飼い主さんは親切に答えてくれた。
「この犬ね、ボルゾイって言うんですよ。確かに飼ってる人、あんまり見ないですね」
ボルゾイ!間違ってなかった。本物だ!!
これまでテレビやネットでしか見たことのなかった憧れの犬。
私は感動し、
「可愛いですね〜」
「おとなしいですね〜」
「お利口さんですね〜」
を連発していた。
犬の方は私を見て
「ずいぶん騒がしい人間だな」
「落ち着きがないな」
と思ったことだろう。
この立派な犬を写真におさめたい。
この機会を逃したら、ボルゾイと出会うことは恐らく二度とないだろう。
私は飼い主さんに訊ねた。
「すみません、ワンちゃんの写真を撮らせていただきたいんですが大丈夫ですか?」
人間、歳を取ると図々しくなる。
と思ったが、そういえば高校生の時は学校近くを散歩していたコリーの飼い主さんに、
「可愛いですね〜」
「撫でても大丈夫ですか?」
と声をかけ、20代前半の頃は駅前で見かけたスタンダードプードルの飼い主さんに
「大きいプードル可愛いですね〜」
「フカフカですね!」
と話しかけていた。
私が図々しいのは年齢のせいではなく元からか。
「良いですよ。じゃあ、リード持ってもらっていいですか」
ここでも飼い主さんは優しく許可してくれた。
しかも何と、私とワンちゃんのツーショットを撮ってくれるという。
リードを受け取った瞬間、緊張で体が熱くなった。
大型犬のリードを持つのは初めてだった。
我が家のミニチュアシュナウザーに付けていた物とは重さも太さもまるで違う。
自分は今、人の大切な犬を預かっている。責任重大だ。万が一にもトラブルなど起こしてはいけない…リードを握る手に自然と力が入った。
私が心配するようなことは一切起きなかった。
ボルゾイはとても落ち着いていて、知らない人間が隣に立っても、自転車が通り過ぎても動じることなくしっかりと飼い主さんの方を見つめていた。
飼い主さんも、穏やかな犬だと分かっているから初対面の私にリードを任せてくれたのだろう。
写真撮影は無事終了した。
お礼を言って、私は再び目的地へと歩き出した。
飼い主さんの許可がないので写真は載せられないけれど、本当に素敵な犬だった。
突然声をかけたにも関わらず快く応じてくださった飼い主さんと、初対面の人間との写真撮影に付き合ってくれたワンちゃんに心から感謝。
