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灯子の北海道グルメ&温泉旅

週末、東京のワンルームで目を覚ました灯子は、布団の中でごろごろとスマホを眺めていた。
東京の朝は、味がしない。
コンビニのパンも、社食のカレーも、栄養だけで心が動かない。
新社会人になって初めての連休。大学時代から貯めてきたお金を使って、ついに夢だった「北海道一人旅」に出発だ。

 昼の便を取ったのは「朝はゆっくりしたいから」。羽田空港で少し走ってなんとか搭乗。雲を抜けた瞬間、窓の外が一面の青に変わる。
「うわ、旅って感じ!」と小声でつぶやき、シートに沈み込んだ。

 新千歳空港に着いたのは夕方。タラップを降りると、想像以上に冷たい風。
「え、五月なのに!?」と思わず肩をすくめる。JRで札幌へ向かう車窓からは牧場と林が続き、広すぎる景色に「でっか……」とつぶやいた。
 駅から出た瞬間、空気の匂いが違った。
鼻の奥まで透き通るような冷たさ。
「この空気だけでおいしい」と、まだ何も食べてないのに笑う。
 ホテルに着いた頃には19時半。足は棒、でもお腹は限界。

 向かったのは、北海道のご当地コンビニ「セイコーマート」。店内のホットシェフコーナーから漂う香りに引き寄せられるように、カツ丼を手に取った。
「お前、今日の揚げ色ええなぁ。当たりや」
 隣で弁当を見つめながら独り言を言う男。
(……何あいつ。こわっ!)
 灯子は弁当を抱えてレジへ逃げるように向かった。

 ホテルでフタを開けた瞬間、ふわっと湯気が顔にかかる。衣はまだサクッとしていて、卵のとじ具合が絶妙。箸で持ち上げると、タレの甘い香りが広がり、口に入れた瞬間——サク、じゅわ、ふわ。
 コンビニの“あたたかさ”が、まるで小さな定食屋みたいに胃に染みてくる。
「なにこれ……優勝じゃん」
 そんな独り言が出た。旅の最初の夜は、それだけで満たされた。

 二日目。朝の札幌は思ったより冷え込み、白い息がふわり。
 灯子は味噌ラーメンの有名店に並んでいた。湯気が立つどんぶりが置かれた瞬間、香ばしい焦がし味噌の匂いが鼻をくすぐる。
 スープをすすると、濃厚なのにしょっぱくない。背脂が光り、麺がスープを絡め取って離さない。
「熱っ、あっつあつっ!」と口を押さえると、隣からぼそり。
「湯気で顔、隠すなよ」
(うわ、またいる!?)
 驚きつつもレンゲを止められず、結局スープまで飲み干してしまった。

 昼はスープカレー。シャバシャバのスープにごろごろと野菜が沈み、スプーンを入れると湯気が立ち上る。
 一口目でスパイスの粒が舌に踊り、ジャガイモがほろっと崩れる。寒いのに汗が止まらない。
「やば、汗だくだく!」
額に汗を浮かべながら笑うと、
またどこかで男の声が聞こえた気がした。
「罪なやつや……」
(ストーカー?いや、そんな独り言ストーカーいないよね……)
心があたたかくなる。こんな汗ならいくらでもかきたい。

 午後は定山渓温泉へ。川沿いの露天風呂に浸かりながら、木々の緑を見上げる。せせらぎと湯気に包まれ、心の中が空っぽになっていく。
 夕食の海鮮丼は、ウニの甘みとイクラの塩気が絶妙で、シャリの熱がまだほんのり残っていた。
「口の中、海やん……」
 そんな呟きが自然とこぼれる。あの男の姿はなく、代わりに川の音がやさしく響いた。

 夜の札幌。バスの窓から見えるテレビ塔がキラキラと光り、大通公園のイルミネーションが夜風に滲む。
「キラッキラだぁ〜」
 思わず声に出すと、隣の席の人が振り向いた。
(……やば、口に出てた)
 顔を赤くしてうつむく灯子の頬に、温泉帰りの余韻がまだ残っていた。

 三日目の昼。回転寿司では、東京なら一貫五百円しそうなネタが流れてくる。
 厚切りのサーモンを一口で頬張れば、シャリが解け、脂が舌に広がる。
「これ絶対、シャリ負けてる!」
 その言葉に隣の席のカップルが笑っていた。

 そして旅の最後は新千歳空港。土産コーナーを前に立ち止まり、財布をのぞく。
「お金、残ってない……」
 でも視界に飛び込んだのは、ずらりと並ぶソフトクリームの看板。バニラ、ラベンダー、ハスカップ。
 ひと口目で、冷たい甘さが舌の上でとけていく。
「……お前、やっぱサイコー!」
 気づけばソフトクリームに話しかけていた。あの独り言男の影響、完全に受けている。
 けれど、悪くない。むしろ少し誇らしい気さえした。

 飛行機に乗り込む前、灯子は小さくつぶやいた。
「また来よう、北海道。」


あとがき📝
春の北海道を書いたのに、投稿している今はすっかり食欲の秋。
お腹が減るのは四季を問わないんだなぁと実感しています。
結局いつでも食べてたいだけかもしれません。笑

そして今回は、企画主催者のよしまるさんにキャラクターを作っていただけました👏
実は、旅企画と同時に“キャラクター名付け親企画”も開催されていたのです。
私は「灯子」で立候補。見事に落選……と思いきや、「灯子」に合わせて新しいキャラクターを作っていただけたのです🥰

本当に可愛いですね!ありがとうございます✨
今回の旅では、その「灯子」を思い浮かべながら小説を書きました。
少しでも“一緒に旅をしているような気分”になっていただけたら嬉しいです☺️

企画、とても楽しかったです!
よしまるさん、素敵な企画をありがとうございました😊

よしまるさんに作っていただいた灯子

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