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AI 2041 人工知能が変える20年後の未来

■概要

『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』
カイフー・リー(李 開復) (著)、チェン・チウファン(陳 楸帆) (著)、
中原 尚哉 (翻訳)、文藝春秋、2022/12/8

原書の刊行はCOVID-19のさなかであった2021年。本書は、その2021から20年後の未来を見通す、というコンセプトで書かれている。

全体は10章構成で、各章では特定の技術分野について、注目のSF作家である陳楸帆 が2041年を舞台とした短篇小説を提示し、続いて元 Google中国 CEOの 李開復 が、物語に登場したテクノロジーの解説を加える、という構成になっている。
翻訳は、多くのSF作品を手がけてきた 中原尚哉 が担当している。

本書の大きな魅力は、コンピュータ分野で長く輝かしいキャリアを重ねてきた李開復によるテクノロジー解説に加え、ほぼ一冊分の陳楸帆の短編を、中原尚哉訳によって堪能できる点にある。

本書は、2041年までに技術的シンギュラリティは到来しない、という立場を採用している。
その点からは、やや保守的な印象を与えるが、それぞれの物語は、悲観的な近未来ディストピア像を描くのではなく、世界各地を舞台に、技術が社会へ浸透した現実味ある未来像を描いている。
2041年の世界を具体的に実感したい方におすすめ

■内容

◆著者

・チェン・チウファン(陳 楸帆)はSF作家
1981年生まれでデビューは16歳(!)
長篇『荒潮』は劉慈欣からも高い評価を得ている
Googleに勤務経験があり、李開復とはその頃からの同僚

・カイフー・リー(李 開復)
1961年台湾生まれ、カーネギーメロン大学で博士号、アップル、シリコングラフィックス、マイクロソフトを経て中国にマイクロソフトリサーチ部門を設立。その後2009年までGoogle中国の社長。なお、Google中国が検索事業から撤退したのは2010年3月22日。
現在はベンチャーキャピタルsinovationを運営

ほか、『AI世界秩序 米中が支配する「雇用なき未来」』の著書がある

陳 楸帆による10の短編
◆恋占い

〈深層学習、ビッグデータ、インターネットと保険アプリケーション、AIがもたらす予期せぬ悪影響〉

インド・ムンバイ。
15歳のナヤナの母は、家族全員のデータを管理する保険アプリに加入している。そのアプリは、位置情報、交友関係や日々の選択まですべてを解析し、リスクの少ない最適な行動を提案してくれる。
ナヤナはクラスメイトのサヘジにひそかに惹かれている。だが不思議なことに、彼に近づこうとするたび、保険料が上がるのだった。まるで、彼が危険だと判定されているかのように。

◆仮面の神

〈視覚的偽装の物語、ディープフェイク〉
ナイジェリア、ラゴスは西アフリカのシリコンバレーになっている
アマカは伝説的ナイジェリア人ミュージシャンであるフェラ・クティ(1938~ 1997)を政治的に利用したディープフェイク画像を依頼される

◆金雀と銀雀

〈自然言語処理 汎用人工知能、AI教育 教育におけるAI〉
韓国、両親を亡くした一卵性双生児の少年たちは児童施設に引き取られ、「金雀」と「銀雀」と呼ばれるようになった。兄の金雀は積極的・競争的な性格だが、弟の銀雀は自閉スペクトラム症の特性を持ち、二人は互いに反目するようになった。
やがて二人は別の里親家庭に引き取られ、異なる環境で成長することになる。
兄の金雀は優れた学業成績を上げて、里親が希望する投資家への道を歩む。
一方の銀雀は幼少期から際立った美的感覚によって芸術的な創造性を発揮していった。

◆コンタクトレス・ラブ

〈AI医療、アルファフォールド、ロボット医療、COVID19に加速される自動化
仕事のデジタル化〉

舞台は中国・上海。COVID-19から20年が過ぎたが、変異ウイルスの出現は続いていた。
陳楠はマンションに引きこもって暮らしている。外出は怖いが、生活は配送ロボットと家庭用ロボットによって問題なく回っていた。
彼女には南米に住むガルシアというオンライン上の恋人がいる。彼は何度も「会いたい」と誘ったが、陳楠はそのたびに断ってきた。そして最後に断った後、ガルシアからの連絡は途絶える。
しかし、やがて届いたのは、ガルシアが上海に来ており、しかも変異ウイルスに感染して重体だという知らせだった。

◆アイドル召喚!

〈VR、AR、BMI(ブレイン・マシン・インタフェイス)〉
舞台は東京。愛子は、20年前に“さよならコンサート”の最中に溺死したアイドル、博嗣の熱狂的なファンだった。
ある日、愛子が博嗣のことを強く思い浮かべていると、目の前に彼の姿が現れる。だがそれは実体のない存在だった。戸惑う愛子に向かって、博嗣は告げる。「三つの手がかり」を与えるので自分の死に関する謎を解いてほしいのだ、と。

◆ゴーストドライバー

〈自動運転車、スマート都市、倫理および社会的問題〉
舞台は自動運転が当たり前になったスリランカ。
シャマルはVRレースゲームの世界でトップに君臨する若きゲーマーだった。
一方、彼の父はかつて配送トラックの運転手だったが、軽微な事故をきっかけに職を失い、現在は不定期のツアーガイドであるが、収入は激減していた。
シャマルは叔父ジュニウスの紹介で、中国のゲーム開発プロジェクトに参加することになる。訓練センターでも彼の才能は際立っており、すぐにトップの成績を収めた。
だが次第に、シャマルはゲームのシチュエーションが、奇妙なほど現実の災害現場に似ていることに不信感をおぼえ始める。

◆人類殺戮計画

〈量子コンピュータ ビットコインの安全性、自律兵器、存亡の危機〉

アイスランドのサーバから2600億ドル相当のビットコインを奪い取ったハッカー、ロビン。
しかしわずかな送金の時間に、資金は何者かに横取りされる。
それには、存在しないはずの超高速量子計算能力が使われたとしか思えなかった。
ロビンは、宿敵だった欧州サイバー犯罪センターの捜査官シャビエルと手を組む。
シャビエルは手がかりを追い、ドイツのマックス・プランク研究所で量子計算の権威マーク・ルソーに会う。
だが面談の最中、ホルムズ海峡の石油輸送システムがドローンの集団に破壊されたとの報が入る。

◆大転職時代

〈AIに置き換えられる仕事、ベーシック・インカム、AIが苦手な職種〉

AIとロボットが多くの職業を代替する時代。
米国では補償としてベーシック・インカムが導入されたが、仕事から得られる尊厳や生きがいの喪失によって、アルコール依存や自殺の増加を招いた。結果として2032年、この制度は廃止され、政府は再就職の支援へと方針転換する。
ジェニファーは再就職斡旋会社シンチア社の新入社員。
シンチア社はサンフランシスコで最大級の建設企業の大量離職者の再就職支援を担当することになった。しかしAIが広範に仕事を代替する時代では、どれほど尽力しても再就職先を紹介できるのは離職者の29%が限界だった。
そんな中、正体不明の競合企業が現れ、「再就職率100%保証」を掲げて参入してくる。
ジェニファーは、その企業の実態を探るため、独自の調査を開始する。

◆幸福島

〈AIと幸福、個人データ〉

eスポーツで莫大な資産を築いたロシア人のヴィクトルは、ビジネスの世界に飽きて、若くして引退していた。
時間をもてあましていた彼のもとに、カタール沖のリゾートアイランドへの招待状が届く。
島にいる間は最上級のもてなしを受けられるが、そのかわりに、自らの行動履歴や生体情報を含むすべての個人データを統合システムに提供することが求められる。ヴィクトルはしぶしぶ、その提案を受け入れる。
島ではアキラ王女が、兄マハディとともに「人類に幸福をもたらす」ことを目的とした研究を進めていると説明されるのだった。

◆豊穣の夢

〈豊穣(Platitude)、新しい貨幣モデル、貨幣の未来、シンギュラリティ〉

オーストラリアで生涯をサンゴ礁の保護・育成に尽力した71歳のジョアンナ・キャンベルは、今はアルツハイマーをわずらい、スマート住宅の施設にいた
オーストラリアは早い時期にカーボンニュートラルを達成したが、高齢化は進み、AIによって仕事が限られていた
このため、若い世代には仕事が限られ、介護士として働く若者は少なくなかった。
ケイラもその一人で、ジョアンナの世話をしながらアルツハイマーのゲノム精密治療の順番を待っていた

■終わりに向かって

原書の刊行から約5年が経ち、「20年後」とされた未来の4分の1がすでに過ぎたことになります。実際、ディープフェイクなど、特に技術を持たない一般人が普通にできるようになりましたし、当時は現実味に乏しかったヒト型ロボットの実用化など、想像以上に技術の進歩が速い分野もあります。

本書のような試みは、日本のSF界においても欲しいところですし、また企業の取り組みとしても、SFプロトタイピングのかたちで積極的に進められることを期待したいところです。

最後までお読みいただき ありがとうございました

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