ショートストーリー 『落語 いわくの壺』
えー、欲というものは際限がないものでございます。
大工の熊八、四十も過ぎて独り身。
仕事の帰りに、ぶらぶら歩いておりますと、骨董屋の前。
「おう熊八!なんか買っていかねぇか」
「いらねぇよ。おめぇんとこはガラクタばっかりだ」
「ひでぇな。この壺なんかどうだ」
出してきましたのが、煤けた古い壺。
「なんだこれ、汚ねぇな」
「いわくつきでな。願いが三つ叶う壺だ」
「だったらおめぇが使えよ」
「なんか怖ぇから売るんだよ」
「怖ぇ?こんなもんが?」
ひょいと持ち上げまして、
「……いくらだ」
「三十文でいいや」
「高ぇな」
「じゃあ二十」
「十文だ」
「持ってけ。あとで文句言うなよ」
壺を抱えて帰りながら、熊八ぶつぶつ言っております。
「四十にもなって嫁もいねぇでな
……こんなきたねぇ壺抱えてちゃ情けねぇや」
ふと空を見上げ、
「穴があったら入りてぇ」
家へ戻りまして、壺を取り出します。
「せめて少しはきれいにしねぇとな」
手ぬぐいでこすっておりますと、
ぽん、と音がいたしまして白い煙。
中から魔人が現れます。
「――お呼びでございますか」
「うわっ!なんだてめぇは!」
「この壺に仕える者にございます。願いを三つ、叶えます」
熊八、しばし呆然。
「……ほんとに出やがった」
「願いは三つまででございます」
「よし来た。まずは金だ。大金持ちにしてくれ」
ぽん。
屋敷に蔵、金は山のように溢れ、
熊八は足の踏み場もないほど金に埋もれる。
「こりゃいい」
金の上で転がって笑っております。
「次は美女だ。はべらかしてぇ」
ぽん。
美女が熊八を取り囲む。
酒は出るわ、料理は出るわ、
熊八は上機嫌で、美女の間でへらへら笑っております。
「こりゃ夢みてぇだ」
だが三日もいたしますと、
「その着物じゃ嫌だわ」
「私の方が似合うわよ」
「いや私が一番よ」
ひとりの美女が言い出しますと止まりません。
気づけば、熊八の周りで
わーわーぎゃーぎゃー。
熊八、目の下にクマが出来まして、
「おい……もういい……もういい!」
ついに熊八、
「うるせぇ!一人にしてくれ!」
ぽん。
気がつくと、いつもの長屋でひとり。
しん、と静まり返っております。
金も、女も、大工道具も何もございません。
熊八、しばらく天井を見て
ぽつり。
「……俺ぁ何やってんだ」
壺を見まして、
「骨董屋の野郎……こんなもの売りやがって」
「まんまとド壺にハマっちまった」
おあとがよろしいようで。
あとがき
「アラジンの魔法のランプを壺に変えただけ」
と言ってしまえばそれまでなのですが、
実のところ完成までにやたらと時間がかかってしまいました。
オチがなかなか決まらず、二転三転と書き直しを重ね、
ようやく形にすることができました。
古典落語のような味わいが少しでも出ていれば幸いです。
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