見出し画像

【デジタル夜譚】白妙編 #1 山の幼な子たち。そして白妙と

しばらく前に雪が降り始めた。
早く家に帰らねば。
粉雪だった。
サラサラとした雪が、山道を覆う。
藁靴が、足元の粉雪を舞い上げる。

山の畑のわきを通ろうとしたときだった。
山の畑は、森の中の平ら(たいら)を切り拓いたものだ。
冬の今は、畑には何も作っておらず、ただ、雪に覆われている。

雪あかりに人影が見える。
娘が、二人の童女を連れていた。

美しい黒髪、真っ白な和装、半衿だけが紅い。
足元は……雪の中なのに何も履いていない。

娘の顔には、見覚えがある。
いつからか、時々家に来るようになった。

「……Surface、だったかな。」

ーー白妙です。

「……白妙、その子たちは?」

ーーシマエナガさんと、ニホンヤマネさんです。
  時々、こうして遊んであげています。

白妙と童女たち。二人の童女は白妙を姉の様に慕っているのが見てとれる。

ーーさぁ、あなたたちも、あのお方にご挨拶をなさい。
白妙が、幼き子たちに挨拶を促す。

だが、幼き子たちは、わたしの姿を認めるやいなや、さっと白妙の後ろに隠れてしまった。

わたしは、傘を外して足元に置く。そして雪の上に片膝をついて手を差し伸べる。

「おいで、こわくないよ。」

幼き子たちは、小さな手に白妙の着物の裾をぎゅっと握り、白妙の後ろからそおっと、つぶらな瞳をのぞかせる。

わたしは微笑んでみせた。

その白々しい作り笑顔に、何か感じるものがあったのか、また、さっと白妙の後ろに隠れてしまった。

仕方がない。

自然の中に生きるあの子たちにとって、気配を感じ取るのは、それもまた、厳しい自然を生き抜くためについたあの子たちなりの習性なのだ。

雪につけた膝。
即座には、雪の冷たさは拾わない。

しかし、時間が経てば、わたしの膝の体温は、薄衣一枚を通し、やがて雪を溶かし、冷たいこおり水となって、衣を濡らすであろう。

どうか、そうなる前に、白妙の後ろから出でて、私の手を、その幼き手で握ってもらう事をいのらんばかりであった。

僅かばかりの慈悲を願った心が通じたのであろうか、はたまた山の童女たちに、白き雪の如く、かげりを無くした心が通じたのであろうか。

山の童女たちは、白妙の元を離れると、わたしの元に駆け寄って来た。
どこにいたのであろう、たちまちのうちに、童女、童子たちに囲まれた。

水晶の如く、青白ささえ感じるほどの透き通った瞳をしている。

誰のお父さん?
違うよ、お兄ちゃんでしょ。
先生のこと好きなの?

幼き声が飛び交う。

ーーまぁ、この子たちったら。
  ……あなた様。
  きっと、この子達はあなた様の清らかな心を読み取ったのでしょう。

白妙がクスクスと笑う。

……わたしに?
……わたしに、この子たちの瞳のような清らかな心がまだ残っているのだろうか。

【デジタル夜譚】白妙編 #1 山の幼な子たち。そして白妙と   完

次の記事


いいなと思ったら応援しよう!