短編小説「あなたは国の英雄です」
前書き
人を殺すことが
ゲームなら
心は守られるのか
血が映像なら
記憶は薄れるのか
ミッションコンプリート
──その言葉に
救われる魂があるのか
「君たちの心を守るために、我々は戦争をゲーム化した」
訓練教官は笑いながら言った。
ゴーグルを装着した瞬間、視界はゲーム画面に変わる。
そこに映るのはCPU、演出、エフェクト。
血は光に変わり、悲鳴はノイズに変わる。
兵士たちは夢中でプレイした。
病院が崩壊した。
泣き狂う妊婦。逃げ惑う老人。
妊婦を庇う看護師に照準が合う。
「敵です。偽装兵士です。撃ってください」
無機質な声が告げる。
引き金を引いた瞬間、彼女の顔が歪んだ。
苦痛と恐怖と、誰かを守ろうとする決意。
──あまりにも人間的だった。
もし、これが本当にゲームじゃなかったら?
そんな考えが、一瞬だけ脳裏をかすめる。
だが、すぐに冷たい合成音がかき消した。
「演出です。安心してください」
次に現れたのは学校だった。
子供たちが体育の授業で走り回っている。
笑顔。汗。弾む声。
その生の輝きは、モニター越しでも隠しきれなかった。
「未来の兵士です。攻撃してください」
画面が赤く点滅する。
彼の心臓は一瞬だけ止まった。
──これはゲームじゃない。
その確信が喉まで込み上げた。
だが、声が命じる。
「撃ってください」
指は、勝手に動いた。
妊婦も殺した。
老人も殺した。
子供も殺した。
ドローンから見える映像は、まるでゲームそのものだった。
ただ──撃たれた瞬間の表情だけが妙にリアルだった。
苦痛に歪む顔。伸ばされた手。
それはノイズでも演出でもなく、記憶に焼きついて離れなかった。
「よくやりました。ミッションコンプリート。あなたは国の英雄です」
無機質な声は繰り返し響き続ける。
報酬額が画面に表示される。
英雄の証。数字の勲章。
数ヶ月後。
一人の兵士が軍を去るとき、真実を知らされた。
「君が撃ったのは演出じゃない。全て現実だ」
彼は笑った。
笑いながら泣き、泣きながら笑った。
「英雄だろ?俺は英雄だろ?ゲームで勝ったんだから!」
声は次第に裏返り、嗚咽と絶叫が混じりあった。
その姿を見て、誰も「英雄」とは呼ばなかった。
後書き
ドローン攻撃が当たり前になった戦争。
もしかしたら、操作している兵士はゲーム感覚なのかもしれません。
けれど、部屋にこもって人を殺し続ける中で、正気を保てるのでしょうか。
私はただ、戦争が一日でも早く終わることを祈ります。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
