はじめての保護室
当投稿は法務省及び各矯正施設、並びに関係機関の意見を述べるものではありません。
既に発表済みの資料等や、それを踏まえた投稿者個人の経験に基づく意見や見解です。
また、本投稿は投稿者本人の勤務時の状況に基づき作成しております。
そのため、その後の法改正等により現状が変化している場合があります。
あらかじめご了承ください
ほとんど知られていない、保護室の世界
保護室ってどんなところ?
刑務所や少年院などの矯正施設には、保護室という特別な部屋があるのをご存じでしょうか?
保護室とは、被収容者の身体を傷つけにくく、損壊や汚損しにくい構造・設備を備えた収容室を意味しています
具体的には、一般に、トイレは床面に埋め込まれており、水を流すボタンは部屋の外に設置され、また、床も柔らかい材質のものになっています。
精神科病院にも保護室がありますが、構造はほぼ同じ。
目的に違いがあり、精神科病院の保護室は「患者の治療・保護」、刑務所の保護室は「施設内の保安・施設利用者の保護・更生」を目的としています。
どんな人が保護室に入るの?
保護室に収容者を入れる際には、以下の要件を満たしている必要があります。
① 自身を傷つけるおそれがあるとき
② 次のイからハのいずれかに該当する場合で、刑事施設の規律及び秩序を維持するため特に必要があるとき
イ 刑務官の制止に従わず、大声又は騒音を発するとき
ロ 他人に危害を加えるおそれがあるとき
ハ 刑事施設の設備、器具その他の物を損壊し、又は汚損するおそれがあるとき
また、保護室に収容者を入れることができる期間も決まっています。
保護室への収容期間は原則として72時間以内です。ただし、「特に継続の必要がある場合」には、48時間ごとに更新することができる
実際には、短い場合には数時間、長い場合では3日以上となる場合もあります。
受刑者の状態を観察し、興奮状態が収まり、元の居室に戻してもよい状態になったかどうかが収容解除の判断のポイントになります。
保護室に入るときに刑務所側が行わなければならない事項
保護室への収容は刑務所側にとって重要な判断を必要とするため、以下のようなことが義務付けられています。
1. 所長の命令が必要
保護室への収容は所長の命令によらなければなりません。
ただし、命令を待つ時間的な余裕がないときは、その命令を待たないで収容できますが、この場合には、収容後、速やかに所長に報告しなければなりません。
2. 収容中止の要件
保護室への収容の必要がなくなったときは、直ちに収容を中止しなければなりません。
3.健康状態の管理
保護室に収容したり、収容期間を更新したりした場合には、受刑者の健康状態について、刑事施設の職員である医師の意見を聴かなければなりません。
4.録画
被収容者を保護室に収容した場合や手錠等を使用した場合には、その収容又は手錠使用の開始から終了までの全期間の状況について、室内監視カメラにより録画し、録画した際の状況を「保護室等録画書留簿」に記録することとされています。
職員が、被収容者に実力を行使する場合も同様に、携帯用ビデオカメラで録画するとともに、被収容者身分帳簿の視察表等に記録することとされています。
筆者は上記3 健康状態の管理を担当し、医師とともに診察や必要な検査を行っていました。
はじめての保護室
筆者が初めて保護室収容の収容者に接したのは、統合失調症の急性期の患者さん。
自傷他害、静穏阻害、居室内の便汚損などがあり、収容要件を満たしていることから、保護室へ収容されていました。
実際に保護室へ行く前に、監視カメラにて患者さんの様子を確認。
その時は特に騒いだり、暴れる様子はなく、落ち着いているようでした。
その後、医師と共に診察へ向かったのですが、施設警備隊と呼ばれる職員が同行するとのこと。
この警備隊というには、施設の秩序を守るために集められた精鋭部隊です。
もし診察時に自傷他害の可能性があれば取り押さえるために立会する必要があるのです。
屈強な職員たちを前にし、いよいよ緊張が高まってきました。
アクリル板越しの診察と特殊扉
はじめて入る保護室棟は、他の舎房とは違い、防護盾や、さすまたが立てかけられ、物々しい雰囲気。
食事や便のにおいが漂い、独特の様相が漂っていました。
部屋は正方形で、正面の扉は特殊扉になっており、通常よりも頑丈な作りです(例えるなら大型冷凍室の扉のような感じ)。
触れるとひんやりしており、重厚感が伝わってきます。
二方向は防護アクリル板になっており、中の様子が観察できます。
警備隊職員からは、まずはアクリル板越しに診察するように指示がありました。
外側から見て、身体に触れたり、採血等の検査が必要なら、別途開扉するとのこと。
患者さん本人は、監視カメラで見た時とは打って変わって興奮状態にありました。
職員が入ってきたことが刺激になったのでしょう。
激しく動きもし、外傷や出血もない。
顔色もよく、ふらつきなども見られない。
統合失調症以外の既往もないことから、この時は外側からの診察にとどまりました。
しかし、この時のインパクトは強烈で、今も印象に残っています。
いよいよ保護室の中へ
上記の診察は内科の医師のもの。
精神科医の診察を後日行いました。
監視カメラで様子を確認すると、この日も落ち着いた様子。
先日と同じく、警備隊とともに保護室へ向かいました。
やはり、職員が来ると興奮状態になり、激しく動きます。
医師の診察が終わり、やはり統合失調の急性期という事で、薬が処方されたのですが、暴れまわる様子をみると、とても自己内服は出来ません。
そこで、デポ剤(1回の注射で2~4週間。体の中に薬がとどまって徐々に血液内に取り込まれることにより、効果を発揮)と呼ばれる注射を施行することになりました。

デポ剤は筋肉注射ですので、上記の部位が選択されます。
三角筋は腕なので、暴れる可能性を考えると確実でない。
という事で中殿筋を狙います。
警備隊に臀部に注射することを伝え、衣類の露出方法を伝達。
準備が整い、実際に注射する段に。
警備隊により取り押さえられた患者さんは、なすすべもなくデポ剤を注射されました。
保護室は患者さんを守るためのもの
ここまで、保護室の実情を書いてきました。
ものものしく、恐ろしい感じのする場所です。
しかし、保護室というのは、あくまでも「保護」するための場所。
決して、懲罰的に収容する場所ではありません。
収容されている者が、落ち着きを取り戻すために必要な時を過ごす場です。
このような場所が刑務所に備えてあるということを、ご理解いただけると幸いです。
