見出し画像

今年で、8回目の夏。(短編小説)

僕、吉田幸太郎は夏が嫌いだ。
暑いし、蒸すし――それに、少し寂しい。

出社の時も、帰宅の時も目にする。
「8月28日 浅沼市最後の花火大会 in 浅沼川」
白地に赤文字の看板だ。

僕はこの街から、まだ離れられずにいる。
浅沼川の近くに建つ白いマンション。
その一番上の部屋を借りている。
そこからは、花火がよく見える。

「早く彼女作れよ」
ここ6年、ずっと言われている言葉。

でも僕には、8月の終わりにだけ会いに行く人がいる。
今年も、あの日が近づいてきた。

八年前。春。


高校2年になったばかりの4月。
僕は放課後、意を決して好きな子を遊びに誘った。

「お、お、おれ、好きなんだよね」
「それで?」
「それで?!つ、付き合おう!」

「いいよ」
浅香美穂は、ニコッと笑った。

「やったー!!!」と心の中で叫んだ。
声には出さなかったけど、飛び上がりそうだった。

「こうちゃん!今日は記念日だよ?プリクラ撮ろ!」
そう言って腕を引かれた。

美穂はバレー部のリベロで、小柄だけどガッツがあって、
ギリギリのボールを拾う姿に、僕は惚れていた。

僕はバスケ部。やんちゃが多い中で、わりと静かな方だった。
それでも彼女にはよく怒られた。
「おーい!ぼーっとすんな、こう!」って。

そんな彼女と撮った初めてのプリクラ。
あまりに緊張して、自分の顔がひどかった。

「うわ!こうちゃん不細工じゃん!」
「たまたまだよ!」

ふたりで笑い合って、思い出がまた一つできた。



うちは共働き家庭で、夜はいつもひとり。
そんな時は、よく彼女の家にお邪魔していた。

初めて家に行った日は、玄関の前で何度も深呼吸した。
でも、すぐに彼女の母親が笑顔で迎えてくれた。

ある日、僕は彼女にごはんを作ってもらった。
「生姜焼き」。
緊張しすぎて、味はまったく覚えていない。

帰り道、「普通は男が送ってくもんだよ!」と怒られて、
彼女の家まで歩いて送った。
それすらも、幸せな時間だった。

夏。


部活はあるけど、夏休みはほとんど彼女と過ごした。
お弁当を作ってくれたり、部活帰りにお祭りへ行ったり。

近所の公園の小さなお祭り。
浴衣じゃなかったけど、焼きそばに金魚すくい、射的。

彼女は射的が妙に上手くて、大きなぬいぐるみを落として大はしゃぎしていた。
その姿が、最高にかわいかった。

「こうちゃん。今度の花火大会、一旦帰って浴衣着ていーい?」
「マ・ジ・で!? もちろん!見たい!」
「じゃあ、あの白いマンションのとこで18時集合ね」
「楽しみだ〜!」
「きもいよw」

彼女を送って、僕は夢心地で帰宅した。

花火大会の日。


部活は16時に終わった。
急いで帰って、甚平に着替える。

そして、白いマンションの前で彼女を待つ。
18時。
……来ない。
連絡しても、既読はつかなかった。

やがて、空が色づき始めた。

近くで「ドン……」という音が聞こえた。
花火の音。
のはずだった。

でも、それが実際に打ち上がった花火だったのか、
それとも僕の頭の中で鳴った幻の音だったのか、今でもよく分からない。

僕は花火を見ずに、家に帰った。



家は真っ暗だった。
「こんな時くらい、家にいろよ」
そう呟いた時だった。

携帯が鳴った。

画面には「美穂ママ」の文字。

「こうくん? ごめんね……美穂、交通事故に遭っちゃって、今、手術中なの。また進展あったら連絡するからね」

通話はすぐに切れた。

気がつくと、携帯は床に落ちていた。
何も言えなかった。

また「ドン……」と遠くで音がした。
現実の花火か、記憶の中の残響か、それも曖昧だった。
そこからの記憶は、ほとんどない。

でも、一つだけはっきり覚えている夜がある。

喪服を着た親に連れられて、美穂の家の近くの式場へ向かった。

暗い部屋。線香の匂い。
慣れたはずの道が、別の世界みたいに静かだった。

遺影の中の美穂は笑っていた。
見慣れた写真だったけど、そこに「死」が乗っているようには見えなかった。

自分の隣には母がいて、父が小さく頭を下げていた。
美穂ママが深く礼を返していた。

その瞬間だけ、強烈な違和感があった。

「なんでこんなことになってるんだろう」
「昨日まで普通だったのに」

美穂のお母さんが僕の前に来て、ふと目が合った。

「こうくん……ごめんね……」

そう言って、肩を抱いてくれた。
美穂のお母さんは肩を震わせていた。
僕は何も言えなかった。
涙が出たのかどうかも覚えていない。

そして、気づいたら夏休みは終わっていた。


季節は、相も変わらず巡っていった。
春には新しい制服の子たちが並び、夏にはまた花火が上がる。
秋には祭りの屋台が出て、冬には街がイルミネーションで光り出す。

季節は何もなかったかのように巡っていった。

現在。


あれから、8年が経った。

今年も僕は、彼女の墓参りに来ている。

「浅香美穂 享年十六」

墓石の文字を見ながら、語りかける。
「ミホ。俺、もう25歳になっちゃったよ。あと5年で三十路だって。信じられないよな」

コツコツと、誰かの足音。

彼女のお母さんだった。

「あら。今年も来てくれたのね」
「こんにちは」
「もう、来なくていいのよ? あれからもう8年よ。あの子も、満足してると思うわ。あなたには、前を向いてほしいの」

僕は何も言えなかった。

「……いえ。なんか、習慣みたいなもんで。じゃ、また」

そう言って、僕はそそくさとその場を後にした。

8月28日、花火大会当日。


今年も、あの白いマンションの最上階から、
夜空に咲く花を見下ろす。

空に大輪が咲いては、すぐに消える。

「こうちゃん!」
そんな声が、どこかで聞こえた気がした。

部屋には僕しかいない。
でも、彼女がそこにいた気がした。

外から、笑い声がかすかに届く。
夏の終わりを惜しむ、街の音。
ドン……。あの日も、確かに聞こえた気がした。

今年も、あの白いマンションから
夜空に咲く花を見下ろす。

ドン……。

光はすぐに消えて、
また闇に溶けていく。

今年もまた、夏が終わる。



🎇あとがき|物語は、音楽になった


ここまで読んでくれてありがとうございます。

寒くなってきましたね。風邪にはお気をつけください。

さて、この物語『今年で、8回目の夏。』は、
実は一つの楽曲からインスピレーションを得て書き始めた作品です。

「今年も夏が終わった」という、GPTに頼らず初めて自分で書き下ろした歌詞から、物語を紡いでいきました。
詞を書くことで初めて“主人公の感情”を掘り下げられた気がして、そこから小説の世界が広がっていきました。

自分で作詞・構成した楽曲を、SUNOというAI音楽制作ツールを使って形にしました。
まだ荒削りかもしれませんが、「小説と音楽がつながる世界」をぜひ体験してみてください。

🎧▶️【楽曲はこちらから(SUNO)】
🔗 https://suno.com/@lifeiskillingtime


🤝一緒に音楽やりませんか?


「物語を音にしたい」
「歌詞から曲にしてみたい」
「SUNO、気になるけどよく分からない…」

そんな方がいたら、ぜひ気軽に声かけてください。
AI時代の音楽制作、ひとりじゃなくていい。

気楽にコメントお待ちしてます♪

いいなと思ったら応援しよう!