「弱虫タフガイ、モリッシー」 ええねん、それで。 #6
ギャングでなぜ悪い
1988年、ソロデビューを果たしたモリッシーは、いくつかのギャングをテーマにした作品を描くことになります。
そのことについて、彼は次のように語っています。
The level of notoriety that surrounded them - the level of fame they gained from being unreachably notorious. When you reach that stage, you are admired.
“ Morrissey interview with Record Mirror ” February 11, 1989
彼ら(ギャング)を取り巻く悪名の高さ、つまり、手の届かないほどの悪名から得た名声の高さ。もしあなたがその境地に達したなら、あなたは尊敬されるようになるでしょう。
1989年2月11日、『 Record Mirror紙』
– 逆さまの世界、そこにある美学 –
私は優れたギャング映画を観るのが好きです。
そこに描かれる主人公達は、大胆極まりない無謀さで人間味剥き出しの生き様をさらけ出し、叛逆者の不合理と不条理、引力すらも疑わしく思えるほどの「逆さまの世界とそこにある美学」を感じさせてくれるからです。
彼らは一見悪人のように見えますが、本質的には善悪の判断基準そのものを大きく超越した別のスケールを生きている。我々の日常に蠢く、ケチな悪人共特有の醜悪さなどとは無縁の、ただただ高みのみを目指し、日々完全燃焼を繰り返す存在。それが私の目に映る、スクリーンの中の主人公達なのです。
実際彼らは、貧しい家庭の出で、それもあってか弱い者いじめをすることはありません。それどころかむしろ、一定の成功を手にした後には、底辺の人々に施しをするなどして、それらの人々からヒーローとして持ち上げられたりもします。
並み外れた知恵と行動力。どんな困難に出会っても、決して挫けない忍耐力。生命を投げ打ってでも立ち向かい、のし上がろうとする闘争心。最期には滅びざるを得ない運命であっても、すべてを堂々と引き受ける潔さ。
ここまで条件がそろえば、見る者を魅了しないはずがありません。
もちろんギャング映画においては、たとえ実話を下敷きにしていたとしても、登場人物の生き様はさまざまな形で美化されています。
だからといって、そのことについて、あれやこれやとケチをつけるのは、イキじゃない。
『男はつらいよ』の寅さんを観て、「本物のテキ屋は……」云々と言って何になる。
寅さん「それを言っちゃあ、おしまいよ」
『男はつらいよ』
と、いうこと。
– 大脳辺縁系を刺激する言葉 –
彼が断ることの出来ないオファーをしてみせる。
『ゴッドファーザー』 ヴィトー・コルネオーレ
ギャング映画のセリフは人間の脳の中でも、大脳辺縁系に訴えてきます。
前頭葉、側頭葉などのいわゆる大脳は理屈を理解しますが、大脳辺縁系が相手にするのは、五感による情報ではなく、本能、喜怒哀楽、情緒、意欲、神秘、自律神経活動などです。
人間は、ここを刺激されると、さまざまな判断という関門を乗り越えて、素早い行動に移り易くなります。
なぜならその刺激は、その人の信念体系を直接揺さぶり、一旦それが好みの刺激と分かったならば強い共感を伴う神経反応を引き起こすものだからです。
新商品のCMの中で出来の良いものの多くが、商品の説明よりも「大胆な価値の逆転」をイメージさせようと誘導するのは、この効果を狙っているというわけです。
金融は銃だ。政治とはその引き金を引くタイミングを知ることだ。
『ゴッドファーザーPARTⅢ』 ドン・ルケージ
中学の公民で、教えるべき内容ですね。誰もがこの「あまり褒められたものではない、とはいうものの、人間社会の裏側に常にのうのうとした寝姿で横たわる、この政治と金にまつわる呪いのような鉄則」を押さえた上で世の中を観れば、この国の民主主義も少しはまともに機能するはずです。
抜け出せると思った途端に引き戻される。
『ゴッドファーザーPARTⅢ』 マイケル・コルネオーレ
どんなに成功しても、多くの栄冠を手に入れても、このパワーゲームからの勝ち逃げだけは、そう簡単には許されません。不条理、ここに極まれり。振り出しに戻れ!です。
ではここで、モリッシーが、憧れに近い感情をもってギャングを取り上げた作品を紹介します。
1960年代、ロンドン、イーストエンドの裏社会を牛耳った双子のギャング、クレイ兄弟(*1)に関する物語です。
先に挙げたRecord Mirror紙のインタビューで、彼は、「この曲を通して、タブロイド紙が暴力犯罪者を有名人に仕立て上げる様子を探求したかった」と語っています。
なお、ここでいう「遊び人」とは、「単に遊び暮らしている人」を指しているのではありません。命がけのゲームを戦い抜き、それを代償として華やかな「遊び場」をつかみ取った人々のことです。
Morrissey - The Last Of The Famous International Playboys
(一番最後の名の知れた世界的遊び人)
Dear hero, imprisoned
With all the new crimes that you are perfecting
Oh, I can′t help quoting you
'Cause everything that you said rings true
僕のヒーローへ 檻につながれているけれど
あなたが完成させた 全ての新たな犯罪のせいでね
ああ あなたの言葉を もち出さずにはいられないんだ
だって あなたの一言一言は どれも真実として響くから
………
Reggie Kray, do you know my name?
Oh, don't say you don't
Please, say you do, oh, oh
レジー・クレイ 僕の名前を知っていますか?
おー 知らないなんて 言わないで
どうか 知っていると どうか どうか
I am the last of the famous
International playboys
The last of the famous
International playboys
僕は最後の 名の知れた
世界的遊び人
一番最後の 名の知れた
世界的遊び人なんです
………
Ronnie Kray, do you know my face?
Oh, don′t say you don′t
Please, say you do, oh, oh
ロニー・クレイ 僕の顔を知っていますか?
おー 知らないなんて 言わないで
どうか 知っていると どうか どうか
……
In our lifetime, those who kill
The news-world hands them stardom
And these are the ways on which I was raised
These are the ways on which I was, which I was raised
I never wanted to kill, I am not naturally evil
この人生で 殺人を犯した者は
ニュースの空間が 彼らをスターダムへと押し上げる
そしてこんなやり方が 僕を育てあげてきた
こんなやり方だけが 僕を育てあげたんだ
殺したくはなかった 僕は生まれついての悪なんかじゃない
………
I am the last of the famous
International playboys
The last of the famous
International playboys
僕は最後の 名の知れた
世界的遊び人
一番最後の 名の知れた
世界的遊び人なんです
………
いかがでしたか?
この不合理で不条理な世界……
私には、龍宮城でもらった「玉手箱の煙」を歌っているかのようにも聴こえます。
寅さん「ざまあ見ろぃ。人間はね、理屈なんかじゃ動かねえんだよ」
『男はつらいよ』(第一作)
*1 クレイ兄弟 : 1933年、東ロンドン、ホクストン生まれのレジー・クレイとロニー・クレイは、悪名高い犯罪者であり、他方、ナイトクラブやカジノの経営などを手掛ける実業家としての顔も併せ持つ双子の兄弟。実力をつけていく過程で、政治家や財界人、芸能人などと親交を結び、「セレブリティ」達が集う華やかな社交界の一員として、しばしば雑誌などにも取り上げられる。そのような世間からのスポットライトを浴びる一面とは裏腹に、その背後で行われる暴力沙汰は日常茶飯事。ギャング同士の抗争は尽きることがなく、1968年、ついに殺人罪で投獄、終身刑を言い渡される。その後、ロニーは1995年精神病院にて心臓発作のため死亡。2000年、レジーは癌療養のため一旦釈放されるが、その数ヶ月後、滞在先のホテルにてこの世を去る。
つ.づ.く.
