「少しの私の核と、人生わかんねーよって話」
人生なんて、何が起きるかわからない。
離婚も、自殺未遂も、猫との別れも、再婚も、全部経験した。振り返れば、笑えてくるほどめちゃくちゃだった。でも、今ここに生きている。猫と、妻と、子どもたちと。何が自分を繋ぎとめたのかって?それは……たぶん、猫だ。
◆
元妻とは、それなりに幸せだったと思う。
でもある時、歯車が噛み合わなくなった。
気づけば会話は減り、目線も合わず、気持ちはすれ違っていた。
それでも、猫がいた。
スコティッシュフォールドの「杏(あんず)」。
元妻が命名した。
元ネタは「働いたら負け」Tシャツの女の子。なんで猫にその名前?と思ったけど、響きは可愛い。
杏は、風呂が大嫌いだった。ペットショップの時点で「風呂NG」って書かれてたほど。
でも、俺は風呂係。抱っこせずに、顔を脇に埋めてそっと入れる技で、なんとか洗っていた。
それからもう1匹。マンチカンの「きょろ」。
俺が名前をつけた。家に来たその日、ずっとキョロキョロしてたから。
この子は、天才だった。
風呂も好き。よく懐いてた。
でも、別れは突然だった。
離婚して、元妻はきょろを連れていった。
「私を支えてくれたのがこの子」
そんな言葉には、何も言えなかった。
杏だけが、俺の手元に残った。
◆
離婚して、一人になった。
離婚した時、残された部屋は2LDKのファミリー向け。
けれど、自分の荷物はワンルームで十分な量しかなかった。
どれだけ空っぽな暮らしをしていたかを思い知った。
感情の重さに押しつぶされて、首を吊ろうとした。
眠剤をODして、意識が遠のいた。
1日半眠って、目を覚ました。
見えたのは、杏ときょろだった。
(きょろは一時的にまだ家にいた)
にゃあにゃあ鳴いて、俺を見てた。
餌をくれって、訴えるように。
その瞬間、ああ、生きなきゃって思った。
この子たちが、俺を繋ぎとめた。
自殺しようとしたあの日、
本当に無責任なことをしようとしていたと、今なら思う。
※猫がいるからさ。無責任やん?
◆
その後、俺は出張に出た。3泊4日。
杏を一人にできないから、近所に住んでた今の妻に世話を頼んだ。
鍵を渡して、お願いして――帰ってきたら、部屋がピカピカだった。
「猫のために掃除もしてくれたんだ」
それが嬉しくて、気づけば惹かれていた。
そして今、再婚して、子どももいる。
杏も7歳になった。
あいかわらず風呂は嫌いだけど、俺は風呂係を続けている。
◆
人生わかんねーよ。
でも、猫が繋いでくれた縁って、本当にあると思ってる。
だから今日は、風呂上がりの杏の毛を拭きながら、少しだけ思い出してみた。
そんな話。

